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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
二章:ナイトの権威
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天国か地獄か

 あれから着々とこなしていく課題。

 つまずいたのは最初だけだった。





「あぁー、ヘブンが見えるー」

 机にへばりつく陽花。


「天国とはヘブン、桃源郷、シャングリラとも言えるのでおもしろいですね」

 葉咲が見当はずれのことを言う。


「そうじゃなくて。陽花、頑張って耐えなさい」

 励ますように肩をたたく。

「うー、産まれるーー」

「陽花ちゃん、ひっひっふーですよ!」

「ちっがーう!!何ラマーズ法教えてるのよ。

 こら、陽花もしない!」

「少し楽になったよ」

「まじで!?」

「うん」

 変に疲れた水翡を見て、葉咲は真剣な顔に戻った。


「しかし、陽花ちゃんの月経は困りものですね。おなかが痛い。巫女の力が思うように使えない。苦しそうな陽花ちゃんは見るに耐えませんし」

「そうなのよね~。陽花、早く元気になってあちこち跳ねてよ」

「う~、頑張る」





 直人が屋上に行くと、先客がいた。

 フェンスにもたれかかっている陽花だ。

 目に影がある。


「陽花ちゃん?どうしたの?」

「あー、月のものが」


 苦笑いをしながら応える陽花。


「月、月、月……ああ、あれか」


 直人は男相手に恥じらいもなく話す陽花に少し驚く。


「お腹は痛いし、力は思うように振る舞えないし、最悪だよぉ」


 陽花はフェンスにもたれつつ、うつむく。


「そんなにひどいんだ?男だから分からないけど」

 直人を恨めしげに見る陽花。


「どうして男の人にはないのかなぁ。分けたら楽になりそう」


 キラキラと直人を見つめる。


「あはははは! 分けるって発想がおもしろいね。そうしたら平等になるのかな」

「きっとそうだよ。お腹痛いからもう寝ちゃうね。ばいば~い」


 直人は笑って振り返した。





 次の放課後のこと。

 水翡ら三人は並んで部屋に戻ろうとして歩いていた。

 前方から巫女を引き連れた直人が歩いてきた。


「あ、直人さん。こんにちは!」

 陽花が一足先に声をかける。

「こんにちは」

 そして陽花の後ろの水翡と葉咲にも目をやって目礼する。


「へ~、あんたが“直人”だったんだ?お噂はかねがね」

 顔と名前が水翡と葉咲の中で一致する。

「ふふふ、あなたが“直人”さんですか。よろしく」

 含みのあるよろしくを言う葉咲。


「有名なようでうれしいな」


 爽やかに返す直人。

 相手にすらしていない。

 その姿にまた腹を立てる。

 一方的な火花が散る。


 そんな時間にしびれを切らした直人の巫女。

「ねぇ、直人様ぁ。早く行きましょうよ、広場へ」

 甘えるように直人の腕を組む。


「そうだね」

「あ、私も行きたーい!」

 思わず駆けだす陽花を水翡がひっぱって戻す。


「今日は私達で友好を深めましょうね」

「そうだね!葉咲ちゃんの紅茶飲みたいなぁ」

 ルンタルンタとスキップで部屋に向かう陽花。


「今度陽花に何かしたら、ただじゃおかないから」

 水翡が睨む。


「巫女がナイトに敵うとでも?」

「戦場で立っているだけのナイトに巫女が劣ると言いたいのかしら?」

「巫女はナイトに守ってもらっているのを忘れたのかい?」


 沈黙の後に答える。


「守ってもらってないわ」

「本当に?」


「ええ」


 後ろから肩に手を置かれる。

 振り返ると葉咲が僅かに微笑んでいた。


「水翡ちゃん、もう行きましょう。

 陽花ちゃんが待ちくたびれていますから」





 三人で紅茶を飲んでいると放送で音楽が流れた。


「またこの曲~?飽きたわ」

 水翡が駄目出しする。

「この曲不定期にかかりますね」

 葉咲は紅茶を飲み終え、テーブルにカップを置いた。

「前は二日前、だっけ?」

 頭を捻りながら陽花が言う。


 ドアの外でガタガタという音がした。

 水翡が気になって外に出てみると、祐樹がレーザーガンを持ち、

 小型のノートパソコンを見て慌しくしていた。

 立っている人影に気付くと、


「ティーナ!気が付いたのか。行くぞ!」


 と言った。

 言われた水翡は呆けているしかない。


「あんた大丈夫?

 私がティーナに見えるなんて相当ぼけてるんじゃない?」

 祐樹の目が水翡をとらえる。


「――水翡か。すまない、疲れが出ていたようだ」

 頭を押さえてため息をつく。


「レーザーガンなんて持ってどうしたのよ。

 戦争にでも行くつもり?」

 無言の回答が返ってきた。


「知っていた方がいいと思うが、先程の放送は危険種が現れた時に流れる。

 これを聞きつけた上級巫女と中級巫女の一部、そして担当のナイトは装備して神殿を出る。

 しかし、混乱を誘わないようにほとんどの巫女に伏せられている」


 祐樹の装備、レーザーガンが目に入る。


「私に教えたのは?」


「お前は巫女に降りかかる脅威を知っている。

 危険種と戦ったこともあるだろう。

 俺が話しても支障はないと判断した。

 同様に葉咲と陽花に話しても支障はない」


 了解の意を示すため、頷いた。


「そういえばあんたってティーナの巫女だったのよね。実感した」


「ティーナは上級巫女だ。常に共に戦場に出る。

 その習慣が未だに抜けなくて困る。

 ナイトはナイトであるかぎり、変わらない。

 お前はものごとをしっかりと見つめろ」





 その後、部屋に戻って何があったのか説明した。

 二人は複雑そうな顔をしていた。

 その曲を純粋に楽しんでいたのだから。


 その日から放送に流れてくる曲を楽しめなくなった。

 今頃巫女達は戦っているのだろう。

 そして私達もいつか――。



 水翡ちゃんと葉咲ちゃんが直人さんには会うなって言うから、会っていない。

 心配させたくないから。



 午後5時、西のドームに一人で来てくれないかな


 今日すれ違ったときに直人がそう言った。

 悩み事でも相談されるのだろうか。

 陽花は言葉通り一人でドームに向かった。





 西のドーム、何に使われているのだろう。

 近くになればなるほど大きく見える。

 東口に直人の巫女、アリアが立っていた。


「さぁ、こっちから入って」

 陽花の手を引き、進んでいく。

 薄暗い道が明るくなり、光が射す時、背中を押される。

 わっと、もたついているうちに、光の下に出ていた。



『さーて、両選手揃いました。

 東は陽花。ナイト、祐樹。

 西は藤。ナイト、直人。

 バトルをしてもらいましょう』


 流れた放送に目を丸くする陽花。

「そんなの聞いていない!」


『いいえ、あなたがここに立ったという時点で始まるのです。

 ルールを説明します。この戦いは巫女の位を懸かけた戦い。

 勝てば位が上がり、負ければ下がります。

 それと紅い円があるでしょう?そこからバトルが終わるまでは出られません。

 基本的に戦いには何でもありです。

 自分の得手とするものを使ってください。

 剣、槍、弓など何でも構いませんよ。

 相手が気を失ったら負けです。

 負けを認める場合はそう宣言して下さい。

 以上。バトルスタート!』


 陽花は困ったようにしていたが、スタンドに立っている直人を見て微笑んだ。


 直人は憎しみを含んだ眼差しが向けられるとばかり思っていたのに、予想外の行動に動揺する。


 僕は君を利用したんだよ?

 自分の巫女の位を上げる為、不調な日を選んで強制的に参加させた。

 何故、笑っていられる?

 何故許す!?





 今日も水翡は葉咲の部屋でまったりしていた。

「これでこそ午後よねぇ」

「何言ってるんですか」


 突然、時間を表すディスプレイが消え、紅い文字が表示される。


 陽花(祐樹)VS藤(直人)


 不吉な文字に二人は席を立つ。

 すぐさま祐樹の元へ。



「ちょっと、時計かと思ってたら文字が現れたんだけど!」

「“陽花 VS 藤”と表示されました」


 祐樹は顔をしかめた。


「直人のやつ……。俺のガードを上手く利用したな。

 これは巫女の位を懸けた決闘だ。

 始めたら最後、気を失うまで終わらない命懸けの戦い」


 水翡がひっと息をのむ。

 葉咲は逆に冷静さを取り戻し、問う。


「場所はどこです?」





 試合が始まっても未だ陽花は動きを見せない。

 痺れを切らした藤は手をかざす。

 火の球が無数に現れる。


「怖気づいたのかしら?」

 言葉と共に放たれる火の球。

 煙が湧き立つ。

 煙が晴れたときには、ぼろぼろの陽花が変わらずに立っていた。


「な、どうして避けないの!?」


 陽花はただにっこりと笑う。


「不気味だわ!」


 どんなに火をくらっても、笑って立っている陽花。

 藤は背筋がぞくりとするのを感じる。


 全力で力を放っても倒れない程の耐性。

 そして塵を被っても眩い“あか”


 格は私の上?

 認めない!攻撃すらもしない子の下だなんて!

 私はもっと直人様に愛されたい。

 これに勝てば私は――。


 炎の渦が陽花を包む。

 火が陽花を隠してしまっていた。


 火が消えた頃、陽花が膝をついていた。

 顔半分が隠れて見えないが、口の形は弧を描いていた。


「何故あなたは攻撃しないのです?」

「私はこの力で人を傷付けたくない」


「偽善ですわ。

 守るために私達人間は常に他者を傷付ける。

 生きるために命を奪う。

 分かっているでしょう?」


「それでも、私は人を攻撃しない!

 決めたんだ」

 目が陰りを見せる。

 笑みはもうない。


「そう。なら死んじゃえばいいのよ。

 あなたみたいな偽善者で甘ったれた子、私嫌いなのよ」


 限りなく大きな炎が蓄積される。

 そして放たれようとした時


「陽花ーー!

 負けたら承知しないんだから!!」

 水翡の叫びが陽花の目を覚ます。





 時はさかのぼる。


 水翡達が来た時、すでに陽花はぼろぼろだった。


 駆け寄って怪我を治してあげたい。

 私の水の力なら、容易いだろう。


 そう思って踏み出した時、祐樹が肩を引いた。


「やめろ。お前が入った時点で相手側の勝ちが決まる」

「でも、陽花が!!」

「陽花が助かるには勝つしかない」


 お願い、どうかあの子を勝たせてください


 信じてもいない神に祈った。





 しっかりと立ち上がる陽花。

 目は眼前の火を睨みつけている。

 負けちゃいけない。

 水翡ちゃんと葉咲ちゃんが心配する……。


「ばか!

 あんたには人を傷つけない最高の特技があるでしょ!

 なに寝ぼけてんのよ!」


 戦い方が蘇る。


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