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塞の守り人  作者: 里桜
第四章
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三十四 東京支部 その三

 土岐は、背後から実篤に体当たりを食らわせ、銃口を信太から背けた。

 辺りに耳を覆うばかりの銃声が鳴り響き、弾は天井に着弾する。土岐と実篤はもつれ合うようにして床を転がった。

 土岐は必死で実篤の銃を取り上げようとする。実篤も激しく抵抗していた。

 信太と弓削も立ち上がり、実篤を取り押さえようと走り寄る。

 すると実篤が再び引き金を引いた。銃声が辺りに鳴り響く。同時に、土岐の呻き声も聞こえた。

「うっ!」

 信太と弓削の目が驚愕に見開かれる。

「土岐! 大丈夫か!?」

 信太が、切羽詰まった声で土岐の名を呼ぶと、土岐は痛みに顔をしかめたまま頷いた。

 土岐の怪我は、弾が肩をかすめた程度のもので、たいしたことはない。

 土岐は、掴んだ腕に力を込め、実篤の腕を捻りあげた。

「ぐぅっ!」

 実篤が苦悶の声をあげ、持っていた銃を取り落とす。その銃を信太が拾い上げた。

「放せ下郎! お前は目をかけてやった恩を忘れたのか!?」

「恩だと!? ふざけるな! あんたは俺を騙した! 騙して利用したんだ! 俺は絶対に許さない!」

 信太と弓削は、怪訝な表情で一瞬だけ視線を合わせる。

 それに気付いた実篤は、片方の口角を持ち上げて、嘲るようにして口を開いた。

「この男は、石神東京支部のデータを改ざんした張本人だ。こいつも裏切り者だぞ」

 実篤の言葉に、信太と弓削は一瞬だけ目を見開く。すぐに厳しい表情に変わった。

「本当なのか土岐?」

 信太の問いかけに、土岐は苦悶の表情でうなずく。

「そうです。俺がやりました。…宗家の言葉を真に受けて…俺は石神を裏切りました。たぶん掃守さんは、データのことに気付いていた…。だから…」

 そう言って土岐は表情を歪めた。

「掃守さんがあんな怪我をしたのは俺のせいです! 全部俺のせいなんです!」

 胸につかえていた痛みを吐き出すようにして土岐が叫んだ。

 実篤は、そんな土岐を見て嘲笑う。低い声で笑い声を漏らすと、したり顔で土岐を詰りはじめた。

「こいつは、自分の力の未熟さもわきまえず、半陰陽に懸想している。あのガキを手に入れるために石神を売ったのだ」

 実篤の言葉に、土岐が目を見開く。

「違う! 俺は日向と冴月さんのことを宗家に認めてほしくて――――」

「綺麗ごとはやめろ。私は、お前が寝ている半陰陽に淫らな行為をしていた事を知っているのだぞ」

 土岐が息をのんで絶句した。

 実篤は、土岐が寝ている日向にキスをしていた場面を見ていたのだ。土岐の動揺を見てにやりと笑う。

「隠さなくてもいい。本心では、お前はあれを手に入れたかったのだろう? だから私に協力したのだ」

「違う…そんなつもりじゃ…」

 土岐は呆然とした表情で首を横に振った。

「…俺があんたに協力したのは、日向や冴月さんの自由を認めてもらうためで…。俺は、あんたが石神を裏切っていたことなんて知らな――――」

 すると実篤は、低く笑って土岐の言葉を遮る。

「今更そんな話が通じると思っているのか? お前は指示を受けてデータ改ざんをする時に、何の疑いも抱かなかったというのか? そんな言い逃れ、通じはしない。結局お前は自分の欲望を殺すことはできなかったのだ。だから疑問に目を瞑って私に協力した。本心では、半陰陽を手に入れたいがために」

「違う!」

 土岐は実篤の言葉に激しく動揺した。

 実篤は、その隙を見逃さなかった。土岐の動揺をついて拘束から逃れる。

 土岐は、しまったとばかりに手をのばすが、しかし実篤はその手をかわした。十分に距離を取ると、実篤は捻られた腕の具合を確かめる。折れてはいないようで、握ったり開いたりを繰り返していた。

 信太と弓削は、土岐のそばに立つ。

「土岐、お前は鬼としての誇りをまだ持っているか?」

 信太の問いかけに、土岐は頷いた。

「はい、俺は鬼の使命を忘れてはいません!」

 信じてほしいとばかりに悲痛な表情で言い切り、土岐は信太を見返す。

 信太は土岐を見返すと頷いた。

「よし、私はお前を信じる。お前の言い分は後できちんと聞こう。今は宗家の身柄を拘束することが先決だ」

 土岐の表情に明るさが戻る。

「はい!」

 土岐の返事を合図に、三人は実篤を取り押さえようとじりじりと距離を詰めはじめた。

 弓削と信太は、かなり負傷しているため、退路を断つように移動する。

 土岐が一人前に進み、実篤と対峙した。

 実篤は、土岐を見てにやりと笑う。

「卑怯な男だなお前は。己の裏切り行為を棚に上げて、今更正義面をするつもりか?」

 土岐の頬がぴくりと反応した。怒りを宿した目で実篤を睨みつける。

「俺はもうあんたの言葉には惑わされない! 卑怯なのはあんたの方だ!」。

 叫ぶなり実篤に飛び掛かった。

 しかし実篤は後ろに飛んでかわす。そして、不気味な微笑みを浮かべながらポケットに手を入れ、赤い石を取り出した。

 その石を床にたたきつけようとしたその刹那――――。

 実篤の背後に一人の男が現れる。信濃の鬼、甕弦だ。

 弦は、素早い動きで実篤の腕を掴むと捻りあげ、後ろから床に押し倒した。

「ぐぁ!」

 実篤は、腕を捻りあげられたまま体を床に押し付けられ、苦悶の声をあげる。

 赤い石は実篤の手を離れ、ころころと床を転がった。それを土岐が拾い上げる。

 弦は、空いている手を土岐に伸ばした。

「その石を渡してください」

 土岐は弦の顔を見返す。

「この石…()が入っている石ですよね」

 呟きながら弦に石を差し出した。

 しかし弦は、土岐の質問には答えない。無言のまま受け取ると無表情に土岐を見た。

「君には、いくつか確認しなければならないことがあります」

 そう告げてから信太を見る。

「彼のことも拘束してください」

「甕君」

 信太は非難の混じった声をあげた。

「信太さん、あなたにはあなたのお考えがあるのでしょう。ですが、今は情けをかけているような場合ではありません。厳正なる対応をするべきです」

「しかし――――」

「いいんです守長、俺はそうされるだけの事をしましたから」

 土岐は信太の言葉を遮り、手錠をかけるかのように両手を前に差し出す。

 信太はため息を吐き出しながら首を横に振った。

「甕君、土岐は恭順の意を表している。拘束までする必要はないだろう」

 弦は厳しい表情のまま口を開きかける。しかし、その言葉を土岐が遮った。

「いいえ守長、どうか甕さんの気のすむようにしてください」

 土岐は弦に視線を移す。

「処罰は甘んじて受け入れます」

 その答えに、弦は頷いた。


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