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塞の守り人  作者: 里桜
第一章
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十一 襲撃 その二

 日向と冴月が、公園で巨大な()と対峙しているのと同時刻。

 二人から、距離にして五〇〇メートルほど離れた、うらぶれた寺院の敷地では、怜治(れいじ)が一人の男と対峙していた。それは、冴月が発見し、三人で追いかけていたあの人影だ。

 男の目は、暗く濁っている。男は()に憑依された人間独特の、負の気配を醸し出していた。

 怜治は、ポケットから霊符を取り出す。

 その紙を宙に放ると、パンと音をたてて両手を合わせた。

 すると霊符が、イタチのような獣に変化する。

 刀印を結んで男に向けると、イタチは男の腹部めがけて突進した。

 男は後ろに跳んでイタチの攻撃をかわす。

 怜治は、すぐさま結んだ刀印をもう一度男に向けなおした。

 すると、再びイタチが素早く大地を蹴って走り、突進するようにジャンプする。そのまま男の腹部に吸い込まれるようにして消えた。

 と同時に、男の背中から()がはじき出され、外に飛び出す。

 すかさず怜治は、刀印で五芒星を描いた。

「バン ウン タラク キリク アク」

 宙に描かれた五芒星が輝き、()に向かって飛んだ。

 しかし()は、素早い動きでその攻撃をかわした。

「ずいぶんとすばしっこい()ですね。サイズも、思っていたより大きい」

 怜治は、落ち着き払った声で静かにつぶやく。

 怜治は、上着のポケットから数珠を取り出すと右手に絡めた。その手で刀印を結び、再び五芒星を描く。

「バン ウン タラク キリク アク」

 五芒星が輝きを増し、()に向かって飛んだ。

 五芒星がぶつかると爆発が起こり、()は一緒に雲散霧消した。

 怜治は、数珠をポケットにしまうと、男のもとへ近づく。

 すると、男の中からイタチが現れた。

 イタチは怜治の手に戻り、その姿を霊符へとかえる。

 そのとたん、男は力なく地面に倒れ込んだ。

 怜治は片膝をつき、倒れた男の首に手をそえると脈を確かめる。

 息があることを確認すると、立ち上がった。

「さて、二人がここに追いつかないことを考えると、何か起こっているのかもしれませんね」

 呟くと、怜治は再び走り出した。



 公園では、冴月と日向が巨大な()と対峙していた。

 ()は、だいぶ疲弊しているようだが、冴月と日向の二人も、疲労の色は濃い。

 その時、()が不穏な動きをしはじめた。

「冴月様、()が逃げようとしているようです」

 冴月は、小さく頷いて刀印を結ぶ。

(はく)(まだら)

 二匹の獣は冴月の声に呼応し、()を逃がさぬよう囲むような位置に構えた。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 日向は、片手で印を結んで真言を唱える。

 その手に持つ透明な剣を振りかぶって、大地を蹴った。そして、()の体に深々と突き立てる。

「ようやく刺さった!」

 日向が、思わず安堵の混じった声を漏らす。

 それまで何度も()に向けて透明な剣を振るっていたが、()成長しすぎていて、まるで手ごたえがなかったのだ。

 ()は、剣を突き立てられ、苦悶にのたうちまわりはじめる。

 はずみで、日向の体が()の上から振り落とされた。

「日向!」

 冴月が、焦ったように名前を呼ぶ。

 しかし、日向は宙で体をひねると、みごとに着地した。

 そして、大地に着地するなり、すぐさま両手で印を結びはじめる。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 日向の真言に共鳴するように、()に刺さった剣が明滅する。

 すると、が苦しげに体をくねらせはじめた。

 冴月も刀印を結ぶ。

 とその時――――。

「大丈夫ですか! 二人とも!」

 焦った表情の怜治が現れた。

 冴月は、怜治に答えることなく五芒星を描く。

 怜治もまた右手に数珠を絡ませると、五芒星を描いた。

「バン ウン タラク キリク アク」

 怜治と冴月の声が重なる。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 日向は、真言をもう一度唱えて印を結んだ。

 冴月と怜治が描いた五芒星が、()に向かって飛ぶ。

 日向が()に突き立てた剣も、真言と一緒に激しく明滅する。

 その刹那、大きな爆発が起こった。

 巨大な()は天を仰いで口を大きく開け、雲散霧消したのだった。



 公園には、再び静寂が訪れた。

 怜治は携帯で石神東京支部に報告をすると、公園の三名、寺の一名の宿主の保護を頼んでその場を後にする。

 少し離れた路肩で、三人は立ち止まった。

 日向は、疲れた様子で縁石に座り込む。

「日向、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

 怜治の言葉に、日向は力なく微笑む。

「怪我はありません。本当は、大丈夫だと見栄を張りたいところなんですけど…。今日のはちょっと疲れました」

「でしょうね…」

 怜治は表情を曇らせる。

「私も、あれほど大きな()は初めて見ました。よく頑張りましたね」

 怜治は、手を伸ばして日向の頭を撫でる。

 日向は、少しだけ照れたような笑みを浮かべた。

「それにしても、どうやって()があんなに育ったのでしょうね…」

 怜治はひとり言のようにつぶやき、厳しい表情で自分の顎をつまむ。

 そのまま視線を伏せ、深く考え込みはじめた。

 日向は、そんな怜治から視線を外し、改めて冴月を見上げた。

「冴月様、お怪我はありませんか? お疲れになってはいませんか?」

 日向は、気遣うように問いかける。

 冴月は、立ったまま日向を見下ろすと穏やかに目を細めた。

「大丈夫だ」

 その指先が、日向の頬をそっとかすめる。

 すると日向はほほ笑んで、猫のようにその手にすり寄った。

「冴月様、ご無事でよかった…」

 安堵の息とともに日向が言葉を吐き出すと、冴月の手が日向の頭をそっと撫でる。

 日向は、笑顔を浮かべて再び冴月を見上げた。

 と、その時――――。

 再び三人の携帯が一斉になった。またしても、一斉送信のメールが送られてくる。

 日向がスマートフォンの画面を操作して、一瞬声を失くす。

「今度は新宿…? まさか…今度は水箏(みこと)さんたちが()と遭遇しているのでしょうか…? そんなはず…ないですよね?」

 日向は、すがるようにして怜治を見上げた。

 だが怜治の表情は厳しい。

「わかりません。ですが嫌な予感がします。急ぎましょう」

 怜治の声を合図に日向は立ち上がり、三人は車の止めてある駐車場目指して走りはじめた。

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