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THE EIGHTH LETTER

しばらくお休みしていましたが、少しずつ復活します。

時々全編修正を行います。前後のむちゃぶり急展開矛盾が多々あります。

あたたかい目でお読みください。

私は死んだのだろうか。

胸に激痛を覚えつつも意識がある。

急所から外れている。しかし痛い。

こうなるんだったら普段から防弾チョッキをつけてればよかった。


私はなんとか立ち上がった。

彼らはどうしただろう。足を引きづりながらリビングに行った。


私は足元に広がる血を見たとたん、震えがきた。

たぶん、最悪の状況だ。

それでも、私は最後を見なければならない。


震えながら歩いていく。私の靴は血だらけになった。


ソファーに二人倒れている。

ミッシェルとデービット。

デービットは目を開けて死んでいた。


私は泣きながら座りこんだ。パピヨンがやったのか・・。

気が動転してきた。頭が真っ白だ。

この空気。以前経験したことがある。

いつだろう分からない。


私はフラフラ立ち上がった。さっきまで胸部の痛みが感じられない。

あまりにも普段と違う状況で何も考えられない。


私の足はガタガタ震えてやっと歩いている。苦しい。

あたりを見渡した。

白い壁に写真の女ががこちらを見ている。

その目は何かを見つめている。

さっき、私が見た時、ただの写真だったのに、今は何か命が吹き込まれたかのように、

意志の強い目で私を見つめている。


私は無性に腹が立った。

アンタのせいよ。全て。ミッシェルとデービットがかわいそうじゃない。

私は写真に向かって言った。


そして私はパピヨンを探した。


ソファーから少し離れた所の壁に血の跡がついている。


私は歩いて行く。

壁の後ろにパピヨンが倒れていた。

目はつむっていた。


自殺


私は座りこんだ。

声を上げて泣いた。泣いているのか叫んでいるのか分からない。

悲しいのか?それも分からない。

私の気持ちは受け入れてもらえなかったのに、どうしてこんなに涙が出るのだろう。


いや、パピヨンが一番苦しんでいたのかもしれない。

最愛の妻を親友の妻に殺されたのだろうから。

そしてその事実をミッシェルは知らなかった。

知っていたら違う結果があったのだろうか?

しかし、今はもう遅い。みんな死んでしまった。

存在がなかった連中が死んでしまえば、もうなにもないだろう。


何も。


私もいづれそうなるんだ。このまま生きていても、いづれ・・。

私どうしたらいいんだよ・・パピヨン・・

パピヨンの体を揺すった。血が流れた。


パピヨンの服のポケットに封筒が入っていた。


「最後まで、この路線で行くんだ・・・」

私は泣きながら笑った。


手紙にはこう書いてあった。


----

エルザ。お前がもしこの手紙を読んでいるなら、最後に一つ

ミッションをお願いしたい。


この家に火をつけてくれ。


俺たちのことは忘れてくれ。


お前が不自由しないように金を用意してある。


とりあえず、日本から離れろ。

チケットはとっておいた。使ってもいいし、他の国でもいい。

これからお前は一人で考え行動しなければならない。


常に背後に気をつけろ。

何かあったら、自分の痕跡を消し逃げろ。

間違っても戦おうなんて思うな。


お前は自由になったんだ。前を向いて生きていくんだ。


短い間だったが、暗い闇の中にいるオレには

お前の存在はまぶしかった。


---


何がまぶしいんだ。バカ。

私は手紙をポケットにしまった。

パピヨンの傍らに銃があった。

私も死ぬ。これ以上生きて何になる。

私はこめかみに銃を当て引き金を引いた。


しかし、銃に弾は入っていなかった。


あは・・は


私は笑った。弾抜き取ったんだ。

パピヨンのポケットの中を探したがなかった。


は・・・生きろってか・・・。

どうせなら、撃たないで欲しかったよ。

てか出血多量で私死ぬんじゃないかな・・。


私は深呼吸した。落ち着け。

これから最後のミッションをやる。やってやるよ。私はフラフラ立ち上がった。

あの女の写真を見つめて言った。最後のミッションをやります。


私は部屋の周囲を見渡した。火をつけろってただ単に火をつけて途中で

消されても本意ではないだろうし、どうせなら痕跡を残さない方法でいこうか。


リビングの壁の下側にガスストーブ用の元栓があった。

どれが正解の方法か分からない。ただ、私はこの部屋から早く出たかった。この重苦しい空気に耐えられなかった。

私はガスの元栓を開いた。


逃げ遅れて自分もドッカーンってね。


口を押えて急ぎ足で歩いた。


玄関の門を閉め車の場所に来た。


車にやっと乗りこみエンジンをかける。


アクセルの傍に硬いものがあった。

見ると銃があった。銃には弾丸が入っている

パピヨンは計算していたんだな・・


私は、車を走らせた。


ある程度離れた場所に着くと私は銃を身構えた。

リビングの窓に狙いを定めた。


「バイバイ」


私は引き金を引いた。


彼らがいた家は爆音をたて爆発した。


私は、力一杯アクセルを踏み込んだ。


私、何やっているんだろう。

何もなくなった。私は本当に一人ぼっちになった。

胸部がズキズキする。痛い。


どこへ行こう。車の後方部に大きなバッグがあった。

さっきは気づかなかったけど、これもパピヨンの計算のうちだろうか。

地図、パスポート。連絡先。カツラ。服。靴。飛行機のチケット。

パリ行きか。まぁ、悪くないけどね。


私はとりあえず空港に向かった。


あの部屋にいるときは、あまり感じなかったが痛い・・。

止血した方がいいんだよね・・でも弾丸抜かなきゃ・。

映画みたいなことできるかよ・・。どうせなら救急箱とかないものかね。

私は信号が赤になる度に車の中をさばくった。

少々大き目の箱が出てきた。見ると包帯やら、ガーゼが入っている。

よく分からない薬品もあった。とりあえず、これでなんとかなるかもしれない。



道は空いていて案外早く空港に到着した。

乗る予定の飛行機の時間はだいぶ後なのでここらで休憩をしようと

私は駐車場に車を停めた。


運転席に目隠しをし、私は後部座席に移った。

私は横になり、とりあえず服を脱いだ。

傷口は浅いが弾は体の中。血はさっきよりは落ち着いた。

しかし、頭が朦朧とする。判断力がなくなってきた。

どうしよう・・。私、一人だと何もできないなぁ。


その時隣の駐車場に車を停める音がした。私は窓を外を見た。

男性だ。年齢は50近い人かな。

しょうがない。


私はむちゃを承知で車のドアを開けて言った。


「すみません。あのちょっといいですか。あの。私・・」


男性は私の上半身裸で血まみれの姿を見、ギョッとした。


「え・・あっ・・はい・・」


「あの、お急ぎでなかったら、応急手当のお手伝いお願いできますか」


「ええええっつ・・・えええっつ」


男性は奇声に近い声を上げた。

そうりゃそうだよ。私も同じ反応するよ。しかし、病院に行けないんだ。


「お願いです。お礼差し上げますんで。」


「お、お礼なんて、いいですが、で、できるかなぁ・・あ」


男性は動揺を隠しきれず。


「あ、でもその恰好はマズイ」


男性は私が上半身裸なのを慌てて私の前に立った。


「フライト時間はまだだいぶあるし、いいでしょう。ぜ、全力を尽くします。でも、できれば早めに病院に行ってくださいね」


や、優しい。惚れてしまいそうですよ。私。


心に思っていたのを、素直に口に出したが男性は動揺して無反応だった。


アフォ・・・こんな事言っている場合ではない。


男性は車の鍵をかけ、私の車に乗り込んできた。


男性は意外に落ち着いていた。


「さて、何から始めようかな・・。それでどうしたの?もしかして撃たれた?」


「え、そんな感じです。」


「そ、そっか・・。それなら切開、摘出、縫製かな。」


「え、お詳しいのですね。」


「一応私、これでも医者なんでね・・・獣医ですがね。はは」


「獣医。なら大丈夫ですね!」


私は楽観的に言ったものの、不安がよぎった。

それでも、ド素人よりはマシだろう。


男性は鞄の傍らから麻酔やらなんやら出し始めた。


「麻酔はやめといた方がいいかな。」


「えーーやってくださいよ」


「人間だしね。経験ないんだよね。」


「とりあえず、コレ 噛んどいて」


自分の旅行パンフレットを丸めて筒状にし私に渡した。

マジか。。これじゃぁ時代劇のようだ。


「痛いからね。耐えられるかな。」


男性は手袋し、私の体を自分に引き寄せた。


「では始めます。お願いします。」


「おね・・」

私はコクンとうなづいた。


メスが切り裂く。ほんの少しだが痛い。

「撃たれたんだよね・・・。あ、浅いな。あったわ」


男性はピンセットで弾を取り出した。


「こんなに浅く撃つことってできるんだ・・加減したんだね」


私は動けない。痛い・・・う・・


「もう少し。あ出血が・・血止め・・点滴あればなぁ・・」


男性は私のブラウスで血を吸い取らせた。


「もうすぐ終わる。縫い合わせてるよ」


私は意識がなくなっていくのが、分かった。


「包帯をまいて完了と・・。あと痛み止めロキソ飲んでね」


「キミ・・・キミ・・・お嬢さん」


私は目を開けた。


「とりあえず、終わったよ。しばらく安静にしときなさい。あとこれ。

痛み止めも入っているから。飲んで。」


男性は袋からメイク道具やら、洗顔やらを見せた。


「これからどこに行くのかわからないけど、使って。

何があったか分からないけど、新しい場所で頑張ればいいんだからね」


私は泣きながらお礼を言った。

私は鞄をゴソゴソし、お金を渡そうとした。


「いいよ。お嬢さん。お金なんか。それに目の保養もできたし」


保養・・・て裸か。


「で、でも」


「キミこれからどこに行くの?日本出るんでしょ?」


「は、い。どこへ行くんだろう」


「じゃぁ、お別れのキスしてもいいかな?」


え・・あ、生理的に受け付けないわけでもないけど、

・・・まぁキスくらいならいいか。


「どうぞ・・」


私は目をつむった。


男性は私を引き寄せて軽くキスした。


ふいに何だろう。切なくなった。

愛したい人を失った切なさだろうか。あんな死に方。

そして別れ。パピヨンの想いを引きづり心身ともに痛んだ。


男性は私から離れようとした。

私は男性に抱きつき、キスした。

まるで恋人たちがするようなキス。


男性は、驚きの目で私を見た。

「君・・本気?・・・・」

私は野獣のように男性を押し倒した。


「君・・大丈夫なの・・・傷口が開くよ」

私は、構わず男性にキスをし続けた。


そのうち男性も力を抜き私を受け入れた。


私は男性に言った。


「名前教えて」


「え、あ、えーと マサキです。あ、ちょい待って」


マサキというこの男は時計を見た。


「あ、お嬢さん、悪いんだけどさ、フライトの時間なんだ。他の男探して」


マサキは身支度をして車から出ようとした。


私はマサキの後ろからベルトを引っ張った。


「撃つわよ」


私は銃を背中に突き付けた。


「お嬢さん・・冗談キツイよ。オレあんた助けたじゃない。何・・

どうして、オレなんかと・・。行かなきゃならないんだよ・・。悪いけど

病気の犬がいるんだ・・。


「飛行機で行くわけ?」


「そうだよ。オレの家族なんだ。ヤツだけなんだよ。オレここに用事で来ていただけで、帰るんだ

キミも帰るんだろ?何があったかは知らないけどさ、アンタの相手はオレじゃないよ。ごめんな」


マサキは私を振り切って歩いて行った。


まぁ、いい。とりあえずは、弾も抜いたし、ズキズキ痛むけど。


運転席のバックミラーに自分の顔が映った。

涙でクシャクシャだ。これじゃぁ逃げられるか・・・。


私は、鞄の中から着替えを取り出した。

だいぶ寒くなった。チェックのシャツを着てベージュのカーディガンを羽織った。

パンツはすその所に血が点々とついている。

タイツに履き替えスカートをはいた。少しは女らしく見えるだろうか。

あとは、顔か・・・。


私は帽子を深くかぶった。そして、フライトの時間を確認した。

深夜便があるんだ。まだ余裕に時間がある。

とりあえず、飛行場に入ろう。

チケットの名前を見た。


オチアイ ユミ と名前があった。しまった。先に確認しておくんだった。


パスポートを見せる際に用意しておかなければ、私はパスポートの中からオチアイユミを探した。


落合由美


顔写真を見てあっと思った。

この写真どこかで見たことがある。これは、あの家だ。デービットとミッシェルの家にあった写真の女性だ。

あの女だ。よりによってこの女の名前でチケットとるとかやめてほしい。パピヨンめ。

本当は、パピヨンは彼女の事を好きだったんではないのかと思った。

だってあの時、怒っていた。妻を愛しながらも彼女を愛し始めていたのかもしれなかった。

もしかして・・・本当は、パピヨンが奥さんを・・・。まさか。

男と女って、深い・・・・。いや・・。


つまらない事を考えているヒマはない。彼女はいなくて私がいる。そして彼女に扮して私は出国するんだ。


私は再び運転席に座ると車を飛ばした。近くのコンビニで降りた。

コンビニで私はブラックの毛染め、タオル、着替え、おにぎり、飲み物等を購入した。

それから近くのラブホに入った。


ラブホに入ると私は裸になり、体を拭いた。

体を洗いたいが傷口が気になる。今日はやめとこう。

それから顔を洗った。

鏡の前の私は、やつれて見える。


私はコンビニで購入した毛染めを出した。

落合由美に扮するのだ。

落合由美は黒髪のキレイな女性だ。


黒目がちで物静かな印象だ。


目元はパッチリしていて、意思のハッキリした眉が印象的。


フーン。モテそうだ・・・。


髪に毛染め液を塗り終えた。

時計を見た。タイマーをかけた。とりあえず10分。


その間私は、コンビニで購入したおにぎりを食べた。


飯。久しぶりな感じがする。てか、ずーーーと何にも食べていなかった。

どうりで、痩せた。


私は、テレビをつけた。


テレビでニュースがやっていた。


爆発のことを言っている。

手がかりはないものの、警察は調査を始めたようだ。


私は痕跡を残さなかったつもりだ。


あの辺は何もないから、大丈夫だ。

しかし、もし見られていたとしたら・・。


私は他のチャンネルも見てみた。

現場周辺から不審な車を目撃と情報があった。


あの車はもうつかえないな。


パピヨンはずっとこんなふうに、考えながら生きていたのかな。

もっとつらいけど。


これから私は一人でやらなければならない。

でも私やパピヨンたちはそもそも、戸籍上死んでいるんだし、それに彼らは自殺・パピヨンが殺していたし。

でも目撃者がいたとしたら、私が疑われる。


なんてこった。


私はブルーになった。

と同時にタイマーがなった。


私はシャワーで毛染め液を流した。

シャンプー・コンデショナーをし、出来上がり・・っと。


髪をタオルで拭いた。

鏡に映る私は別人のようだ。


ドライヤーで髪を乾かした。

ポーチから化粧品を出しメイクを始めた。

写真を見ながらメイクをしていく。


別人になる気分は複雑だった。あの女になるんだもんね。なんかイヤだ。


着替えをし、全身を鏡でチェックした。


私はサングラスをし、部屋をチェックした。

ホテルのタオルで髪は拭いていない。


自分の触ったところは念のために拭いておいた。


精算をし、車に乗り込んだ。


誰にも会わない。


よしここまでOK.


次は空港に向かうが、ニュースの件がある。

痕跡を消さなければならない。


私は地図を出した。ナンバープレートを処理しなければならない。

あと、毛染めに使用したタオルとかも処分しなければ、あと血で染まったブラウスもね。


ナンバープレートは海に捨てる。

毛染めに使用したタオルはコンビニくらいでいいか。



私はさっきとは違うコンビニに寄り、毛染めで使用したタオル、ゴミなどを駐車場のゴミ箱に捨てた。

それから人気のないモータースに入り、廃車で止めてある車のナンバープレートを外し

し運転してきた車のナンバープレートと交換した。もともと運転してきたナンバープレートは助手席に置いた。

モータースの隣に家があった。奥さんらしき女性が庭にあった焼却炉にゴミを持ってきた。私は車の影に隠れた。


奥さんは、個人情報など書類を焼却炉に入れて燃やすつもりらしい。

書類だけでなく着ない衣類も燃やしているようだ。

奥さんはブツブツ言っていた。


「もう少し痩せれば着れるんだけどさ。気に入っていたんだけどなぁ。

全く、カード払いの決済金額が多いんだから。なにこれホテル代の領収書がでてきたじゃない・・・。」

奥さんは腹を立て家に戻っていった。


浮気されたのかもね・・・。奥さん。お察しいたします。

私は、焼却炉に血で汚れたブラウスを投げ入れた。ゴミはそれほどたまっていない。

燃やしたカスを出すのに2、3週間はこの焼却炉を開けないだろう。

そして燃やしカスを見ても違和感がないだろう。奥さんは服も燃やしている。


再びエンジンをかけ、海岸線を走った。


釣り師のいない所を探し車を停める。ここから空港まで近い。

私は助手席にあるナンバープレートを海に捨てた。


とりあえず、これでいい。


私は再び空港に向かった。


空港に着くと駐車場に車を停めた。

ふうーー疲れた。

とりあえず、中で休もう。

私は車内の指紋をふき取った。


さて、出発。


私は落合由美。



私は飛行場に来るのはほとんど初めてだ。


どうしようか。


ウロウロしていると、パイロットらしき男性が声をかけてきた。

落合由美・・・モテただろうな・・。


「どうしました?」


・・・・男前です。はぁー。だめだ・・何も言えない。


「え、あ、少し気分が悪くなって休むところ探しているんです。」


「それなら私もですよ・・・一緒に行きますか?」


落合由美・・・モテすぎ。こんな経験ないぞ・・私。


「どこでお休みになるのかしら」


私はいたずらっぽい笑みを浮かべた。


落合由美・・・女優すぎる。小悪魔だな・・。


「どこでもお供しますよ。アナタのためなら。」


落合・・・うらやましい・・。


「私、パリに行きますの。その時間に間に合えばどこでも」


こんなセリフ言えるのは多分落合由美だけだ・・。


「ではこちらへ。」


男前パイロットは私をエスコートした。


「大丈夫。ちゃんとお送りしますから」


コスプレごっこができる!

本物のパイロットと。


なんて日だろうか。


パイロットはラウンジに案内した。


ちょっと待ってね。


と言い電話をかけている。


ウェートレスが来た。


私はコーヒーを注文した。

まだ、眠れない。ここで寝てたまるか。


パイロットは私に済まなそうに近づいてきた。


「今日は満室らしいんだ。これ、僕の連絡先。帰国したら連絡してね。パリ行きはアッチの方だから。

大丈夫迷子にならないよ。案内してあげる。」


名前を見た。矢野高次と書いてあった。

偽名かな。


私の隣の席に座ると私の首筋にかるくキスをした。


分かっている・・・この男。てか落合由美これまで相当モテモテ人生だったに違いない。


私はいたずらっぽい笑みを浮かべ


「くすぐったいわ」


と言った。


「貴方はこれからどうするの」


「僕・・そうだな。とりあえず近くのホテルで休むよ。それから明日は違うフライト。そろそろ時間だね」


パイロット矢野はスッと立ち上がった。

ラウンジの支払をしようとレジに立ち寄ろうとするとウェイトレスが

お連れ様から頂いております。と言われた。

ほほ・・。過酷な任務だというのにこのスマートさ。さすがである。


私は矢野パイロットの方を向き

「矢野様ごちそう様でした。」

とお辞儀をした。矢野パイロットは私の手を両手で包み

「これくらいのこと当たり前ですよ。あなたのためなら何でもしますよ」

と言うではないか・・


これが正統派のプレイボーイというやつだ。

いわゆるタラシではない。


この調子で引っかけたのだろうか。


「そういえば、あなたのお名前聞いていませんでした。

教えてくれますか。」


両手で私の手を包み、私の目から目をそらさない!

これを、落としにかかるというべきか。


「落合由美と申します。」


「由美さん。カワイイ名前ですね。あなたとまた会える日を楽しみにしています。いつでもご連絡くださいね。」


矢野パイロットは姿勢を正し私の手にキスをした。


紳士!クーですな。落合由美だからこそやったのだ。


私はご丁寧に。ありがとうございます。


と言った。


搭乗手続きの列に入ると矢野パイロットは私を見つめた。


これはなにを示しているのか。


矢野パイロットを本気にさせてしまったのか。


次に帰国した時は、ぜひ会いたいものだ。


私は手を振った。矢野パイロットは私を見つめた。


自分の番になった。私は振り返った。


矢野パイロットは帰ったのかいなかった。


しかし今日で通算3回振られたことになるなぁ。


出国手続きにドキドキしたけどそれほどビクつくこともなくあっさり許可できた。


あとはやや薄暗いロビーで待っていればいい。

フランスへ行く人は意外に多かった。

と、言っても行列ができるほどではない。

待っている人のほとんどは仕事で行く人ぽい。

あと老夫婦がいる。いいねぇ。旅行かな。


私はチケットを見た。

現地に着けば朝6時過ぎくらいか。

とりあえずシャルルドゴール空港に到着してから少し街歩きをしようか。

フランスの朝食楽しみ。

私は自由になるんだ。イスに座った。

窓から飛行機が見える。夜間飛行かぁ。少し雨が降っている。


しかし今日は疲れた。


待っているとアナウンスが流れた。


いよいよか・・。


機内に案内される。私の席はエコノミーだ。

ビジネスにしてくれれば良かったのに。


幸い私の近くに誰も座っていない。

これなら、安眠できそうだ。

私は早々に席シートを倒した。寝よう・・寝たい。

スッチーを呼び毛布をもらった。


とりあえず、腹に何か入れてそれから寝よう。


離陸する前スッチーがシートベルトをしているか確認しにきた。

私はとりあえずシートを起こした。

離陸する瞬間は観ておきたいなぁ。


飛行機が動く瞬間はドキドキする。


窓を見る。雨がさっきより強い。

そんな中、飛行機は加速し離陸体制に入る。


さよなら・・・みんな。


私は不思議と涙が出なかった。


感傷という気持ちは私の中にはなくなっていた。

深い悲しい経験はあるが、それに囚われることはない。

私は私という戸籍もなくなった。事実上死んでいる。

今は一旦、落合由美という名前で生きているが、これも短期だ。

フランスでとりあえず3か月、その後転々と気の向くまま旅行をする。

私は最初ワクワクすると楽観的に感じたが、そうでもないことに気付いた。


一見楽しそうかもしれない。しかし、永遠の旅行者だ。

もし誰かと恋に落ちたとしても、結婚することはできない。

定住することはできない。できたとしても溶け込むことができるか。

この生活になれてしまうと多分無理な気がする。


私がどこぞの旅先で死んでも、誰も素性を確かめることはできないだろう。

そこで発見される私は、ただの旅行者として扱われるだろう。

身元不明の旅行者。


それでいいと思った。すでに私はお墓があるしね。

これで本当に死ねるんだ。その方が気が楽かもしれない。


飛行機が離陸した。


強かった雨はやがて飛行機の上昇とともになくなり、そして

雲の上を飛んでいる。


シートベルトのサインランプが消えた。


私はシートベルトを外し、シートを倒した。

毛布を掛け、目をつむった。


心地よい疲労そして眠気が私を眠りの世界に誘う。


日本でのことは一旦忘れよう。色々ありすぎた。本当に。

これからは、先は長い。短いかもしれないけど。

今日は、疲れた・・・・。私の人生で一番疲れた日ではないだろうか。


スッチーが飲み物を持ってきてくれた。

気が利く。ホットオレンジ。今の私にピッタリ。スッチーってこんなに気が利くもんだっけ?

私はホットオレンジを飲んだ。甘酸っぱい香りが私を包みこむ。

だんだん目の前がぼやけていき、そして私は眠り込んだ。


飛行機はさらに上昇し、そして日本の上空から消えた。

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