港南一高野球部
港南一高は進学校としてでなくスポーツが盛んな学校としても知られている。
特に陸上部は全国レベルで、有名選手も数多く輩出している。
一方で、全くうだつの上がらない部もあり、
―――その筆頭が野球部である。
学校ができた頃から部があるにもかかわらず、甲子園出場はおろか上位進出すら一度もなく、毎年いいとこ三回戦どまり。
『学校創設時からの生き残り』という看板がなければ、とうに廃部になっていても不思議はないという有り様である。
――――――
入学式から三日が過ぎた。大河も少しずつ学校の空気に慣れてきたところだ。
今日から仮入部期間。大河も野球部に入ろうと部室の前までやってきたのだが……
大河:「…ボロい」
目の前にあるのはどう見ても廃屋としか思えない建物。なまじ、他の部の部室がキレイだったため余計に目立つ―――加えて
「誰も居ないし…もう練習始まってんのかな」
…グラウンド行ってみるか…
【グラウンド】
ケン:「大河!おせーぞ。来ねぇのかと思ったわ」
ケンが大河にまくし立てる、いつもの光景だ。
大河:「いや、部室の前で待ってたんだけど、誰も来ねぇからさ」
「はあ!?お前、部活案内見てなかっただろ?『入部希望者は運動のできる格好でグラウンドに集合』だぞ」
そう言ってケンは大河の体をジロジロと見る。
ん? あっ
…制服着たままだった…
「…ちょっと着替えて来るわ」
「…全く、お前ってヤツは…早よ行け!」
――――――
『よーし。入部希望者たち集まれー』
大河が着替えを終えてグラウンドに戻ると、野球部の練習場所の方から声が聞こえてきた。
どうやら何か始まるようだ。
…何とか間に合ったようだ。
行こう。俺の高校野球が始まる!
―――
『ようこそ、一高野球部へ!先ずは自己紹介をさせてもらおう。一応この野球部のキャプテンをやらせてもらっている、吉田だ。よろしく』
スポーツメガネをかけた優等生っぽい人だ。どう見ても体育会系には見えない
『よろしくお願いします!』
吉田:「いい返事だ!…ひぃふぅみぃ、今年の新入部員は全部で10人か。去年に比べれば豊作だな♪
――よし、じゃあ、先ずは順番に一人ずつ自己紹介をしてもらおう。他の部員にも聞こえるように大きな声で頼む。…とりあえず、クラス、名前に、野球経験の有無と希望するポジションを言ってってくれるか?」
そう言ってキャプテンはポケットからメモ帳を取り出した。
……この人、すげェ几帳面だな(苦笑)。絶対に理系だと思う…
「三組の加藤 健太です。ケンって呼んでください!小中学校と野球をやってました。ただシニア経験はないので、硬式の経験はありません。ポジションはずっとキャッチャー一筋だったのでキャッチャーを希望します。よろしくお願いします!」
ケンのあいさつが終わった。――すると
「おお~キャッチャーか!」
「キャッチが増えるのは助かるわ~」
「キャプテン~、ライバル登場っすよ~」
先輩たちの方から歓声にも似た声が上がった。
…ふむ…どうやら、吉田キャプテンは捕手のようだな。
「お前たちは少し黙っていろ!…全く…
とは言えキャッチャー経験者が入ってくれるのは助かる。ウチでキャッチャーやれるのはこの一年俺一人だったからな。紅白戦もまともに出来ない有り様だったんだ。
…ヨロシクな」
ケン:「はい!」
「…じゃあ、次」
…俺の番か…
「…8組の、水城 大河です。リトル、シニアで野球やってました。ポジションは主にショートで、内野ならだいたいどこでも出来ます。…よろしくお願いします」
大河の挨拶で反応したのは先輩たちだけではなかった。
?:「…あの人、同じクラスの水城君!?野球やってたんだ」
大河と同じクラスの中西 廉である。
相変わらず、初対面の人間と話すのが苦手な大河は、席が離れていたこともあって一度も話をする事なく、今日まで至ったのであった。
一方で、先輩たちはシニア経験者がいた事に驚いているようだった。
キャプ:「シニア経験者か!期待しているぞ」
…………そして
「よし、次で最後だな。頼むぞ」
最後を締めるのは―――中西だった。
「8組の中西 廉です。野球は小中学校で計六年間やっていました。ポジションは外野、主にセンターを守ってました。…足には自信があります。よろしくお願いします!」 ペコッ
全体的にやせ型で、手足がヒョロッと長い……
確かに足速そうな感じがするなぁ
俺とどっちが速いかね?
「…今年は10人か。去年よりも多くの新入部員が来てくれて感謝している。経験者も多いようだし、こりゃウチの時代が来るかもしれないな(笑)」
吉田主将は嬉しそうに大きくうなずいた。
―――
主将:「…そうだな…先ずは君たちの実力のほどを知りたい。とりあえず、一人ずつ順番にノックを受けてもらいたいんだが、いいかな?」
…まあ、守備時の動作を見れば、そいつがどれくらい野球経験があるかだいたい分かるからな…
いっちょ、やってやりますか♪
…………
………
……
(初心者が3人、そこそこ上手いのが2人、残りはまあ普通ってとこか…)
ノックを見ていた大河の印象はそんな感じだった。
ちなみに、そこそこ上手かったのはやはりケンと中西で――ケンはグラブ捌きが、中西は足を活かした守備範囲が(中西は本当に足速い)それぞれ卓越していた。
残りは俺一人を残すのみとなった。
主将:「君で最後だな。
…おっ、君は確かシニア経験者だったね。硬式球にも慣れてるだろうし、少し強めにやってもいいかな?」
「…はい、大丈夫です」
後輩を相手にしても丁寧語を使うことないのに…と思う大河だった。
「じゃ、いくぞ」
部員一同が見つめる中、大河へのノックが始まった
「うめぇ」 「…何モノだ…アイツ」
ギャラリーからそういった声が漏れるのに何球もかからなかった。
それほどに大河の守備のレベルは高い。
守備範囲、グラブ捌き、送球。どれをとっても、新入部員たちの中では抜けていた。
大河が中々ボールを外野に抜かせないので、キャプテンのノックも段々とヒートアップしていき、強烈な打球が次々と大河めがけて飛んでいったのだが――
そのことごとくを処理していく大河。
そして
『ラスト!…ってやべっ』
最後の打球は芯を喰いすぎたのか、およそノックとは思えない程の強烈な打球だったが――
(…届く!) パシッ
大河は見事な横っ飛びでダイレクトキャッチ。
一本も外野に抜かせる事なくノックを終えた。
「すげ~守備力だな(苦笑)」
「ウチの内野陣レギュラー決まってないし、即スタメンじゃね?」
ギャラリーからも大河を称える声が挙がる。キャプテンも
「いや~いいもん見せてもらったよ♪冗談抜きで、既にウチの中で一番上手いんじゃないか?」
この人、上級生のプライドとかないんかな?
…仮にもキャプテンが新入生にそんなコト言っちゃいかんでしょ…
「…いや、俺なんてそんな大した選手じゃないですよ」
…そう、俺は知っている。自分より優れた選手など、いくらでもいるってことを
「そうか?まあ謙虚なのはいいが、もっと自信を持っていいと思うぞ。
…どちらにしてもうちにとっては貴重な即戦力だ。よろしく頼むよ」
「…はい」
なんかさっきから監督みたいな事言ってんな
ん?
そういや監督はどこにいるんだ?見当たらないが
…………………
「…1つ聞いていいっすか?」
「ん、どうした?」
「監督は今日は来てないんですか?姿が見当たらないんですが…」
「ああ…その事なんだがな…
…この前ふり…ろくな話ではないな、こりゃ
「実はここ15年ほど指揮を執っていた先生が、今年の3月を以て定年を迎えてな…退職してしまったんだ」
新入生の顔色が一様に曇る
(…入学してそうそう、何でこんな波乱続きなんだ?)
「一応、顧問の先生はいるから大会の参加なんかには支障はないんだが…」
それでも、日々の練習などで様々な弊害が出るのは間違いないだろう。
「まあ、君たちにも色々と苦労をかけるかもしれないけど、よろしく頼むよ(苦笑)」
…まあ、案外ノビノビとやれて良いかもしれないな
――――――
キャプテン:「今度の土曜日、1年vs2,3年の紅白戦をやろうと思ってるんだが、どうだろう?」
練習終了後、キャプテンから突然の提案があった。
キャプ:「1年が入って人数も増えたし、何よりキャッチャーが二人になったからな♪」
そう言ってキャプテンはケンに笑いかけた
「実戦で1年の力も見れるし、何より俺たち2,3年にとっても実戦慣れするいい機会になると思うんだが…」
…俺はいいアイディアだと思うが、皆の反応はどうだろうか…
…………………
「おもしれ~やろーぜ♪」
「ここできっちり1年坊主に先輩の威厳を示しておこうって訳っすね♪」
「キャプテン~、やり方が汚いっすよ(笑)」
…どうやら決まりだな…
――それにしても、キャプテンいじられすぎじゃね(苦笑)そういうキャラなん?
「お前たち、少し黙っていろ(怒)。
よし、じゃあ今週末紅白戦をやるぞ。メンバーとこ打順とかは任せる。みんなで相談して決めてくれ」
『分かりました』
「じゃ、今日は解散!」
『ありがとうございました!』
こうして大河の高校野球、最初の一日が終わった。
(…紅白戦…やるからには勝つ)