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塞の守り人  作者: 里桜
第一章
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十六 襲撃 その七

「冴月さん、日向」

 見つめ合っていた二人は、怜治の呼ぶ声で我に返り、怜治を振り返った。

 怜治は、すでに二人を向いている。

 目が合うと、怜治は無言のまま手で二人に来るようにと合図をした。二人は怜治のもとを目指す。

 二人が怜治のそばまで移動すると、怜治はすぐに踵を返し、ビルを目指して走り出した。

 二人も走って怜治に付き従う。

 前を走る怜治は、振り返ることなく口を開いた。

「男をビルに追い込むよう彼らに頼みました。我々は、先にビルに入って迎え撃ちますよ。時間がありませんので、急いでください」

 日向と冴月は、表情を引き締め、怜治の後を追った。



 三人は、割れたショーウィンドウからビルの中に侵入する。

 ビルの中にひと気はなかったが、建物内ではけたたましい警報機の音が鳴り響いていた。

 三人はガラスの破片を踏み越え、明かりの消えた奥へと進む。

 一階のフロアは、棚やマネキン、ハンガーラックなどで埋め尽くされてはいたが、柱はなく広かった。

「十分とは言えませんが、この広さなら何とか戦えるでしょう」

 怜治は、眼鏡を押し上げながらフロアを見回してそう呟く。

「卜部先生、囮は僕が引き受けますので、その隙に二人で()を祓ってください」

「だめだ。囮は俺がやる」

 冴月がきっぱりと言い切った。

 日向は困ったように首を横に振る。

「冴月様、ここは障害物が多すぎます。僕が()を祓うよりも、お二人が祓う方が地の理にかなっています」

「それでもだめだ」

 怜治が苦笑した。

「日向、少なくとも我々の目には、貴方が疲れているようにうつります。この場は無理をせず、冴月さんの言う通りになさい」

 諭すように声をかけると、日向は弾かれたように怜治を振り返る。

「卜部先生まで! 僕、大丈夫です」

「いいから言うことを聞きなさい。そんなことをしているうちに――――ほら、来ましたよ」

 壊れたショーウィンドウをくぐり、男が飛び込んできた。

 近くで見ると、ずいぶんと体格のいい男だ。上背があり、がっちりとした体つきをしていた。

 その背後には、様々な呪具を構えた数人の(もの)の姿が見える。

 男は、鬼たちの攻撃をかわしながら、必然的にフロアの奥へと移動させられていた。

 冴月は、素早い動きで身を翻すと、男へと足を踏み出す。

 すると男は、ぶら下がっていた洋服を乱暴に払い落とし、ハンガーラックを掴み上げた。

 頭上でぐるぐると振り回して威嚇する。

 鬼たちが、怯んで一歩さがった。

 しかし、冴月はそのまま突進する。

 すると男は、冴月に向けてハンガーラックを投げつけてきた。

 冴月はその攻撃を難なくかわし、男との距離を詰める。

 男の懐に飛び込むと、腹部に蹴りをめり込ませた。

 男が、呻き声をあげてよろけたその隙をついて、怜治が霊符を放って両手を打ち合わせる。

 霊符はイタチに似た生き物へと変じ、男の腹部を目指してとんだ。

 イタチの頭は、男の腹部にもぐりこんだが、しかし体全体をもぐりこませるにはいたらない。

 それを見た日向は、男に向かって走り出した。走りながら印を結び、真言を唱えはじめる。

「ノウマク サラバ タタギャテイ ビヤサルバ モッケイ ビヤサルバ タタラタ センダ マカロシャナ ケン ギャキ ギャキ サルバビキナン ウン タラタ カン マン」

 日向は男に走り寄り、手のひらを男の腹部めがけて突き出すと光がはじけた。

 その光に力づけられるようにして、怜治の放ったイタチは、男の体の中へともぐりこんだ。

 するとその瞬間、男の背中から巨大な()がはじき出された。

 側にいた鬼たちは、その()を見て、あまりの大きさに絶句する。

 日向、冴月、怜治の三人は表情を曇らせた。

「卜部先生、先程の()と変わらない大きさです。これだけ大きな()が、どうしてこんなにも…」

「日向、今は余計なことを考えている場合ではありませんよ。気を引き締めなさい」

 言いながら、怜治は刀印を結ぶ。

「バン ウン タラク キリク アク」

 怜治の放った五芒星が()へと飛んだ。()にぶつかると爆発が起こる。

 しかし()にダメージを与えることはできなかった。

 怜治の攻撃を皮切りに、冴月や鬼たちも()に攻撃を仕掛ける。

 日向も独鈷杵を構えた。独鈷杵から、透明な刃が現れる。

 日向は片手で印を結びながら真言を唱えた。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 日向は床を蹴って飛ぶ。

 白く輝いた刃を()に突き立てようとするが、まるで歯が立たずに跳ね返される。

 ()の長い尾が持ち上げられ、日向めがけて振り下ろされた。

 日向は、とっさに横に飛んでその攻撃をかわす。

 長い尾は、ディスプレイ用の棚を軽々と叩き割った。壊された棚の破片が辺りに飛び散る。

 日向は、飛び散るその破片をかわしながら、再び床を蹴った。

 今度は透明なその剣を、()の口めがけて突き出す。

 しかし()は、日向の刃に噛みついて、その攻撃を止めた。

 日向は、剣を引き抜こうとするが、()は放さない。

 逆に()は、頭を振って日向から剣を奪いにかかった。小柄な日向の体は、()によって軽々と振り回される。

「日向! 手を放せ!」

 冴月が、独鈷杵を離すように指示を出した。

 日向は逡巡しながらも、冴月に従って手を放す。すると透明な刃が消えた。独鈷杵は、床に転がり落ちる。

 日向の体は、遠心力によって宙に舞ったが、空中で猫のように体をひねると床に着地した。

 日向は、床に着くなり、落ちた独鈷杵を拾おうと走り出したのだが、()が襲い掛かり、その行為を阻もうとする。

 冴月が、霊符を放って刀印を結んだ。

急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)

 霊符は白い狐に似た生き物――――(はく)に形を変える。

 白は素早い動きで日向のもとへ走り、日向を守るように、その体を()にぶつけた。

 白の体当たりを受け、()が怯んだその隙に、日向は独鈷杵を拾う。

 すると再び()が頭をもたげ、日向を攻撃しようとした。

 今度は、怜治が数珠を巻きつけた手で刀印を結び、五芒星を描く。

「バン ウン タラク キリク アク」

 五芒星が、()にぶつかって爆発を起こした。

 浄化することはできなかったが、ダメージを与えることはできたようだ。()が苦しげに体をくねらせた。

 とその時、日向があることに気付いた。

「卜部先生、外を見てください」

 日向の声に反応し、怜治が道路に目を向けると、パトカーがちょうど路肩に横付けされるところだった。

 怜治は眉根を寄せる。

「冴月さん、日向、()を上の階に誘導しますよ」

 冴月は頷き、白を使って()を追い立てはじめた。

 怜治は、()が宿っていた男の側に移動し、男の中に入っていたイタチを抜く。

 すると男の体は、その場に力なくくずおれた。

 男の体から抜けたイタチは、白と一緒になって()を廊下へと追い込みはじめたのだった。



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