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栄倉亜美のジャムらない話  作者: 明良 啓介
第四章 エネミー・オブ・ライン
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覚悟

「勇人!」


 部室に着くなり勇人は亜美から熱い抱擁を受けた。


「無事だったんだ………………なっ! キャアァァァァァァァァァッ!」


 ――が、すぐに勇人が全裸だったことに気付いた亜美にそのまま首投げをされて、腹に膝落しを食らった。


「……すまない勇人」


 謝る亜美の横に座る勇人はムスッとした顔で目を瞑っていた。今は全裸ではなくサバゲー部に置いてあった迷彩服を借りて着ている。

 勇人と亜美も含めたサバゲー部一同は机を囲むようにして座っていた。部室内の空気はかなり重く、お通夜ムードといった感じだ。

 そんな雰囲気の中、最初に口火を切ったのは――


「二人を助けに行こう」


 上座に座る唐草だった。


「相手はかなり危険な連中だ。武装もしている。だが、この山は俺たちにとって庭みたいなもんだ。勝機は必ずある」


 周囲に座る部員達も唐草の言葉に頷いた。すでに部員達は事情を知っているのだ。

 もはや部員達に言い訳ができなくなった事態に、勇人は今回の騒動の発端を話した。

 亜美の住んでいた国で内紛が起こり、亜美が兵士として戦っていたことや、亜美が指導者を殺したことで戦争は終わり、それを恨んだ反乱軍の残党が亜美を狙って日本にやってきたこと。ミリーとニコールはその残党を捕まえるために日本に来たことなど――勇人はそれらのことを全て包み隠さずに話した。

 部員達は実際の銃撃を一度目にしているだけあって、すぐに勇人の話を信じた。勇人も部員達を信じて、この事実を絶対に口外しないことを約束した上で話した。

 唐草の言葉を皮切りに部室内は熱気に包まれていた。


 ――ミリーとニコールを助けに行こう。


 待っていれば帰ってくる可能性もあるが、最悪の事態も考えられる。もしかしたらミリーとニコールは反乱軍の兵士に捕まっているかもしれない。それとも、まだ戦闘中かもしれない。どちらにせよ、ここで待っていては何も始まらないのだ。

 部員達の心は一丸となっていた。勇人も恐怖心はあるものの皆と同じ気持ちだった。だが、その隣の亜美は浮かない表情をしていた。盛り上がった部員達は口々に言う。


「もう彼女達は同胞なのだ。助けに行かなくてどうする!」

「関わった以上は助けるのが道理だろ」

「サバゲーで鍛えた腕を見せる時だ!」

「ニコールさんを救おう」

「ミリーたんを救おう」

「わ、私も二人を助けたいです」


 全員の士気が最高潮に達しようとしていたその時、


「駄目だ!」


 亜美が机を叩いて立ち上がり叫んだ。部室内が咳を切ったように静まり返る。

 勇人が何事かと亜美を見上げた。


「危険すぎる。素人が束になったところで訓練された兵士には敵わない。全員無事では済まないぞ」


 部員の中で一番恰幅のいい田沼が口を開いた。どうやら亜美の言う「素人」という部分に引っかかったようだ。


「俺達だって日頃鍛えてるんだ。やってみないとわからないじゃないか」


(鍛えてるって……ただの贅肉じゃねえか)

 勇人が田沼の突き出た腹を見て、心の中でツッコミを入れる。


「お前は死ぬな」

「――ブヒッ!」


 亜美の言葉に田沼の顔が歪んだ。


「プロならやってみないとわからないような状況で戦いを挑もうなどとは考えない。冷静に相手の戦力を分析し、作戦を立てた上で事に及ぶ。勝率を高め、生存率を上げるためだ。それがプロというものだ」


 亜美が全員に痛烈な言葉を浴びせる。相手を甘く見ている時点で自分たちのことが冷静に分析できていないと亜美は全員に厳しい評価を下す。素人サバゲー部と少数精鋭の部隊ではその力量の差は歴然だ。


「じゃあ、二人を放っておけって言うのか……?」


 副部長の半田が熱を込めて言った。


「死ぬ覚悟はあるのか?」

「…………」


 亜美が睨むと半田は顔を引きつらせて黙ってしまった。


「これはゲームではない。相手が持っているのは本物の銃だ。弾が当たれば当然死ぬ。たとえ高度な訓練を受けていたとしてもだ。ここにいる全員その覚悟があるのか?」


 その場にいる全員が想像力を働かせて生唾を飲んだ。弾丸が自らの頭を貫き、鮮血が飛び散る。それで終了。驚くほどに呆気なく、今までの人生が終わる。


「そもそもエアガンでどうやって実銃に対抗するつもりだ? そんなものじゃ相手の動きは止まらんぞ。仮に運よく近接戦に持ち込めたとしても実戦経験のない者に勝ち目はない」


 亜美の言葉にはこの場にいる全員を諦めさせるような、そんな意思が感じられた。


「だったら栄倉君はどうするつもりなんだ?」


 今まで黙って静観していた唐草が亜美に問いかける。自分が部員達を焚きつけた手前、なかなか口を挟めなかったのだが、限界がきたようだ。


「連中の狙いは私だ……だったら、私一人が行けば済むことだ」


 その場に居る全員が驚いて亜美の顔に注目した――が、勇人だけは違った。勇人はそこで亜美の手が震えていることに気付いた。

 亜美自身もそれを自覚して驚いていた。こうして手が震えるのはいつ以来だろうか。初陣以来か。戦場では両親の仇さえ取れればいつ死んでもいいというような感覚だった。捨て身の精神。自暴自棄。命を落としたら自分はそれまでの人間なのだと。そんな考えに至っていた。そしていつしか戦場で手が震えることはなくなっていた。

 だが今は――。

 亜美は生きたがっている。この場所に帰ってきて、自分の命が、大切な人の命が、失われることに恐怖している。


「おいおい、亜美ちゃん一人になんて行かせられねえよ。俺達にも手伝わせてくれって!」


 梶が慌てたように言った。部員達も同様に頷いた。


「そんなに死にたいのか……っ」


 亜美が誰に聞かせるでもなく悲痛な声を上げた。その下では肌が鬱血して白くなるほど拳を強く握り締めている。


「なあ亜美……一つ聞かせてくれないか」


 亜美の悲痛な姿に、見かねた勇人が口を開いた。


「連中と対峙すれば勝ち目はないと言ったよな。じゃあそれ以外の方法ならどうだ?」

「どういう意味だ勇人?」


 亜美が驚いた表情で勇人を見つめる。


「亜美の言う通り、俺達に覚悟はないのかもしれない。偽物の戦闘ではなく本物の戦闘ができる。そんな状況に酔ってそれらしいことを口走っているだけかもしれない」


 確信を突いた言葉に部員達が顔を曇らせる。


「でもな……二人を助けたいって気持ちは本物だ。俺達は二人のおかげで、ここまで逃げてこられたんだ。助けたいって思うのが普通だろ」


 勇人が優しく亜美の腕を引いて座らせる。

(そう……俺は二人に助けられたんだ……だったら、今度は俺が二人を……)


「……勇人?」


 勇人の決意したような横顔に亜美が戸惑う。


「梶、お前の携帯貸してくれ」

「お、おう」


 机の左側に座っていた梶が携帯電話を滑らせて勇人に渡す。


「俺の携帯なんか使ってどうする気だ?」


 梶が問いかけると、勇人は不敵な笑みを浮かべた。


「決まってるだろ。二人を助けるんだよ」

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