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その青い世界で第一歩  作者: nono
青の迷宮
24/25

二十三話 魔法の威力


 幾度か休みを間に挟み、今日から46階層の攻略だ。


 45階層以降の『森林』エリアはより複雑になった所為で、攻略は中々捗らない。探索範囲が何割増かで拡大しているからだ。

 広くなった分だけ階段を探す為に歩き回らないといけない。


 今までの迷宮だと遠くの方に壁が見えた。その壁とマップを照らし合わせれば、何となくだが現在地が分かる。しかし、『森林』エリアは高い樹木と生い茂る葉っぱでどこへ向かえば良いのか分からない。

 ある程度進んでは帰還し、マップを頼りに再度挑む。こうすれば無駄な行き帰りを繰り返す事になり、時間を浪費する。


 それを防ぐには何をすれば良いのかと言うと、つまり、迷宮内で1泊、あるいは2泊と泊り込めば良いのだ。


 自信が有るのならばどれだけ潜っていようが問題はない。

 しかし、長期間の探索は意外と神経を使うし疲労が溜まる。探索用の道具(回復薬や保存食)が切れた場合などは命にかかわる。

 つまり、帰還が出来なくなる事も視野に入れなければならない。


 今回は46階層から50階層に行くまで、テレポーターが在る位置に着くまで連続で泊り込み、問題なく探索が続けられるかの試験だ。


 ここより深い階層へ行けば、数日迷宮内で過ごす事など当たり前になるらしい。それを見越しての試験だと思えばいい。


 まぁ、それも行き帰りを繰り返しても全然進めない時に限ってだけどね。時間が許せる範囲で行っては戻るの繰り返しが安全だ。




 ギルドのいつものテーブルに皆が集まりミーティングを開始した。


「今日から最短で3日。最長で1週間(8日)の泊り込み探索が始まる。

 準備は良いか?」


「大丈夫です。生鮮食品も日持ちがする物から、3日以内に食べなければならない物を取り揃えました。

 全員で1日3食食べても10日保つように買い込みましたから」


「わたしとフィービーも野営に必要な道具を一緒に揃えたよ。

 毛布とか調理器具、予備の魔物避け結界もバッチリ」


「前にメリンダとエルマの3人で使ったのが有ったから楽だった」


 エルマ、メリンダ、キャメル、フィービーの順に報告をしている。報告には無かったが、エルマも色々準備をしていた。

 しかし、俺だけは何もしていないのだが……。


「俺は準備に参加しなくても良かったの? 何か気が引けるんだけど……」


「何を言っている。セージには今まで我々の装備を整えたり、"薬"を作ったりと世話になったではないか。

 この様な準備ぐらい私達でもこなせるのだ。今は世話になっていてくれ」


「みんな、ありがとう……」


 皆の心遣いが身に沁みるよ。



「クエストは何時もの通り植物の採取だが、今回のは薬草や毒草、木の樹皮や樹液、花やキノコといった秘薬の素材を、どんな物でも10キログラム集める物を選んだ。

 期間は10日後までなら何時でも良いらしく、更に1つの種類を10キログラム集めても達成基準に達する、との事だ。

 これなら探索しながらでも容易に集める事が出来るだろう」


 このクエストは優しい部類だな。


 迷宮は面白い物で、クエストの中には樹木の伐採も有るのだ。

 迷宮は珍しい樹木や鉱物を創り出す。魔物の出現度が高いのはいただけないが、それを無視してでも手に入れる価値の有る物が溢れている。しかも、迷宮の内部構造が変化すれば、例え樹木が伐採されてもまた生えるのだ。

 これを逃す手は無い。


 そんなこんなで面白クエストを探せば沢山有る。今は探索に性を出しているから、いつかそれを探してクエストを受けるのも良いかもしれないな。




 エルマが選んだクエストを受けて、迷宮へ挑む。



 45階層には3日前に潜り、攻略した時点で帰還。そして2日間を休息に当てた。

 だから、45階層から46階層への道程は把握済み。


 適度に戦闘を繰り広げ45階層の階段を下りた。


 ここからは新しい階層だ。気を引き締めて行かなくては。



 今日の隊列は俺が先頭で、続いてメリンダ、フィービー、キャメル、エルマの順だ。


 45階層からは、キラービー、クラッシュモンキー、オーク、ウッドイーターの他に、懐かしいコボルトが出てくる。


 だが、ただのコボルトではない。戦士、弓使い、魔法使い、信仰使いの4種類が居る。


 戦士は白打にこん棒、剣や槍などで攻撃してくる。

 弓使いはその名の通り弓矢の矢を飛ばす。

 魔法使いは魔法を詠唱するし。

 信仰使いはコボルトが信仰する神に祈りを捧げ、神の奇跡を魔法として使う。


 これらの魔物が他の魔物と連携を取って襲って来るのだ。


 遠距離攻撃を持つ魔物が多い所為で、大抵の事は対応出来る俺が先頭に立つ事になった。


 そして、探索30分後。さっそく出番が来た。



「――!? 敵襲!」


 俺は素早く抜く事が出来るスローイングダガーを引き抜き、猛スピードで飛来する矢を弾き飛ばした。


 矢が飛んで来た方向を向けば、木々の隙間から数体のコボルトを確認出来た。正確な数と種類までは分からないが、少なくとも5体は居ると思われる。


 俺は気配を探り、そちらの方向に居るコボルト以外が居ないかを探った。


「エルマ、周囲には向こうのコボルト以外に魔物は居ない!

 2人で行こう!」


「了解した。

 メリンダ、フィービー、キャメルは援護を頼むぞ!」


「はい!」


「うん」


「了~解!」


 俺とエルマは並んで走り出した。


 後ろからは少し遅れて他の3人も付いて来るのが分かる。

 そして、俺達へ補助魔法の支援とゴブリンへの攻撃魔法が飛び出した。


 俺達への補助魔法は発動した。キャメルが使っただろう火属性補助魔法がエルマの長剣に纏わり付き、その刀身を燃え上がる炎で覆った。メリンダの障壁魔法も俺とメリンダの体を守る壁となった。


 しかし、フィービーの魔法は不発に終わった。


 いや、正確に言うなら発動はした。しかし、先頭に立つ2体のコボルトが持っていたタワーシールド(体の半分が隠れるほどの盾)に、フィービーの風属性攻撃魔法が防がれたのだ。


 フィービーが放った魔法は『飛空斬(エアスライス)(ひくうざん)』と言い、半月状に空気を圧縮して敵を切断する攻撃魔法なのだが、タワーシールドに触れた瞬間に四散した。

 多分後ろに控えている信仰使いが魔法防御の魔法を付与したらしい。


 飛空斬の四散状況から見て、もうワンランク上の魔法を使わなければ全て防がれそうだ。


「フィービー! 後衛に攻撃魔法を!」


「分かった」


 そうは言ったが、前衛のコボルトが邪魔で後衛に魔法を当てるのは難しいだろう。

 俺もあのタワーシールドの所為でスローイングダガーを防がれそうだ。


「セージ、盾を持つコボルトを至急仕留めるぞ」


 エルマも俺と同じ結論に至った様だ。


 走る速度を速めた。



 近づく間にも矢を打ち込まれたが、ネージュを前方に構えて飛来する矢を防いだ。ネージュは大剣だけの事はあり、幅広な刀身で容易に防御が出来る。


 コボルトの推移を睨んでいたら魔力が膨れ上がり、前衛のコボルトが左右にずれた。そして、その隙間からコボルトの魔法使いが見えた。


「エルマ、来るぞ!」


 俺の忠告と同時にコボルト側で魔力が弾け、炎の矢が幾つも飛んで来た。

 だが、本物の矢と違って赤い矢は目立つ。しかも普通の矢と速度が変わらないのだ。余裕を持って弾き、防いだ。


 出来れば避けたかったのだが、後ろには仲間が居るのでヘタに避けたら被害が発生してしまう。エルマもその事を察したらしく、長剣を手足の様に軽々と扱い炎の矢に当てた。

 炎の長剣と炎の矢では、実際に質量を持った長剣が勝ったみたいだ。炎の矢は四散した。



 この時点で魔物の数と種類が分かった。


 魔物は全てコボルトで、7体居る。種類は前衛で盾を構えて短槍を持つ戦士が2体と、剣を持つ戦士が後ろに2体。弓使いが1体。魔法使いが1体。信仰使いが1体だ。


 とりあえず前衛を倒さないと、フィービーの攻撃魔法が無力化されてしまう。急がないと。


 瞬く間に、コボルトの図体が大きく見える様な速度で進む。その間も矢は飛んで来るし、攻撃魔法も飛んで来るが、辛うじて避ける事で負傷を逃れた。

 後ろに付いて来ていた3人は邪魔になると理解して、真後ろから僅かに横へずれていたので被害は無かった。


 ある程度近づくと味方誤射を恐れたのか遠距離攻撃がやんだ。それを合図に構えを防御から攻撃へ移行する。


 エルマが相対するコボルトは盾をずらし、短槍をエルマに向けて攻撃体勢になる。それに対して俺と相対するコボルトは盾をシッカリと構え、防御体勢を崩さない。


 俺はコボルトが構えた盾の内側へ向けて力一杯ネージュを当てて振り抜く。


 コボルトも強烈な攻撃が来る事を考え、力を籠めて踏ん張っていただろうが、俺に力負けして盾を大きく外側に弾いた。


 がら空きになったコボルトへ、ネージュで体を突く。

 衝撃で浮き上がったコボルトの体を持ち上げたまま前進する。


 そして、その後ろに構えていた信仰使いへ飛び掛る。


 弓使いの矢が飛んで来るが、ネージュが刺さったコボルトに突き刺さり俺まで飛んで来ない。


 信仰使いのコボルトに攻撃が出来る距離まで近づくと、ネージュが刺さったコボルトを左手で弾き飛ばす様に弓使いの方へ放り投げる。その時点で投げられたコボルトは絶命していたから、後数秒で消えるが目くらましにはなるだろう。


 その僅かな時間を有効に使い、信仰使いを斬りつける。


 信仰使いは自分にも防御魔法を施していたのか、斬りつける時に僅かな抵抗を感じたが、それすらも合わせて切り裂いた。


 この時、左奥に固まっていた戦士1体と弓使い1体がフィービーからの攻撃魔法を受けた。右には俺とエルマ、そして戦士1体と魔法使い1体居たので、こちらには撃てなかったみたいだ。



 俺とエルマの視線が合わさり、目でエルマに「戦士を相手取れ」と伝えた。エルマは軽く頷き了承した。


 俺とエルマが同時に走り、攻撃範囲の2歩手前でクロスする様にエルマの前へ斜めに横切る。


 コボルト達は俺が戦士に攻撃すると思い俺に注意を払っていたが、俺は戦士の攻撃範囲の外側を舐める様に掠めるだけに終わる。そして俺の後ろから飛び出したエルマの対応に致命的な遅れを取っていた。


 そちらをエルマに任せ、俺は魔法使いへ向かう。


「クウォー!」


 魔法使いはコボルトの言葉で詠唱を唱え、魔法を放った。魔法陣が次に踏み出そうとした足元に現れた瞬間、俺は横っ飛びに跳んだ。


――ドガーン!!


 直ぐ真横で起こった爆発に大きく体勢を崩され盛大に転んでしまった。


 先程の魔法は以前フィービーが『砂漠』エリアで使ったバーストフレアの下位魔法、『爆裂弾(フレイムボム)』に類似した攻撃魔法だったのだろう。

 爆発地点の周囲3メートルほどが爆発で掘り返されていた。


 魔法使いは追撃の攻撃魔法を放とうとしていたので、スローイングダガーを投げ牽制した。


 スローイングダガーは上手い具合に魔法使いが杖を持っていた腕に当たった。


「グギャー!?」


 痛みに杖を落とし、詠唱も止まった隙に跳ね起き、魔法使いとの距離を縮めた。


 俺が近づいた事に気が付いた魔法使いは痛みを堪えて杖を拾おうとしたが、俺の方がワンテンポ速かった。

 前かがみになった魔法使いへネージュを振り下ろした。


 構える事も、魔法を使う事も出来ない無防備な状態で魔法使いのコボルトは死んだ。



 こちらの戦闘が終わっても、フィービーとメリンダの方は戦闘が続いている様だ。魔法が炸裂する衝撃と音が未だに響いている。

 そちらへ視線をやったと同時に音がやんだ。どうやら戦闘が終了したみたいだ。


「セージ、大丈夫か? 魔法を食らった様だが……」


 俺の戦闘が横目でも見えたのだろう。エルマが心配そうにこちらへ駆け寄り、質問して来た。


「大丈夫。魔法は当たっていないよ。横っ飛びに避けたら余波で体勢を崩しただけだから」


 俺がなんでもない様に元気に答え、体も動かしてみたら、エルマも軽く息を吐き安心した様に微笑んだ。


「私の方からは良く見えなかったのでな。

 無事で良かった」



 落ち着いたところで素材などを回収して皆と合流した。


「コボルトの信仰使いはキライ」


 皆が集まった時にフィービーが発した第一声がこれだ。


「あはは、しょーがないよ! 相手にメリンダが居る様なものなんだもん」


「先程のコボルトが信仰した神は狩猟や戦い系統の神ではなく、守護の神だった様ですね。コボルトが信仰出来る神は少ないのに、今回は防御系の魔法を使いましたから直ぐに分かりました。

 大抵は邪神を信仰するので随分珍しかったですね」


 キャメルやメリンダの言う通り、コボルト板のメリンダ――『司祭』――と言う事だ。

 もっと多彩な補助魔法を使われれば、対応に困っていたところだ。


「まだまだこれからも出て来るぞ。みなも油断するなよ」




 それから幾度も戦闘を繰り広げたが、その全てにコボルトが絡んできた。

 オーク2体とコボルト戦士3体の群れとか、クラッシュモンキー3体とキラービー3匹にコボルト戦士2体とコボルト弓使い2体の群れとか。


 そんな戦いを無事に切り抜け、46階層の階段を見付けた。

 階段を下り、中間地点にある踊り場で一時休憩。


 それぞれが思い思いの休憩を取っていると、メリンダがエルマに喋り掛けた。

 メリンダは思案顔になっていたので、何か聞きたい事があるみたいだ。


「エルマ、まだ時間がありますけど、どうしますか?

 このままここで野営しますか? それとも出来る限り潜ってからここに戻りますか?

……それ以外にも、探索を続けて『森林』エリア内で野営をする選択もありますが」


 エルマはメリンダの言葉を聞いて考えだした。


『この程度なら大丈夫だろう』や『ちょっとだけだから心配ない』などといった油断は死を招く。それでも本当に危険な場所でイキナリ放り込まれると普段の実力が発揮出来ない。

 だから、危険はあるだろうが訓練になるのならやるべきだ。


 つまり――


「エルマ、メリンダ。折角だから『森林』エリア内で野営しないか?

 何事も経験だ。この出来事が後々活かせる事態に繋がるかもしれないし」


 エルマとメリンダの視線が俺をシッカリと捉える。


 最初の計画では階段で休憩を取る事になっていたので、躊躇するのは分かる。それでもこの状況はチャンスなのには違いない。


 俺と2人の見詰め合いに、フィービーいつもの無表情で、キャメルが不安そうな表情でこちらを窺っているのが分かるが、今はエルマとメリンダの対応をしたい。2人とももう少し待ってくれ。


 10秒ほど経過しただろうか? 2人はため息を吐き表情を緩めた。


「確かにセージの言う通りだな。それをする価値はあるだろう」


「そうですね。危険を恐れて何もしないのは間違っていますよね。たとえ危険であろうと乗り越えて、次に繋げないといけませんね。

 フィービーとキャメルもそれで良いですか?」


「がんばる」


「わたしはちょっと怖いな~……」


 エルマ、メリンダ、フィービーの3人は納得したみたいだが、キャメルは怯えている。


 少し怖がりなところがあったし、この中で1番戦闘力が低く経験も浅いのが関係しているのだろう。


「キャメル。私たちがフォローする。だから、今回の探索で適度な自信を付けるのだ」


「大丈夫。キャメルなら出来ますよ」


「――――分かった! わたしも頑張るよ!」


 どうやらキャメルの説得に成功した様だ。


 その元気を49階層攻略まで保ってくれると助かるのだがな。




 探索を続けながら2度の戦闘を終え、部屋内の壁際に僅かな広場を見付けた。時間的に少し遅い夕食時になっていたから、ここで野営する事に決まった。

 ああ、野営と言っても明かりは消える事がなく、常に真昼の様な明るさだ。明かりが点いていると眠れない人には苦行だろう。


 それにしても、この壁が無くてはここが迷宮内だと忘れてしまうな。


 暖かな陽射し、そよぐ風、草花は揺れ木々の枝がぶつかる音、草木や土の香り、見渡す限りの樹木、それら全てが五感を刺激し、ここを天然の自然と錯覚させる


 だが、この部屋を区切る壁といくら時間が経とうとも夜にならない事が、ここを迷宮だと知らしめている。



 さて、色々準備があるし、さっそく始めようかな。


 まず取り出したのは警報魔具だ。これを森と俺達の間に設置する。勿論魔物がやって来そうな場所がその範囲に入る様にだ。


 次に魔物避け結界を出し、エルマと一緒に設置する。


 こういった作業は本当なら必要ない。それは、俺が城壁結界魔具を持っているからだ。あれを使えば問題が一気に解決するが、それだとこの訓練が無駄になる。


 それに、未だにあの魔具に合う魔石が魔物から取れないのだ。しばらくは宿の部屋で使うしかないな。

 まぁ、あの魔具のコンセプトは室内で使う事を考えられて作られているからな。そっちでタップリ使おう。


 俺とエルマで魔物対策をしている横で、メリンダとフィービーが料理の準備をしている。


 魔石式コンロを3つも使い、更には調理器具も本格的な物を出して料理をしている。横の台には綺麗な皿まで用意してある。

 これは、流石女の子、と思えば良いのかな? まぁ、食事をより楽しくする為の物と思っておこう。


 キャメルは寝床の地面のならしたり、食事をする場所に敷物をしいたりと準備に勤しんでいる。それらの場所は壁に作り、更にその場所を岩や木で囲う。外から見付けられ難くする為だ。


『砂漠』エリアと違い『森林』エリアは涼しいので、キャンプ感覚になり先程までの怖さを完全に忘れているみたいだ。良好、良好。



 皆の準備が終わり、楽しく食事をしてから普段はあまりない個々人の生活などを話して時間を潰した。


 明るいが時間は夜の9時になり、それぞれの就寝時間になった。


 寝ずの番はエルマ、キャメル、メリンダ、フィービー、俺の順番で、1人2時間となった。これは全員に経験させた方が良いとなり、1人でやる事に。しかし、俺はあまり眠らなくても良いので、ちょくちょく起きて皆の様子を見たり話し相手になったりする事に決まった。


 皆は少し恐縮していたが、俺が特別製なのだ。気にしていたらやっていけないぞ。





 そんなこんなで眩しい日差しの中、寝たり起きたりを繰り返し全員8時間ほど眠らした。


 全員の体調が整ったら朝食を作り、昼飯も作ってしまう。昼も料理をするのは大変なので、昼は弁当だ。


 こうして2日目の探索が始まった。



 2日目も順調に進んだが階段の位置を上手く探せず、見付けた頃には夜の時間帯だ。しかたないからこの日は階段の踊り場で野営する事になる。

 しかし、それも悪い事ではなかった。階段は暗いので、まるで夜の時間帯に思わせる雰囲気だ。魔物も居ないので見張りをせずとも良いしな。



 3日目は48階層からだ。


 3日目ともなると流石に皆は疲労が溜まって来ているらしい。ちょっとしたミスが目立つ様になる。

 休憩を多目に取りながら疲労回復に薬草を煎じたお茶を出したり、甘みのある果物を食べてもらったりと工夫して行く。


 この日は49階層への階段を見付ける事が出来なかった。

 マップは9割埋まっているから後少しなのだろうが、探し出すより先に皆の疲労がピークに達しようとしていた。

 これ以上は無理と判断して野営の準備に入る。


 見張りは俺が1時間だけ眠り、後は俺1人で受け持つ事になった。皆にはシッカリと眠ってもらわないと明日の探索に支障が出る域まで達したからだ。

 幸い俺は1時間でも眠れれば体調は整えられる。


 皆とパーティを組んでから俺のやる事が増えたが、今までが迷宮探索を作業の様に感じていた。だから、皆との探索は楽しく思えるので、これは許容範囲だ。可愛い女の子達と探索も出来るしな。



 4日目の探索開始1時間で49階層の階段を見付けた。


 皆が顔に疲労を滲ませながらも、これで最後の階層だと気合を入れなおす。


 それでも、すんなりと行かないのが迷宮と言う所なのだろうか。

 木々の隙間からウッドイーター3体とキラービー6匹に、コボルト魔法使い2体とコボルト信仰使い1体の群れを発見した。

 キラービーが散らばって飛んでいるので、暫くしたらこちらと遭遇するだろう。


「厄介な魔物ばかりだ。ここは最大火力で一気に攻め込まないか?」


 俺は小声で皆に提案した。


「――そうだな。そうしよう。

 メリンダはここに陣地を作ってくれ。キャメルはキラービーの機動力を削いでくれ。フィービーはとにかく魔法を撃ち尽くせ」


「はい、魔法で結界を張りますね」


「キラービーが終わったらウッドイーターもやっちゃうよ」


「広範囲攻撃魔法を使う」


「俺も全体攻撃魔法を使うから。

 それじゃ、行くy――」


 俺の言い出しが少し遅かった様だ。


「ビュィー!!」


 索敵していたキラービーが俺達に気付いた。

 合図も何も置いて、直ぐに詠唱を始める。


「『神よ わたしの声を聞き届け 攻撃から守りたまえ――』」

「『魔力を風となし 敵を包み動きを妨げろ――』」

「『魔力を爆発させ 敵に降り注げ――』」

「『極寒の地より来たりし氷槍よ この地に根ざせし力は数多に分かれ 我の敵を滅ぼす世界を創れ――』」


 俺達が詠唱を唱えている間に敵も魔法を発動させた。

 信仰使いが唱えた魔法は、またしても珍しい守護の神だったらしく、魔物全てを防御魔法の薄い膜に覆われた。魔法使い2体は、それぞれが火の矢と風の槍を飛ばして来る。


「『――守護結界(プロテクションバリア)』」

「『――風の結界(プリズナーオブエア)』」

「『――魔風牙(ファング)(まふうが)』」

「『――氷柱の槍(ランスオブアイシクル)』」


 魔物の魔法が届く前にメリンダの結界が間に合い、魔物の魔法を弾いた。そしてキャメルの魔法はキラービーを6匹中3匹に当たって風で絡め取る。フィービーの風魔法は魔物の周囲から刃となって襲い掛かる。俺の魔法も2,3メートル先に現れた魔法陣から、魔物の数だけ氷の槍となって飛び出す。

 俺の魔法は魔物の手前に在る木々を貫きながら進み、魔法が効かなかったキラービー2匹以外にぶち当たった。


 魔物の信仰使いが使用した防御魔法でいくらかの威力を削がれはしたが、俺とフィービーが放った2つの魔法はそこそこのダメージを与えたはずだ。キラービーの3匹は耐えられずに消滅しているのが証拠だ。


「フィービー、続けて頼む」


 俺は皆を置いて走り出した。


 最初は残った3匹のキラービーを倒したかったが、俺から大きくそれて、後ろに控えている皆の方へ向かった。

 しょうがないのでコボルトへ向かう。


 フィービーが魔法を放っても、体力の有るウッドイーターが盾になり、コボルト達に当たらない。それでもウッドイーターは大ダメージを食らっているので、よしとしよう。


 俺が近づく頃にはウッドイーターが全滅していた。コボルトの盾になりダメージを負いすぎたみたいだな。


 魔法使いは何度も俺へ魔法を発動していたが、その全てをかわして信仰使いをまず倒した。



 その時――


「きゃーー!?」


――キャメルの悲鳴がこだました。



 状況を確認したいが、今は目の前にコボルトの魔法使いが2体控えているのだ。まずは早く倒す事に終始しよう


 質量を持たない火の矢などの魔法攻撃や、範囲の狭い魔法攻撃を(アトレス)の性能を信じて避けもせず、真っ向から突っ込む。


 飛んで来る魔法の衝撃は殆ど防いでいるが、魔法としての効果が俺の体を痛めつける。それでも耐え切れぬほどの物ではない。


 俺は更に加速する。


 もはや俺の速さに対応出来なくなった魔法使いは、無様に隙を晒し、一撃の下に倒れ伏した。



 魔物を倒し直ぐに振り返れば、そちらも戦闘が終わったところの様だ。


 だが、キャメルは未だに倒れたままだ。


 俺は急いで皆の下に戻る。



 キャメルの周りには皆が集まってメリンダが"薬"を与えていた。


「キャメル、大丈夫か!?」


 俺が大声で問い掛けるとエルマが落ち着ける様に俺の肩に手を置いた。


「キャメルは大丈夫だ。

 キラービーが高速移動で撹乱して来た所為で毒の攻撃を受けたのだ。先程メリンダが解毒薬を与えたので、しばらくすれば直る」


 はぁ~、良かった~。


 落ち着いたところで皆を見ると、フィービーが魔石を出して両手で握り込んでいる。


「フィービーはどうしたの?」


「ああ、魔法を使いすぎて魔力が乏しくなった様だ。

 魔石から魔力を抽出して取り込んでいるところだろう」


 そう言えば、魔石は魔力を貯えていて、その魔力を吸収すれば自信の魔力になるのだったな。俺は一切使った事がないからな。


「フィービー、お疲れ様。

 魔法の援護、助かったよ」


「良かった」


 こうして言葉少なく無表情で居る事が殆どだが、フィービーはここぞと言う時に頑張って活躍してくれる。頼りにしてるよ。




 その後、毒が消え去り元気になったキャメルを寝かせ、休憩を取る事になった。

 休める時にはシッカリと休んでもらわないとな。


 それにしても、俺の魔法を何とかしないとな。俺の魔法は詠唱が長すぎる。

 修行時に習った魔法はこの世界と違い、かなり古い形式になっている。その分威力は高いのだが、やはり詠唱が長いととっさの時に使い難い。


 この世界の術式を取り込んで魔法を改良出来ないだろうか? もし出来たらハルバートの呪いも有効活用出来るかもしれないのだがな……。


 まぁ、術式の改良なんて一朝一夕に出来る物ではないから、気長にやるしかないだろう。




 休憩が終わって探索を開始したが、疲れが表面に出てきて進行が遅くなった。休憩をこまめに入れてなんとか進んでいたら、運良く直ぐに階段を発見した。


 疲れた体を引きずり、テレポーターで地上に帰る。


 久しぶりに見る本物の太陽は目に沁みた。夕暮れ時にはもう暫く時間がありそうだが、今日はここで解散だ。


 重い足取りで宿に向かう姿は、周りから見れば酷い物だっただろう。実際酷かったがな。



 ああ、早く寝たい。



魔法の詠唱や効果、設定を考えるのに、全部で4時間以上使って考えました。それでこの出来…………俺やべぇー。カッコ良くねぇー……。これで良いのだろうか……。

それと、魔法の名前を英語風か漢字のどちらかに統一しようか考え中。


さて、上記はサッパリと忘れて戦闘シーンですが、臨場感が出ていますか? あまり自信がないですけど、出来る限り頑張りました。

戦闘シーンは詳しく書く場合と淡白な場合がありますが、テンポの事も考えていかないといけないですね。


魔法の設定を書いたのですが、なんとなく入れるのをやめて、24話に入れる事にしました。


これからもよろしくです!

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