↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塞の守り人  作者: 里桜
第四章
69/140

六 覚悟

 泣き疲れた日向は、水箏に縋りつくようにして眠りについていた。

 水箏は、眠る日向の髪を指で梳いてやる。

「ヒナ…疲れてるのね…」

 水箏は眉根を寄せつつも、愛おしげに眠る日向を見下ろしていた。

 火織は、日向を見下ろす水箏の横顔と、眠る日向とを見やり、仏頂面にかわる。

「ったく、めそめそすんなっつーの。その格好で泣くのは反則だろ。男の時だったらぶっとばしてやんのに…」

 火織が苛立ったように頭を掻きむしった。

「あーくそっ、うらやましすぎるっ」

 頭を抱えて叫んだ火織を、水箏が冷たい眼差しで見る。

「静かにして。せっかくヒナが寝てるのに、うるさくするんじゃないわよヘンタイ」

 すると火織は、情けない表情を浮かべて水箏を見た。

「みーたんは俺に冷たすぎる。もう少し優しくしてくれてもいいと思う」

「なんで私が、あんたになんかに優しくしなきゃならないのよ。ふざけんじゃないわよ」

「みーたーん」

「キモイ。その呼び方やめろって、何百回言ったらわかんのよ」

「おいおい、ちょっと目を離したらまた喧嘩か?」

 戻ってきた四方田が、二人の間に割って入った。

「喧嘩なんかじゃありません」

 水箏はそう言って、ふいと横を向く。

 四方田は苦笑しながら首の後ろを掻いた。

「なかなか扱いの難しいお嬢ちゃんだな」

 小さくつぶやいたその言葉を、水箏は聞き逃さない。鋭い視線で威嚇するように四方田を一瞥してから、再びついと視線を背けた。

 四方田は、苦笑したままため息を吐く。

 日向を見下ろすと口を開いた。

「眠ったのか。半陰陽には休息が必要だからな」

 すると、水箏がすぐさま四方田を振り返る。

「そんな言い方やめて。ヒナにはちゃんと名前があるの。モノみたいに扱わないでくれる?」

 ぴしゃりと言い放って、水箏は四方田から隠すように日向を抱きしめた。

 水箏は、まるで猫が毛を逆立てるかのようにして四方田を威嚇する。

「そういうつもりで言ったわけじゃないんだが…やれやれ、ずいぶんと嫌われたもんだな」

 言いながら四方田は、困ったように自分の首の後ろを撫でた。

 そこに修也が戻ってきた。

「四方田さん、車の手配はできましたか?」

「ああできてるぞ」

「じゃあ車を借ります。俺は東京に行ってきます」

「東京に? 一人でか?」

 四方田は片眉を跳ねあげる。

 修也は四方田の問いかけにうなずいた。

「今常陸の拠点と石神本部に連絡を取ってきました。一応火織が追っていた連中についての報告は上げておきました。…けど…情報が錯綜していて…現場はかなり混乱しているようなんです」

 修也は、途中から何か奥歯に物が挟まったような歯切れの悪い言い方に変わる。

 水箏、火織、四方田の三人が、訝しむように見ていると、修也はそれに気づいたのか早口で続けた。

「とにかく、絶対的に情報量が不足しているんですよ。東京の状況を、本部でも把握しきれていないみたいなんです。だったら直接自分の目で確かめてこようかと思いまして…」

「センセ、だったら俺もついてくよ」

 言って火織が立ちあがる。

「火織…お前怪は我してるじゃないか」

 修也の言葉に、火織は首を横に振った。

「かすり傷だよ。つーかセンセ、つい数時間前までは、ずっと俺に東京に戻れって言ってたじゃねーかよ」

「今は状況が違う。危ないからお前は残――――」

「僕も行きます!」

 不意に日向が声をあげた。

「ヒナ!」

「日向」

 いつの間にか目が覚めていた日向は、必死な面持ちで修也を見上げている。

 修也は深いため息とともに首を横に振った。

「だめだ日向、お前も火織も連れてはいけない。ここで待っていろ」

「どうしてですか!?」

「そうだよセンセ、一人で行くなんて無茶だ」

 火織も不満気な声をあげる。

 しかし修也は頑として譲らなかった。

「だめだといったら、絶対にだめだ。四方田さん、カギをください」

 硬い表情でそう告げる修也に、四方田は無言で車のカギを放る。

 修也はカギを受け取ると、すぐに踵を返した。

「守部先生、お願いです。僕もつれていってください」

「だめだ」

「先生!」

 背中を向けて立ち去ろうとする修也の後ろを追って、日向は立ち上がる。

 しかし――――。

「ヒナ、私も残ったほうがいいと思う」

 水箏が日向を止めた。

 日向は、弾かれたように水箏を振り返る。

「水箏さんまで! どうしてですか!」

「しゅーちゃん先生の言う通りよ。危ないから――――」

「大丈夫です!」

 日向は、激しく首を振り、水箏の言葉を遮った。

 だが、修也の態度は変わらない。

「日向、お前がなんと言っても絶対に連れて行かない。火織、お前もだ。お前たちはここで待っていろ。四方田さん、子供たちをお願いします」

「守部先生!」

 修也は、とりつく島もなくそう言い切り、拠点を出て行ってしまった。

 日向は呆然と立ち尽くす。

「どうして…」

 日向がつぶやくと、四方田は自分の顎を撫でた。

「なんか引っかかる態度だな…」

 四方田の言葉に、火織も頷く。

「だね、なんか隠してるよ、あれは」

 四方田と火織の視線は、修也が去っていったその場所を見つめていた。

 四方田が不意に立ち上がる。

「どこ行くんですか?」

 火織が四方田に声をかけると、四方田がにやりと笑った。

「俺は、居残りを命じられちゃいねえからな」

「じゃあ、俺も行く」

「僕も連れていってください」

 ほぼ同時に発せられた火織と日向の言葉に、水箏は驚く。

「ヒナ!」

「水箏さん、止めても無駄です。ここで待っているなんてできません。僕も東京に行きます。四方田さんお願いです。僕も東京に連れて行ってください」

 必死な面持ちで言いつのる日向を四方田は見返した。

「この先、何が起こるかわからねえぞ。覚悟はできてるのか?」

「できています」

「ヒナ!」

 水箏が非難するような声をあげる。

 それでも日向の意志は揺るがなかった。

「わかった。好きにしろ」

 四方田の答えに、水箏は信じられないとばかりに首を横に振る。怒りをあらわにして、四方田を睨みつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。