難攻不落(?)な貴公子
でも男っぽいところで損をしたことはあんまりないか。
寧ろ役に立ってるっていうかなんていうか……複雑だよね。
乙女心は複雑ってよく言うらしいけど、あたしの場合ってどうなるんだろ?
この前龍に聞いたら「魚心があるっていうし、猿心?」と言われた。
即座に一発回し蹴りをお見舞いしてやった。ストレス発散にいいんだよねこれが。
おっと、そんなことはどうでもいいんだけど。
「おい、っぶねーぞ!」
「ぎゃわっ」
突如隣の幼馴染みが声を上げ、自分の世界から引き剥がされる。
と同時に体を抱きすくめる強い何かが鼓動を打った。
頬に伝わる体温、硬い何かはどうやら龍の胸で。
男の子らしい体つきから響く心臓の音がこっちにまで聞こえてくる。
そしてすぐ横を通り過ぎていく車の走行音。
え、えーっと……、この状況は一体……?
理解するのにたっぷりと思う存分時間を費やした。
それからどのくらい経ったんだろう。あんまり覚えていない。
「ったく、大丈夫かよ」
龍がスッと離れ、感じていた体温、温もりが消えていく。
心なしか肌寒い。それにちょっと寂しい。
…………って、
「(寂しいって何!? 自分気持ち悪っ!)」
ないないないない。寂しいとかないない。
こんなヤツにそんな感情、抱くわけないだろアホ。
そうだ、いきなりの距離に体と心がビックリしただけだ。
別にドキドキとかしてないし。してないし。するもんか。
一ミクロンとも、それはないのだ。
「おいユウキ? お前、顔赤いけど」
「はっ!? 龍の目が充血してるだけだろそれ」
そんなはずはない。あたしは女の子の貴公子。
だから男子にオチるなんてことは決してあってはならないんだ。
「ごめん、先行く」
「あっ、おい!」
やっぱりこういう変な気持ちのときは、癒しが必要だよね。
よし、いざ可愛い子たちが待っている学校へ!
*
「何あの顔……反則だろ、バァカ」
ため息とともに呟かれた声は、
誰の耳に届くこともなく五月の爽やかな風に流されていく——。
*