表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塞の守り人  作者: 里桜
第四章
99/140

三十六 大手町 その十三

 日向と亮が会話をしているところから少し離れた場所で、火織は両腕を組んで仁王立ちしていた。その目は遠くを睨んでいる。

「なーんかヤな気配がするんだよな…。どうも癇に障るなあ…」

 言って火織は、自分の首の裏を撫ではじめた。

「みーたん大丈夫かな」

 不安そうに目を細める。

「ま、りょーちゃんが行ってくれたから、大丈夫だとは思うんだけど。なんだかんだ言って頼りになるしな――――」

 そこまで言って、火織は不自然に言葉を止めた。

 表情をこわばらせて、ある一点を見つめる。

 そこには人影が見えた。

「マジかよ…」

 にわかには信じられない様子で、首を横に振る。

 火織の視線の先には、宿主となり果てた沙織の姿が在った。

 火織は我に返ると、すぐに日向と亮を振り返る。

「おい! 気をつけろ! 沙織が闇堕ちしたぞ!」

 その声に、二人は弾かれたように立ち上がった。

 日向は、目じりにうっすらと残っていた涙をぬぐう。そして、宿主となった沙織の姿を見つけて息をのんだ。

「僕、鬼の闇堕ちなんてはじめて見ました…」

 亮は舌打ちをする。

「闇堕ちは厄介なんだよね。鬼の場合、憑依されると祓うのが面倒なうえ、普通の宿主と違って()が大きくなるスピードが桁外れに早いんだ。それに、闇堕ちが末期まで進行すると、はオロチになってしまう。だから、さっさと祓わないと、とんでもないことになる」

 言うなり霊符を取り出して放り投げ、刀印を結ぶ。

「急急如律令」

 呪文を唱えると、霊符は梟へと姿を変えた。梟は、沙織めがけて大空を滑降する。

 しかし沙織は刀印を結び、周囲に結界を張ると梟を退けた。

 梟は、見えない結界にぶつかって弾き飛ばされる。

 間髪開けずに火織が両手で印を結んだ。

「オン サゲイ サメイ ウン ハッタ」

 真言を唱えると、輝く手のひらを沙織に向けて突き出す。しかし沙織は、人間離れした動きで後ろに飛び退ってかわすと、すぐに蹴りを放って火織を攻撃した。

 火織は軽く頭を後ろに引き、ぎりぎりの位置で蹴りをかわして再び掌底を突き出す。

 だが、さおりは上から肘を打ちおろし、火織の掌底を凌いだ。

 日向も素早く印を結ぶ。

「ノウマク サラバ タタギャテイ ビヤサルバ モッケイ ビヤサルバ タタラタ センダ マカロシャナ ケン ギャキ ギャキ サルバビキナン ウン タラタ カン マン」

 手のひらを沙織に向けて突き出すが、沙織はその攻撃をかわし、うつろな視線を日向へと向けた。

「ヒ…ナタ…コロス…コロス…」

 呪文のようにつぶやき、日向へと歩み寄る。

 亮が再び刀印を結び、梟を沙織めがけて滑空させた。

 沙織は刀印を結んで亮の式神を退ける。

 火織は辟易した様子で首を横に振った。

「こいつ、めちゃくちゃ性格悪い女だからな。たぶんもう、とんでもなく()がでかくなってるぜ」

 亮も頷く。

「きっと、たんまりと負の心をため込んでいるだろうからね。すんなり祓うことは難しいはずだ。それにしても、憑依されてなお自我が残っているとは、呆れた執念だね。だから闇堕ちなんかするんだよ、バカが」

 吐き捨てるように言って、亮は再び刀印を結んだ。鋭く振り下ろすと、梟が風を切って急降下する。

 しかし梟は結界に阻まれ、沙織にとどくことはなかった。

「オン サゲイ サメイ ウン ハッタ」

 火織の攻撃も、大きく後ろに跳躍してかわす。

 高々と飛び上がり、瓦礫の頂点に飛び降りた沙織の姿は、人間の姿とはかけ離れはじめていた。

 背中がカーブを描いて前のめりになり、力の抜けた両腕はだらしなくゆらゆらとぶら下がる。乱れた髪が顔に降りかかり、その隙間からのぞく目は、暗く輝きを増していた。

「まずいな…、すごい速さで闇堕ちが進行しているぞ」

 亮の言葉に、火織は頷き、日向は表情を曇らせる。

 その時、沙織が人間離れした跳躍力で空を飛んだ。鋭い蹴りを日向めがけて繰り出してくる。

「日向!」

 亮の切羽詰まった声が聞こえると同時に、日向は横に飛んで攻撃をかわした。沙織の蹴りは地面に深々とめり込み、周囲に瓦礫が吹き飛ぶ。

「くっ!」

 日向は腕をあげて瓦礫から顔を庇いつつも、蹴りを沙織の顔めがけて繰り出した。

 しかし、沙織はその足をガシリと掴む。

 亮がすぐさま大地を蹴って沙織に走り寄った。

朱雀(すざく)玄武(げんぶ)白虎(びゃっこ)勾陣(こうじん)帝正(ていしょう)文王(ぶんのう)三台(さんだい)玉女(ぎょくじょ)青龍(しょうりゅう)

 刀印を結んで九字を切り、直に沙織の背中にぶつける。まばゆい光が弾け爆発が起こるが、沙織はびくともしなかった。

 亮は驚愕に目を見開いた。

「オン サゲイ サメイ ウン ハッタ」

 火織も印を結んで真言を唱え、輝く手のひらを沙織の腹部めがけて叩き込む。しかし、沙織にダメージを与えることはできなかった。

 沙織は日向の足を掴んだまま、うるさげに回し蹴りを放つ。

 亮と火織は、飛び退ってその蹴りをかわした。

 沙織は、おもむろに日向へと視線を移し、空いている手で日向の喉元を掴み上げる。

「ぐうぅ!」

「ヒ…ナタ…コ…ロス…」

「日向!」

 亮は刀印を結んで、再び呪文を唱える。

「朱雀、玄武、白虎、勾陣、帝正、文王、三台、玉女、青龍」

 再び沙織めがけて刀印をぶつけるが、まるで効果がなかった。

「くっ! この化け物が!」

 亮は、もう一度梟を滑降させ沙織に体当たりさせる。

 しかし、沙織は結界を張ることもなく梟を退けた。梟は沙織の体にぶつかって弾き返される。

 火織は息をのんだ。

「こんなのどうやって祓うんだよ」

「泣き言をいってるヒマがあったら、数を打て! 少しでも中の()を弱らせるんだ!」

 火織は我に返り、プルパを取り出して親指で挟み印を結ぶ。

 沙織に憑依する()を外側から弱らせるために、浄化の真言を唱えた。

「オン シュッチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ」

 真言を唱えると、火織の持つプルパが輝く。光り輝くプルパを逆手に構えて沙織の体めがけて滑らせた。プルパの刃先が沙織に触れると爆発を起こす。しかし、沙織の体はびくともしなかった。

 舌打ちしながら亮は再び九字を切る。

「朱雀、玄武、白虎、勾陣、帝正、文王、三台、玉女、青龍」

 呪文を唱えて、結んだ刀印を日向を掴み上げる沙織の手首にぶつけた。

 すると、その衝撃でひなたの首を締めていた手が緩まる。

 日向の体は、地に落ちた。

「ゴホッ…ゲホゲホッ…」

「日向! 大丈夫か!?」

 亮の言葉に、日向はうなずく。

「は…い、大丈夫です」

 日向は、喉元を押さえながら立ち上がる。

 亮と火織は、日向を背中にかばうようにして立ちはだかった。

「ヒ…ナ…タ…コロ…ス…」

 沙織の虚ろな目は日向を捕え、ゆらゆらと体を揺らしながら、一歩また一歩と近づいていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ