紅白戦 vs2.3年生チーム 前半戦
登場人物紹介
・吉田 一高野球部現主将。ポジションはキャッチャー。
・小坂 一高野球部新入部員の一人。内野ならどこでもそれなりにこなすポリバレントプレイヤー。小技が得意。
・新倉 同じく新入部員の一人。ポジションはファースト。身体が大きく、パワーだけなら新入部員の中でもトップだが、バットに中々当たらない。
・速水 新入部員その3。ピッチャー。まずまず速いストレートと超絶ノーコンを併せ持つ。
・有隅 その4。同じく投手。超遅球、まずまずのコントロール、それなりの変化球。
(同期の4人は今後主要キャラになる可能性あり)
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(念のためメンバー表をもう一度)
【1年】
1.中 中西
2.二 小坂
3.遊 水城
4.一 新倉
5.捕 加藤
6.右 速水
7.投 有隅
8.三 乾
9.左 渡瀬
【2,3年】
1.二 杉原 (三年)
2.右 建川 (三年)
3.遊 山口 (二年)
4.三 森川 (三年)
5.左 長谷川(三年)
6.捕 吉田 (三年)
7.一 紺野 (二年)
8.中 南 (二年)
9.投 芳野 (三年)
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【一回表 2,3年チームの攻撃】
左のバッターボックスに一番の杉原先輩が入る。
大河:(練習を見てる感じだと、この人は積極的にブンブンバットを振っていくタイプだ。初球の入り、気を付けろよ…)
が、しかし―――
ピッチャーの投じた初球は、まさに打ち頃の真ん中ややインコースよりの直球。
超積極的なバッターがそんな絶好球を見逃すハズもなく……
『ッキィィィーン』
快音を残して打球は一二塁間を痛烈に破るヒットとなった。
(だから、言わんこっちゃねぇ…むしろよくシングルヒットですんだわ。…こりゃ先が思いやられんなぁ)
いきなりのヒットで、ますます萎縮したのか、続く二番の建川先輩に対しては、バントの構えをしているのも関わらず、ストライクが全く取れずフォアボールを与えてしまう。
ノーアウト一塁二塁で三番の山口先輩を迎える事となった。
(やっぱ、この人中軸か…)
練習を見ていて、バッティングはこの人が一番だと思っていた。
とにかく、当てるのが上手い。二年生ながら三番を任せられるのも納得だ。
(この人のバッティングセンスは、この学校にいるレベルじゃない気がするんだけどなぁ…なんかワケありかな?)
そんなバッターと、まだアウトが一つも取れずにテンパりまくっているピッチャーの対決
結果は………
『キィィン』
アウトコースのボールを逆らわずにレフトへ流し打ちのクリーンヒット
打球が速く正面だったが、二塁ランナーは迷わず三塁を蹴った。
レフトを守っているのが野球初心者である事を知っているからだ。
山口:(悪いな、上級生って立場的には弱点を突いたりすんのは大人げないかもしれんが、それ以上に負けるわけにはいかんのよ。俺らにもメンツってもんがあるからな)
結果、2,3年チームが早くも一点先制、しかもまだノーアウト一二塁という大量失点の危機に晒される事となった。
堪らず、内野陣がマウンドに集まり、キャッチャーのケンがピッチャーの有隅に声をかけるが……
(完全に動揺してるな…ケンの言ってる事も全く耳に入ってねぇ…)
大した効果も得られぬまま円陣は解け、試合再開。四番の森川先輩が打席に入った。
(体格は普通。それでも四番打ってるんだから…試してみるか…)
初球ボールで二球目、ストライクゾーンに来た甘いボールを忠実にセンター返し
ボールはピッチャーの足元を抜けていきセンターへ抜け―――
「よっしゃ♪もう一点」
『パシィィ』
「なにぃ!?」
誰もがセンターに抜けると確信した打球をグラブに納めたのは………
あらかじめセカンドベース寄りに守備位置を移していた大河であった。
大河は自ら二塁ベースを踏み、まず1アウト。
続けて、突っ込んできた一塁走者をジャンプで避けながら一塁へ送球。
『アッ、アウトォ』
一塁もアウト。見事ゲッツーを完成させた。
「あれが捕られるとかないわ(-_-;)」
「アイツ、パネェ(゜ロ゜)」
大河の守備に先輩たちも改めて驚いているようだ。
一方
有隅:「(ノーアウト一二塁があっという間にツーアウト………。しかも今のは完全にやられたと思ったのに)」
驚きのプレーに有隅は唖然としている。そこに―――
『バシィィィ』 !!!
大河が強烈なボールを有隅のグローブへ投げ入れた。
それは、口下手な大河らしい無言の檄
有隅にとって、それはどんな励ましの声よりも頼もしく感じられた。
(よし!!まだこれから……)
有隅の目に生気が戻った。
ケン:「(サンキュー、大河。やっぱお前サイコーだぜ。これならまだイケる!)」
大河のビッグプレーで目が覚めた有隅は、続くバッターをボテボテのセカンドゴロに討ち取る。
大量失点の危機だったが、何とか最小失点で切り抜けた。
(やれやれ…何とか一点で凌いだか)
大河がベンチで安堵の溜め息を付いていると…
「お前何であの打球取れたわけ?普通センターに抜けると思うんだが……まあ、こっちとしちゃ助かったんだけどさ」
ケンがさっきのプレーについて尋ねてきた。
「……一言で言えば、カンだ。あそこにボールが来そうな気がした」
「ハァ?なんだそりゃ」
大河のとんでもない返答にさすがのケンも目を丸くした…が
「四番の、森川さんだっけ?あの人どうみたって四番ってタイプじゃないだろ。でも四番を打ってる。って事は何かしらの理由があると思った」
「……で?」
「多分チャンスに強いんだと思う、あの人。…そういうタイプのバッターはチャンスの場面になるほど、基本に忠実なバッティングをするんだよ。バッティングの基本って言ったら………
「センター返しか!」
「…体格的に長打力があるとは思えなかったからってのもあるな。そういう選手は基本的にボールを引っ張ろうとは考えない。だから思いきって三遊間は捨てる事にして、セカンドベース寄りに守ってた。…と言ってもかなりギリギリのプレーだったけどな」
「…………」
(何がカンだよ!?コイツ、あの局面でそれだけの事を考えていたってのか。俺なんか久々の実戦で自分の事だけで一杯一杯だったっつうのに)
「…ん、どうした?」
ケンの返事が来ないので、不思議に思った大河が声をかける。
「…いや、お前は全く大したヤツだよ」
お前のその野球センス、そして俺が声をかけてもどうにも出来なかった有隅を、一発で立ち直らせる、その何とも形容し難い存在感。
…どちらも俺には持ち得ないモンだ
「は?何言ってんだお前?」
………人の気も知らんでコイツは……まあ、いいか
それよりも、今は―――
「…勝とうぜ!まだ試合は始まったばかりだ」
「ああ」
1年生チームの反撃が始まる
――――――
【一回裏 1年生チームの攻撃】
マウンドにはチームの現エースである芳野さんが上がった。
右投げのオーバースロー、130kmそこそこのストレートに、落差のあるスライダーが武器のピッチャーだ。
まずまずのピッチャーではあるが、突き抜けた長所がないというのが、客観的な評価であろう。…故に
(大量点はこっちのメンツを考えれば不可能に近いが、2,3点なら取れる)
大河はそう考えていた。
特に重要なのが打順が上位に回る回。下位打線が絶望的なだけに、上位打線で確実に点を取ることが絶対に必要なのだ。
その為にも―――
(…先頭出ろよ)
大河は打席に立つレンに視線を送った。
ややバットを短く持って体を小刻みに揺らしている。あれでタイミングをとっているのだろう。
(とにかく塁に出ること、僕にできるのはそれだけだ!)
そして―――
『…ボール、フォアボール』
レンは結局一度もバットを振ることなく、フォアボールを選び出塁した。
当初、甘いボールが来たら打ちに行こうと考えていたが、甘い球どころかストライクすら一球も来ることはなかった。
大河:(こりゃ立ち上がりが苦手なタイプかもしれん。低めを狙ったのが、全部すっぽ抜けて高めに行っちゃってるし。初回何とかものにしないと…)
レンに走らせるという強攻策も選択肢としてはあったが、先ずは同点という事で皆の意見が一致した。
二番の小坂が送りバントを決め、1アウト2塁で三番の大河を迎えた。
(芳野さん、明らかにコントロールを乱している。ここは甘い球を確実に叩く)
そうして待つこと三球目……
(!来た!こいつを確実に…) グッ
『ッキィィィン』
甘く入ってきた120km後半の真っ直ぐを見事センター前ヒット
(ちょっと当たりが良すぎたか…どうか?)
ホームへ帰れるか微妙な当たりだったが、ランナーのレンは躊躇なく三塁を蹴った。そして―――
『セーフ』
スライディングもせず悠々とホームイン。その早さには流石の大河も思わず目を見張った。
(ホントはえーな!アイツ。走塁技術もしっかりしてるし。あの足だけでも相当な武器になるな…)
その後、四番の新倉、五番のケンが倒れ追加点は奪えなかったが、大河のヒットとレンの好走塁により、1年生チームが見事試合を振り出しに戻した。
その後、試合は膠着状態へ。
芳野さんは二回以降与えたランナーは大河へのフォアボールのみと完全に立ち直り
一方の有隅も、ランナーを出しながらも4回まで何とか無失点で凌ぐ。
しかし、五回、三順目に入った上位打線についに捉えられ……
三番四番の連続タイムリーで二点のリードを奪われてしまう
(球が遅いだけに目が慣れてきちまうと苦しいか、この回までかな)
後続は何とか抑えたものの、二点ビハインドの苦しい展開となった。
そして、試合は後半戦に突入する。