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塞の守り人  作者: 里桜
第二章
25/140

五 電話 その一

※ BL表現が入っています。苦手な方は回避願います。

 良蔵が、急いで事務所のある五階に取って返すと、掃守は椅子に座り、厳しい表情でパソコンに向かっていた。

「掃守さん、水箏が部屋に居ません。どこか行き先に心当たりは在りませんか」

 声をかけるが、掃守は無言のままだ。

 食い入るように、画面に見入っている。

「掃守さん?」

 改めて声をかけると、掃守が弾かれたように我に返った。

「おお百目鬼か…なんだ?」

「なんだじゃないですよ。掃守さんこそどうしたんですか、ぼうっとして」

「ああ…別に何でもねえよ。それより百目鬼の方はどうした? 何かあったのか?」

 良蔵は、掃守の反応に釈然としないものを感じ取ったのか、怪訝な表情をする。

 しかし言葉にはせず、口を開いた。

「それが、水箏のやつ部屋にいないんですよ。どこに行ったか知りませんか?」

「部屋にいない?」

 掃守も驚いた様子で目を見開く。

「いや…俺は何も聞いていないが…」

 掃守は、困惑気味につぶやいた。

 良蔵は舌打ちをする。

「ったく、あいつ…どこに行きやがったんだ」

 とその時、第三者の声が投げかけられた。

「良蔵さん、水箏さん部屋にいないんですか?」

 土岐が、コーヒーを入れたカップを片手に現れたのだ。

「ああ、お前知らないか?」

「いえ、何も聞いていませんけど…。携帯に連絡してみましょうか?」

「それが出ねえんだよ」

「出ない?」

 土岐が、驚いた様子でコーヒーを机に置いた。自分の携帯を取り出し、画面を操作して耳に押し当てる。

 しばらくそのまま待つと、弾かれた様子で視線を良蔵に向けた。

「もしもし、水箏さんですか?」

 その言葉に、良蔵が目を見開く。

 良蔵は、手をのばして土岐から携帯をひったくると怒鳴った。

「このバカッタレが! 勝手な行動してんじゃねえ! 今どこに居やがる!?」



 水箏は、耳に押し当てていた携帯を引きはがした。顔をしかめ、腕の内側で耳を押さえる。

 溜息を一つついてから、水箏は改めて携帯を耳に押し当てた。

「ちょっとりょーちゃん、そんな大声出さなくても聞こえるわよ――――」

 しかし水箏は、通話口にそう言い返したその直後――――。

 すぐにもう一度顔をしかめて、耳から携帯を引きはがすことになる。

「うわっ! 耳痛いな、も~」

 怒声の漏れ聞こえる携帯を、水箏は辟易した様子で見つめた。

「だから、聞こえてるっつーの」

 小さくぼやきながらも、水箏は携帯を正面にかまえ、マイクに向かって口を開く。

 もちろん耳は、受話器から離したままだった。

「はいは~い、ちゃ~んと聞こえてますよ~。今から帰るから、心配しなくてもいいわよ~。じゃあね、バイバイ」

 良蔵の言葉を待つことなく、言いたいことだけを言い返すと、水箏は早々に携帯を切った。



「おい水箏! こらっ! 今、どこにいるんだよ、このクソガキ!」

 良蔵は携帯に怒鳴りつける。

 しかし耳を押し当てた携帯からは、ツーツーと通話の途切れた音ばかりが聞こえていた。

「あのクソガキ…。舐めたことしやがって…」

 良蔵の表情には、憤怒の色が浮かんでいた。

 それを見ていた掃守が苦笑する。

「ずいぶんと手を焼いているようだな」

 良蔵は、額に青筋を浮かべながら怖い笑顔を張り付けた。

「掃守さん…代わってくれませんかね。俺には、あんなの面倒見切れませんよ」

 すると掃守が肩をすくめる。

「俺は、お前が適任だと思うがな」

「どこがですか!? 俺はそろそろ堪忍袋の緒が切れそうですよ! あんなじゃじゃ馬無理やり押し付けられて…。くそっ! 何処をほっつき歩いてやがんだあのバカ!」

 良蔵は、側にあった机を拳でたたいた。

 持っていた携帯を土岐につき返すと、「もう一度電話しろ」と指示する。

「はいはい」

「『はい』は一度でいい! さっさと水箏に電話をしろ! つながったら居場所を聞き出せ」

 土岐は、辟易したように首をすくめた。

「俺、完全なとばっちりですよね」

 溜息をつきながらも、土岐は再度電話を試みる。

 良蔵は自分の携帯を取り出し、怜治へと連絡を入れた。



「うわっ、また電話だ。土岐からかあ…。でも電話に出たら、またりょーちゃんがでしゃばってくるのよね」

 水箏は呟きながら、震える携帯のディスプレイを眺めている。

 水箏は、今まで冴月を追っていたため、マナーモードにしてあった。

 おかげで、良蔵の着信に気付かなかったわけだが、履歴を見れば続けて五回の着信が残っていた。

 不在着信に気付いて、かけなおそうとしていた矢先、偶然土岐からの着信があり、電話に出たところ先程の事態に遭遇したわけだ。

「この電話でたら、また怒鳴られるわよね…。りょーちゃん短気だからなぁ」

 水箏は、頬に手を当てながら考え込む。

「頭も固いし…。すぐに帰るって言ったのに」

 しばし考えたのち、水箏は携帯をしまった。

「どうせ怒られるなら一回だけの方がましよね。わざわざ何回も怒られるだなんてごめんだわ」

 水箏は、震える携帯を無視して歩き出したのだった。



 土岐は、耳に携帯を押し当てたまま良蔵を見た。

「良蔵さん、水箏さん出ませんよ」

「いい度胸だ、あのクソガキ」

 良蔵の額には、再び青筋が浮かび上がっている。

 良蔵も携帯を鳴らしたまま、怜治が電話にでるのを待っている状態だった。

 土岐がため息を吐き出す。

「良蔵さん、ほんとうに水箏さんに振り回されてますよね。こういう場合は手を変えたほうがいいと思いますけど?」

「手を変えるってどういうことだよ」

 土岐が、携帯を切って椅子から立ち上がる。

「ちょっと日向に頼んできます。水箏さん、日向の電話なら何を差し置いても優先するでしょうから」

 すると良蔵も納得した顔になった。

「いい手だな」

「じゃ、ちょっと日向のところに行ってきますから」

「ああ、頼む」

 良蔵の声を背中に聞きながら、土岐は部屋を後にした。



 階段を下り、日向の部屋の前に移動すると、土岐は扉をノックする。

 しかし返事はない。

「日向、開けるぞ」

 一声かけて、土岐は扉を押し開いた。

「まったく、鍵をかける習慣をつけさせないと、これじゃ不用心だよな…」

 土岐はぼやきながら部屋に入る。

 すると、少年の姿の日向がベッドで横になり、すやすやと寝息を立てているのが目に入った。

 土岐は微笑みを浮かべて日向に近寄る。

「夕べは朝方まで騒ぎが続いたから、疲れてるよな…」

 呟きながら、ベッドの端に腰かけた。

 日向の頭をそっと撫でてから、土岐はそのまま、じっと日向の寝顔を見下ろす。

 不意に、その眼差しに切げな熱が宿った。

 土岐は、ぎゅっと眉根を寄せる。しばらくの間無言で見下ろしていたが、やがて日向の顔の横に手を突いた。

 苦しげな表情のまま身を屈めると、土岐は、眠る日向の唇にそっと口づけを落とした。


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