表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塞の守り人  作者: 里桜
第四章
72/140

九 新宿 その三

「この宝剣を敵に奪われるわけにはいかないからだ」

 冴月は、良蔵の質問に簡潔に答えた。

 しかし、意味を理解しかねた良蔵は、怪訝な表情で問い返す。

「あのな…なんで剣を奪われないために、お前が封印を破ってまでその剣を手にする必要があるんだよ。このままここに隠しておいたほうがいいんじゃないのか? お前が持ち歩いた方が、逆に危ねえだろ。意味わかんねえよ」

 すると冴月は冷たい両目を細めて良蔵を見返した。

「わからないだと? お前はわかっているはずだ、百目鬼」

 冴月の言葉に、良蔵は何かを気づいた様子ではっと息をのむ。

「まさか…そうか…お前も聞いているのか…」

 つぶやいてから口元を固く引き結んだ。

 怜治は、訝しげに片眉を跳ねあげる。

「良蔵? どうしました?」

 怜治は問いかけるが、良蔵は答えなかった。

 土岐も不思議そうに良蔵を見る。

「良蔵さん? それに冴月さんも…。二人だけで何かを勝手に理解し合うのやめてもらえませんか? 俺たちにも説明してください」

 土岐の言葉に、良蔵は拳を強く握りしめた。その眼差しは、冴月を見つめたままだ。

 冴月は、無言のまま良蔵を見返す。表情は硬く冷たいままだった。

「良蔵さん」

 土岐に名を呼ばれ、良蔵は息を吐き出す。

 張りつめていた気配を緩ませ、良蔵は口を開いた。

「どうやら石神の内部に、内通者がいるらしい」

 短く吐き出されたその言葉に、怜治と土岐の目が驚愕に見開かれる。

「内…通者…?」

 土岐が、呆然とした表情でつぶやいた。

 良蔵は、はっきりと頷く。

「甕が言っていた。掃守さんが負傷して手術を受けていたあの日、俺は病院の駐車場で甕に会って、内通者の存在を聞かされたんだ」

 土岐が目を見開き、信じられないとばかりに首を横に振った。

「そんな…嘘だ…」

 驚く土岐を尻目に、冴月が口を開く。

「嘘ではない。事実だ。その証拠に、常陸と武蔵の神宝が奪われた。神宝は、ダミーが用意されていたにもかかわらず、本物が奪われたんだ」

 怜治と土岐は、弾かれたように冴月を見た。

 良蔵も驚愕の表情に変わる。

「神宝が奪われただと!? 本当かよ!」

「ああ、本当だ」

 冴月は無表情のまま頷いた。

 怜治は、いち早く驚愕から覚め、顎に手を当てる。

「ダミーを用意してあったのですか…。にもかかわらず、本物の神宝が奪われたというのですね…」

 怜治がひとり言のように呟いてから冴月を見た。

「ダミーについての情報を知っているのは、限られた人間だけということですよね。実際、我々の耳には届いていなかったわけですから…。ということは、内通者は上層部に存在するということですか…。厄介なことですね」

 怜治の言葉に冴月は頷く。

「そうだ。だからこの草薙剣も、いつ敵に奪われることになるかわからない。それゆえ回収しておく必要がある」

 言って冴月は踵を返す。

 再び、錠前に鍵を差し込んだ。

「草薙剣は、十種の神宝に匹敵する呪具だ。十の塞で神宝を欠いている今、この剣が必要になってくるはずだ」

 カチリと音をたてて錠前が外れる。

 両開きの扉を開くと、社の中に箱のようなものが見えた。木箱と思われるその箱は、布で覆われ、紐で括られている。

 冴月は両手をのばしてその箱を手に取った。

「なあ、お前は内通者に見当がついているのか?」

 良蔵の問いかけに冴月は振り返ったが、しかし質問には答えない。

「相変わらずのだんまりかよ」

 良蔵が舌打ちをした。

「いい加減、そろそろお前の手の内を晒してもいい頃なんじゃないか?」

「良蔵の言う通りです。この現状で、我々にまだ隠し事をする必要がありますか? 今後の対策を練るためにも、是非あなたの持っている情報を、全て教えていただきたいのですが」

 怜治も良蔵の援護をする。

 しかし冴月は、箱を抱えたまま無言で立ち上がった。

「おい」

 良蔵が不満げに声をかけるが、冴月は無表情のままだ。

「冴月さん」

 怜治も声をかける。

 だが、口を真一文字に引き結び一言も漏らさなかった。

「おい! いい加減にしろ!」

 良蔵が怒鳴ったその時のことだ。

 不意に、無表情だった冴月の表情が変わった。

 冴月は、突然視線を周囲に彷徨わせはじめる。

 つられて、良蔵も冴月の視線を追いはじめた。

「?」

 怜治も、怪訝な表情に変わって冴月の視線の先をたどりはじめる。

 そして、あることに気付いて息をのんだ。

「…土岐…?」

 気が付くと、いつの間にか土岐の姿が消えていた。



 日向、水箏、火織の三人は、四方田の運転する車に同乗していた。

 助手席に火織が乗り、日向と水箏は後部座席に座っている。

 怒りを宿した水箏の視線は、ずっと四方田へと向け続けられていた。

「ああ、なんだ…。そろそろ機嫌を直してくれないかな。さっきから視線が痛いんだが…」

 四方田は首筋を撫でながら、ミラー越しに水箏を見やる。

 しかし水箏の口元は真一文字に引き結ばれたまま開くことはなく、ミラー越しに視線が交わると、苛烈さが一層増した。

「水箏さん」

 日向がなだめるが、水箏の怒りは収まらない。それどころか、なおさら増した。

「ヒナは黙ってて」

 低くつぶやかれた言葉に、日向は眉根を寄せる。

 火織はちらりと後ろを振り返ってから、すぐに視線を前に戻した。

「みーたん…本気で怒ってんな」

 ぽそりとつぶやくと、聞き逃さなかった水箏が鋭く火織を一瞥する。

「黙ってろって言ってんでしょ」

 ギロリという言葉がぴったりの視線を火織にくれてから、視線を四方田に戻した。

 火織は肩をすくめて黙り込む。

 重苦しい沈黙が支配するなか、車は熊谷市方面を経由してから南下していた。

 高速道路は規制されており、不通区間があるらしく、そのため一度北上してから一般道で東京を目指すことにしたのだ。

 四方田は、諦めたようなため息を吐き出す。

 ちりちりと焼けるような視線を首筋に感じたまま、無言で車を走らせたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ