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塞の守り人  作者: 里桜
第四章
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十二 新宿 その六

 エッカルトが割った深紅の石から現れた()は、冴月たちが見たこともないような異形の姿をしていた。一つの胴体に、二つの頭がついている禍々しい姿をした()だ。

 異質なのは、それだけではない。

 通常の()は、黒い靄の集合体のような不鮮明な輪郭をしているものだが、しかし目の前の()は違った。

 その体は、光りを反射するようなつややかな表皮をしており、蛇のような鱗までもがくっきりと見える。

 明らかに実体を持っていた。

 大きく避けた口からは、先の割れた赤い舌がチロチロとのぞき、琥珀に輝く目は縦に細長い瞳孔が存在する。

 三人は、一瞬だけ呆然とその姿に視線を奪われた。

 しかし、すぐに我に返ると刀印を結ぶ。

「バン ウン タラク キリク アク」

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 三人の攻撃が、一斉に()に向かって放たれた。

 しかし()は、その攻撃をものともせずに襲い掛かってくる。

 長い尾を高々と持ち上げ、冴月めがけて振り下ろしてきた。

 狙われた冴月は、横に飛んでかわす。

 冴月の立っていた場所に尾がめり込み、道路に亀裂が走った。

 三人は驚愕に目を見開く。

「化け物かこいつ…」

 ()はすぐに向きを変えて冴月に襲い掛かってきた。素早い動きで尾を振り下ろしてくる。

 良蔵が刀印を結んで素早く九字を切った。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 ()に当たり、一瞬だけ怯んだ隙に冴月は攻撃を避ける。

 すると()の尾は、次に良蔵へと狙いを定めてきた。

「バン ウン タラク キリク アク」

 怜治の攻撃が()の動きを足止めする。

 その間に良蔵は、()と距離を取った。しかし今度は、外国人の男から攻撃を受ける。

 良蔵は頭を下げてその攻撃をかわした。

 外国人たちは、()の周囲を離れた位置で囲むように立ち、()から逃げようとすると冴月たちを攻撃してくる。

 おかげで冴月たち三人は、()から距離を取ることが難しく、苦戦を強いられていた。

 特に外国人たちは、冴月を集中的に攻撃してくる。明らかに冴月の持つ草薙剣を奪うことを目的としているようだった。

 外国人たちは背後から近寄り、一斉に冴月に攻撃を仕掛ける。

 その中には、オイゲンとエッカルトの姿もあった。

「冴月!」

 良蔵の焦った声を聞きながら、冴月は体を捻って攻撃をかわす。

 そのまま流れるような動作で、蹴りを放った。

 冴月の蹴りが、男の腹部に鋭く決まる。

 さらなる攻撃をかわし、冴月は次々と男たちの体に蹴りや拳を叩きこんでいった。

 冴月が男たちと対峙している時、良蔵と怜治は()の浄化を試みていた。

「怜治、もしかしたらこの()も弱点があるかもしれねえ」

「そうですね、試してみる価値はありますね」

 二人は重点的に頭部を狙って攻撃を試みるも、しかし、ブラウエゾンネの新宿ビルで戦った時のような効果は何もあらわれない。

 良蔵は舌打ちをしながら九字を切った。

「そう簡単に事は運んでくれねえってことか」

 ()の攻撃をかわして、良蔵は九字を放つ。爆発が起こるが、()は無傷だった。

 ()は、再び冴月めがけて襲い掛かってくる。

 怜治と良蔵が、その攻撃を阻んだ。

「バン ウン タラク キリク アク」

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 二人がかりの攻撃でも、足止めすらままならない。

 良蔵と怜治の表情に、焦燥感の色が浮かんだ。

「どーするよ、こいつには浄化が全く効かねえぞ」

「困りましたね。では、物理攻撃でも試してみますか」

 言って怜治は、地震によって倒壊した塀から鉄骨を引き抜く。

「そういうことなら怜治、お前は下がってろ。俺がやる」

 良蔵もまた、瓦礫の中から鉄の棒を引き抜いた。

 良蔵は鉄の棒を構えると、大地を蹴って()との距離を詰める。

 高々と持ち上げられ、振り下ろされた尾の攻撃を避け、良蔵は鉄の棒を()へと叩き込んだ。

 すると良蔵は呻き声をあげる。

 まるで固い鉄を叩いたかのような手ごたえに、腕にしびれが走ったのだ。

 対して()は、良蔵の攻撃を全くものともしない。

 さらには、一瞬の隙をついて良蔵めがけて尾を横に薙いだ。

 気付いた良蔵が攻撃をかわそうとしたが、かわし切れず、尾が肩をかすめる。

 すると良蔵の体は、軽々と吹き飛ばされた。

「ぐぁ!!」

 良蔵は、瓦礫の山に吹き飛ばされる。

「良蔵!」

「百目鬼!」

 ()は素早く大地を這い、良蔵めがけて突進していく。

 冴月は、ほんの一瞬だけ何かを躊躇い、しかしすぐに大地を蹴った。

 移動しながら、抱える箱の紐をほどく。

 木箱に張り付けられていた紙札を破って蓋を開け、古びた絹の布にくるまれた草薙剣を取り出した。

 冴月は、乱暴な手つきで布をはぎ取ると、草薙剣を手に持つ。

 草薙剣は、蛇行剣の形状をしていた。

 刀身は両刃で、蛇が絡まり合ったかのような波状をしており、鉛色の刃は冴え冴えと輝いている。

 箱と布を投げ捨てると、冴月は草薙剣を構えて()に走り寄った。上段に構えて、()めがけて振り下ろす。

 刹那――――。

 グアァァァッ

 刃と突き立てられた()が、天を仰いで咆哮をあげた。

 エッカルトとオイゲンが、驚愕に目を見開く。

『なんだ…あの剣は…』

 エッカルトは呟いて絶句した。

 オイゲンが、眉間にしわを寄せて呆然と呟く。

『草薙剣とは、神剣ではないのか…? あの禍々しさはいったいなんだ…?』

 そう言って言葉を失くした。

 冴月が手にした蛇行剣――――草薙剣は、凄まじい威力を持って()を圧倒する。

 しかし、剣を手にした冴月の表情は、苦しげに歪んでいた。


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