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塞の守り人  作者: 里桜
第二章
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六 電話 その二

「ところで掃守さん、さっき言ってた気になることってなんだったんですか?」

 良蔵は掃守にたずねる。

 二人で煙草を吸っていた時に、掃守は調べ物があると言ってここへと戻っていた。良蔵は、そのことを言っているのだ。

 しかし掃守は、どういうわけかあいまいな態度をとった。

「ああ…あれか…。あれはなあ…。俺の…勘違いだったよ」

 掃守は、視線を背けつつ答える。

「勘違い?」

 良蔵は片眉を跳ねあげた。勢いよく掃守を振り返るが、掃守は良蔵を見ない。

「そうだ。勘違いだ」

「それ、本当ですか? 掃守さん…なんかおかしいですよ」

 良蔵は、訝しむように掃守を見る。

 だが、掃守の態度は頑なだった。

「何もおかしいことはないさ。ただの勘違いだった。それだけだ」

 この話は終わりだとばかりに掃守は言い切る。

 良蔵は、釈然としないまま、しかし黙り込んだ。

 その時、土岐が部屋に戻ってきた。

「おお、土岐、どうだった? 水箏は捕まったか?」

「それが…日向よく寝てて、何だか起こすのが忍びなくて…」

 土岐は良蔵から顔を背けつつ、言い訳めいた言葉を口にする。

 すると良蔵は、再び怪訝な表情になった。

「はあっ!? 何言ってんだよお前、もとはと言えばお前が言い出したことだろうがよ」

 呆れ気味に土岐を見るが、土岐は黙ったまま視線を逸らしていた。

「なんだよ二人していきなり…。明らか変だぞ。ったく、じゃあいいよ、俺が日向に頼んでくる」

 そう言って良蔵は椅子から立ち上がる。

 相変わらずこちらを見ない二人の顔を、良蔵はかわるがわる見やるが、視線が交わることはない。

 良蔵は諦めた様子で部屋を後にしたのだった。



「――――なた」

 遠くで、何か声が聞こえる。

「日向」

 名前を呼ばれたことを認識したと同時に、日向は体を揺り動かされ、泥のような眠りから現実へと、一気に引き戻された。

「日向、起きろ」

 声にうながされ、眠い目をこじ開ける。すると、そこには良蔵の顔があった。

「百目鬼先生…? どうしたんですか?」

 日向は目を擦りながら問い返す。

「寝てるところを悪いが、水箏に連絡を取ってほしいんだ」

「水箏さんに…ですか?」

 日向は、頭を振りながら体を起こそうとする。

「水箏さん、どうかしたんですか?」

 ベッドに肘をついた状態で、日向は良蔵を見上げた。

「あのやろう、ちょっと行方をくらましやがってな」

「え!? 水箏さん行方不明なんですか!?」

 日向はベッドから飛び起きる。

 すると――――。

「いたっ!」

 起き上がったその拍子に、痛めた腕を使ってしまい、日向は腕を押さえつつ表情をゆがめた。

「まだ痛むのか」

 良蔵が気遣わしげに視線を向けた。しかし日向は、痛みをこらえつつ首を横に振る。

「もう治りかけています。痛みは少しだけですから…。別に問題ありません」

 日向は、暗に今晩も巡回に参加すると告げていた。

 そんな意志を悟った良蔵は、困ったように笑う。

「それは修也に相談してからだな」

 日向は、弾かれたように良蔵を見た。

「自分のことは、自分が一番よくわかっています。僕、大丈夫です」

 むきになって言い返す日向の頭を、良蔵はため息とともに撫でる。

「わかったわかった、念のため修也に聞くだけだ。そんなにむきになるなよ」

 ぽんぽんと頭を撫でられ、日向は毒気を抜かれてしぶしぶ矛を収めた。

「そういえば百目鬼先生、水箏さんが行方不明ってどういうことですか?」

「ああそうだった。大丈夫だ、そんなに大げさなもんじゃねえよ。ただあのじゃじゃ馬が勝手にぷらぷらしてやがってよ」

 良蔵は渋面を作りながら、イライラと前髪を掻き揚げる。

「所在の確認をしておかねえと、ちょっとばかりあんばいが良くねえんだ。だからお前に、水箏が何処にいるのか聞き出してほしいんだよ」

「僕がですか? どうしてですか?」

「あのクソガキ、俺の電話に出ねえんだよ」

 良蔵が、不満げな表情を浮かべた。

 日向は、驚いたように目をまたたいてから笑う。

「わかりました、僕電話してみます」

 そう言ってベッドを降り、携帯を操作しはじめた。



 着信音を聞いて、水箏はすぐさま携帯を取り出した。

 水箏は、日向のメールと電話の着信だけは、特別に音を変えてあるのだ。

 それゆえ、鳴っただけで日向の着信は瞬時に判別できる。

 ディスプレイの文字を見て、水箏は微笑みを浮かべた。

「マナー解除しておいてよかったー。危うくヒナの着信をスルーするところだったわ」

 水箏は、嬉しそうにつぶやいてから電話を取る。

「もしもし、ヒナ!? もう起きたの? ちゃんと眠れた? 怪我はどう? お腹はすいてない?」

 矢継ぎ早に質問すると、電話の向こう側で日向が笑った。

 大丈夫だという答えを聞いて、水箏は安堵の息を漏らす。

 水箏は安心した様子で両肩を下げた。

 そして、嬉しそうに微笑みを浮かべる。

「え? 今どこにいるかって?」

 水箏は、目をまたたいてから口を開いた。

「今総武線御茶ノ水駅のそばよ。丸ノ内線に乗ろうと思って…」

 言いながら、水箏は腕時計に視線を落とす。

「そんなに時間かからずに戻るから待ってて」

 水箏は足を速めた。電話をしながらも、人ごみの中をぶつかることなくすり抜けるように歩いて行く。

「大丈夫よー、心配しないで」

 水箏は嬉しそうに微笑んでいた。

 しかし、突如としてその表情を変える。

「えー、りょーちゃんが電話代われって? ちょっとー、せっかくヒナの声聞いて癒されてるところなのに、なんなのよもー」

 水箏は、不貞腐れた表情に変わって立ち止まった。

「もしもーし」

 あきらかに、がっかりしたという声で電話に出る。そして続けた。

「私とヒナのラブラブなひと時を邪魔しないでくれる? このお邪魔虫」



 良蔵は、日向と電話をかわるなり、額に青筋を浮かべた。

 日向は、不穏な気配に変わった良蔵を見て、目をまたたく。

 良蔵は、苛立ちを逃がすように深呼吸していた。

「百目鬼先生、どうしたんですか?」

 良蔵は、半眼でチラリと日向を見る。

「俺は今、忍耐力の限界が見えはじめた。このてめえ勝手な生き物は、いったいどうやったら、目上の人間に対して礼節を守れるような生き物に、調教しなおせるんだろうな」

 日向は、驚いた様子で目をまたたいた。

「水箏さん、何か言ってるんですか?」

「言ってるなんてもんじゃね――――」

 そこまで言いかけてから、良蔵は目をむいて電話口に怒鳴りはじめた。

「なんだと! 怒鳴られるようなことを、お前が言ってるんだろうが! ふざけんなこのクソガキ。いいか、もうてめえの意見なんか聞くつもりはねえ。そのきゃんきゃんうるせえ口を閉じてよく聞け。お前御茶ノ水駅の側にいるんだろ? だったら怜治がその近くにいるから合流しろ。いいな!」

 良蔵は、まくしたてるように言う。

「だー! うるっせえな! 俺が怒鳴るのは、お前が神経を逆なでするようなことばかり言うからだろうが! お前のせいだ、このクソガキ! いいから黙って怜治と行動しろ! 怜治には連絡しておくからな!」

 良蔵は、肩を怒らせて電話に怒鳴り続ける。

「ああ!?」

 良蔵は、苛立ったように電話口に聞き返した。

 そして日向をちらりと見る。

 良蔵は、盛大なため息を吐き出してから、日向に携帯を差し出した。

「日向、お前にかわれだと。お前の口からも、怜治と合流するように言ってくれ」

 良蔵は、疲れた様子で額を押さえている。

 日向は、苦笑しながら携帯を受け取った。

「もしもし水箏さん? ちゃんと百目鬼先生の言う通りにしてくださいね? あと、勝手に行動しちゃだめですよ。先生方も心配するし、僕も心配です」

 日向がそう伝えると、電話の向こう側から水箏がこう答えた。


『わかった、ヒナがそう言うならりょーちゃんの言いつけはちゃんと守る。だからヒナも無理しちゃだめよ? 怪我してるんだから、そこを忘れないでね。絶対よ? じゃあねヒナ、愛してる』

 と。


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