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リスタート

……はぁ……はぁ……


【7月下旬】


梅雨も空けて本格的な夏がやってきた。


そんな中、強烈な日射しが照りつける市街地を一人黙々と走り続ける少年の姿があった。


この物語の主人公、水城大河である。



(……くそ、完全に体が鈍ってやがる。中坊の頃はこれくらいの距離じゃピンピンしてたんだがな……)


まあ、半年以上もご無沙汰してたんだから当然か。


と言いながら、かれこれ一時間以上は走り続けている。



『この夏の間に自分を一から鍛え直す』



嶺王のセレクションに落ち目的を見失った大河は、その間トレーニングを一切していなかった。


お陰で、長期間放置していたバイクを起動させるが如く、体が突然の負荷についていっていない状態だった。


先ずはこの夏の間にしっかりとメンテナンスを行い、それからグレードアップを図る


それが大河の描く青写真であった。








一方、神奈川県大会はーーー



『スットラック、アウッ。ゲームセット』



神奈川県大会は結局、嶺王大付属が磐石の戦いぶりを見せ、8年連続の甲子園出場の快挙を達成した。


そして、何よりも話題をさらったのは


『スーパー1年生 青山龍』だった。


その圧巻の投球には、辛口で鳴らす解説者たちも揃って絶賛しーーー


「この夏、日本中にその名を知らしめる事になる」


と言わしめた。



ーーー嶺王大付属、そして青山龍


自分にとって避けては通れない相手。


越える事は出来ないかも知れない。


それでも


抵抗の爪痕くらいは残してみせる。



その為にも


「もっと巧く、もっと強くなりたい」











ーーーーーー



早々に敗退を喫した学校では、早くも新チームが始動していた。


我が校、港南一高でもーーー


「最後はあんな終わり方になってしまったが、監督不在の中俺みたいなのに付いて来てくれてありがとう」


吉田主将の最後の挨拶


主将含め3年生の表情を見るに、敗戦のショックは引きずってはいないようだ。


ーーーそして


新キャプテンには山口さんが指名された。

(※第13部冒頭人物紹介参照)


2年生の中では、最も野球好きで最もセンスのある人だ。(※守備は除く)

守備難でレギュラーではないが、明るくムードメーカーで人望もある、無難な人選だと思った。


新チーム発足に当たり、最も苦慮したのがスタメン選考であった。


何しろスタメン9人の内、俺(大河)と2年生二人を除く6人が一気に抜けてしまったのだ。


何よりも深刻なのが

2年生部員が5人(内二人は高校から始めた素人)

1年生部員が10人(内三人は野球未経験)

総勢わずか15人という層の薄さ。


(これじゃあ、紅白戦も出来やしねえ……)


ーーー紆余曲折の末、何とか暫定のメンバーが決まった。


1.中西(中) 【1年】

2.小坂(二) 【1年】

3.水城(遊) 【1年】

4.紺野(三) 【2年】

5. 南 (左) 【2年】

6.新倉(一) 【1年】

7.加藤(捕) 【1年】

8.速水(右) 【1年】

9.有隅(投) 【1年】


投手

有隅ー速水の継投


代打の切り札 山口


1年生中心のメンバー構成となった。

弱小チームの宿命ではあるが、3年生の抜けた穴は大きく、大幅な戦力ダウンは避けられそうにない。


山口さんをスタメンにするという意見も出たが、最終的には代打の切り札のポジションに収まった。


現状やむを得ない選択ではあるが、大河の考えは違った。


(この新チームでそこそこの所まで目指すとするなら、この人の打棒は欠かせない)


確かに現状、この新キャプテンは我が校のような弱小クラスのチームであっても守備につけるレベルではない。

しかし、逆にバッティングは強豪校の主軸にも劣らないセンスがあると大河は感じている。


守備さえ良くなればーーーいや、せめて普通になれば


正直、誰でも練習さえすれば少なくとも普通のレベルには到達できると思う。


後はやるかやらないかだ。


(……そして、それは俺が決める事じゃない)



とにもかくにも、監督不在・部員僅か15名という、文字通りのドン底から我が野球部は再スタートを迎えた。



ーーーーーー



いつもの神社に、一人素振りをする大河の姿があった。


あの敗戦の日、再出発する事を誓い、それから2週間毎日ここに通い続けている。


(……こっちの方も随分鈍っていたようだな。この2週間でマメのできる事、できる事)


………………


今、自分のしている事にどれだけの意味があるのか、正直分からない。


いくら自分だけが上手くなったとしても、チームが強くならなければそれを分かってもらえない。


そして、それはウチの野球部では難しいだろう。


(山口さんの事にしてもそうだ。俺からとやかく言う筋合いはない)


そう、結局は本人次第なのだ。


自分の事にしても、そう



俺は、自分のしている事が、高確率で何の意味も為さないであろう事を分かっている。



それでもいい。



俺が俺の意志で決めた事だ。誰にも止める権利はない。



あの日、俺は一つの誓いを立てた。



残り2年ーーー自分の全てを野球に捧げる。



自らの掲げた夢、プロ野球選手


それを信じて頑張って来たこれまでの自分に対して、今の自分が出来る唯一の事、それはーーー


自分が本当に納得出来る『答え』を見つける事しかない。


他人から与えられるモノじゃない


野球ととことんまでに向き合った先に見えるだろう『何か』を掴みに行く。





自分が今何処にいて、これから何処に向かっていくのか


この神社同様、周囲は闇に覆われているーーーが


それでも大河は新たな一歩を力強く踏み出した。


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