飴色世界
飴は正義だ。
そう思うのはあたしだけだろうか。
飴ってすごいと思わないか? だってその一粒で人を笑顔にできるんだから。
例えば小さい子が転んで泣いていたとする。
その時に飴を持っていれば近寄って行ってこう言うことができる。
「ほら、飴ちゃんをあげるから泣かないで?」
するとあら不思議。小さい子は飴を口に含むと途端に泣き止む。
この前公園で実証済みだから保証する。試してみる価値はあるね。
けど不審者に間違われそうになることもあるから要注意。ふぅ、危ない危ない。
「よぉ、男ヤロウ女。相変わらず色気ねぇな」
登校していたら後ろからパシンと後頭部を叩かれた。
振り返らなくとも声で主が分かる。
「煩いな、つか叩くな」
手で空を振り払い際に隣に並んだヤツを睨む。今は少し見上げないと目線が合わないのが悔しい。
「ん? 別にお前は叩いても大丈夫な人種だろ」
「どんな人種だ。取り敢えず半径一メートル以上離れろ」
シッシと手で追い払う仕草をすると、隣を歩いていたヤツは露骨に嫌そうな顔をした。
「んだよ、俺だって好きでお前と歩いてるわけねーだろ」
「ふん。んなこと知ってる」
前に視線を戻しながらも眉の寄せ具合は戻さないでいると、
隣から短い吐息が聞こえた。
「いい加減親も忘れてくれねぇかな。許婚なんてさ」
「それについては同感」
あたし、飴森佑樹と隣を歩く白石龍は
幼稚園からの顔馴染みつまり幼馴染みであり、——許婚相手でもある。