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塞の守り人  作者: 里桜
第三章
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九 侵入者 その二

 水箏と日向は、二人の西洋人たちをあっという間に大地に沈めた。

 男たちは、呻き声をあげながら大地にうずくまる。

 水箏は、日向を見た。

「ヒナ、大丈夫?」

「はい大丈夫です。水箏さんこそ、お怪我はありませんか?」

「大丈夫よ。それよりもヒナ、怪我がないなら、急いで拠点に戻りましょう。何だか嫌な予感がするわ」

 言って水箏が表情を曇らせる。

 日向もうなずいた。

「そうですね…。東京だけでなく、こんなところにまで敵の手が伸びてくるなんて、思いもよりませんでした。いったい何が目的なのか…」

 日向は眉根を寄せる。

「ここで考えていても仕方がないわ、とにかく一度拠点に戻りましょう。このこと、しゅーちゃん先生に報告しないと…」

 水箏の言葉にうながされ、日向は頷く。

 素足になっていた二人が、散乱していたつっかけを拾おうと踵を返した、まさにその時のことだった。

 再び、二人の前に立ちはだかる人影があらわれる。

 それは、美しい西洋人の女――――エリザだった。

 エリザを見て、日向は一瞬目を見開く。

「お前は、あの時の!」

 日向は鋭い声をだし、敵意もあらわに構えを取った。

「ヒナ、もしかしてこの女が、将門塚を破壊した一味の一人?」

「そうです。この女が、刀身に『Azoth』と刻まれた剣を持っていて、柄頭についている石に()を閉じ込めたんです」

 日向の言葉に、エリザは嫣然と微笑む。

「ふふふ、覚えていてくれてありがとう。光栄だわ」

 言って一歩踏み出した。

 すると水箏も前に踏みだし、日向を背中にかばうように立つ。

「水箏さん! 危ないですからさがって――――」

「ヒナこそさがってて、この女、さっきの男たちとは違うみたいだから」

 水箏は日向の言葉を遮り、エリザを睨みつけた。

 すると、エリザは楽しげに笑みを浮かべる。

「うふふ、可愛いお嬢さん、あなたは聡明なようね。賢い子は嫌いじゃないわ」

 長い髪を掻き上げながら、エリザは恍惚とした表情を浮かべた。

 しかしエリザは視線を移し、地面に倒れ込む男たちを見ると表情を一変させる。

『それに比べて、委員会から送り込まれた奴らは、何の役にも立たないのね。馬鹿な男は大嫌いだわ』

 エリザが侮蔑を込めた言葉を吐き捨てる。

 二人はドイツ語が分からない。

 そのため、日向は怪訝な表情でエリザを見ていたが、水箏だけはなんとなく意味を理解したようだ。

「お仲間じゃないの? あそこに寝てるやつら」

「ふふふ、あんな馬鹿で無能な男たち、仲間なんかじゃないのよ?」

「仲間じゃないならなんなのよ」

 水箏の問いかけに、エリザが目を細める。

「そうねえ、あえて言うなら捨て駒かしら?」

 笑いながら残酷な言葉を告げた。

 水箏は、嫌そうに眉根を寄せる。

「あんた、いい性格してるわね」

「ありがとう、お嬢さ――――」

 しかし水箏は、最後まで言葉を言わせなかった。

 エリザの言葉が終わらないうちに大地を蹴り、エリザに向かって蹴りを叩きつける。

 エリザは、すばやく腕をあげて蹴りを防いだ。

 水箏の蹴りが腕に決まり、ずっしりと重い音が鳴り響く。

 にもかかわらず、エリザの表情はまるで変わらなかった。

 水箏は、すぐに一歩さがり、エリザと距離を置く。その表情には、軽い驚きの色が見えた。

「あんた痛覚がないの?」

「そんなことはないわよ? 痛覚ならちゃんとあるわ」

「じゃあ、鈍いのね」

 水箏の詰るような言葉に、エリザは笑みを深める。

「酷い言われようね。ただ痛みに慣れているだけよ」

 エリザは、肩にかかっていた髪を手で払った。

「それにしてもお嬢さん、あなた本当に私の好みだわ。あなたみたいな子が、苦痛に表情をゆがめるところを見てみたいの」

 エリザは、ぞっとするような笑みを浮かべる。

 その刹那、凄まじい殺気を感じた水箏と日向は、反射的に後ずさった。

「可愛い子猫ちゃんたち、逃がさないわよ」

 エリザの言葉と同時に、周囲に数人の人影が現れる。

 人影は老若男女問わず、年齢もバラバラ。

 唯一共通するのは、生気の宿らない濁った眼差し――――()の宿主特有の目つきだけだった。

 日向と水箏は、すぐさま背中合わせになり、周囲を見渡す。

「ヒナ、ここは私に任せて、隙を見て逃げて」

「水箏さん!? そんなのできません!」

「いいから言う事きいて。しゅーちゃん先生たちに知らせてきてほしいの」

 しかし、日向は首を横に振る。

「連絡なら、隙を見て携帯でします。水箏さんを置いて逃げるなんて、僕にはできません」

「ヒナ!」

 水箏が責めるような声をあげるが、日向は揺るがなかった。

「水箏さん、修祓をお願いします。僕がフォローに回りますから」

 言って日向は大地を蹴る。水箏に襲い掛かろうとする宿主の攻撃を防いだ。

「もう! ヒナのバカ! 分からず屋!」

 しかし水箏は、日向の言う通りにポケットから石笛を取り出す。

 そして、ピイと澄んだ音色を奏でた。

 途端に、宿主たちは胸を押さえ、苦しげに蹲りだす。

 すると、エリザがにやりと笑った。

「うふふ、お嬢さんはすごい特技を持っているのね。まさか複数の()を一度に祓えるなんて計算外だったわ。でも、これで楽しめそうね」

 言うなり、エリザは水箏に向けて鋭い蹴りを放った。

 すぐさま日向が掌底をつきだし、エリザの蹴りの軌道を逸らす。

 日向が、石笛を吹く水箏をかばうように立つと、エリザの酷薄な眼差しが日向を捕えた。

「可愛い子、貴方はどんな表情で命乞いをするのかしら。是非見てみたいものだわ」

 エリザはうっとりとほほ笑む。

 日向は、冷めた表情でエリザを見た。

「僕にそういう趣味はありません」

「あら、つれないのね。でも、そういうところがそそるんだけど」

 言ってエリザは、すばやく一歩を踏み出す。

 日向は、エリザの攻撃に気を合わせ、突き出された腕に触れると、すぐさま捻ってエリザの体を投げ飛ばした。


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