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栄倉亜美のジャムらない話  作者: 明良 啓介
第四章 エネミー・オブ・ライン
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目覚め

 ドンッ!


「うおっ!」


 背中に走った衝撃と共に勇人は目を覚ました。ガジェットが後ろから仰向けの勇人の体を抱くような体勢になっていた。ただ、勇人の背中に自分の膝を押し当てている。ガジェットは柔道家などが、気を失った者を蘇生する際に用いる『活法』を行ったようだ。

 先ほど勇人は電信柱に思いっきり頭をぶつけて気絶した。そのせいで額は赤く腫れあがっている。

 頭痛に顔を歪めながら勇人が周囲を見回し、現在の状況を確認する。どうやらここは木造の小屋の中らしい。古くに建てられた物なのか、老朽化して所々壁の隙間から光が射し込んでいる。小屋の奥には板を横に打ちつけただけの棚があり、工具の箱や錆びた鎌などが置いてあった。

 ガジェットが勇人の体から離れる。


「ちょっ……!」


 急に支えを失った勇人は両足が伸びた状態で後ろに倒れこみそうになるが、なんとか足を曲げてあぐらの体勢で座りなおした。ガジェットが回り込んで勇人の前に姿を現す。

 勇人は思わず目を見開いた。そこには軍服姿の右目に眼帯をした女が立っていたのだ。

(まさか……これが亜美たちの言っていたガジェットとかいう女か……)

 座っている勇人はガジェットを見上げる形になり、その長身がより大きく見える。


「一体なんなんっ……ですか……俺をどうするつもりなんですか? あの……教えて下さい」


 勇人は精一杯の虚勢を張って叫ぼうとしたが、ガジェットの左目がギラリと光ったので、思わず敬語になってしまう。


「上本勇人……」


 ガジェットは問いには答えず、勇人の財布から学生証を取り出して確認するように顔と写真を見比べた。


「あっ……」


 自分の財布がガジェットの手にあることに気付き勇人は声を上げた。さらにガジェットの後ろを見ると、財布を入れていた勇人の鞄は小屋の入り口の横に置いてあった。ガジェットは学生証を戻して財布をズボンのポケットに入れた。


「俺の財布……」


 勇人は涙目で財布の行方を心配した。後で返してもらえるのだろうか。


「さて……」


 ガジェットが本題に入るとばかりに溜めを作った。


「…………(ゴクリッ)……」


 勇人は緊張で唾を飲み込んだ。なぜ自分を拉致したのか。一体どこまで知っているのか。ガジェットの目的がわからない。どれぐらい気絶していたのかもわからない。亜美は今どうなっているのだろうか。様々な不安要素が勇人の頭の中でグルグルと廻る。

 ガジェットが入り口に移動して勇人の鞄から携帯電話を取り出した。そして勇人の携帯電話を持って再び勇人の前に立つ。それを見て勇人は下唇を噛んで顔を歪ませた。


「栄倉亜美という女を知っているか?」

「…………」


 ガジェットの問いに勇人は黙った。しかし、内心では相当焦っていた。

(まずい……携帯の中身を見られたら言い訳できない)

 携帯電話には亜美の番号が入っている。


「おい、てめえ、耳ついとんのかコラ?」


 ガジェットの突然のドスの効いた声に勇人はビクッと肩を震わせた。


『ガジェットは日本の暴力団と繋がりがあるのよ』


 ニコールの言葉が勇人の脳内で再生される。

(怖えぇぇぇ……事前に聞いてなかったら、今ので確実にチビッてた……)

 ガジェットが携帯電話を操作する。


「もう一度聞くぞ。栄倉亜美を知っているか?」

「知って……ます。昔、隣に住んでた娘です」


 嘘はついていない。


「じゃあ、今どこにいるか知ってるか?」

「いえ、知りません」

「ふむ、どうやらガキには秘密にしていたか」


 勇人は気持ちを落ち着かせようと必死に表情に出さないようにしていた。ガジェットは質問する度に勇人の目の動きや顔の筋肉の動きを見ている。少しでも挙動に違和感があれば追求されるだろう。

 ガジェットが携帯電話を操作して、アドレス帳を順番に見ていく。なんとも不釣り合いな姿だった。ガジェットが操作している姿を見ると携帯電話も兵器に思えてくる。爆弾の起爆装置を弄っているようにしか見えない。

(やばい、やばい、やばい、やばい……)

 その中には爆弾があるのだ。亜美の電話番号という。勇人は顔には出さないが、シャツの後ろは背中が透けるほど汗で濡れていた。


「これはお前の父親の番号だな?」


 しかし、不思議なことにガジェットは上本武徳の番号を表示してディスプレイを勇人の方に向けた。画面には『親父』と登録された番号が表示されている。


「えっ……」

「なんだ、どっちなんだ?」

「はい、父親の番号です」


 勇人は気付いた。

(そういえば、亜美の番号を登録してなかった――ッ!)

 亜美が電話をかけてきた時、勇人はミリーとニコールに襲われた。それから亜美の番号を登録しないままうやむやになっていた。それどころではなかったからだ。思わぬ幸運に勇人は胸を撫で下ろした。

 ガジェットは携帯電話の通話ボタンを押して耳に当てた。


「…………」


 勇人はその姿を祈るような目で見つめていた。

(大丈夫。親父ならうまく亜美を守ってくれるはずだ)

 ガジェットが規則的につま先を動かし靴を鳴らしていた。


「………………チッ」


 電話口から『お客様の……』のという機械音声が流れた瞬間、ガジェットが通話を切って舌打ちをした。どうやら武徳は携帯電話の電源を切っているようだ。

 ガジェットは携帯電話を持って、無言のまま立っていた。沈黙に耐えられなくなった勇人が口を開く。


「あのー、うちの親父が何かしたんですか?」


 あくまで何も知らないという体で話す。


「我々は栄倉亜美を探しているだけだ。お前の親父が栄倉亜美の居場所を知っている可能性がある。お前には直接関係ないことだ」

「そ、そうですか……」


 実際は関係大有りだが、勇人は安心していた。ガジェットはまだ亜美に辿り着いていない。でなければ、こんな回りくどい方法をとったりはしないだろう。わざわざ勇人を尾行せずに家を調べればすぐにわかったことだ。そこには亜美達が居たのだから。だがそれができなかった。おそらく勇人の家の周囲でパトカーが巡回していたせいだろう。さらにはフランが命令に忠実に従ったため発見には至らなかった。


「…………てめえ、なんか知ってんだろ?」


 ガジェットは勇人が表情を緩めた瞬間を見逃さなかった。勇人はガジェットの迫力のある声に唾を飲み込んだ。


「……な、何も知りませんよ! 亜美とは十年以上会ってないし、あんたらが誰かは知らないけど、いきなりこんなところに連れてこられて意味がわからない――っ!」


 勇人は焦りから饒舌になってしまった。勇人の動揺を見抜いてか、ガジェットが不敵な笑みを浮かべる。


「やっと聞いたな」

「えっ?」

「普通、拉致られたらまず聞くだろ。相手が誰なのか……もしかしたら身代金目当ての誘拐犯かもしれない。なのにてめえは聞かなかった。どうされるかってことばかり気にしてた。まるで最初からオレのことを知ってたみてえにな」


 ガジェットの言葉遣いが途端に荒くなる。

 ガジェットは日本語を学びながら、暴力団関係者と取引をしていたので、学ぶ過程で彼らの言葉がうつってしまい、感情が高ぶると自然と口が悪くなってしまうようになった。しかも日本語を話す相手が男ばかりだったので、自分を指す呼称の『オレ』が世間一般的だと思ってしまった。なので、ガジェットは女性の言葉遣いを知らなかった。そのことによってガジェットに、より迫力が出る結果となった。

 確信を突かれて勇人は心臓の鼓動を速めた。


「いえ……そ、そんなの怖くて聞けませんよ」


 それでも嘘を吐き通す。今の勇人にできることはそれだけだった。勇人の態度に苛立つような表情になり、ガジェットが近寄って勇人の髪の毛を掴んだ。


「とぼけんてんじゃねえ! 知ってることを話せコラ!」

「痛ッ……痛てててててっ……知りません! 本当に何も知らないんです!」


 必死で勇人が知らないことを言い続けると、ガジェットが掴んでいた手を乱雑に離した。その際、ブチブチと勇人の髪の毛が抜けて床に舞い落ちた。勇人は痛みで涙目になりながら頭を押さえた。


「チッ……」


 ガジェットが舌打ちをして、入り口に振り返る。

(痛えぇぇ……無茶苦茶するなこの女…………でも、なんとか亜美のことは隠し通せた)

 勇人がホッとしたのも束の間、


「おい!」


 ガジェットが扉の外に呼びかけると、扉が開いて軍服姿の男二人が中に入ってきた。勇人は二人の屈強な男が入ってきたことで不安な表情を浮かべた。自分はこれから何をされるのだろうか――そんな目で男達を見つめていた。ガジェットがなにやらアラビア語で男達に指示を出す。すると、男達は勇人に歩み寄り襲い掛かった。


「な、何すんだ……!」


 男達は脅える勇人をうつ伏せに押さえつけ、勇人の服を脱がし始めた。


「えっ、嘘? マジかよ! や、やめろ、やめてくれ!」


 すでにシャツを脱がされ、上半身になった勇人の体を男の一人が押さえつけて、もう一人の男がズボンに手をかけた。ガジェットはそれを見下ろしながらニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「ちょ、マジでやめろ! やめ、やめて……」


 勇人の顔が恐怖で歪む。そして、男の手が一気にズボンをパンツごと引き下ろした。


「アッ――――――――――――――――――――ッ!」

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