表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塞の守り人  作者: 里桜
第四章
67/140

四 凶報

「いてて! センセ、いてーよ! 乱暴だっつーの!」

 狭い後部座席で、身を縮めながら火織が顔をしかめる。

「男ならこれくらい我慢しろ」

 修也は、仏頂面でぐりぐりと傷口を消毒した。

 火織の怪我は、幸いにも軽傷だ。あちこちに擦り傷ができてはいるものの、たいした怪我ではない。

 修也の見立てを聞いた一同は、胸をなでおろしていた。

 しかし、修也の表情だけは厳しい。

 その表情は、一見すると不機嫌そうな仏頂面であった。

 がしかし、その奥底には、火織を心配する気配が見てとれる。

 その証拠に――――。

「ったく、こんな怪我なんかしやがって…」

 ぶっきらぼうにつぶやかれたその言葉には、火織を心配する色がはっきりと表れていた。

 それに気づいた火織は、神妙な顔つきになる。

「悪かったよセンセ」

「悪いと思うなら無茶するな」

 修也は火織の額を小突いた。

 それを見ていた日向がくすりと笑みをこぼす。

 すると火織が、目を細めて隣に座る日向を振り返った。

「なんだよ…」

 日向に向かって睨みをきかせ、即座に低い声で凄みはじめる。

「何笑ってやが――――ぃでっ!」

 しかし、その言葉は途中で遮られた。

 助手席から水箏が体を乗り出し、ティッシュの箱で火織の頭をはたいたのだ。

「みーたん! ひどいよ」

 火織が情けない声を出した。

「そのキモい呼び方やめろっつってんでしょ」

 水箏が、嫌悪感をあらわに火織を睨みつける。

「しゅーちゃん先生、真ん中に座ってよ! このけがらわしい物体をヒナの隣に置かないで!」

 修也は疲れたように額を押さえた。

「じゃあ水箏、お前が後ろに来いよ」

「それは絶対にイヤ」

 水箏は、すぐさまきっぱりと言い切る。

「水箏さん、僕なら大丈夫で――――」

「大丈夫なわけないじゃない! 変態がすぐ隣にいるのよ! もっと危機感を持って! それからめいっぱい端によって」

 手で合図をする水箏に、日向は目をまたたかせた。

「ええと…」

 日向は困ったように水箏を見返す。

「水箏さん、僕本当に大丈夫ですよ?」

 首をかしげる日向に、水箏は眉根を寄せた。

「全然大丈夫じゃないわよ…もう可愛すぎ!」

 拳を握って悶えるようなそぶりをしてから、がらりと表情を変えると、冷たい視線で火織を見る。

「そこの変態、今すぐヒナから離れて。しゅーちゃん先生にくっついてなさいよね」

 言われた修也は、嫌そうな顔をした。

 火織はショックを受けた表情をする。

 しかし、二人の反応を完ぺきに無視すると、水箏は日向に向き直った。

「ヒナごめんね。私がそこに座れば済む問題なのはわかってるんだけど…どうしても体が拒絶するの」

 そう言って、鳥肌の立つ腕を日向に見せてくる。

「そんな! ひどいよみーたん、いつになったら俺のこと――――でっ!」

 再び水箏がティッシュで火織の顔を叩いた。

 日向は、驚きに目を見開く。

「だ、か、ら、その呼び方すんなっつってんでしょ。キモいのよ!」

「水箏さん、もうそのくらいで――――」

「ヒナは黙ってて! あ~、今すぐヒナをぎゅってして癒されたい。しゅーちゃん先生、早く治療を終わらせてよ。そしたら火織、あんたあたしと場所代わりなさいよね」

 マシンガンの如く、次々と飛び出す言葉に、四方田が苦笑した。

 ミラー越しに修也に視線を投げかける。

「大変そうだな」

「俺の苦労、少しはわかってくれましたか?」

 修也は疲れた表情で言葉を返した。

 四方田は喉を鳴らして笑う。

「ま、いいじゃないか。素直でいい」

「素直というよりは、欲望に忠実ってほうが正解だと思いますけどね」

 言って修也は肩をすくめた。

 そして、四方田につられるようにして苦笑を浮かべる。

「ですが、今のこの状況では、その呑気さがありがたいのも事実ですけどね」

 隣で、相変わらず騒々しい会話を続ける三人を、修也は目を細めて見つめる。

「そうだな…」

 四方田は、厳しい表情で視線を前に向けた。

 眼前に広がる景色には、地震の爪痕が生々しく残る。

 四方田の運転する車は今、埼玉県にある武蔵の拠点を目指していた。

 水箏がハマーを見失ったのは、ちょうどハマーが埼玉県にさしかかった辺り。

 携帯もなかなかつながらない現状から、ひとまず武蔵の拠点で状況を把握することにしたのだ。

 一行は、大きく北に迂回しながら武蔵の拠点を目指す。

 ラジオからは、都心を襲ったばかりの巨大地震の情報が、繰り返し流れ続けていた。

 冷めやらぬ熱に急かされるかのようにして、パーソナリティが原稿を読み上げている。

「拠点に着いたら、車を乗り換えよう。あそこには四駆の車があるから、そっちのほうがいいだろう」

「そうですね」

 修也は眉根を寄せて前を見る。

「東京に召集されていた鬼たちは無事なんでしょうか…」

 修也の言葉に、四方田は首を横に振った。

「この様子じゃ無事とは言い切れんだろうな」

 ラジオからは、緊迫した中継が流れている。

 時間が経つにつれ、東京の被害の甚大さが、次々と報告されていた。

「四方田さん、見失ったあの外国人たちは、どこに行ったんでしょう…。東京に戻った可能性はどれくらいあると思いますか?」

 修也の質問に、四方田は眉根を寄せる。

「正直言って、全くわからんな」

 四方田の答えを聞き、修也は視線を伏せた。

「あいつらは、常陸から神宝を奪って西に行った…。もしかしたら武蔵の神宝も奪うつもりかもしれませんね…」

 呟いた修也に、四方田は鏡越しに視線を送る。

「守部…そのことなんだが、実は――――」

 四方田は何かを言いかけた。

 しかしその言葉を、最後まで続けることができなかった。

「ぃてっ!」

 修也の言葉によって遮られたのだ。

 突然発せられた修也の言葉に、四方田が再び鏡越しに後ろを見ると、ちょうど修也が左目を片手で押さえるところだった。

 修也は、残る右目を鋭く細めて水箏を睨みつける。

「ごめーん、しゅーちゃん先生」

 水箏は悪びれる様子もなく、てへっと軽く舌を出してみせた。

「水箏、お前な」

「そんなに怒らないでよ。わざとじゃないんだから」

 実のところ、火織に向けて振り回していたティッシュの箱が、偶然修也の顔にあたってしまったのだ。

「いい加減、おとなしく座っていろ」

 修也が低い声で凄むが、水箏は唇を不満そうに突き出す。

「でもぉ――――」

 まだ何かを続けようとする水箏の言葉を遮った。

「でもじゃない。今黙って座らないと、後で怜治からお前に指導を入れてもらうことになるが、それでもいいのか」

 修也はぴしゃりと言い放つ。

 すると水箏は、『怜治』の言葉に反射的に背筋を伸ばした。

 すぐに前に向き直ると、黙ってシートに座る。

 それを見た修也は、呆れたように溜息を吐き出した。

「ったく、お前は俺や良蔵のことは舐めてるくせに、怜治だけは別だよな」

 修也は苛立った様子で、自分の頭をガシガシと掻く。

「何よ~、りょーちゃんやしゅーちゃん先生だって、怜治先生には頭が上がらないじゃない」

 水箏の言葉に思い当たる節があるようで、修也は真顔になってうなずいた。

「あいつは怒らせると色々と後が面倒だからな」

「ほら~」

 水箏は不満そうに言いながら頬を膨らませた。

 その様子に、修也は疲れた表情を見せる。

「それはそれだ。いいからもう黙ってろよ…。というか、頼むから黙っててくれ。な?」

 聞き分けのない子供を諭すように、修也は声をかけるが、水箏はまだしゃべり足らない様子だ。

 そんな水箏から視線を外し、修也は無理やり話しを四方田に戻した。

「すみません四方田さん、何か言いかけてましたよね」

「ああ…」

 四方田の答えは、歯切れが悪い。

「どうしたんですか? あんたらしくもない…言いたいことがるなら、はっきり言ってくださいよ」

 修也にうながされて、四方田は重い口を開いた。

「ああ、そうだな…どうせ武蔵の拠点に着けばわかることだから、先に言っておくが――――」

 そう言って切り出された話を聞いて、日向、水箏、火織、修也の四人は同時に驚愕の声をあげる。

「そんな!? 武蔵の神宝まで奪われたなんて…」

 日向は、信じられないとばかりに首を横に振り、口元を両手で覆う。

 それきり全員が絶句し、車内は重苦しい空気ばかりが支配したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ