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塞の守り人  作者: 里桜
第四章
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三 途切れる糸

 時は、数時間程さかのぼる。

 東京が大災害に見舞われる直前のことだ。


 火織は、夜の国道をひた走っていた。バイクを疾走させ、逃げたハマーを追跡する。

 西に向かうに連れ空は曇り、星の姿は見えなくなっていた。

 ハマーは、てっきり高速を使うものだと思っていたが、一般道をひた走っている。

 鹿嶋市から都内を目指すならば、潮来ICから東関東自動車道を使う方が交通の便が良い。しかしハマーは、千葉県に入る気配はなく、どうやら埼玉県方向を目指しているようだった。

 ハマーは、交通ルールを無視して危うい運転を繰り返している。

 信号無視は言うまでもなく、車に接触することも気に留めず強引に進路を確保し、時に百キロ以上のスピードのまま、反対側車線を逆送することもあった。

 なんとかして火織を撒こうとしているようだったが、火織も必死で食らいついていた。

「逃がすかよ」

 火織は車列をすり抜け、ようやくハマーの後尾につく。

 すると、ハマーの助手席の窓が開いた。

 中からギーゼルベルトが顔を出し、銃を構える。

「!?」

 火織の両目が、驚きに見開かれた。

 火織は、向けられた銃口をかわすべくハンドルを切る。

 同時に、パンと乾いた音が響きわたった。

「正気かよ、こんな街中で銃ぶっ放すなんて」

 火織は体勢を立て直し、再びスロットルを回す。

 加速してハマーの後ろを目指した。

 しかし、再びギーゼルベルトが銃を打ってきた。その弾が、バイクのタイヤにあたる。

「!?」

 その瞬間、バイクはバランスを崩して転倒した。

 バイクから放り投げられた火織の体が、放物線を描いて宙を舞う。

 火織の体は中央分離帯の植え込みの中に投げ出され、横転したバイクは、火花を散らしながら道路を滑り、電信柱に激突した。

 ガシャーンと、辺りに破壊音が鳴り響く。

 その時のことだ。

 突如として大地が揺れだした。

 揺れが強まり、電柱が軋みはじめる。

 火織は、痛みに顔をしかめながらも、植え込みの中から起き上がった。

 そして、半ば呆然と、揺れだした周囲の景色を見渡しはじめる。

「地震か? 大きいな…」

 言葉にしている間にも揺れは増し、周囲の建物のガラスが割れはじめた。

 さらには、看板も落ち始める。

 道路に亀裂が走り、揺れに合わせてぱくぱくと開いたり閉じたりを繰り返した。

 火織は、息をのんでその光景を見つめる。

 やがて揺れはおさまり…しかしその後には、生々しい地震の爪痕が残されていたのだった。



 火織がハマーの追跡をしていた頃、日向、水箏、修也、そして四方田を含めた四人は、四方田の運転する車に同乗し、エリザたちの乗る車を追っていた。

 偶然、鹿嶋の拠点で修也に遭遇した四方田は、電話の件を聞いて、そのまま修也についてきていたのだ。

 今は、自ら運転手役を買って出て、国産の乗用車を運転している。

 助手席には水箏が乗り込み、後部座席では修也が日向の治療をしていた。

 式神を使い、エリザたちの居場所を追う水箏の表情は厳しい。

 水箏は、式神を通じて、火織とエリザたちの状況を余すところなく見ていたからだ。

「水箏どうだ、火織は奴らに追いつけたか?」

「追いついているというか…相変わらずの追いかけっこ状態よ」

 そう言って、水箏は苛立ったように目を細める。

「それにしても危ない運転するわねあいつら……あっ!?」

 水箏が、言いかけた言葉を止め、不意に声をあげた。

「どうした?」

 日向の傷の手当てをしていた修也が、手を止めて水箏に声をかける。

 水箏は、焦燥感に唇を噛んでから言葉を続けた。

「あいつら、街中で銃を使いはじめたわよ。それに――――ああっ!?」

 水箏は言いかけた言葉を飲み込み、再び声をあげた。

「今度はどうしたんだ水箏!」

「しゅーちゃん先生大変! 火織のバイクに弾が当たったわ!」

「何! 本当か!?」

「ええ!?」

 日向も修也と一緒に驚愕に目を見開き、声をあげる。

「商長さんは無事なんですか!?」

 水箏は首を横に振った。

「わからな――――」

 水箏が答えようとしたその刹那のことだ――――。

 突如として地震が起きた。

「!?」

 地面がぐらぐらと揺れだし、四方田は慌てて車を止める。

 路肩に止めた車は、激しく揺れた。

 地面が波打ち、水がしみだしてくる。液状化現象が起こっているのだ。

 なす術もなく見守る四人は、車ごと激しく揺さぶられる。

 息を詰めて成り行きを見守り、やがて、心臓をわしづかみにされるような激しい揺れがおさまると、周囲の景色は一変していた。

 液状化現象によって大地からは水がしみだし、家や電柱が傾いて道路には亀裂が走っている。

 平衡感覚を失いそうな景色を、呆然とみつめていた四人の中で、最初に回復したのは修也だった。

「皆大丈夫か? 気分の悪い人はいないか?」

 かけられた言葉に、水箏と日向は首を横に振る。

「大丈夫、それよりも――――」

 水箏は一度言葉を切って周囲を見渡した。

「どうしよう、道がこんなんじゃ、車が進めないわ…」

 目の前の道路は隆起し、段差ができている。

 何より、液状化現象によってしみだしはじめた水が、辺りにとめどなく溢れだし、道を分断しはじめていた。

「仕方ない、迂回してみよう」

 そう言って、四方田は方向転換をし、再び車を走らせはじめる。

 車が動き出すと、水箏は悔しそうに唇を噛んだ。

「あっちの車は、少しくらいの段差は平気みたいよ…」

 式神を通じて見つめる景色の中で、ハマーは難なく段差を乗り越え、ずたずたに引き裂かれた道を進んでいた。

「そうですね、向こうの車は大型の四輪駆動車でしたから…」

 言って日向も眉根を寄せる。

「あまり離れすぎると、術を維持するのは難しいわ」

 水箏の言葉に、沈黙が下りた。

 この状態では、この先どこまで車で行けるかもわからない。

 漠然とした不安感が一同を包んだ。

「ま、やれるところまではやってみるわ。簡単に逃がしてやるつもりなんかないわ。だから、早いところ、道を探してくれる? あいつら、今のところ変わらず西を目指しているみたいだから」

 水箏は、重苦しい空気を吹き飛ばすかのようにそう言った。


 しかし、その期待は裏切られることになる。

 その数十分後、火織と合流したころには、すでにハマーの姿を見失っていたのだ。


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