表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塞の守り人  作者: 里桜
第一章
11/140

十 襲撃 その一

 三人の男女のうち、二人の男が冴月めがけて襲いかかった。手に持つ鉄パイプとバールとが、同時に振り下ろされる。

「冴月様!」

 日向が悲鳴に近い声を上げた。

 しかし冴月は、動じることなく攻撃をかわし霊符を放つ。

急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)

 人差し指と中指を立てた刀印を結ぶと、低く呪文を唱えた。

 霊符は、白い狐に似た生き物に形を変え、二人の男に襲いかかる。白い獣は、鉄パイプを持つ男の体に突進していった。

「日向! 気を散じるな!」

 冴月の鋭い声に、日向は我に返る。

 その刹那、日向に向けてナイフを持った女が襲いかかってきた。

 日向はその攻撃をかわし、女の手に手刀を落とす。女はナイフを取り落したが、痛みを感じることはないのだろう。すぐさま日向に掴みかかろうとする。

 日向は、女の攻撃をかわしながら印を結び、真言を唱えはじめた。

「ノウマク サラバ タタギャテイ ビヤサルバ モッケイ ビヤサルバ タタラタ センダ マカロシャナ ケン ギャキ ギャキ サルバビキナン ウン タラタ カン マン」

 真言を唱え終えると、日向は手のひらを女の腹部に向けて突き出す。

 手のひらで眩い光がはじけ、女の体が吹き飛んだ。

 女の体から、が抜け出はじめる。

 女はを祓われると、力なく大地に倒れ込んだ。

 日向は、帯に挟んであった独鈷杵を取り出し、印を結ぼうとする。

 しかしその時、突如としてバールを持った男が、体の向きを変えて日向に向かって襲いかかってきた。

「日向!」

 冴月の声と同時に、日向は横に跳んで大地を一回転する。

 男の振り下ろしたバールが、鈍い音をたてて地面を打った。

 冴月がもう一枚霊符を放つ。

「急急如律令!」

 紙は再び姿を変じ、白と黒のまだら模様の狐に姿を変えた。まだら模様の獣は、バールを握った男の腹部に食らいつく。

 そう、獣は男の体に食らいつくかのように見えた。

 がしかし、実際は男の体をするりとすり抜けていく。

 そうして男の体を通り抜けると、まだら模様の獣の口には、黒い蛇が咥えられていた。

 男にとり憑いていた、()である。

 バールを持っていた男は、を祓われたとたん意識を失って、力なく大地に倒れ込んだ。

 まだら模様の獣に捕まえられたは、苦しげに身をよじらせていた。獣の口から逃げようと、必死で体をくねらせる。

 残る宿主は、一人だけだ。

 鉄パイプを持った男だけが、いまだを祓われることなく、パイプを振り回して暴れていた。

 と、その時、日向が女から祓ったが、突如日向めがけて襲いかかってきた。

 冴月は刀印を結んだまま真言を唱え、音に合わせて素早く五芒星を描く。

「バン ウン タラク キリク アク」

 すると、指で宙に描かれた五芒星が輝いた。

 冴月が刀印をに向けると、五芒星がに向かって飛ぶ。

 五芒星がぶつかるとはじけた。は、その爆発によって吹き飛ばされる。

 口を大きく開け、声のない悲鳴を上げると雲散霧消した。

 日向は独鈷杵を取り出し、剣のように構える。

 目を閉じて念を込めると、独鈷杵に透明な剣が現れた。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 日向が、片手で印を結びながら真言を唱えると、刃がひときわ眩しく輝いた。

 その透明な剣を、まだら模様の獣が咥えるに向けて突き立てる。

 剣は、の体に深々と突き刺さり、突如、の体は雲散霧消した。

 冴月は、再び刀印を結んで低く唱える。

「急急如律令」

 呪文と同時に、白い獣とまだら模様の獣が、絡み合うようにしながら、鉄パイプを持つ男に向かって襲い掛かった。

 しかし、男は武器を振り回し、なかなか二頭の獣を近寄らせない。噛みつこうとする獣の頭に狙いを定め、男はパイプを的確に振るう。

 冴月がかすかに眉根を寄せた。

「日向、気をつけろ。この宿主に宿るは、相当育っているぞ」

「どうやらそのようですね」

 日向は唇をきゅっと噛みしめてから周囲を見回し、地面に落ちていたバールを手に持つ。

「冴月様、僕が少しの間気を引きつけますから、その隙にを祓ってください」

「しかし――――」

 冴月はしばし逡巡した。

「冴月様、こうしている間にも、は宿主の生気と悪意を吸い取って育っていきます。時間が惜しいのです」

 日向は、バールを握りしめて男に向かってかまえる。

 冴月は、ため息を吐き出した。

「わかった。くれぐれも気をつけろ」

 日向は、冴月の返事を聞くなり大地を蹴る。

 素早い動きで、男めがけてバールを振り下ろした。男は鉄パイプでその攻撃を受け止める。

 ガキン!

 火花が散るような重い金属音が闇夜に響いた。

 男は、パイプで日向のバールを押し返すと、すぐさま袈裟懸けのようにしてパイプを振り下ろす。

 今度は、日向がその攻撃をバールで受け止めた。

 冴月は、すかさず刀印を結んで叫ぶ。

(はく)! (まだら)!」

 二頭の獣は、主の命令にこたえるように俊敏に反応した。

 日向に向かってパイプを振りおろし、無防備にさらされた男の腹部めがけて突っ込んでいく。

 すると男が、獣のような咆哮をあげた。

「ぐおぉぉ!」

 二頭の獣は、ためらうことなく男の腹部を突き抜け、そして内側から巨大なを引っ張り出した。

 を祓われた男は、途端に、糸が切れた人形のように大地に倒れ込む。

 男の中に宿っていたは、二頭がかりでも引きずり出すのに苦労するような、巨大なだった。

「な!?」

 日向は、のあまりの大きさに絶句する。

「どうして…なんでこんなにも大きなが…」

 そのは、つい先日日向が遭遇したの、三倍程度はあろうかという大きさだった。これだけの大きさに成長するには、宿主を数十人変わらねばならないようなサイズだ。

 冴月も厳しい表情をする。

「日向、気を引き締めろ。油断している場合ではないぞ」

 冴月は、日向を叱ってから刀印で五芒星を描いた。

「バン ウン タラク キリク アク」

 宙に描いた五芒星を、に向けて放つ。

 日向も、我に返って印を結びはじめた。

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 独鈷杵から伸びた輝いた刃を振りかぶり、に向けて振り下ろす。

 しかし、浄化させられるほどの威力は生まれない。

 白と斑の二頭の獣も、必死になってに食らいついていたが、が長い尻尾を振るい、体をくねらせたためその顎を外してしまった。

 二頭の獣は、地面や壁に叩きつけられる。

 日向も、巨大な虺の尻尾に狙われるが、軽やかな身のこなしで攻撃をかわすと距離を取った。

「日向、長期戦になるぞ」

 冴月は再び刀印を結ぶ。

「はい」

 日向もまた独鈷杵を握りなおした。

 白と斑は、再びに向かって飛び掛かる。

「バン ウン タラク キリク アク」

「タリツ タボリツ パラボリツ シャヤンメイ シャヤンメイ タララサンタン ランエビ ソワカ」

 二人の声が、暗い公園にこだました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ