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塞の守り人  作者: 里桜
第二章
30/140

十 将門の首塚 その三

 日向は、透明な刃を()の体に振り下ろした。

 だが、右手一本で仕掛ける攻撃では、思うようにダメージを与えられない。攻撃は弾き返される。

 日向は、いったん後ろへと引いた。

 すると()は、尻尾を高々と振りあげ、日向に向かって振り下ろす。

 日向はその尻尾の攻撃をかわすと、今度は剣を逆手に持ちかえて、再び攻撃をこころみた。

 大地を蹴って高々と飛び上がり、その切っ先を()の背中へと突き立てる。

 透明な刃は、()の体に深々と突き刺さった。

 ()が苦悶にのた打ち回る。

 日向は再び印を結んだ。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 真言を唱えると、()に刺さった透明な剣が明滅する。

 ()が、苦しげに大地を転げまわった。

 日向は、もう一度印を結んで真言を唱える。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 すると()は、強く明滅する光とともにはじけ、雲散霧消した。

 日向は、安堵したように息を吐き出してから首をめぐらす。

 その視線の先では、土岐が指で五芒星を描いていた。

「バン ウン タラク キリク アク」

 宙に描かれた五芒星は、光を放ちながら()へと向かって飛ぶ。

 ()の体へとぶつかると爆発が起こったが、まるでダメージを与えることはできない。

 良蔵は、人差し指と中指を立てた刀印を結ぶと九字を切った。

(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)

 宙に描かれた網目の紋様は、()へと向かって飛ぶ。

 目のくらむような眩い爆発が起こるが、()を浄化することはできなかった。

 しかし、良蔵の攻撃を受けて、()の動きは明らかに鈍りはじめる。その首筋に、土岐の式神である白い狼が食らいついた。

 ()は、苦悶にのたうちはじめる。

 首筋に噛みつく狼を振り払おうと、()は、激しく頭を振りはじめた。

 良蔵と土岐は、その隙に、畳み掛けるようにして攻撃を続ける。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

「バン ウン タラク キリク アク」

 二人の攻撃が虺に向けて放たれ、眩い爆発が起こった。



 掃守は、男から()を祓うべく印を結び、真言を唱え続けている。

 しかし、いまだ祓うことはかなわず、掃守の額には粒のような汗がにじみだしていた。

 日向は掃守の側へと駆け寄る。

「日向、離れていろ。こいつは厄介な相手だ」

 掃守がそう告げる。

 しかし日向は引かなかった。

「僕もお手伝いします」

 日向は、一度独鈷杵を帯に差して仕舞い、両手で印を結びはじめる。

「おい――――」

「ノウマク サラバ タタギャテイ ビヤサルバ モッケイ ビヤサルバ タタラタ センダ マカロシャナ ケン ギャキ ギャキ サルバビキナン ウン タラタ カン マン」

 掃守の言葉を無視して日向は男に接近し、心臓めがけて右手のひらを突き出す。

 すると、爆発とともに男の体がはじけ飛んだ。

 男の体は、一度大地に投げ出されたが、再びのそりと起き上がる。

 しかし男の動作は、先程までよりも緩慢な動きに変わりはじめていた。

 掃守は、細く息を吐き出してからちらりと日向を見る。片方だけ口角を持ち上げ、どこか諦めたような笑いを浮かべた。

「日向、ようやく効いてきたようだ。このまま一気に祓うぞ」

「はい」

 日向の返事とともに、掃守は真言を唱える。

「オン バザラ ヤキシャ ウン」

 日向も、印を結んで真言を唱えた。

「ノウマク サラバ タタギャテイ ビヤサルバ モッケイ ビヤサルバ タタラタ センダ マカロシャナ ケン ギャキ ギャキ サルバビキナン ウン タラタ カン マン」

 二人の攻撃を受けて、男の体が再び宙を舞い大地に倒れこんだ。

 うつぶせに倒れ込んだ男のその背中が、妖しくうごめきだす。背中がぼこぼこと波打ちはじめたのだ。

 男の背中が、盛り上がったりへこんだりを繰り返す。

 それを見て、掃守と日向は再び印を結びはじめた。

 しかしその横を、白い狼が走り抜ける。

 土岐の式神が、男の体の中に、飛び込むようにしてもぐりこんだ。

 すると、巨大な()が男の体からはじき出される。

 土岐と良蔵が掃守の側に並び立ち、男から祓われた巨大な()を睨みつけた。

「そっちは終わったのか」

 掃守の言葉に、良蔵が厳しい表情でうなずく。

 土岐は、硬い表情で()に見入っていた。

 目を離さぬまま手で合図をすると、白い狼は男の体を操り、離れた位置に移動させる。

 物陰に体を移動させると男のから抜け出し、土岐の側へと戻ってきた。狼の抜け出た男の体は、力なく大地へと投げ出される。

「今までで一番大きな()ですね…」

 日向が、呆然とつぶやく。

 ()は、大きな体で大地を這いずりまわり、鎌首をもたげて四人を見下ろした。

「ああ、心してかかれ」

 掃守は、うなずくと錫杖を構え、片手で印を結ぶ。

「オン キリキリバザラ ウン ハッタ」

 真言とともに錫杖が光り輝いた。

 掃守がその錫杖を大地に打ち付けると、遊環(ゆかん)が音を奏で、光が矢となって()に向かって放たれる。

 合わせて良蔵も九字を切った。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 宙に描かれた紋様が、()に向かって放たれる。()の体にぶつかると、爆発をおこした。

 その爆発を跳ね返すかのように、()が体を大きく震わせる。

 高々と振り上げた尻尾を、掃守目指して振り下ろした。

 掃守は、後ろに飛び退って攻撃をかわす。

 尻尾は、地面を大きく打ち据えたのち、鞭のようにしなると、今度は大地を舐めるかのように低く横に薙ぐ。

 土岐の式神が、尻尾に噛みついて止めようとしたが弾き飛ばされた。地面にたたきつけられ、ギャウと悲鳴を上げる。

 ()の長い尻尾は、良蔵、土岐、日向めがけて鋭く伸びた。三人は各々攻撃をかわす。

 四人は散り散りになり、()から距離を置いた。

「これは一筋縄じゃ行きそうもないですね」

 良蔵が掃守に言葉を投げる。

 掃守は厳しい表情で顎を引いた。

「だが、それでもやらねばならん。こんなものを野放しにしておくわけにはいかねえからな。日向、場所柄ちょうどいい。土地神の力を借りるぞ」

「はい」

 返事を返すと、日向は独鈷杵を取り出して構える。

 掃守は目を閉じ、両手で三鈷(さんこ)印を結んだ。

「オン ケンバヤ ケンバヤ ソワカ」

 荒神の真言を唱える。すると掃守の持つ錫杖が輝きだした。

 日向も親指で独鈷杵を押さえながら、器用に同じ印を結んで真言を唱える。

「オン ケンバヤ ケンバヤ ソワカ」

 日向の持つ独鈷杵も輝きだした。

 日向は続けて印を結び直し、大元帥明王の真言を唱える。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 真言を唱え終えると、輝きがさらに増した。

 掃守もまた印を結びなおして真言を唱える。

「オン キリキリバザラ ウン ハッタ」

 掃守の持つ錫杖も、一際輝きを増した。

 日向は、独鈷杵を構えると大地を蹴る。逆手に持ったその剣を、()の体めがけて突き立てた。

 日向が、独鈷杵から伸びる透明な刃を()の背中に突き立てると、もがき苦しむように体をよじる。

 尻尾を荒々しく振り回し、日向に襲い掛かってきた。日向が攻撃をかわすと同時に、掃守が錫杖で大地を打ち、さらなる攻撃を放つ。

 掃守の攻撃によって、再び()が苦しげにのたうった。

 ()はわずかに後退し、警戒するように距離を取る。

「このまま一気に片を付けましょう」

 良蔵の言葉に、掃守が頷いて返したその時のことだった。

 突如として、遠くから一台のトラックが猛スピードで突進してきた。タイヤが軋み、悲鳴のような音を上げている。

 四人は、驚いた表情でトラックを振り返った。

「おい、危ないぞ! 避けろ!」

 掃守の声に我に返り、全員がトラックの進路から逃げる。

 トラックは、四人の目の前を全速力で横切り、階段を突進して首塚へと突っこんでいった。

 止める間もなく、ドンという鈍い音とともに地面が揺れ、ガッシャーンとガラスの破壊音が鳴り響く。

 首塚は、四人の目の前で、トラックによってあっけなく破壊されたのだった。


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