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塞の守り人  作者: 里桜
第四章
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二十二 大手町 その五

「なるほど、日向は常陸の拠点に居る時に一度敵にさらわれて、無事戻ることができたけど、そいつらが神宝を盗んだことを知って、追いかけているうちに流れで東京に来たってわけ」

 亮の言葉に水箏が頷く。

「ま、ざっくりいうとそんな感じであってるわ」

 亮は、大きなため息を吐き出して日向の頭を引き寄せた。こつりと頭同士を軽くぶつける。

「日向が無事でよかったよ。日向は僕の心配より自分の心配をしなさい」

 叱られると日向はうつむいた。

「ごめんなさい」

「ちゃんと反省するように」

「はい」

 亮は叱り終えると水箏を見る。

「水箏ちゃん本当にありがとう」

 水箏はほほ笑んで首を横に振った。

「ねえ亮さん、ヒナは亮さんの言うことはよく聞くから、もっと注意して。私、もうあんな心配をするの絶対にイヤよ?」

 最後の方は日向に向けて話す。

「はい、すみませんでした」

「それにしても、奴らは日向をつかまえてどうするつもりだったんだ? もし日向の事を狙ってるなら、僕としては日向を目の届くところに置いておきたいね」

「そうね、私も亮さんの側なら安心できるわ」

 二人がそう結論をだしかけたが、日向は慌てて止めに入った。

「待ってください。あの時のことは、特に僕を狙ってというような感じはしませんでしたよ。それに、僕たちはここで塞の確認をしてから東京支部に行こうって話をしていたところじゃないですか。僕たち、今東京で何が起こっているのか、全然状況を把握できてないんですよ?」

 亮は顎をつまんで考え込んだ。

「東京で何が起こってるかねえ…。たぶん東京支部に行っても把握できないんじゃないか?」

 日向は目をまたたく。

「どういうことですか?」

「だってさ、僕は地震が起きる前から、ずっとここで隧道(みち)が開かないように何度も封印をなおしてるけど、その間諏訪本部や東京支部からは何の指示もないし、増援もこない。こんな状態だってのに、全然手を打ってこないんだよね。たぶんだけど東京支部は機能していないんじゃないかな」

 水箏が弾かれたように亮を見た。

 遠巻きに見守っていた火織も驚いた表情で亮を見る。

「ねえ亮さん、将門塚の封印は安定してないの? やっぱり今回の地震はここの塞のせい?」

 水箏の質問に亮は頷いた。

「そうだよ」

「やっぱりそうだったんだ…。じゃあ、この封印亮さんが直したんだ…」

 視線を柄に戻して呟かれたその言葉への回答は、一瞬だけためらうそぶりを見せる。亮は四方田をちらりと見た。

 四方田は怪訝な表情で亮を見返す。

「なんだ?」

「いいえ、別に…。まあ、僕だけの力ってわけじゃないんだけどね…」

 亮は、すずと主税の事をこの場で話すべきかどうか内心で迷っていた。

 しかし、二人の立場が立場だけに伏せることに決める。

 日向は首を傾げて亮を見た。

「叔父様どうしたんですか?」

「んー? なんでもないよ。後で日向にはいい事教えてあげるね」

 結局、日向へはウィンクをしてごまかし話を変える。

「実はさ、少し前まで信濃の甕君が居たんだよね。なんか何も言わずに居なくなっちゃったんだけどさ」

 弦の話を聞いて、すぐに日向は顔をこわばらせた。しかし周囲は気付かない。

「そうか、甕が手伝っていたのか」

 四方田が納得した表情でうなずいた。

「いなくなったって、どこか心当たりはないのか?」

「全くないですね」

 日向はというと、硬い表情で話しに耳を傾け続けている。

 その変化に、ようやく亮が気付いた。

「日向? もしかして…例の話聞かされてる?」

 日向は、弾かれたように弦を見る。

 その態度ですべてを悟った亮は、安心させるように微笑んだ。

「大丈夫だよ日向、何も心配することなんかないよ」

「叔父様…」

 二人のやり取りに、水箏が首を傾げる。火織や四方田も怪訝な表情を浮かべていた。

「何? 例の話って???」

 水箏が三人の気持ちを代弁するかのような質問を口にする。

「水箏ちゃんごめんね、ちょっと内輪の話なんだ」

「えー! 教えてくれないの!? 亮さん冷たい!」

「ごめんごめん、許して」

 水箏は頬を膨らませた。

「もう亮さんなんか知らない」

 つーんとそっぽを向く。

 亮は困ったように笑った。

「水箏ちゃん機嫌直して」

「だったら教えてよ」

「うーん、それはちょっと…」

 亮は言い渋っていたが、しかし日向が話を切り出す。

「水箏さん」

 名前を呼ばれ、水箏は日向を振り向いた。

 日向は、力ない笑顔を浮かべている。

「何、ヒナ…どうしたの?」

「日向」

 亮は諌めるが、日向は首を横に振った。

「水箏さん、どうやら僕、将来の相手が決まりそうなんです」

「え…?」

 水箏は呆然と言葉を失う。

 火織も目を見張った。

「まじかよ…」

 小さく呟く。

 日向は寂しそうな笑顔を浮かべながら続けた。

「僕は半陰陽ですからね。いつかこんな日が来ることはわかっていました…仕方のないことです」

 亮が大きなため息を吐き出す。

「日向、仕方ないことだなんて片付けていい問題じゃないだろ。僕は心配するなっていったよね。大丈夫、僕が何とかしてあげるよ」

「でも、これ以上叔父様に迷惑をかけるのは――――」

「僕が迷惑だなんて一言でも言ったかい? 勝手に決めつけるんじゃない。水箏ちゃんもこの件は忘れていいよ。まだ決まった話じゃないから――――」

「ちょっと待って」

 水箏は低い声で亮の言葉を遮る。

 日向の両肩をがしっと掴むと、怒りの宿った目を向けた。

「今の話、よく理解できなかったんだけど。まさかとは思うけど、ヒナの結婚相手があの甕弦とかいうムカツク男に決まったってことなの?」

 日向は硬い表情でうなずいた。

 しかし亮が首を横に振る。

「だから、まだ決まってないって言ってるだろ? それとも日向は、あんな男と結婚したいの?」

「したくなんて…ありません。でも、僕には相手を選ぶ権利がないことはわかっていま――――」

「ちょーっと待って! そんなの聞いてないわよ! っざけんじゃないっつーの! いつの間にそんな話になってたのよ!?」

 水箏が怒り心頭といった様子で日向の言葉を遮った。

 日向は水箏から視線を逸らして俯く。

「夏休みに入ってすぐのことです。東京の応援に向かう前日の夜に、お爺様から電話があっって…。二学期から諏訪の学校に編入することと、甕さんの事を伝えられました」

「なんで今まで黙ってたのよ!」

「だって…こんなこと言ってどうするんですか? 僕には選択権なんかありません。泣き言いったってみんなの迷惑になるだけじゃないですか」

「迷惑!? 何言ってんのよ、ヒナのバカ! 勝手に話を完結させてくれちゃってさ…。いくら本部からの通達だからって、ヒナは、はいそうですかってすぐに納得できちゃうわけ!?」

 日向は辛そうに視線を伏せた。

「諏訪の本部で決まった話です。今更何を言っても――――」

「無駄なんかじゃないわよ! 絶対に! そんな簡単に諦めるなんて、私は許さない」

「水箏さん…」

「僕も同感」

「叔父様まで…」

「とにかく、日向は心配することないから」

 亮は日向の頭をくしゃりと撫でる。

「亮さん、手伝えることがあったら何でも言って。私も全力で力を貸すから」

 ふふふふと怒りを込めて笑う水箏に、亮も不敵な笑顔を見せた。

「ありがとう水箏ちゃん、でも大丈夫、僕に考えがあるから」

 そんなやりとりをしていると、不意に四方田が口を開く。

「取り込み中のところを悪いが、またお客さんのようだぞ」

 日向たちが四方田の視線を追うと、そこにはうつろな表情をした宿主たちの姿が在った。

 日向たちは表情を変え、構えを取る。

 水箏はポケットから石笛を取り出し口に当てた。


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