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栄倉亜美のジャムらない話  作者: 明良 啓介
第四章 エネミー・オブ・ライン
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本物と偽物

 ガジェットと部下四名は山の中を突き進んでいた。

 全員が無駄の無い動きで木々を避けながら突き進む。

 とその時、ガジェットが不意に立ち止まり手をかざした。しかしジャバードの反応がわずかに遅れ、


「!?」


 何かに足を引っかけて前のめりに倒れた。が、寸でのところでガジェットが軍服の襟を掴んでそれを阻止した。首元が絞まり、ジャバードがぐぐもった声を出す。突然のことに一体何が起こったのかジャバードには理解不能だったが、


「よく見ろ」


 ガジェットに促され、自分の眼前――薄ぼんやりと見える物体に気付き焦点を合わせる。そこには先端が削られ鋭利に尖った木の杭が地面から生えていた。草木でカモフラージュされた木製の槍がこちらに向かって斜めに突き出ている。明らかに意図されて仕掛けられた物だ。


「危うく私のようになるところだったぞ」


 ガジェットが軽々片手でぐいっとジャバードを後ろに引き上げた。体勢が戻ったジャバードは苦しさから解放された首元を押さえながら、自分が足元を崩した原因である後方を確認した。


「申し訳ありません。まさかあのような物が仕掛けられているとは……」


 ジャバードの目線の先には木と木の間に張られたワイヤーがあった。単純な仕掛けだが、こけた先に木の杭を設置することで殺傷力を持った罠となる。


「特務曹長!」


 前方でフランが片膝を着いてガジェットを呼んだ。ガジェットが近寄ると、ちょうど脚のスネの高さにワイヤーがピンと張ってあるのが見えた。その先を辿ると、両脇の木に巻きつけられているのがわかる。


「ブービートラップか?」


 ガジェットがそう口にすると、フランはワイヤーの巻きつけられた木に目をやり、


「いえ、これはダミーのようです」


 と短く答えた。ワイヤーはただ木に巻きつけられているだけで、引っかかるとその先に繋がった手榴弾のピンが抜けて爆発が起こったり、木の杭が飛び出してくるなんてことはない。ただのダミーだ。

 ガジェットが立ち上がり振り返ると、後ろでは男達が周囲を警戒するように見張っていた。


「どうやら我々の敵はベトコンらしい。ここからは慎重に行動するぞ」


 言ってからガジェットはワイヤーを見つめ、顔をしかめて奥歯を噛んだ。


「姑息な手を……っ!」


 怒りをあらわにするガジェットだったが、罠があるとわかった以上歩調を弛めざるをえなかった。


 


「ブービートラップを仕掛けます」


 勇人は部員たちに向かってそう提案した。


「なるほど、ブービートラップか……」


 梶は顎に手を当てて真剣な面持ちで頷くと、


「勇人、ブービートラップって何だっけ?」


 首を傾げた。


「山の中に仕掛ける罠のことだよ。地雷とかは無理だけど、原始的な罠――例えば落とし穴とかワイヤーを張って相手がこける先に尖らせた木の杭を立てるとか、パンジステークとか呼ばれているけど――そういった罠を各所に設置する。それがブービートラップだ。ベトナム戦争でも良く使われていた手だよ」


 勇人の説明に周囲の部員達が「知っていて当然」といった感じで頷いた。


「うーん……ただ、どのくらい仕掛けるんだ? 一つ設置すんのでもけっこう時間かかるだろ?」


 梶が珍しくまともな発言をした。その場にいる全員の顔が曇る。状況は切迫しているのだ、まだミリーとニコールが無事だという確認も取れていない。


「だったらダミーでもいいぞ」


 沈む空気の中、亜美が口を開いた。全員の視線が一斉に亜美に向いた。


「偽者でも構わないと?」


 唐草が疑問の表情で問いかける。亜美は腕を組んで静かに頷いた。


「ただ単にワイヤーを張るだけでも効果は見込める。なぜなら相手はダミーに紛れて本物の罠が仕掛けられていると考えるからだ。もちろん本物を混ぜる必要もあるが。そこからは疑心暗鬼になり、罠に気を配りながら進むことになる。それだけで十分足止めにはなる」


 亜美の説明に一同が「なるほど」と納得した。相手が戦争のプロだということを逆手に取った作戦だ。さらに亜美は付け加える。


「それに、なにも落とし穴を掘る必要はない。山には自然にできた窪みがあるだろ。そこに枝を敷き詰め落ち葉などで隠せば、相手が勝手にはまってくれる。こちらが逃走する際に有効な手段だ。時間も掛からず一石二鳥だ」


 亜美が言い終わると部室内は静まり返った。


「ハァ……亜美ちゃん、マジぱねえな」


 そして梶が感心したように息を吐いた。周囲も同様に感嘆の息を漏らす。そんな光景を見て、勇人はなんだか自分のことのように嬉しくなった。


「よしっ、それでいこう」


 勇人が顔を綻ばせてその折衷案を受け入れると、亜美は満足そうな顔をした。


「では、そちらの三人は罠の設置をお願いします」


 勇人が机の左側に並ぶ、半田、田沼、ピノに頭を下げると、それぞれが返事をして頷いた。


「仕掛けるとしたらどの辺りがいいですかね?」


 勇人が部長である唐草に意見を求めた。幾度となく大学の裏山でサバゲーをしてきた男だ。裏山のことを知り尽くしているといってもいい。


「そうだな。連中が直進するとなると……」


 唐草が言いながら前に出てきて赤いマジックを手に取った。


「ここと、ここと、この辺には仕掛けておいたほうがいいだろう。後は連中が迂回した際に通るここと……あー、ここにもあったほうがいいな」


 ホワイトボードの地図の各所に赤マジックで『只』と印を書いていく。


「なんですか『ただ』って?」


 勇人が印を見て尋ねる。


「ああ、これか。地雷のマークだよ。この漢字、クレイモアに似てるだろ」


 唐草が笑顔で答えるが、勇人は的を射ない様子で「はあ」と一応頷いた。印を書き終えると唐草は自分の席に戻っていった。

(地雷なら『凸』じゃないのか? 横から見たらそんな感じだと思うけどな)

 そんなことを考えながら、勇人はホワイトボードの地図に目を向けた。

 そこにはへたくそな木の絵と唐草が今しがた書き込んだマークが並んでいた。



「くっ……またか」


 ガジェットが木の間にピンと張られたワイヤーを見て顔を歪ませた。


「特務曹長。迂回したほうがいいのではないですか?」


 後ろに立っていた口元に傷のある男――ナーデル一等兵がガジェットに進言した。


「確かに敵の姿がまだ見えん以上ここを進む意味はないかもしれんな。そうだな、迂回しよ――」

「特務曹長、向こうに人影が」


 ガジェットが言いかけたところでフランが口を挟んで遠くを指差した。


「むっ、奴らか?」


 フランの指の先を見ると遠方の木の陰に迷彩服姿の人影が見えた。その人影はまだガジェット達に気付いていないようだった。

 ガジェットがワイヤーをすぐさま跨いで、


「目標確認。全員、前進するぞ」


 と言うと、少し腰を屈めて罠を警戒しながらも、部下を引き連れて小走りで前進しだした。

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