目が覚めたら、食べ物が幼女になっていた。
目が覚めたら、食べ物が幼女になっていた。
それはもう世界中の食べ物が幼女になっていた。
何を言っているか分からないと思うが、俺も未だに分かっていない。
「涼しいー!」
「ひえひえー!」
「賞味期限伸びちゃうぜヒャッハー!」
「あ、私切れかけてる」
こんな声が冷蔵庫の中からするのだ。
そして、冷蔵庫を開けると中に幼女がわんさかいる。
通常サイズの幼女だ。どうやって入ってるのか分からないが。
「あ、やべ。こんな時間だ。そろそろバイト行かないと……」
いつもは家を出る前に軽く食事をしていく。
しかし、今は食べ物が幼女だ。
どうやって食べたらいいのか皆目見当もつかない。
そういえば、昨日夕食食べそびれたんだったっけ。
うわぁ、お腹がグーグー鳴っている。
とりあえず飲み物だけは元のままだったので、麦茶を飲んで空腹に耐えながら家を出る。
電車の中もこれまたクレイジーだった。
そこかしこから幼女の声が聞こえる。
「わーい、電車だー」
「ゆらゆらー」
そんな彼女たちの声は、通勤客の鞄の中から聞こえる。
愛妻弁当とか、パンとかおにぎりなんかが幼女になっているのだろう。
鞄からツインテールの片方だけが飛び出してたりして、ホラー極まりない。
見ないフリをしつつ職場に到着する。
「うわぁ……予想はしてたけどこれは……」
俺の職場はコンビニだ。
つまり、それだけ食材に囲まれている。
コンビニの中は、まるでぎゅう詰めの保育園だった。
「って遅刻ギリギリだ。危ない危ない」
急いで裏に回って勤怠を登録し、制服に着替えてレジに出る。
「いらっしゃいませー」
お客さんが来た。
サラリーマンの中年の男性だ。
2人の幼女を連れている。
通報しようか悩んでしまったが、これは食べ物なのだ。
えーっと……バーコードどこだ?
「早くしてくれよ」
「す、すみません」
「はやくしてくれよー」
「くれよー」
食べ物に急かされる日が来るとは思わなかった。
あ、あった。おでこだ。
おでこをスキャンする。
120円ぐらいのおにぎりがレジに表示された。
こいつおにぎりだったのか。
もう1人は赤毛の洋風な子だから……あ、ナポリタンのスパゲティだったのね。
「あ、温めて」
「温め!?」
ど、どうやるんだ。
サイズは完全に普通の幼女だぞ。
どうやって電子レンジに入れろと。
「どうした」
「か、かしこまりました」
「ほらー、チンしてチン!」
「ちんちんー!」
「きゃー! シャケちゃんのえっちー!」
ええいやかましい。
もうどうにでもなれ。
そう思いながら、俺は幼女の手を持って電子レンジの方へ持って行った。
「あったかーい!」
「ほかほかー」
「ありがとうございました!」
はぁ……大変だった。
あのあと袋に詰め、フォークを入れてお渡しするだけで凄い精神が削れた。
これを今日一日やらないといけないのか……。
「だーめー!」
「いーいーでーしょー!」
うわ、何か食品幼女同士が揉めてる。
仲裁に向かう。
「なんだよどうしたんだよ」
「この子がねー、えっちな本を読んでたのー」
「えーいーじゃんいーじゃん」
あぁ、18禁のコーナーの本を立ち読みしてたのか。
それはいけないな。
「だーめっ! なのっ!」
「そ、そうだな」
「えーでもでもじゃあ何であの子はいいの?」
ごねる幼女。
見ると、他にも18禁コーナーで立ち読みしている幼女がいる。
「あの子はいいのよ」
「なーんーでー」
え、いいのかあの子は。
どういう基準なんだ。
「あなた、若鶏の竜田揚げでしょ!」
「それがなによー」
「あの子は大人の豚さんから作られた肉まんなの! だからいいの!」
ど、どういう基準なんだ。
全く訳が分からんぞ。
……まぁいいや、この律儀な子に任せておくか。
ちなみにこの子はカレーちゃんらしい。
日本食なのにインドが元になってるからか、ちょっとハーフっぽい子だった。
あっちにいるのは中国の子っぽいから、シュウマイちゃんかな?
あ、麻婆豆腐ちゃんだったか。
……うん、頭が痛くなってきた。
「休憩入っていいぞー」
「じゃあ、先に失礼します」
ようやく待ちにまった休憩だ。
しかし、空腹を収める方法が分からない。
とりあえずサンドイッチをチンして来たが。
……別に洋ロリが好きって訳じゃないぞ。
うーん、どうやって食べればいいんだ。
朝食を抜いたから腹減って仕方ない。
「やっほー!」
「や、やっほー」
「おにーさん元気ですかー!」
「元気、あんまりないかな」
「ノーノー! ご飯いっぱい食べて元気付けるー!」
ご飯が食べられないから元気が出ないというのに。
ええい、何でもいい。食べてやる!
……だめだ、俺には出来ない。
これは悪い夢だ。
きっと夢に違いない。
それにしても、こうやって見ると幼女っていいなぁと思う。
いや、ロリコンとかそういうのではなくてだな。
何というか、愛したいというより愛でたいというか。
……あぁ、そうか。
俺は、この子を精一杯愛でていいんだ。
そうすれば、ほら。
何だか、お腹いっぱいの気分に……。
「おい、どうしたんだ」
「あ、先輩」
「何か朝から様子が変だな。大丈夫か?」
「すみません」
少しの間、意識が飛んでいたらしい。
目の前には、1つのサンドイッチが置かれていた。
何か、悪い夢でも見ていたのだろうか。
いや、アレはいい夢だったのかもしれない。
そうだ。これが正常な世界なんだ。
俺はサンドイッチを食べてペットボトルの水を飲み干すと、店内に再び出陣を……。
「だーかーらー、若鶏ちゃんは読んじゃだめなのー!」
「けちー!」
俺はそっとレジからスタッフルームに引き返したのだった。