セレクション 前編
冒頭で登場人物紹介 No.3 加藤 健太
野球:右投左打 ポジション:捕手
バッティングはいまいちだが、インサイドワークに長ける頭脳派捕手。
外見:身長166cm 体重:60kg 平均的な体格。
顔立ち:インテリっぽい。メガネ着用。
大河の親友で、小学生時代は同じ野球チームに属していた。野球に関しては、基本的には好きだからやっているだけ。(大河いわく、センスはあるので、もったいないとの事)
その他の設定はまだ未定……今後状況に応じて追加していく感じで//
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11月某日、天候は晴れ。
大河:(いよいよ、来るべき時が来たか…出来れば来てほしくはなかったがな…)
大河は、この期に及んでまだ自分に自信が持てずにいた。全国でも屈指の名門のセレクションを受けようというのだ。無理もない感情と言えるだろう。
ーーー加えて
(…俺みたいなのが通用する世界なんだろうか?)
大河は、自分がチビである事に対して大きな劣等感を常に抱えていた。チビである事をバカにされたのは一度や二度ではない。そして何より、この小さな体ではホームランが打てない。野球の華であり自らの憧れでもあるホームランが。
(…けどもう後には引けねえ…やるしかない!)
「さっきから何一人でぶつぶつ言ってんのよ」
母、洋子から鋭いツッコミが入った。
「え、もしかして俺声に出してた?」
「そりゃもうはっきりと。…あんたご飯食べながらしゃべるのやめなさいよね」
「…すいません。…そりゃそうと、朝飯から『これ』はないっしょ」
俺の目の前には、朝食にもかかわらず『カツ丼』が置かれていた。
「何言ってんの!こういう時に験担ぎするのは当たり前でしょ♪」
「だからってなあ、朝からこんな脂っぽいもの食えねぇよ…普通でいいのに…」
「文句言わず食べる」
「はいはい…」
…モグ…モグ…
(おお、朝にカツ丼ってのも案外いけるもんだな)
「…大河」 「ん?」
「…頑張ってらっしゃいね。母さんは野球なんて全然出来ないから、こんな事ぐらいしかあんたにしてやれる事ないけどさ…」
「な~にバカな事言ってんだよ。それだけで十分だよ。………それに」
「…それに?」
「…俺が何不自由なく暮らせて、好きな事に打ち込めているのが、誰のおかげかって事ぐらい、ちゃんと分かってるつもりだから…」
「…大河…」
大河は箸をおいて立ち上がった。
「//カツ丼、朝食べても案外いけるもんなんだな。…じゃ、そろそろ行ってくるよ」
「大河なら絶対大丈夫よ。…いってらっしゃい」
「おう、…行ってくる!」
大河は決意を固め、家を飛び出していった。
【AM9:00 嶺王大付属練習グラウンド】
大河:「…すげぇな…」
大河が会場に着いて驚かされた事は二つあった。
一つ目
「なんつう豪華な設備だ…このグラウンドなんて、そこらの地方球場と遜色ねえし。しかも天然芝だし…それ以外の施設も色々あるみたいだしな」
二つ目
「…たくさん来てるなぁ…」
ぱっと見たところ100人はいるだろう。皆少なくとも、野球の腕に覚えのある連中に違いない。そうじゃなきゃ、そもそも受けに来るはずがないからだ。
(…こりゃ、一筋縄には行きそうもないな…)
ーーーセレクションが始まる。
『集合』
恐らく試験官であろう者の威圧的な声が会場に響き渡った。受験生は皆ホームベース付近に集結していく。ーーーそして
?:『今日は我ら嶺王大付属野球部のセレクションに来ていただき感謝する。各自が己の力を存分に発揮してくれる事を祈っている』
大河:(今のヒト、見覚えがあるな。…確か…!…そうだ!野球部の監督だ。夏の甲子園でテレビでみた事あったな。名将“武田監督”。)
武田監督の挨拶が終わり、続いて試験官が試験の手順と概要を説明していく。
『試験は運動能力測定試験と実技試験の二つに分けて行う。まず諸君には運動能力測定を行ってもらう。そこで一度目の合否判定を行う。その後合格した者のみで実技試験を行う。その実技試験をクリアした者が、晴れて我々野球部に入部する資格を得ることになる』
『…最後に一つ。我々は既に君たちとは別に特待生として20名程の新入部員を確保している。その為、最終合格者は…多くとも10名。君たちの結果次第では0人という事も十分あり得る。諸君らの健闘を祈る』
…ざわ…ざわ…
ーーー会場がにわかにざわついた。…無理もないだろう。ただでさえ狭き門なのを覚悟して来ているのに、下手をすれば、一人も合格出来ないかもしれないと宣言されてしまったのだから。
大河:(この中から、多くても10人とか…さすがに厳しいな…さてどうするか…)
『これから番号の付いたビブスを配布する。それに付いている番号がそれぞれの受験番号となる。受け取ったらポジションごとに別れろ。投手、内野、外野の3グループに分けて測定を行う』
試験官から受け取ったビブスには【70番】と刺繍されていた。その後、内野手のグループに向かった。
(…だいたい30~40人くらいか…みんないいガタイしてやがる…大丈夫かねぇ)
「まっ、今さら後には引けないし、なるようにしかならないだろ…」
【内野グループ】
『では、今から運動能力測定試験を始める。テストは主に筋力系の能力を図るものと、敏捷性の能力を図るものを行う。学校のスポーツテストと同じと思ってくれて構わんぞ』
『それでの結果を総合的に吟味し、我々の判断で合否を決定いたします。…ですので、あらかじめ言っておきますが、すべての項目でいい成績であったとしても、必ず合格というわけではありませんし、その逆であっても必ず不合格となるわけではありません』
大河:(要するに、現状の力だけじゃなくて、今後の伸びしろとかも考慮するって事か?後は、一芸に秀でたスペシャリストにもチャンスありってところか…むしろ俺にとっては好都合だな…)
「…とりあえず筋力系の方は期待できん。敏捷性の方でアピールするしかねぇな」
ーーー試験開始。
ーーー二時間後
『これで能力測定試験を終了する。一時間後に合格者の受験番号を掲示板に記載する。その後、合格者は別グラウンドに移って実技試験を行う。では一時解散』
《受験者たち》
「お前どうだった?」
「多分無理じゃないかな…最終合格者の数考えたら、ここでかなり人数絞るだろうし」
「確かに(汗)。もう帰り支度始めとくか?」
「そうだな♪」
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大河:『…………』
(…俺もはっきりいって合格できたとは思えん。期待してくれた奴らには申し訳ないけどな…凄い身体能力してた奴が何人もいたな)
ーーー大河の能力測定試験の成績は走力や敏捷性の項目を除けば、極めて平凡。大勢の優秀な受験者、少ないであろう合格者の事を考えたら、大河は合格できる自信が全くなかった。
「どこの高校行くか、もう一度考え直さないといけないかなぁ…」
《1時間後》
掲示板に合格者の番号が記載された。ーーーそこには
【投手】
……5 ………21…………53………………111…………
大河:(…内野手は…)
【内野手】
…17……43…………66…“70”………………105…
大河:「マジかよ!?…受かってやがる(汗)」
正直なところ、合格出来ると思っていなかった大河は、受かった喜び以上に困惑していた。
(…俺に何かしら光る物でもあると思ったのか。…正直なところ、俺自身全く思い当たらないが…)
「…でもまあ、次の実技試験ならなんとかなるかもしれねぇな。野球は身体能力を競うスポーツじゃねえし。…守備とかだったら少しは自信もあるしな」
『合格者はこれから別グラウンドに移動してもらう。そこで二次試験である実技試験を行う。不合格者は、残念ながらここで解散となる。ここでの経験を糧にしてこれからも頑張って欲しい。………以上』
大河は、受験者のおよそ3分の2が帰って行くのを見て、試験官が彼らよりも自分を選んでくれたという事実に、少しだけ誇らしい気分になった。同時に、更に気を引き締めていかねばと感じるのであった。
【嶺王大付属セレクション概要】
受験者総数:135名
身体能力測定試験合格者
・投手:12名
・内野手(捕手含む):20名
・外野手:12名 計44名