梅仕事にはお弁当を
梅雨入り前の初夏の陽気に誘われて
ひふみの定休日でもある今日、年式は新しくないけれども手に馴染んだステアリングを握っている。
「へぇ、梅があるんだ〜」
そう、健太兄さんの紹介でうちにジャムを卸してくれることになった農場の由理さんと話すのがここ最近週に一度の楽しみになっている。
ひふみのある商店会も言わずもがなではあるが高齢化は否めない状態で
おばあちゃんから店を引き継いだ私が商店主の中では最年少。
農場も親御さんが早くになくなり跡を継いだのでオーナーは由理さんだけれど周りの方々もご高齢。
しかも私の同居人は人外なので人より長寿
…若い人にお互い飢えているのだ。
由理さんの農場はイチゴやベリー類が主らしいのだけれど
仲の良い農場主さんのところでやってるリンゴなども集めて
一次生産だけではなく二次加工までやろうという取り組みで
地場産業の活性化をしよう!とジャムやフルーツソースを始めたらしい。
確かになかなか美味しい上に生産加工が一貫してるのでブランドとしてもいい。
最近ではうちに置いたジャムも日によっては即日完売、時間がかかるときでも翌週の納品日までには完売しているのだ。
お持ち帰りパンもジャムがある日にはよく売れるのでわたしとしてもホクホクである。
そんな由理さんの納品日。
話の中で庭に植えてるだけだから商品化できるほど量が取れないのだけど
かといって放っておくほどもったいないこともない、という量が収穫できてしまう
と梅の木の話をされた。
「取りに来てくださるなら差し上げますよ」
の一言にわたしは定休日にいく!と諸手を挙げて大喜びをした。
車の後部座席には楽しげな寿々ちゃんとそれを見やりつつシートから少し浮いてる火室さんの2人がいる。
神様にも不得手はあるらしく火室さんは乗り物全般が苦手なのでお留守番が常なのだけれど
寿々ちゃんに負けたのであろう…
揺れないためにもシートに座ってる風を装い浮いて揺れを逃してる様はやや滑稽だ。
吹き出すと眉間のシワが深まるのでなるべくバックミラーは確認しないようにしていた。
今日は人前に出るモードなので寿々ちゃんにはセーラーシャツとキュロットを着せ
火室さんには「現代洋装」をお願いしたところ薄手のパーカーにデニムという装いになってた。
さて、農場に到着。
今日は2人とも見えるモードなので元気に挨拶をしてもらう。
由理さんにも何度か会ってる2人なので人見知りもしないでくれる。
すごく長閑な景色に思わず駆け出す寿々ちゃんを微笑ましく見守りながら梅の木に向かう。
あくまでお家用、の梅は収穫用の木と違い低くなるよう剪定されてない。
大木とは言わないけれど少しよじ登るようだなーと見上げる。
先ずは下に梅が落ちてもいいようにシートを敷く。
そして我が家の秘密兵器、寿々ちゃんにご登場いただく。
流石猫娘、スイスイと登り腰につけたカゴに収穫を始める。
私と火室さんに由理さんは下から攻めていく。
由理さん曰く虫が出るようになってしまうため早めに収穫を終えたいようだが時間も人でもこちらに回せないので、とのこと。
現に今も収穫期を迎えるベリー類があるとのことで畑に行ってしまった。
遠慮なしに収穫をしてもいいと太鼓判を貰い2人にはコッソリ神力や妖力を発現させない程度に取り組んでもいい旨を伝えると
嬉々として励み始めた。
家を出る頃には朝日が気持ち良い程度だったのに今や頭上に日が昇り照りつけてくる。
3本ある木は我が家の人外によりほとんど綺麗に取り尽くされ青梅と熟した梅に選別中だ。
青梅は梅シロップと梅酒に、熟した梅は梅干しと梅のコンポートにしよう。
と作業をしていると由理さんがおにぎりを持ってきてくれた。
早くに作業をしていて驚く由理さんに
「ほら、木登り得意な子がいるもんだから」
とごまかし我が家からもお弁当を出す。
由理さんが握ってくれたおにぎりは定番の梅、おかか、しゃけ
私はカツサンドとたまごサンドに
今日は趣向を変えてベーグルに由理さんのところのベリージャムとクリームチーズを合わせたものを挟んできた。
太陽の下でおにぎりやサンドウィッチに舌鼓を打つ。
先ほどまで実をもいでいた梅の木の木陰で風を感じながら食べると心地よい。
由理さんにお礼を言いながら帰るともう夕刻で
火室さんたちに梅仕事をお願いする。
火室さんはおばあちゃんと共にしていたことがあるので手慣れた手つきで青梅を洗い竹串でヘタを取る。
寿々ちゃんはフォークを使って青梅に穴を開けていく。
私はその傍で黄色く熟してる梅のヘタを取りマチ針で全体的に穴を開けていく。
それをざっと茹でこぼしてから砂糖と水で再度煮込めばコンポートの出来上がり。
大きなタッパに移して明日からの喫茶メニューにしようとおもったタイミングで
寿々ちゃんに頼んでた分量の梅の下ごしらえが終わる。
熱湯消毒を昨夜のうちに終えておいた瓶に梅、氷砂糖、梅、氷砂糖と重ねたのちに密封。
これは来週が飲み頃の梅ジュース用のシロップに
火室さんがその傍で梅酒を仕込んでくれる。
これは1年寝かせて私と火室さんで晩酌用だ。
さあ、これが終わると梅雨が来る。
爽やかに夏を越せるようする梅仕事。
さあ、今年はどんな夏になるかしら。
新たな同居人も増えたひふみの夏は賑やかになりそうだ。
〜本日のひふみのお弁当〜
ロースカツサンド
たまごサンド
ベリーチーズベーグル