九 将門の首塚 その二
※前回に引き続き地震の表現が入ります。ご注意ください。
地震の揺れはさほど大きくない。おそらく震度にすれば三程度であろう。
しかし、揺れの時間が長く、一分近くの間ぐらりぐらりと揺れ続けていた。
周囲を囲む高層ビルが、不気味にしなって見える。
日向、良蔵、土岐、掃守の四人は、揺れがおさまるまでじっと立ち尽くしていた。
揺れがおさまると首をめぐらし、付近をうかがう。
「ようやく揺れがおさまったみたいですね」
良蔵が掃守に声をかけた。
掃守は硬い表情でうなずく。
「最近またよく揺れますね。正直言って気味がわりい」
良蔵はそう言って、手の甲で額の汗をぬぐった。
掃守は足を進め、首塚の真ん前に立ち尽くす。膝を折ってしゃがみこむとじっと首塚を見つめた。
と、その時のことだった。
突如四人の周囲を、数人の人影が取り囲む。
掃守が、錫杖を構えて素早く立ち上がった。
掃守は、突然現れた人間たちを一瞥すると、表情を曇らせる。
「気をつけろ。こいつら…虺に憑かれているぞ」
日向、土岐、良蔵も、各々構えを取った。
周囲を囲む人間は全部で三人。年齢も性別もバラバラだったが、しかし皆一様に表情に生気がなく、そして手には各々武器になりそうなものを携えていた。
「土岐、日向のフォロー頼んだぞ」
良蔵の言葉に、土岐は硬い表情でうなずく。
日向は土岐を見上げた。
「土岐、僕なら大丈夫――――」
「いいから黙ってろ」
土岐は日向の言葉を遮り、日向を背中にかばうようにしてその前に立つ。
周囲にいる人間たちは、じりじりと距離を詰めはじめた。
そのうちの一人が、大地を蹴って飛び掛かってくる。
手に持った木刀を、掃守めがけて振り下ろした。掃守はその攻撃を錫杖で受け止める。
その攻撃を合図に、次々と四人めがけて敵が襲い掛かってきた。
掃守は、錫杖を使って木刀を跳ねのけると、襲い掛かってきた男の腹部に錫杖を打ち込む。男は一瞬だけ体勢を崩しながらも、再び木刀を振り回しはじめた。
虺に憑依された人間は、痛みを感じることがない。それゆえ打撃を加えても、あまり効果はないのだ。
その横からもう一人、金属バットを持った女が掃守めがけてバットを振り下ろす。掃守は横に飛んでその攻撃を避けた。
そのすぐそばで、男が警棒を使い、良蔵めがけて打ち下ろしてくる。
良蔵は、頭を狙ってきた男の攻撃をかわすと、素早く男の腕を掴んで投げ飛ばす。
しかし投げ飛ばされた男は、大地を一回転して再び立ち上がり、攻撃を仕掛けてきた。
男が大地を一回転したその隙をついて、土岐が霊符を取り出し宙に放つ。
「急急如律令」
土岐は刀印を構えて呪文を唱える。すると霊符が、白い狼へと変じた。
狼は大地を蹴って、良蔵が投げ飛ばした男――――警棒を構えた男の腹部へと突進してゆく。
だが狼は、男の腹にぶつかったと同時に弾き返された。
それを見た良蔵が、すばやく両手で印を結ぶ。
「オン ソンバ ニソンバ ウン バサラ ウン ハッタ」
唱え終えると、再び襲いかかってきた男の腹部めがけて、手のひらを突き出す。
すると、手のひらで光がはじけ爆発が起こった。
その爆発に巻き込まれ、男の体が吹き飛ぶ。
「土岐! 今だ!」
「はい!」
良蔵の合図を受けて、土岐が再び刀印を結びなおす。
刀印を、吹き飛んだ男めがけて放つと、狼が大地を蹴る。
狼が男の腹部にもぐりこみ、男の背中から巨大な虺がはじき出された。
虺を祓われた男の体は、力なく地に倒れ伏す。
男の体が倒れると、狼はその体から抜け出て、再び土岐の側に戻ってきた。
現れた虺のあまりの大きさに、良蔵と土岐が一瞬だけ息をのんだ。
「またこんなでけえ奴が…いったいどうなってやがる…」
良蔵は、つぶやきながらも攻撃に備えて構えを取る。
虺は、鎌首をもたげると良蔵に向きなおり、体をくねらせ鞭のように尻尾を良蔵めがけて振り下ろしてきた。
良蔵はその攻撃を、後ろに飛んでかわす。
宙を切った尾が、今度は土岐めがけて襲い掛かった。
土岐は横に飛んでその攻撃をかわした。
掃守は、再び背後から襲いかかってきた女の攻撃をかわすと印を結ぶ。
「オン バザラ ヤキシャ ウン」
真言を唱え終えると、手のひらを女の背中側から腹部めがけて突き出した。
すると手のひらで爆発が起こり、女の体は吹き飛ばされる。
倒れた女の体から大きな虺が這い出てきた。
良蔵と土岐が対峙しているほどの大きさではないにしても――――その半分程度のサイズはあろう――――十分に大きく育った虺だ。
離れた位置で成り行きを見守っていた日向は、独鈷杵を取り出して飛び出す。
「日向!」
それを見咎めた土岐、良蔵が同時に名前を呼んだ。
しかし日向は振り返らない。目はまっすぐに女から祓われた虺を睨みつけていた。
良蔵と土岐は、巨大な虺に攻撃を仕掛けられて、身動きが取れない。
日向は独鈷杵を構えた。
「大丈夫です。この程度の虺なら、今の僕でも十分に相手ができます」
独鈷杵に念を込めると、独鈷杵には透明な刃が現れる。
日向は左手で剣を構えつつ、もう一方の手で印を結びはじめた。
「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」
真言を唱え終えると剣が一際白く輝く。日向はその剣を、怪我をしていない右手に持ち替えて大地を蹴った。
その側で、今度は木刀を持った男が掃守めがけて襲い掛かる。
掃守は錫杖で攻撃を受け止め、器用に錫杖を回転させると、男の手首に錫杖を打ち付けて、男の手から木刀を叩き落とした。
掃守はすかさず印を結ぶ。
「オン バザラ ヤキシャ ウン」
真言を唱えると、手のひらを男の腹部めがけて突き出す。爆発が起こり、男の体は吹き飛ばされた。
が、男はすぐさま跳ね起き、再び掃守に襲い掛かる。
掃守めがけて突進し、やみくもに拳を繰り出しはじめた。掃守はその攻撃をかわしながら、再度印を結ぶ。
「オン バザラ ヤキシャ ウン」
もう一度、男の腹部めがけて手のひらを突きだす。
だが、吹き飛ばされた男はまたもや立ち上がると、掃守めがけて攻撃を仕掛けるのだった。
虺は、育てば育つほど人の体に深く根付き、祓うのが難しくなる。つまり、この男に宿る虺もまた巨大に育っているという証拠だった。
それを横目で見ていた良蔵の表情が曇る。
「土岐、急いでこいつを浄化するぞ。おそらく掃守さんが相手をしているやつの方が厄介だ」
目の前にいる、巨大な虺に視線を投げてそう言った良蔵に、土岐は声に出すことなく無言のまま頷いてかえした。




