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塞の守り人  作者: 里桜
第一章
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十八 襲撃 その九

 日向が、何者かの手によって、昏倒させられていたそのころ、怜治と冴月は、()を追いかけて最上階へとたどり着こうとしていた。

 ()は、最上階の踊り場で、体当たりを繰りかえし、屋上へと続くドアを破壊する。

 怜治と冴月も、しばし遅れて屋上へとたどり着いた。

 は屋上に飛び出し、とうとう逃げ場がなくなったと悟ると、怜治の予想通り攻撃に転じてきた。

 巨大な頭を高々ともたげたかと思うと、口を大きく開け勢いよく振り下ろしてくる。

 二人は、各々別方向に飛んでその攻撃をかわした。

 怜治は、数珠を巻きつけた手で、素早く刀印を結び五芒星を描く。

「バン ウン タラク キリク アク」

 冴月も、同じく五芒星を描いて放った。

 二人の攻撃が()に当たり、爆発を起こす。

 ()は苦しげに身をよじった。

 怜治は数珠を手に巻きつけ直し、じゃらりと音を鳴らす。

「冴月さん、このまま一気に攻めますよ。準備はいいですか」

 冴月は無言のまま頷いて、すぐに攻撃を開始した。

 二人の攻撃は、着実に()の力を弱め削っていく。()の動きは、徐々に鈍っていった。

 しかしその攻撃の最中、突如として冴月が動きを鈍らせた。

 何かに気付いたという様子で、冴月が視線をさまよわせはじめる。

「冴月さん、何に気を取られているのです? 今は()の浄化に集中しなさい」

 怜治が叱咤するが、しかし冴月はとうとう攻撃する手を止めた。

 何か焦燥に駆られた様子で、屋上の入り口を振り返る。

「卜部、おかしい。日向がいない」

 言われて、怜治も入口を振り返った。日向の姿がないことを確認すると、ぎゅっと口元を引き締める。

「もしかしたら、ここまでくる途中で何かあったのかもしれませんね…」

 怜治は、呟きながら再び視線を()に戻した。

「ですが、今ここを離れるわけにはいきませ――――」

 二人が会話をしているその時、()が襲い掛かってきた。

 冴月と怜治は、横に飛んでその攻撃をかわす。

 怜治は再び刀印を結んで攻撃を開始した。

「今は、一刻も早くこの()を浄化しなければなりません。時間がないのです」

 怜治は、厳しい表情でに五芒星を放つ。

 冴月は、愕然とした表情のままこぶしを握り締めた。

 普段は無表情なはずのその顔には、外側から見てとれるほどに明らかな動揺が現れている。

「冴月さん、しっかりなさい」

 怜治の声に、冴月は我にかえった。冴月は、すぐに表情を消す。

 そして何かを決めたという様子で、口を開きかけた。

「卜部――――」

 冴月が、怜治の名を呼んだその時のことだった。

 突如として冴月の声を遮る者があらわれる。

「あの子ならば無事です」

 突然第三者の声が割り込んできた。

 二人は、弾かれたように声のした方向を振り返る。

 するとそこには、信濃の鬼甕弦(もたいゆずる)の姿が在った。

 怜治の表情が驚きに変わった。

 怜治は、半ば呆然とつぶやく。

「貴方は信濃の…。どうしてここに」

「その答えが、今この場で必要ですか?」

 穏やかな声で逆に問い返され、怜治はきつく口をつぐんだ。

 怜治は再び()に向き直り、五芒星を描きはじめる。

「なるほどそうですね…。確かに、必要のない質問でした」

 言いながら、怜治は()に向けて五芒星を放った。怜治の攻撃が()にぶつかり、爆発を起こす。

 だが冴月は納得がいかないのか、無表情のまま弦に向き直った。

「『あの子』とは日向の事か。無事とはどういう意味だ。日向に何があった。今どこに居る?」

 矢継ぎ早に質問をすると、弦が小さく息を吐き出す。

「宗家の直系ともあろう者が、この状況で優先させるべき事柄がそれですか」

 弦の表情は、一見すると柔和なものであったが、その表情に宿る感情は何一つ読み取れない。

 会話の流れからすれば、呆れているのだと推測することが正しいはずだが、そんな感情は微塵も現れてはいなかった。

 冴月もまた、いつも通りの無表情の仮面を張り付けて弦を見返す。

 そして――――。

「そうだ」

 短く答えると、弦の目が細められた。相変わらず感情は読めない。

「そうですか。よくわかりました」

 淡々とこたえながら、弦は刀印を結ぶ。

「バン ウン タラク キリク アク」

 弦が宙に描いた五芒星は、一際強烈な光を放った。

 瞼を焼くような光とともに、五芒星は()へ向かって飛び、ことさら大きな爆発を起こしたのだった。



「日向!」

 日向は、冴月の切羽詰まった声を遠くに聞き、意識を覚醒させてゆく。

「日向! しっかりしろ!」

 日向は体をゆすられ、ゆっくりと目を開けた。そして冴月の姿を視界にとらえ、慌てて起き上がろうとする。

 だが――――。

「痛っ!」

 左手の鋭い痛みと、首の後ろの違和感を覚え、顔をしかめた。

「大丈夫か、日向」

 日向は、痛みをこらえて冴月を見つめ返す。痛む部分を認識すると、気を失うまでの出来事が脳裏によみがえってきた。

「冴月様…? なんで…。僕、いったい…どうしてここに…?」

 日向は、わけがわからず呆然とする。

 気を失う前、日向は得体の知れない男と対峙していた。

 その男に手刀をあびせられ、意識を手放したわけだが、そこから記憶は途切れている。

 気が付けば日向はビルの外に居て、目の前には冴月がいた。

 いったいどういうことなのか、日向には全く理解が及ばない。

 しかし冴月は、目を覚ました日向を見て無事を確認できたのか、安堵の息を吐き出した。

「それはこっちのセリフだ…。日向、何があった?」

 逆に尋ね返されて、日向はさらに困惑する。

「僕…得体の知れない男に襲われたんです…。それで意識を失って…そこから記憶はありません。いったい僕はどうしたんでしょう?」

 日向は、困惑しきった様子で瞬きを繰り返した。

 側に立っていた怜治は、顎をつまんで考え込む。

「つまりは、何者かに襲われ意識を失った日向を、甕さんが助けたということになるのでしょうか…。事実を知る彼は、すでにここにはいませんから、推測の域を出ませんが」

 日向は驚きに目を見開いた。

「甕さん!? 信濃の甕さん…ですか?」

「そうです」

 怜治は、何か考え事に意識を取られている様子で、日向を見ることなく宙の一点を見つめている。

「そうですか…甕さんが僕を助けてくれたんですか…」

 日向は視線を下げ、硬い表情で口をつぐんだ。

 すると怜治は日向に視線を戻した。

「あくまでも勝手な推測ですよ。甕さんは、我々が()と戦っている時に突然現れ、日向が無事であることを教えてくれたというだけですから。彼は()の浄化が終わるなり、こちらが質問をする間もなく、再び姿を消してしまっています」

 そこまで言ってから、怜治は遠くのビルを振り返った。先程まで日向たちが()と戦っていたビルである。

 ビルの前にはパトカーが何台も止められおり、周辺を慌ただしく行き交う人影がたくさん見えた。

「日向は、あのビルの階段の踊り場で気を失っていました。我々は、あの場にとどまるわけにはいかなかったので、冴月さんがあなたを抱えてここまで移動したのですよ」

 怜治は両腕を組んでビルを見つめた。どこか、心ここに非ずといった様子だ。

 日向もまた口をつぐむ。日向は、めずらしく浮かない表情をしてうつむいていた。

「日向、腕が腫れている。骨折はしていないようだが、治療が必要だろう」

 冴月が声をかけると、日向は小さく頷いて立ち上がる。

 怜治はようやく我に返って、日向と冴月にこの場で待つように指示を出した。自分は急いで駐車した場所に戻って車を回し、二人を乗せると、石神東京支部へと戻ったのだった。


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