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塞の守り人  作者: 里桜
第四章
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三十三 神田 その三

 内通者が、父親であると言い切った冴月の言葉に、怜治は目を見開いた。

「まさか…宗家が内通者なのですか?」

「そうだ」

 怜治は冴月の返事に絶句する。

 冴月は短く答えて再び歩き出した。二人の間にしばしの沈黙が落ちる。

 冴月は階段を登りはじめた。

「本当は、俺たちが新宿会場に突入したと同時に、ここの内部の探索をする手はずになっていた。それを止めたのは父上だ。内通者は父上で間違いない」

 怜治は口を引き結び、じっと冴月の言葉に耳を傾ける。

 冴月は細く息を吐き出した。

「本音を言えば、これまでも内通者は父上ではないかと薄々感じてはいた。だが、俺はそんなことに興味はなかった。もし仮に父上であったとしても、俺にはどうでもよいことだったのだ。だから、本部が俺のことも協力者ではないかと疑っている節が見えても、俺は全く関心がなかった。疑われようと疑われまいとどちらでもよかった。しかし、土岐がかかわっているに違いないと確信した時にその考えが揺らいだ」

 怜治が目を見開いた。

「土岐は、新宿の地下で内通者の話題に触れた時に姿を消した。何かにかかわっているのは間違いない。おそらく父上に利用されているのだと思う」

 冴月はぐっと拳を握りしめる。

「もし土岐が、今回の一連の事件に何かに関わっていたとするなら、俺は何としても土岐を救いたい」

 冴月は怜治を振り返った。

「卜部、お前も手を貸してほしい。もし土岐が窮地に立たされていたとしたら、何としても救ってやってほしいのだ。頼む」

 怜治は軽く目を見張ってから、ふっとほほ笑む。

「大丈夫ですよ冴月さん。私も良蔵も、決して土岐を見捨てたりはしません。そして私たちは、あなたの事も見捨てはしませんから。安心してください」

 冴月は虚を突かれたように僅かに目を見開き、うろたえたように視線を逸らした。再び前を向いて歩き出す。

 怜治は背後から声をかけた。

「よく話してくれましたね。あなたも日向も土岐も、年齢よりひどく大人びていて、私や良蔵には、その諦めの良さが気掛かりでもあったのです。きっとあなたたちの置かれている環境が、そうさせているのだとわかってはいても、酷くもどかしかった。ようやくあなたの本心に触れることができたような気がします。大丈夫です。私は土岐のためにもあなたのためにも、全力を尽くすことをお約束します」

 冴月は怜治の言葉を聞きながら足を速める。

「すまない…」

 消え入りそうに小さく呟かれた言葉に、怜治は破顔した。



 同刻、新橋付近では、水箏と四方田が対峙していた。

 水箏を始末すると言い切った四方田は、言い終えるなりすぐに間合いを詰めて水箏に襲い掛かったが、水箏は華麗な動きでその攻撃をかわす。

 水箏は、そのまま流れるような動作で四方田の腕を掴み手首を捻った。動きは小さなものだったが、四方田の体は軽々と宙を舞う。

 しかし四方田は、空中で掴まれた腕を振り払い、地面に着地した。そしてすぐに地を蹴って再び水箏に掴みかかる。

 水箏はその攻撃をかわし、再び四方田の腕をとろうとしたが、四方田も水箏の攻撃をかわして距離を取った。

「やはり一筋縄ではいかないか…」

 四方田はつぶやいてポケットに手を突っ込む。中から赤い石を取り出した。

「その石…!」

 水箏は驚愕に目を見開く。

 四方田はにやりと笑うなり石を地面にたたきつけた。

 赤い石が割れ、煙とともに()が現れる。

 その姿を見た途端、水箏は絶句して立ち尽くした。

 現れた()の頭は異様な形をしていた。

 本来なら二つの頭を持つはずの()だったのであろう。

 がしかし、水箏の目の前に現れた()の頭は未分化のままで、二つの頭が中央でいびつにつながっている。おもわず目を背けたくなるようなおぞましい姿をしていた。

「何よ…これ…」

 水箏は呆然とつぶやいた。

 すると四方田が低く笑う。

「連中の行っている研究の失敗作だ。しかし、意外に使えるものだぞ。お前程度の鬼を足止めするには、十分すぎるほどだ」

 言うなり四方田は踵を返した。

「待ちなさいよ! 何処に行くつもり!?」

 追いすがろうとする水箏を、異形の()が遮る。

 高々と上げてから鋭く打ち下ろされた尾を、水箏は横に飛んでかわした。

 尾は、地面を打つとめり込み、アスファルトの破片が飛び散る。

「っ…!」

 水箏は両腕をあげ、飛んでくる瓦礫から顔を守った。しかし腕や体は、無数の瓦礫に打ち据えられる。

 四方田は冷笑を浮かべて肩越しに振りかえり、その様子を見つめた。挑発的に目を細めると口を開く。

「お前が大事にしているものを奪い去りに行く、と言ったらわかるか?」

 悪意のこもった四方田の笑みに、水箏は一瞬だけ驚愕に目を見開いた。しかしすぐに怒りに顔を染めると叫ぶ。

「ヒナに何かするつもり!? させるわけないでしょ!」

 言うなり水箏は大地を蹴って四方田に躍り掛かった。

 だが、再び()の長い尾が水箏めがけて鞭のように振り下ろされる。

「くっ!」

 水箏は空中で体を捻って()の攻撃をかわした。地面に手を付きながら着地する。間髪おかずに()の第二撃が襲い掛かり、水箏は再び後退した。

 四方田はくつくつと喉を鳴らしながら踵を返す。

 バイクの方向へと歩き出した四方田を見て、水箏は再び大地を蹴った。横目では()の動きをしっかり捉えるており、水平に薙ぐような攻撃を、水箏は頭をひくくしてギリギリの位置でかわす。

 しかし()は、水箏に攻撃をかわされるとすぐさま尾を翻し、背後から水箏を攻撃した。

 水箏は、やむなく横へ飛んで地面を転がり、その攻撃をかわす。

 その間に、四方田は悠々とバイクに跨りヘルメットを被った。

「っ! 待ちなさい!」

 水箏は必死の形相で四方田に追いすがろうとする。

 だが、その先に()が移動し、水箏の行く手を遮った。

 水箏は刀印を結んで、素早く五芒星を描く。

「バン ウン タラク キリク アク」

 宙を飛んだ五芒星は、()にぶつかって爆発を起こした。しかし()にダメージを与えるこことはできない。

 四方田はエンジンをかけると不敵な笑みを浮かべたままバイクを走らせた。

 水箏の表情に、明らかな焦燥の色が浮かぶ。

 すぐにも四方田の後を追おうとしたが、しかし目の前で地を這う異形の()に行く手を阻まれ、水箏は四方田の背中を見送ることしかできなかった。


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