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塞の守り人  作者: 里桜
第三章
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十八 追跡 その三

 火織と修也が、連絡の取れる少し前のことである。

 修也は、携帯を片手に拠点の裏手を足早に移動していた。不自由な片足をかばうために、弾むようにして進んでいる。

「くそっ、頼むから電話に出てくれ火織」

 修也は、じりじりと焼けつくような焦燥感ばかりにさいなまれていた。焦りに背中を押されて、居ても立っても居られない。

 時間が経てばたつほど、何か得体の知れない不安感ばかりに侵食されていき、重大な何かを見落としているような、そんな気がしてならなかった。

 しかし、自分が何を見落としているのか、今の修也にはわからない。

 ただ身の置き場のない焦りにせきたてられて、必死で両足を動かしているのだった。

 修也は今、拠点の側にある十の塞を目指して小走りに移動している。

 お社の襲撃を目の当たりにした今、塞の無事をこの目で確かめずにおられない心境だったのだ。

 その道すがら、必死で火織に連絡を取っているのだが、しかし、電話が火織につながることはない。

 電話からは留守番電話に接続するというアナウンスが流れていた。

 修也は、すでに留守電にメッセージを入れてあるので一度携帯を切り、再度リダイヤルをする。

 けれども、すぐにまた留守電に切り替わってしまうのだった。

 険しい表情で携帯電話を耳に押し当てる。

(もしこのまま神宝を持ち去られてしまったりしたら…)

 考えただけで、背筋が寒くなった。

 修也は、ぎりりと奥歯を噛みしめる。

 真夏の湿気を孕んだ生暖かい風が大地を撫でた。風は、周囲の木立をざわざわと揺らす。

 修也の向かう先――――木立の奥には、舗装されていない細い砂利道が見えた。

 その道は、古いスチール製の金網フェンスで遮られ、『私有地につき立ち入り禁止』の看板が設置されている。

 普段は鍵の掛けられているフェンスの扉が、今は開け放たれていた。

 修也は迷わずフェンスをくぐる。

 フェンスを越えると、砂利道は細くなり、人が一人通るのがやっとという幅に変わる。周囲に生い茂る雑木は、太い古木ばかりで、ごつごつとした幹は苔で覆われていた。

 雑木に遮られたその道の奥には、何人もの人の気配が感じられる。修也はその場所を目指していた。

 足早に先を急いでいると、道の先から、不意に人影が現れた。

 意外な人物と遭遇し、修也は驚きに目を見開く。

「四方田さん! どうしてここに?」

 驚く修也をよそに、四方田は組んでいた腕を解くと、軽く右手をあげた。

「よう、しばらくだな」

 にやりと笑ったその表情を見て、修也はため息とともに額を押さえる。

「四方田さん、あんたには安静を言い渡してあるはずですけど? 医者の言うこと聞かないで、そうやって無茶ばっかりしてるから治る病気も治らないんですよ」

 四方田は、顔の前で手を振った。

「小言はいいよ、聞き飽きた。そんなことよりも、常陸はずいぶんとまずい状況になってるな」

 その言葉に修也は表情を曇らせる。

「ええ…」

 四方田の表情が変わり、鋭い目つきで修也の姿をとらえた。

「お社が荒らされて神宝が奪われたそうだな」

「そうなんです…」

 頷いて、修也は視線を伏せる。

「みすみす神宝を持ち去られるわけにはいかない。なんとしても神宝を取り返さないと…」

 修也は、ひとり言のように呟いてから唇を噛みしめた。

「取り返す? 当てがあるのか?」

 怪訝な表情を浮かべた四方田が、問いかけたその時のことだ。不意に修也の持っていた携帯から、声が聞こえてきた。

 修也は弾かれたように顔をあげ、必死の形相で携帯を耳に押し当てる。

「もしもし、火織か!? 今どこにいるんだ!?」

 叫ぶようにして、電話口でまくしたてた。

 火織の返事を聞くと、修也は、苛立ちをあらわに首を横に振る。

「話しを後まわしになんかできるわけないだろ! いいからよく聞け! お社が荒らされて、神宝が奪われた! やったのは、たぶんお前が追っている奴らだ。絶対に逃がすな!」

 電話の向こう側から、火織の驚いた声が漏れ聞こえてくる。

「火織、今どこにいるんだ? 応援の人員を送ってあるが、合流できてるのか?」

 たずねる修也の表情は厳しかった。

 しかし、そのうち表情に焦りの色が混じりはじめる。

「おい、火織? 聞こえてるのか? こっちの質問に答えろ。待て! 火織、切るな!」

 修也は必死に電話口で叫んだが、しかし携帯からは無情にも、ツーツーという電子音ばかりが流れだした。一瞬呆然と立ち尽くす。

「おい、どうした。火織というのは商長の倅か?」

 四方田の質問で、修也は我に返った。

「そうです」

 短く答えて、再び携帯を操作しはじめる。

「商長の倅が、神宝を奪ったやつらを追っているのか?」

「ええ、そうです」

「ところで、商長の倅はなんで常陸にいるんだ?」

「火織は東京に召集されていたんですけど、色々あって常陸に来ているんですよ」

 焦った表情の修也が、必死で携帯を操作していると、今度はその携帯が鳴り出した。画面を見ていた修也は、ディスプレイに表示された名前を見て目を見開く。通話を押すと、急いで携帯を耳に押し当てた。

「もしもし水箏か、何かあったのか? 今どこにいる? 日向は一緒か?」

 矢継ぎ早に質問を浴びせかける。

 そして、水箏の返事を聞くと、修也の表情が驚きに変わった。

「なんだって!?」

 驚愕に彩られた修也の声が、夜のしじまにこだました。



「ヒナ、今しゅーちゃん先生に連絡取ったから、すぐに迎えに来てくれるわよ。ケガは、大丈夫?」

 水箏はハンカチを取り出して日向の首の傷にあてた。

「はい、大丈夫です。それよりも、神宝が奪われたって本当なんですか?」

 見上げてくる日向に、水箏は厳しい表情でうなずいてみせる。

「残念ながら本当みたい、しゅーちゃん先生も言ってたわ」

「そんな! 神宝を欠いた状態では、塞の封印が不安定になります。塞は無事なんですか?」

「今のところは無事みたい」

「そうですか…」

 水箏の言葉に、日向は安堵の息を漏らした。

「でも、早いところ神宝を取り戻さないと、大変なことになるわ」

 日向も頷く。

「そうですね、なんとしても取り戻さないと。それにしても、奴らの目的は何なんでしょう? 神宝を持ち出したり、()を使って人を襲ったり、塞を破壊したり…。こんなことして、いったい何の得があるっていうんです。僕には全く理解ができません」

 水箏は、考えるように顎をつまんだ。

「もしかしたら、日本を…いえ、世界を壊そうとしているのかもしれないわね」

「世界を壊す!? そんな…!?」

 日向は、信じられないとばかりに首を横に振る。

「だってそれ以外に考えられないでしょう? 十の塞が破壊されれば、たぶん日本は消滅する。それだけじゃ終わらないわ、そこから世界の崩壊がはじまることになるのよ」

 日向は息をのんだ。

「どうしてそんなこと…」

「さあね、私にもバカヤローどもの考えることなんてわからないわ。とにかく、私たちは神宝を取り戻すことを優先しましょう。『龍』は、決してこの現世に解き放ってはいけない存在。塞は絶対に守り抜かなきゃならないのよ」

 水箏の言葉に、日向は頷いた。

「はい」

 日向の返事を聞いて、水箏は少しだけ困ったような表情を浮かべた。

「本当は、ヒナには待っててもらいたいところなんだけど…その調子じゃ無理よね」

「当たり前です! 僕、もう足手まといにはなりませんから! 一緒に行きます!」

「無茶はしないで。それだけは約束して」

 水箏の真剣な眼差しに圧倒されて、日向は再び頷く。

「約束よ」

「はい、約束します」

 水箏は、日向の返事を見届けてから、周囲に視線をさまよわせはじめた。

「それにしても、しゅーちゃん先生遅いわね。術はまだ届く範囲だから、まだあいつらのこと追跡できてるんだけど…早くしてくれないと、そろそろ限界だわ」

 言って唇を噛んだ。

「式神を放ってあるんですか」

「そうよ。あ! 来たみたい! 先生、こっちこっち!」

 水箏は、駐車場に入ってきた一台の車に向かって大きく手を振る。

 車は、タイヤを軋ませながら水箏たちの側に停車した。


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