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栄倉亜美のジャムらない話  作者: 明良 啓介
第四章 エネミー・オブ・ライン
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容赦なき復讐者

 ミリーとニコールは勇人が監禁されていた小屋に拘束されていた。

 勇人が走り去った後、ミリーとニコールは兵士達と銃撃戦を繰り広げて勇人達が逃走する時間を稼いだ。さすが二人とも優秀な軍人なだけあって、長時間粘ったが――結局は弾切れになったところを狙われて捕らえられてしまった。

 ミリーとニコールは両手足を縛られた状態で並んで正座をしていた。その前にはガジェットが立っていて、入り口横にはフランが控えている。そして、ミリーとニコールの背後にはアクバル上等兵が角材を持って立っていた。

 ガジェットが微笑を浮かべてミリーとニコールを見下していた。


「どうやら日本のお仲間は貴様らを見捨てて逃げたようだな。あのガキの保護を優先したということは、やはり上本武則は関係者だったか。まあ貴様らがこの場にいることが何よりの証拠だが」


 ガジェットは部下から、迷彩服姿の集団が勇人を連れて撤退していったという報告を受けていた。もちろんサバゲー部の部員達のことだが、ガジェットはそれを自衛隊か何かだと勘違いしているようだ。


「それにしても貴様らだけで我々を抑えられるとでも? 随分とナメられたものだな」

「あなた達はその程度にしか見られてないってことよ」


 毒づくニコールの口の端には血が滲んで青痣ができていた。迷彩服も土が付いて薄汚れていた。捕まる際に抵抗した結果だった。


「はっ、この私が戦場で戦ったこともない日本の兵士に負けるわけないだろ」


 ガジェットが鼻で笑う。

 ニコールはガジェットの間違いに気付いたが、あえてそれを訂正しなかった。この件には自衛隊が絡んでいると思わせとけばガジェットは迂闊に勇人達に手を出せないからだ。ガジェットといえどさすがに日本政府相手に喧嘩を売るような真似はしないだろう。


「その割にはこそこそゴキブリみたいに動いてるみたいだけど」


 ニコールの発言にガジェットは頬をピクッとさせて真顔になった。


「ペナルティ」


 ガジェットが言うと、アクバルが角材を振り上げニコールの背中に叩きつけた。


「ぐうっ! ……………かはぁ!」


 ニコールは背中に受けた衝撃で一瞬呼吸が止まり、直後にきた熱を帯びた痛みに顔を歪めて息を吐き出した。


「やめろ!」


 ミリーが叫ぶ。ミリーもニコールと同じくボロボロだった。迷彩服は土で汚れ、左の肩口の継ぎ目の部分が破れ、肩から出血していた。抵抗した際に投げられて、肩を地面に叩きつけられて負傷したのだ。


「栄倉亜美はどこだ?」


 ガジェットが目を見開き、ミリーに顔を近付けた。


「………………」

「おっと!」

「……くっ!」


 ガジェットがミリーの頬を片手で挟みこむように掴んだ。


「言っておくが、私の顔に唾を吐くなんていうお決まりの返答はいらんぞ」


 先を読まれたミリーが唾を飲み込んだ。ガジェットは頬を掴んでいた手を乱暴に離すと、ミリーから一歩離れた。


「ペナルティだ」


 アクバルが角材でミリーの背中を殴った。


「くぅぁ!」


 小柄なミリーには余りにも大きな衝撃が背中を襲い、体がくの字に折れ曲がりバウンドして、ミリーは前のめりに倒れた。


「…………あ、があぁ、あ、あぁ……」


 ミリーは激痛で両目を大きく見開き、唸りながら息を断続的に吐いた。

 ガジェットはミリーとニコールに対して容赦がなかった。勇人とは違い、この二人を生かして帰すつもりはないのだ。もし二人を解放すれば、持ち帰った情報を元に政府軍は増援を送り込んでくるだろう。そうなる前に手を打っておかなければならない。

 ガジェットは腰のホルスターに手をかけた。


「選べ。情報を聞き出すのは一人でいい。どちらが死ぬか選べ」


 ガジェットは二人に向かって選択を迫った。ミリーが苦痛に歪んでいた顔を上げ絶望的な表情になった。


「私でいいわ」


 ニコールがガジェットを睨みつけて言った。ミリーが驚いてニコールの顔を見る。ニコールはその視線に気付いてミリーに向かって微笑んだ。


「ダ、ダメよ、そんなの! 私、私にして!」


 ミリーが目に涙を浮かべて懇願する。ニコールがガジェットの目を見て口を開いた。


「私の方がこの娘より階級が上よ。上官を先に撃つのが戦闘の鉄則でしょ」

「ニコール! なに言ってんのよ。そんなことない! ガジェット、私は大した情報を持ってないの。だから彼女を生かした方がいいわ!」


 必死に訴えるミリーの瞳から涙が零れ落ちて、床板に染み込んで色を濃くしていく。ニコールは前を向いたまま、ミリーに話しかける。


「ミリー、聞いて。私はね……」

「イヤ、イヤよ! 私の……私の方が――」

「聞きなさい、ミリー伍長!」


 ニコールがミリーの顔を睨んで声を荒げた。ミリーがビクッと肩を震わせニコールの方を見るが、眼球がせわしなく動いて視点が定まっていなかった。


「私は亜美に対して罪を犯したわ。大きな罪を。だから、私は裁かれるべき人間なのよ」

「えっ…………?」


 ニコールの言葉にミリーの目の焦点が定まった。ミリーが疑問の表情を浮かべてニコールの真意を測ろうとするが、ニコールはただ微笑んだだけで、何もわからない。

 しばらくガジェットはその光景を無表情で眺めていたが、


「時間切れだ」


 ホルスターから拳銃を抜いて――構えた。


「……どうしてっ!」


 ニコールが声を上げる。銃口はミリーに向いていた。


「お前の方が色々と情報を持っているようだからな」


 ガジェットが拳銃の撃鉄を起こす。ミリーの後ろに立っていたアクバルが一歩下がった。


「……あ、ああ、あ……ヒッ!」


 ミリーが恐怖で顔を歪ませて声にならない悲鳴を上げた。


「待って! なんでも話すから!」


 ニコールが髪を振り乱しながら叫んだが――


「終わってから聞く」


 ガジェットは冷徹に吐き捨てると、引き鉄に指をかけた。

 ニコールがギュッと目を瞑り、ミリーの目が大きく見開かれた。

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