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THE SEVENTH LETTER

ミッシェルを乗せたと思われる車を私はベンツで追いかけている。

慣れないはずの車だが、必死でとにかくアクセルを踏む。


やはりベンツ。道を譲ってくれやすい。こんなことでもない限り一生運転できない車だ。

もう少し練習したかったな・・・。


前の車はワンボックス。ほぼ全面覆面状態で中は見えない。


必死に追いかける一方でこれはもしかしたら訓練なのではないかと思った。だとしたらミッシェルの安全は確実。

だが、訓練でければミッシェルは最悪殺されるかもしれない。今この状態でできることは仲間に連絡を取る。追跡する。これだけだ。私は通信機器があるかどうかチェックしたが、見渡したところそれっぽい機器は見当たらない。

すると、人事採用課のムカツクヤツの声がした。


「おい、聞こえるか?」

私はマイクらしきものを探したが見つからないのでとりあえず、大声で言った


「聞こえる。ミッシェルがさらわれた。今行方を追っている」


「ミッシェル?お前、ミッシェルに会ったのか?そいつはお前になんて言った?」


「今、そんなこと言っている場合ではない!尾行してるの」


「重要だ。ミッシェルはどんなヤツだった?」


「ミッシェルは子供よ。パピヨンというのが父親って話していた。」


「エルザ。戻れ。それはミッシェルではない。そいつは・・」


「何?パピヨンはどうなの?あの人研修でコーチだったのよ」


「あいつはパピヨンだ。だが、ミッシェルは子供ではない。」


「ミッシェルは二人いるって子供が言っていたわ。一人は自分。もう一人はパピヨン」


「子供がそう言っていたのか。その子供はどういうヤツだった?」


「かわいい男の子よ。美少年だったわ。目が大きくって、あ、パピヨンに似てなかったな」


「そいつはミッシェルではないぞ。そいつは・・・今度のミッションでお前が会うはずのデービットってヤツだ」


「え?ミッションの相手が私に直接訪ねて来たってこと?」


「こちらの情報をおまえ話したのか?」


「少し。パピヨンの事を言ったから。それに子供だし。信用した」


「ちっ。お前とりあえず戻れ。仕切り直しだ。」


「このまま追跡してもいいのでは?ミッションでしょ?」


「だが、情報が洩れてしまった以上、お前は今回は外す。とにかく、ゲーセンに戻れ。待て・・・

ゲーセンの中にいた仲間が撃たれている。・・・全員だ。うっつ・・。とにかく、近くで止まれ。

それと、連絡があるまで、そこにいろ。わかったな?


「私以外、全員撃たれた。・・・わかった。」


私は何にもない空き地に車を止めた。


あたりにカメラはない。前にいた車は、猛スピードで走り去った。


私は混乱している。パピヨンこういう時に助けに来てよ。あの子、私に話しかけて来た時最初からわかっていたのね。すべて 分かっていたうえで私に会いに来たのね。


ということは、私に似ている人がいないということも知っていた。その上で私を確かめに来た。

なんでだろう。違う人なのに、なんで私に会いにきたのだろう。


それと、私の組織の人間はいとも簡単に撃ち殺されたのか?


2つの組織が対立している?それで、潰しあいをしているのか?何が目的なんだろう。



----


「デービット・・少しは気が済んだか?」


「うん。少しね。似てたな。・・ママに。」


「ママ・・か。確かお前のママ行方不明になったんだよな。」


「行方不明の遺体を探したよ。ないんだ。どこにもママのが。それで見つけたんだ。やっと。」


「彼女の墓に入っていたんだよな。」


「そうだ。それを指示したのがアイツらだ。どうして僕のママを」


「なんでだろうな。今回の人選は謎が多かった。よりによって彼女が・・」


デービットは写真を見ている。


「あの人悪い人ではないよ。運が悪いというか。ね。そう思わない?」


「似ていたのが悪いともいえんがね。」


ワンボックスカーは都心を離れ山に向かっていた。


「もうすぐ、終わりが来る。」


男がタバコに火をつけた。デービットは男の吐くタバコの煙に目をしかめた。


「終わりって?何?」


男は車を止めた。あたりはもう暗くなっていた。


-----


私は疲れ、いつの間にか車の中で眠っていた。夢の中なのか、体がフワフワした。白い霧が立ち込め

歩くのが精一杯。私は探している。霧の間から大きな男の影が見えた。

私はパピヨンだと思った。パピヨンはこちらに歩いてくる。男の子を抱きかかえている。

パピヨンが近付いてきた時、何か違うと思った。


パピヨンは男の子を抱きかかえていた。だが、血だらけだ。私は足がすくみその場に座りこんだ。

あたしのせいだ。あたしが尾行していれば・・・。

パピヨンが近付いてきていった。


「お前は悪くない。もうラクになれ」


そう言うと、パピヨンは銃を構えた。私は分かった。死ぬんだ。銃声がなった・・・


私は目が覚めた・・。


「はぁはぁ・・」

肩で息をした。何こんな夢。私は車の中にいたはずなのに、ソファーの上に寝ている。

ここはどこだろう・・。しばらくすると、だれかがこちらに来る。

私はうっすら目を開けた。白い壁に写真が飾ってある。

写真は大勢で写っているものもあれば、一人で写っているものもあった。

私はだんだん目の焦点がハッキリしてきた。

一人で写っている写真は女性だ。モノクロの写真だ。

よく分からないが美人だ。ロングヘアー、ぱっちりした目

おとなしそうなイメージだが、目の印象は強い。

私が写真を見つめているとその写真を覆いかぶさるように

一人の男が近付いてきた。


「良く寝ていたな。」

そう言葉をかけた。


誰だろう・・記憶にない人だ。40代くらい少し白髪がある。でもなんで?人事採用課でないのか?


「あなたは誰ですか?私をどこで・・」

「私はミッシェル。前に君にあったね・・最初のテスト覚えてる?」


ミッシェル・・。金髪だった気がしていたがカツラだったのか。


「あなたがミッシェルなの?」

「そうだよ。他に誰がいるんだい?」

「パピヨンがミッシェルだって・・男の子が・・」

「男の子・・・パピヨンってのは誰だ?」


「えっ?あの研修でコーチの」


「パピヨンなんてヤツはいないよ」


「大きな男の人です。」


「大きな・・ねぇ。なんとなく分かるが。」


「えっと、タクシーの運転手・・洋服屋の店員・・あとは 老人 人事採用課のムカツヤツ」


「なるほど。名前は聞いていないんだ・・驚いたな。それでよく生活できたね」


「あなた今までどこにいたの?」


「私は休暇を取っていたんだ。他から連絡あったんだ。君の所属していたらしい組織だが、残念だが全員死亡が確認された。」


「えっ?」


「ほらごらん。」


ミッシェルは私にPCを見せる。

むごいとしか言えなかった。全員の顔が撃たれていた。顔が確認できないのに。全員なんて言えるのだろうか?


「全員の確認は誰がしたの?」


「警察だよ。もっとも全員すでに戸籍上は死んでいるので発表はしないがね・・」


「でも、まだ全員ではないわ」


「そう。君がいる。しかし君はいわば部外者だ。何にも知らされていない。君を自由にしてやろう。

私ももう年だ。いい加減、終わりにしたい。普通に生活がしたい。」


「私をどうするの?」


「別人になれ。希望があればその通りにしてやる。生活・仕事・住居・金・・」


「・・・今はなにも考えられない・・・。仲間が・・」


「仲間・・。彼らは組織と言っているが、ただの遊びだよ。ごっこ遊び。スパイごっこだ。」


「ごっこ?」


「昔やらなかった?お医者さんごっこ」


「そんなのの延長戦なのか・・・ばかげている。」


「そうだ、バカげているだろう・・。しかし単なるごっこではなかったんだ・・実はね・・訓練もそれなりにした。特に・・妻は熱心だった。彼女は才能があった・・あの女は・・君に話したところでどうにもならないがね・・俺たちはそれなりに地道に平和を守っていたつもりだったよ・・。しかしそれを疎ましく思う連中も当然いるわけで、少々対立もあった。


「俺たちはどこにも属していない・・ただのスパイマニアの集団だった。

そんな俺たちに依頼してくるヤツらもいたんだ。平和を守りつつも時には仕事として

違うこともしなくてはならなくなった。もちろん、私の意見に反対するヤツも組織内にいた。それは正論だと思う。私もそう思う。しかし実際俺たちは違う仕事をしていたし、給与も少なかった。仕事はバイト感覚でやっていた。そのうち依頼がエスカレートしていき、報酬もどんどん上がっていった。

しかし俺たちはプロではないし、当然怖かったよ。ある日、オレの妻が行方不明になった。ちょうど君ぐらいの背丈だ。顔も似ている。警察に捜査を依頼したが、ヤツらは事件にならないと動いてはくれないんだ・・俺たちで探したが見つからなかった。

妻は、危険な任務ほど喜んでやった。それが彼女を追いこんだかもしれない・・。


息子は母親の死を理解できなかったよ。しかし研修で君を見た時、運命を感じたよ。妻が戻ってきたってね。君はもちろん妻ではないが・・。君を巻き込んですまない・・」


「・・あなたが、彼らをあんな風にしたの?・・」


「私ではないよ。私は指示をしただけだ。やったのは・・」


「パピヨンね」


「アイツずいぶん可愛らしいネームつけられたもんだな・・しかし、あれはフェイクだ。彼らは死んでいない・・・。組織を解散するために見せかけの死の演出だよ・・」


「これから先どうやって生きていくの?他人に成りすまして生きていくの?」


「君には無理かもしれないね・・。君に良く似た人間の戸籍でも準備すればいいかな・・」


「そんなの・・ムリよ・・受け入れられない・・」


「我々はもう死んでいるんだ。自由なんだ」


「自由って?」


部屋の影から足音が聞こえた。


「あんまり余計な事を話すなよ。ミッシェル」


パピヨンだ。


「パピヨンだって?はは。」


ミッシェルは笑った。


「アンタの息子の趣味にはちょいと合わんわ。」


パピヨンは私の方を振り向き


「死について質問していたな。全員、俺がやった。他に質問あるか?」


「どうして・・なんで・・」


「もううんざりだからだ。ごっこ遊びに・・本物の連中が動きだして、見せしめに合ったんだ。俺の妻がそうだ・・。お前が無茶な依頼を引き受けたりするからだ・・」


「デービットはどこ?」

私はデービットを探した。


「ああ、ミッシェル言い忘れたことがある・・デービットが足を滑らせて崖から落ちたんだ」


「なんだって・・それで命は・・」


「死んだよ」


「なんだって・・・」


「貴様・・・・。」


「憎いか?俺が・・。オレを仲間に入れようとして色々と小細工したよな・・」


「やるつもりはなかったよ・・仲間がエスカレートしすぎたんだ・・」


「ほぉー。エスカレートね・・・。写真あるんだ。見ろよ・・・妻につけられたこのキズ・・

顔だぞ・・あのあと彼女は外に出なくなったよ・・そして俺の帰りが遅いと口論になった。

俺は調べているうちに・・・この組織に辿りついた。これをお前は待っていたんだよな。」


「す・・すまない。この組織にお前が必要だった。」


「それだけか・・・」


「償ってもらうぞ・・。お前の顔に撃ってやる。」


パピヨンは銃を構えた。


その時、もの影から足音がした・・・


「やめて・・」


デービットが走ってきた。


「お前来るなって言ったろ。」


「やめて・・・」


わからない。何が起きているのか。

ただ、もしかしたら人が撃たれるかもしれない。ということは分かった。

そしてこの二人の間には過去に深い悲しみがあったということ。

もしかしたら、あの写真の女性も関係しているのかもしれない。

この状況で私が知るには時間があまりにもなさ過ぎた。

パピヨンは銃を持ちミッシェルの方を向いた。

パピヨンの目には涙があふれていた。大きな体が震えている。

感情が抑えきれない様子だ。

私は何ができただろう。ただ見つめることしかできない。

止める権利はないような気がした。


ミッシェルは銃を向けられて動けない様子だ。

目をつむり覚悟を決めたのかもしれない。


パピヨンが近付いてきた。


「俺たちはもう死んでいるんだ・・。しかし、本当に死ななければならない。それでチャラにしよういいだろ。妻が泣いているんだ。夢の中で。もう・・終わりにしようじゃないか。

お前を撃って俺も死ぬ・・・それでいいだろう・・」


「やめてよ・・パピヨン」


デービットが泣いている・・。もう・・・耐えられない・・私は何ができるだろう・・

パピヨンは私の方を見ずに行った。


「エルザ・・。もう行けよ・・パスポート・・金 用意した・・。車のバッグに入っている。パスポートはたくさんあるから、なんかあったら使え・・。お前を十分訓練させられなくて悪いな」


私は、なんとも言えない悲しみをどう言葉で表現したらいいかわからない。


「私も・・殺して。もう疲れたわ・・・」


「お前は部外者だ。出ていけ。出ていくんだ。お前は関係ないんだ。

お前は・・・。」


パピヨンは私の腕をつかんだ。私は抵抗したがかなわなかった。

パピヨンは泣いていた・・この人は悪い人ではない・・この人も巻き込まれただけだ。

パピヨンはぐいぐいと私をひきずっていき、そしてベンツのドアを開けエンジンをかけた。


「さぁ、行け。お前は自由だ。誰でもない。」


「私は、あなたが・・・」


「バカな女だ。お前も。あいつの女房も同じこと言っていた。俺が愛するのは妻だけだ。お前の顔見ているとあいつの女房思い出す。

あの女はオレを誘惑してきたんだ。バカな女だ。

息子もいるというのに。そして俺の妻を消しにかかった。ミッシェルはなにも知らないがね。だが、許さない。直接手をくださなくても、指示したのはあの女なんだ。

あの女は・・・俺が殺した・・・そしてお前の墓に入れた。この組織は解散しなければならない・・この手の組織は・・歯止めが利かなくなると暴走しやすい・・俺が潰す・・邪魔するな」


パピヨンは私を抱きかかえ、車に乗せた。


「お前のことなど、何とも思っていない。行ってくれ」


私の顔を見つめた。その目には怒りのような複雑な感情があった。

どうして怒っているのだろう。


パピヨンは銃を抜き取り私に向けた。私がドアを開けたらどうだろう・・・彼は撃つだろうか。でもいい。

私はドアをあけた。胸に衝撃が走った・・・・。


好きな人に殺されるんならいいや。

でもせめてキスくらいしてくれてもいいのに・・。


私は倒れた。

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