進路
地区名、チーム名、学校名など本当にありそうな感じではありますが、全て創作です。
冒頭で登場人物紹介 No.1 水城 大河
野球:右投右打、守備は主にショート。(内野ならばどこでも一通りはこなせる)
バッターとしては、パワーは無いがバットコントロールは良く、流し打ちが得意。選球眼も優れているチームのリードオフマン。
守備は足の速さを生かした守備範囲の広さに特長がある。
外見:身長 150cm、体重45kg(中学3年夏時点)
顔立ち:若干童顔だが、カッコいい部類に入るか?目力があると周りから言われる。
特技:家事全般
本作の主人公。これからどのような人生を歩むのか?まだ誰も知らない。(…筆者も知らない//)
ちなみに名前の由来は、名字の『水』から連想できる事と『虎』年生まれである事を掛けている、との事。
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「……ハァ~」
真夏の太陽が照りつけ、セミの鳴き声が鳴り続ける閑静な住宅街の一角を、野球道具を抱えた足取り重い少年がうつむき加減で歩いていく。
大河である。
(試合に負けたのも…だけどそれ以上に…)
「…才能か…」
大河は誰にも話した事はないが、プロ野球選手になりたいという夢を持っている。加えてその努力もそれなりにしてきた。ランニングや素振りといった自主練は野球を始めて以来の日課にもなっている。
だから野球に関してはそれなりに自信といったものはあったし、少なくともこれまで「コイツには勝てない」という選手に出会った事はなかった。ーーーそれが………
(……初めてだわ……打てない、勝てないと
感じたのは)
「やっぱ、アイツは俺なんかが及びもつかない位努力してんのかなぁ。それとも……」
『圧倒的才能の前には無力だよ』
アイツ、『青山 龍』が俺に放った一言が俺の不安を煽る。
(俺の努力なんて、所詮は無駄な努力にすぎないのかね?)
答の見えない疑念に、大河の心は沈み、足どりはますます重くなるのだった。
閑静な住宅街の一角にある築20年は経っているであろう小さなアパート。白のペンキはところどころ剥がれて、全体的にくすんで見える。そこの203号室が水城家の自宅である。
「…ただいま…」 「おかえり~」
慌ただしくも元気な声が帰ってくる。母の洋子である。
「…その覇気のない声っぷりから察するに、…負けちゃったか…。最後だったのに観に行ってやれなくてゴメンね」
「…いいよ、別に。それより、これから夜勤だろ?時間大丈夫か?」
「っ!?やばい!もう行かなきゃ。大河悪いけど、あとよろしくね」
「ああ。適当にやっとくよ」
「あっ、そうだ、大河。明日久しぶりにご飯でも食べに行きましょ♪試合観に行けなかったお詫びも兼ねてね。じゃ、行ってきまーす」
そう言って、母は慌ただしくアパートの階段を降りていった。
水城家は看護婦をしている母洋子と子である大河の二人暮らしである。父は交通事故で6年程前に他界した。
(ちょうど俺が野球を始めてすぐの頃だったな…)
夕食の仕度をしながら過去の記憶を辿る大河。
父が死んで、母は当時は子どもだった俺でも分かる位に落ち込んでいた。加えて、俺を養っていくために勤務量を増やさねばならなかった。夜勤が増えたのもこの時からだろう。
(今思えば、あれだけ野球に打ち込んだのは、母さんに野球で活躍しているところを見せて喜んでもらいたかった、ってのもあったんだろうな…)
今でも、母は1ヶ月の内少なくても十日は夜勤をこなしている。
(母さんにはホント頭があがらないわ)
大河はメシを作りながら、母が見に来てくれた試合で打ったサヨナラヒットと、それを見て泣いて喜んでくれた母の顔を思い起こしていた。
翌日、昼ーーー
大河は「港南シニアの御苦労様会」に参加していた。…といってもただファミレスでご飯を食べながらダベっているだけなのだが。
その席で、
「な~、お前高校どこにするか決めた?」
「いや~ぜんぜん♪推薦貰える程野球も上手くねーし、頭の方はもっとアレだからな~」
「ぶっちゃけウチで野球推薦貰えるとしたら大河だけだろ」
「ま~な」 「オイ、大河~」
大河:「ん?」
「お前高校どうすんの?さすがにお前はいくつか推薦とか特待生っつった話きてんだろ?」
大河:「…まあ、確かにいくつか話はもらったよ。けど、家から通える範囲の学校じゃねぇし、学費を免除してくれるってわけでもねぇからな。…全部断ったよ」
「…そうか。お前ん家は確か片親だったな。…お前も色々苦労してるんだな」
ーーー雑談は続くーーー
「でもよ、どの高校を選ぼうと結局ほとんど同じじゃねぇ?なんてったって神奈川県にはあの《嶺王大付属》がいるんだぜ?」
「…だよなぁ。大体もう何年連続で甲子園出てんだよ?5年くらい?」
大河:「7年だな。その内2回が全国制覇」
「スゲ~。さすが『東の横綱』だな。って、
お前やけに詳しいな」
「甲子園は毎年良く見てるからな」
ーーーさらに雑談は続くーーー
「要するに、この神奈川県で甲子園に出たいなら《嶺王大付属》に入るしかない訳だ」
「…まあ、そうだな…。けど、あそこは無理だろ!それこそ日本中からバケモンみたいな連中が集まってくるんだぞ」
「そういや、昨日最後出てきた青山とかいうヤツ。アイツ関西じゃ知らない人間はいないって位凄いピッチャーらしいぜ。すでに特待生での嶺王進学が内定してるって話だぜ」
大河:(アイツやっぱり凄い選手だったんだな。性格は悪いけど)
「でもまあ、推薦貰えなくても、一般入学から野球部に入るって方法も無いことはないな」
「それが無理なんだな~」 「何でだよ?」
「セレクションがあるんだよ」 「は?」
「毎年11月位に、一般入学者を対象にな。それをパスしてないと、入学してから野球部に入ろうとしても門前払いだそうだ。厳しいだろ?」
「俺らとは住む世界が違いすぎる(汗)」
大河:(アイツらなんであんなに色々詳しいんだ?いや、そんな事より…みんな色々考えてんだなぁ…進路か…俺も色々考えないとな)
ーーー夜ーーー
「此処一度行ってみたかったんだよね♪」
最近家の近くにオープンしたうなぎ料理屋に大河は母と来ていた。
母:「特上うな重二つ!あとビール中一杯!」
大河:「おいおい…特上なんて頼んで大丈夫かよ!?」
「あんたはお金の心配しなくていいの!……それより……大河、昨日の試合で何かあった?」
「…!!」
「いつも以上に落ち込んでるように見えるわよ」
「………」(母親はなんでもお見通しってか)
大河は昨日の試合の事を話した。
母:「へ~ぇ。そんな凄いコがいたんだ。…で、あんたはどうしたいの?そのコに勝ちたいの?」
「まあ、勝ちたいというより見返してやりたいって感じかな?もっと上手くなりたいとも思ったし」
「あんた、プロ野球選手になるのが夢だもんね」
「は?そんな事一言も言った覚えがないんだが」
「な~に言ってんのよ♪あんた野球始めた頃は口癖のように言ってたわよ『プロ野球選手になってホームラン打つんだ~!』ってさ。今でも自主練とかしてるから本気なんでしょ?」
「…………」(誰にも言っていないとはなんだったのか)
「ねぇ、もしあんたが本気でプロになりたいと思ってるんなら、さっきあんたが言ってた嶺王大付属だっけ?そこのセレクション受けてみたら?」
「はぁ?俺なんかじゃ無理だろ?それにもしパスしたとしても、あそこ私立だろ?特待生とかじゃないと学費とか入学金とか半端なく高いぞ」
「大河!!あんたが私の心配してくれるのは嬉しいよ。でも、母さんはあんたが自分の事以外の事を気にしすぎて、自分の夢とか希望を捨てるような事になってほしくないの!!…本当はチャレンジしてみたいんでしょ?顔に書いてあるわよ」
「いや、でも…別に嶺王じゃなくても野球はできるし…」
(…確かに毎年多くのプロ選手を輩出する嶺王大付属に入れればプロってのも夢物語じゃなくなるかもしれないけど…でも…)
「さっきも言ったでしょ♪子どもがお金の心配をするもんじゃないよって。…で、改めて聞くけど、あんたはどうしたいの?」
「俺は………」
「男ならウジウジしない!セレクション受けるの?受けたくないの?」
「俺は……プロになりたい!無謀かもしれないけど自分の可能性を試してみたい。嶺王のセレクション…受けてみるよ」
(…やれるだけやってみるか!もし駄目だったとしても何も二度と野球が出来なくなるわけじゃない)
「ヨシ!大丈夫、大河なら絶対合格出来るよ」
『特上うな重二つ、お待たせしました~』
「おお!美味しそ~。さ、食べよ、食べよ♪」
「……ありがとう。母さん」
「ん、大河なんか言った?」
「いや、このうな重うまいなって言ったんだよ」
母:「それより、あんた。もしセレクション落ちたら、公立高の受験もする事になるんだから、野球だけじゃなくてしっかり勉強もしときなさいよ!」
大河:「…さっき絶対合格出来るって言ってたよね(汗)」
「それとこれとは別!!」
「……完全に酔っぱらいだな。…つ~かもうビール何杯目だよ…」