夏の縁日の縁談
今日は実家である神社へ足を運んでいる。
バスケットの中には先日仕込んだ梅シロップに
漬け込み中の梅酒を一本
結構大量の収穫が出来たので三本仕込んだのだから
ひとつ位おすそ分けしたところで火室さんの機嫌も損ねない。
正直あまり気が進まない私の気持ちを少しでも乗せようとしているのか
堅苦しい形のお見合いにはしないといわれている。
先日、パウンドケーキを食べながら言われた
「視える・つくれる」
という条件を満たしているという相手を連れてくるというのだ。
今日は縁日なのでお店は休業日。
縁日は昔から神社の仕事を手伝うことにしている。
そして今日の夜やるのには私たち一家にとっては非常に意味のあることだ
ひふみの中には火室さんが招きいれた人外しか居ないのだけれど
住み込みならともかく
営業時間外にお友達として何を招くかは比較的火室さんの勝手だ。
最近はもう私が驚くことは無いけれど
夜叉様がいらっしゃってひえぇぇぇっとなった
いや、よほどおなかがすいてない限り人は食べないらしい彼女は
手製のランチセットを食べて満足されていたけど
やはり人食をされる方が身近にいるのはまったく落ち着かない。
やはり捕食される側とする側が一緒の空間って…ね
そういうハプニングも起きえる我が家の婿殿
縁日の終わりの「人外大集合」になっている社の中を見ても
怖がらない、あわてない、むしろ仲良くするくらいの気概が無いと無理。
そう兄に話したところ多少引きつりながら今日の見合いの日取りを了承してくれた。
多分、夜叉がうちに出入りしたということをびっくりしてたんだろう。
後日丁寧な抗議文が火室さん宛てに届いた。
妖魔よけの護符つきで…
寿々ちゃんが怪我するからやめてくれと私が兄に電話で怒鳴ったのは言うまでもない。
一仕事を終えて実家のキッチンシンクの下の収納スペースに
梅酒の瓶を入れてからご供物兼私の見合い相手への軽食を用意する。
トマトとモッツァレラでカプレーゼ
バケットはもちろん火室さんのご加護つき
加護つきパンを食べたときの反応を確認するのに必要だからと
本来の休みの日に火を起こすことを渋る火室さんに告げると
致し方なしと焼いてくれた。
さて、見合い相手へ会うための身支度は・・・
と持ってきていたワンピースを出そうとすると
母が首を横に振る。
そして問答無用で浴衣を出してくる。
いわく、お祭りなのだから
母の若いときのころのものだそうだ。
桔梗柄の紺地の浴衣は確かに清涼感がある。
カプレーゼとバケットに合うフルーティーな日本酒をもって
お客さんをお招きするための境内が一望できる和室へ向かう。
兄と共に居た人が今日の見合い相手
瀬戸和氏さんと仰る方は背の高いがっちりとした筋肉質の男性だ
お仕事は大手だけれど店舗にオーブンを持つパン屋さんでのお勤めらしい。
すでに広げられているお祭りメニューに添える形で
カプレーゼとバケットに冷やした日本酒をお出しすると
笑顔で「ありがとう」と手に取る。
比較的表情に表れる方のようだ。
おや、という顔を手に取った瞬間にする。
感じる力、はあるようだから多分視えるひと、なんだろう。
食べると顔がほころぶ。
そりゃあそうだおばあちゃん直伝レシピである。
配分を聞いてくるあたりが同業者だなぁと思う。
自分でお店を持って開業したいというより日々自分の納得できるものを作って
お客さんに供して楽しんでもらいたいという志のある人のようだ。
今の店だとそれがかなわないのでどうしようか悩んでいるところだ
という風に話をしてくれる。
結婚するしない、は置いておいても
一緒にお店をやっていくパートナーとしては申し分ない相手だろうと思う。
さて、と兄が一呼吸おいて
「これから我が家の秘密、というほどではないけれどウチと長くかかわるには見ておかないといけないものがある。」
と声をかける。
庭に面した障子は実は締め切りになっている。
障子は結界を施してあるので視える人でも見えない仕掛けだ。
多分、だけど騒々しくなってる予感しかない。
今日のお見合いのことは人外の皆さんには漏れ放題
悪さをしない人に害意のない人外であれば
うちの境内は神域以外は立ち入り自由。
そこでお酒も振舞われるのが縁日の習い。
お酒も噂話のつまみもあればもういつも以上に盛況なのは言うまでもない。
スッ、と障子を開けるとデバガメよろしく張り付いてた神様Sがどさっと崩れてくる。
もちろん、うちの火室さんもご一緒・・・
「こぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!火室さんはご飯抜くわよ?みんなにも今月のお供えは控えさせてもらおうかしら?」
思わずデバガメ神様一同を一喝してしまう。
その私の後姿を見て瀬戸さんは苦笑していて
それに気づいた私はちょっと照れくさくなってしまった。