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栄倉亜美のジャムらない話  作者: 明良 啓介
第四章 エネミー・オブ・ライン
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装備は大事

 勇人が監禁されていた小屋から少し離れた位置で、反乱軍の兵士達は昼食を取っていた。

 折れた大木などを椅子代わりにして、全員が車座になってレーションを食べている。その中央には黒いボストンバッグが置いてあり、中には銃器が無造作に入っているのが見える。


『お前ら、好きなのを取れ』


 ガジェットが缶詰の豆をすくいながら言った。それを聞いて男達がボストンバッグに駆け寄り、それぞれの銃器を選ぶ。フランもボストンバッグの中から拳銃を手に取り、さらに弾倉マガジンを上着のポケットに入れて、ガジェットの隣に座った。


『フラン、そのグロックだけでいいのか?』

『はい、これが手に馴染んだので』


 ガジェットの問いに答えて、フランは拳銃を腰のホルスターに入れた。他の四人の男達は二人がサブマシンガンを持ち、残りの二人は拳銃を選んだ。

 ガジェットはすでにリボルバー式の拳銃を自分の腰のホルスターに入れていた。ガジェットが豆を一口食べて、男達を見渡した。


『お前達しっかり手入れしとけよ。華十組の連中から買った物だから、弾詰まりを起こす可能性があるぞ』


 ガジェットが冗談交じりに言うと男達が笑った。

 笑っていたスキンヘッドの男が遠くの方を見て何かに気付き、怪訝な表情をした。


『どうした? ジャバード一等兵』


 ガジェットが男の名前を読んで尋ねた。


『特務曹長、向こうに人影が……』


 その場に居た全員がジャバードの視線の先を見た。そこには木々の間を抜けながら全裸で逃げる勇人の姿があった。

 すぐさま反応した髭面の男が、拳銃に弾倉を装填して拳銃の上部に手をかけてスライドを引いた。そして走りながら前に出て、足を止めると同時に拳銃を構えた。

 山中に銃声が木霊した。


『馬鹿者! 大事な情報源だぞ』


 ガジェットが駆け寄り、髭面の男の拳銃を握っていた。

 弾丸は勇人に命中しておらず、走る姿が徐々に遠のいていく。ガジェットが振り返り全員に向かって口を開いた。


『いいか、殺すなよ。生け捕りにするんだ――行け! モフセン二等兵、お前は残れ』


 ガジェットが言うと、モフセンと呼ばれた髭面の男以外の者は勇人を追うべく行動を開始した。


『……と、特務曹長、申し訳ありません』


 謝るモフセンにガジェットが拳銃を返した。


『いいか。今後、軽率な行動は控えろ』


 ガジェットが厳しく注意した。そしてモフセンが仲間を追って走りだそうとした時、


『ああ、ちょっと待て』


 ガジェットに呼び止められた。どんな叱責を受けるのかとモフセンはビクッと肩を震わせ、身構えて次の言葉を待った。


『そのべレッタだが、照準が少し右にずれている』



 勇人は山の中を走っていた。両手は後ろで縛られた状態のまま、バランス崩さぬように必死で走っていた。

(あいつら……マジで撃ってきやがった! 殺される……マジで殺される……ッ!)

 恐怖で震える足を奮い立たせながら、勇人は山を走り続ける。ただ闇雲に走っているわけではない。目標があって進んでいた。勇人はひたすら一点を見つめている。木々が立ち並ぶ遥か遠方に、見覚えのある建物が見えていた。勇人の通う大学だ。小屋を脱出して、それが見えた瞬間、勇人は自分のいる場所を把握したのだ――ここは大学の裏山だと。


「ハァハァ……ハァ……痛っ……!」


 勇人は足の裏に刺さる小枝の痛みに顔を歪めた。勇人の足は傷に傷を上書きされたかのように徐々に痛みが激しくなっていく。痛みで感覚が麻痺するというのをよく聞くが、あれは嘘なのか。一向にそうなる気配は無い。それとも足の裏の傷は大した怪我ではないのだろうか。どちらにせよ立ち止まるわけにはいかなかった。息を切らしながら、勇人は一心不乱に大学を目指した。


 ――どのぐらい走っただろうか。

 勇人の体力はとっくに限界を超えていて、息も絶え絶えの状態だ。そしてついに足が止まり、勇人は倒れこむように付近の大木にもたれ掛かった。目に汗が入り、手で拭うこともできない勇人は瞬きを繰り返した。徐々に視界が復活してきた勇人が前方に目をやると、


「ハァハァ……なんだぁ……旗?」


 そこには旗が立っていた。木がそこだけ生えるのを躊躇ったかのような空間に黄色い旗が立っていたのだ。光を遮るものがなく、そこにだけ強く射し込んだ日の光によって旗は神々しく輝いて見えた。


「伝説の剣かよ……」


 人工物と出会えたことにより、冗談を入れる余裕も生まれた勇人は喜び勇んで足を前へと進めた。近くに人がいるかもしれない。旗の下にたどり着いたところで勇人は足の裏の感触に違和感を覚えた。今までに痛みを感じていた小枝や小石ではなく、完全な球体の感触だ。その正体を確かめようと下を見ると地面に白いBB弾が無数に落ちていた。


「なんだこ……」

「キャァァァアアァァァァァァァァーッ!」


 勇人が発した言葉を遮るように女性の悲鳴が辺りに響き渡った。勇人はその甲高い声をもろに受けて耳鳴りのする中、悲鳴のした方に視線を向けると――野戦用の迷彩服姿のカナンがエアガンを構えて立っていた。


「えーと……あっ……サバゲー部の……」

「ち、近寄らないで下さい!」


 勇人が思い出して近寄ろうとしたが、カナンは警告するように両手で構えるスナイパーライフル型のエアガンのグリップ上部にある安全装置を素早く解除した。そのカチリという音に勇人の体が硬直する。


「いや、あの……違うんだ……これは」


 手を後ろに回して全裸で近寄ろうとする奴の何が違うのかはわからないが、カナンは構えを解かずエアガン越しに勇人を睨みつけた。


「なんだなんだ……」


 するとカナンの後ろから梶と唐草を始めとしたサバゲー部の部員達が悲鳴を聞きつけ、次々と現れた。サバゲー部の全員は迷彩服に身を包んでいたが、唐草だけは例外だった。唐草はギリースーツという全身に草が生えたような服を着ていた。周囲に擬態して、敵に発見され難くするための服装だ。その姿はロールプレイングゲームに登場する植物と人が混じったようなモンスターのようだ。

 そのモンスターは勇人をみて、おどろき、とまどっていた。


「なっ……上本君は……あれか? 君は、そ、そういう趣味だったのか!」

「ち、違いますよ!」


 唐草の勘違いした発言に勇人は速攻で否定した。


「じゃあ、森林浴とか?」


 梶が会話に入ってきて話をややこしくする。


「縛る意味がねえだろ!」


 勇人がツッコミを入れた。


「な、なな、ななななななな……」


 突然甲高い声が聞こえてきて、今度はなんだ、と勇人が目を向けると、部員達を掻き分けてミリーとニコールが現れた。二人も部員達と同じく迷彩服を着ていた。


「どうしたの、ミリー? ええっ…………勇人君ッ!」


 ミリーはあまりの衝撃に口をパクパクとさせている。ニコールも勇人の姿を見て驚いたように目を丸くしていた。そして肩を震わせだしたミリーを見て、


「あっ、やべっ」


 と呟く勇人の背筋に悪寒が走った。


「いや、頼むから話を聞いてく……」

「ななななにやってんのよ! この変態ッ!」

「ちょっ、待て、話を――ゴバァ!」


 飛び出してきたミリーが取り繕おうとしていた勇人に延髄蹴りをくらわせた。さらに前に倒れこんだ勇人の体に容赦なく蹴りを入れ続けるミリー。


「ちょ、ちょっと待て……痛っ、今はマジでやばいんだって」

「うっさい、約束をすっぽかしたと思ってたら、こんな所でなにやってんのよアンタは!」


 ミリーの蹴りを受けながらも勇人は必死で今の状況を説明しようとした。


「痛ッ、素肌に蹴りは……やめろ……すぐそこまで、反乱軍の連中が来てんだよ!」

「えっ……?」


 勇人が叫ぶと、ミリーの蹴りがピタッと止んだ。その言葉にニコールの表情が真剣なものに切り替わり勇人に駆け寄る。


「勇人君、本当なの?」

「はい、俺はあいつらに捕まってたんです。それで服を脱がされて……あの、とりあえずこの縄を解いてもらっていいですか?」


 ニコールが目で合図すると、ミリーはナイフを取り出し勇人の手首の縄を切った。その際、ミリーが急に勇人の裸を意識しだしたせいで、視線を逸らしながらナイフを動かされ、勇人は恐怖でかかなくてもいい汗をかく羽目になったが。両手が自由になった勇人は、痕の付いた手首を揉みながら安堵の息を吐いた。


「相手の人数は?」


 ニコールが勇人に問いかける。


「全員見たわけじゃないから、わからないですけど……五、六人ぐらいだと思います。後、リーダーっぽい眼帯をしてる女性に会いました」

「ガジェットだわ」


 ニコールとミリーが緊迫した表情で顔を見合わせた。


「それにしても勇人君。よくあの女の所から逃げてこれたわね」


 ニコールが感心したように勇人を見る。


「マグレよ、マグレ」


 ミリーがつまらなそうに勇人を見ながら言って、思わず下に目がいきそうになり慌てて視線を外した。


「いえ、あの……無我夢中でしたから」


 途端に勇人の歯切れが悪くなった。

 股間に意識を集中させることに無我夢中でした――とは口が裂けても言えない。


「それでも大したものだわ」


 ニコールは微笑みながら勇人を優しく立ち上がらせた。サバゲー部の部員達は何が起こっているのかわからないといった表情で勇人とニコールのやり取りを見ていた。その中でカナンだけが頬を染めて、勇人の晒された股間から目を背けた。

 勇人は周りを見渡しながら肝心な人物が居ないことに気付いた。


「あれ……亜美は?」


 ミリーが「今頃、気付いたの?」と責めるように勇人を睨んだ。


「亜美軍そ……亜美はアンタが現れないから心配して、探しに行ったわ。携帯も話し中で繋がらなかったし」


 勇人はそれを聞いてフッと笑みをこぼした。ガジェット達が迫ってきているこの状況に亜美が居ないことに安心したのだ。しかもラッキーなことに連中が武徳に電話をかけるタイミングと亜美が勇人に連絡するタイミングが重なったおかげで、亜美と勇人が繋がっていることはバレずに済んだ。奇跡的な幸運といえる。そして勇人はミリーに目を向けた。


「何ニヤついんてんのよ?」


 ミリーが怪訝な表情を浮かべる。


「いや、お前が言いつけを守ってるのが嬉しくて、つい」


 勇人が笑った理由には、先ほどのミリーの発言も含まれていた。ミリーはサバゲー部の部員達がいる手前、亜美のことをいつものように『亜美軍曹』とは呼ばなかった。勇人と前日に口裏を合わせた通り、あくまで『亜美が海外に住んでいた頃の友人』という設定を守っているらしい。勇人はそれをミリーが律儀に行っていることが可笑しかったのだ。とはいえもうその設定の意味はなくたったが。


「まあ……一応よ……」


 ミリーが照れたようにそっぽを向いた。


「ニコールさん、あいつらがこっちに向かってます。早くここから立ち去りましょう……」


 勇人は隣に立つニコールに言いながら、サバゲー部の人達にもここに留まることは危険だと伝えようと思い唐草の元に歩いた。


「部長、あの大事な話が………………部長?」


 しかし唐草は勇人を見ておらず、遠くの一点を見つめていた。


「なんだ、あいつは? どこのチームだ?」

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