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その青い世界で第一歩  作者: nono
青の迷宮
23/25

二十二話 攻略メイン、穴埋めサブ


 昨日までの騒がしさが僅かに残る通りを抜けてギルドに到着した。


 今日から潜れるとあって、探索者がいつもより多く居る。

 人が沢山居るので、ガヤガヤと騒がしい音が建物内で反響して少し耳障りだ。


 その音から逃れる事は出来ないから、いつものテーブルを探して落ち着こうとした。しかし、テーブルは既に他のパーティが占領していたので諦め、先に来ていた仲間が居ないか探す事にした。


 周囲には数え切れないほどの探索者が居るから、一々顔を確認しながらだと見付ける事も出来そうにない。


 すぐさまそう悟った俺はマップを確認する。

 マップにはフィービーが来ていると、点滅する光点で知らせてくれている。フィービーもマップを確認しているのか、俺の方へ真っ直ぐ近づいて来る。


 俺も近づくフィービーが居る場所へと歩き出した。



 フィービーはクエストを見ていた様で、クエストボードの方からその小柄な体を精一杯動かし俺の所へ辿り着いた。


「おはよう、フィービー。

 今日は人が多くて困るな」


「うん、おはよう。

 変化期の初日はいつもこう」


 そう喋ると共に俺の手を握った。


 なんだ?


「……え~と、どうした?」


「迷子になるといけない」


……? 俺が慣れていない所為で人並みにのまれる事を危惧してくれているのかな?


「ありがとう。確かにこの人ごみだと迷子になるかもね。

 でも、マップを見る事が出来るから、迷子の心配はしなくt――」


「ワタシが」


「フィービーがかよ!?」


 はっ! つい大声でつっこんでしまった。


 周囲はイキナリ大きな声を上げる俺に、不審な目を向けて来る。


 いや、ちょっと待って下さいよ。誰でも唐突にあんな事を言われたらツッコミを入れるよ。


「そんな大声を上げてどうしたのだ」


「入り口まで聞こえて来ましたよ」


 続いてやって来たエルマとメリンダが、声の主である俺へ問い掛ける。


「あぁ、いや、ちょっとな……」


 歯切れの悪い俺を不思議に思った2人は、俺の横に居るフィービーとその間に繋がれている手を見て、何か思い当たるみたいに納得しだした。


「セージ、気にするな。

 フィービーは少々方向音痴でな。ごくたまにマップを見ていても迷子になる事があるのだ」


「その時は凄いのですよ。

 正反対の方向へ自信満々に進むのですから、私やエルマも釣られて付いて行ったら見当違いな場所へ到着したものですよ」


 自分ではどうにも出来ないのなら、それはしょうがない。


「ワタシ邪魔?」


「そんな理由が在るなら全然問題ないよ。

 しばらく手を繋いで行こうか」


 フィービーは安心したのか、1つ頷いた。


「あっ、いたいた。

 みんな~、お待たせ~」


 元気な声と共に現れたのはキャメルだ。前々回とは違って今日は元気一杯だな。


「全員揃ったところで行きたいのだが、フィービーとセージはクエストボードを見たか?」


「俺はまだだけど、フィービーは見ていたはず」


 俺の発言で皆の視線がフィービーに集中する。


 そんな視線を物ともせずに、調べた事を淡々と喋り出した


「『植物採取』『地図の作成』『魔物の分布および調査』が在った」



『植物採取』は前回受けたクエストなので、説明しなくても分かると思う。

『地図の作成』はギルドが転売目的に集めている物で、マップに表示される地図を紙に写しギルドに売るのだ。詳細に描けば多くのお金が支払われるし、誰も持って来ていない部分が有れば広さに応じて上乗せされる。

 迷宮の内部構造が変化すると、迷宮内はまったくの別物に変わる。その時点で今までの苦労が水泡に帰すようにマップが白紙になる。1からマップの穴埋めをしなければいけない。

『魔物の分布調査』もギルドが依頼した物だ。これも情報として探索者に売るらしいが、どちらかと言えば依頼内容と変わらぬ魔物の生態を調べる事が主な理由らしい。


 上の2つは道すがらに探したり、休憩中に描いたり出来るが、最後のは綿密に調査しなくてはダメなので遠慮したいな。



「エルマ、『植物採取』と『地図の作成』の2つを受ければいいんじゃないか?」


「そうだな。『魔物の分布調査』は時間が掛かってしょうがない。

 フィービー、その2つの番号は憶えているか?」


「完璧」


 俺の手を握っている反対の手でピースサインを作っている。


 そんな光景を見るとつい子供扱いして頭を撫でたくなり、無意識に手がピクピクと動いてしまった。


 反省……。


「セージ、一緒に付いてやってくれ」


「了解です」





 フィービーとクエストの受付を済ませ、さっさと迷宮に潜る。


 いつにも増して人数が多いので、テレポーター待ちの行列が出来た。


 数10分を待ち時間で費やしやっとの事で迷宮内に下りられた。


 到着後直ぐに"薬"を皆へ均等に分ける。効果や効能、使用手順をしっかりと伝えたから間違えなければ、青の迷宮で暫くは順調に攻略出来るだろう。


「変化期を過ぎると、普段はその階層に出ない様な魔物が出現する事もあるのでみな気を付けるように。

 メリンダにセージ、分かったな」


「はい! 気を付けます!」


「分かりました」


 少ないらしいが、そんな事例も過去に幾度も起きたらしい。固定概念は禁物という良い例だ。


「では、行くぞ」



 テレポーター部屋から出て40階層に侵入する。


 そして、最初の部屋に入った所でイキナリ戦闘状態に入った。


「グボー、グオッグオッ!」


「グボー!」


 森の奥からオークが2体突進して来た。そして、オークの大声に反応し、四方から木々のざわめきに紛れて何かが近づいて来る。

 多分近くに居た魔物が声に釣られ、集まって来ているのだろう。



「俺が行く」


 右手に大剣(ネージュ)の柄を握り、左手に新しく買ったスローイングダガーを1本引き抜く。


 スピードを抑えながらオークとの距離を縮め、スローイングダガーを投擲する。


 しかし、敵もさることながら、そのスローイングダガーを避けてみせた。

 流石戦う事に()けた種族。俺の投げる動作と投げる位置で当たる箇所を察知し、軽やかとは言えないステップだったが無傷で回避する。


 だが、俺もそう簡単に当たるとは思っていない。

 俺は先頭のオークと後方のオークを一直線に重なるよう位置取りをしていたので、先頭のオークが目隠しになり、後ろのオークはスローイングダガーが飛んで来るのが分からず足に深々と突き刺さった。


「グギャー!」


 足を負傷したオークは踏ん張りが効かず、盛大に転んで痛みにもがいている。刺さったスローイングダガーを抜こうとするが、返しがあり、簡単には抜けないだろう。



 その頃、オークの声にひかれて魔物が続々と集まって来る。


 今の俺はオークの対応をしなければならないので、そちらの方は仲間に任せる事にする。



 先頭のオークは既に数メートルの所まで近づいて来た。


 その大きな巨体が、これまた大きな剣を持ち近づく姿は鬼もかくやと言ったところだ。


 気迫に飲まれぬよう活を入れ、ネージュを引き抜く。



 オークは攻撃範囲に入る前から振り上げていた大剣を、豪快に叩き下ろした。


 真っ直ぐ振り下ろされる大剣を横に避け、横薙ぎにネージュを繰り出そうとしたが、なんとオークは突進のスピードを緩める事なく、横に避けた俺に向かってタックルを仕掛けて来た。

 俺は直ぐに攻撃を諦めて、左手でガードしながら後ろに飛び下がる。オークのタックルは俺へ当たりはしたが、下がっていた事が功を成してダメージはなかった。


 オークは思ったよりも衝撃が来なかった所為で、前のめりになり体勢を崩した。

 俺はオークの突進の所為で距離が離れた為、急いで接近する。


 力を籠めて1歩、2歩と足を進めるが、先程のタックルが俺を思ったより遠くに飛ばし、そして滞空時間が長かったから近づく前に体を起こされてしまった。


 今のオークは万全とは言えない状態だ。攻撃を避ける事は出来ないはず。


 そう思い、今度は俺が振り被ったネージュをオークへ繰り出した。

 案の定オークは避けられなかった。だが、持っていた大剣を頭上で横に構えガードしてきた。筋肉の張り方や体勢を考えれば、俺の一撃を止めた瞬間に上へ弾き、体が開いたところへ強烈な一撃を加えようとしているみたいだ。


 しかし、俺はその様な事を許す訳がない。

 力は必要なだけ入れる。だが、必要以上は入れない。攻撃目標もオークではなく、その手前、オークの"大剣"へ向ける。

 そして、必殺とも言える強烈な力を、剣と剣がぶつかり合う刹那に解放する。


 オークが力を入れて大剣を固定していたので、オークの大剣を容易く切断出来た。


 自身の大剣が断ち切られた事に目を見開いて唖然としていたオークへ1歩踏み込み、ネージュを取って返し下から切り上げを行い、次はオーク自身を両断した。



 両断した勢いをそぐ事などせずに前進を続け、先程足にダガーが刺さった2体目のオークへ急ぐ。

 そのオークはダガーが抜けないから諦めたみたいで、脛からスローイングダガーの柄を生やした状態のまま歩いて来る。


 足が痛いのだろう。分かりづらい表情の中に、苦痛と憤怒が現れている。

 それでも油断は出来ない。足が使えなかろうが、上半身だけで脅威になる。踏ん張りが効かないのは力の伝達に支障が出る。だが、それ以上に腕力が凄まじいのだ。片足でも俺ですら危ないかもしれない。


 牽制し、体力を減らす為、スローイングダガーを次々に投げて消耗させる。


 スローイングダガーの群れを、オークは避ける代わりに大剣で弾く。それでも近づくにつれ、弾ききれなくなった攻撃にその身を削られていく。


 オークの攻撃が届く距離まで至った時には満身創痍で、息も絶え絶えになっていた。


 最後の足掻きとばかりに振るってきた攻撃は、ロウソクのともし火が掻き消える刹那の輝きの様に、最初のオークとは別の気迫が漂っている。


 その大剣の攻撃を横から打ち据え、弾いた勢いをそのままオークへの攻撃に転換する。弾いた速さを上乗せさせたネージュは、目にも留まらぬ鋭さで走り、オークを絶命させる。



 オークの首から噴き上げる緑の血を避け、ネージュを振って剣に纏わり付く血を飛ばしながら周囲の戦況を探る。


 エルマとキャメルは追加で現れたオーク1体と戦っている。

 キャメルが補助魔法で援護しながら、エルマがオークと一対一で激しい剣戟を繰り広げている。

 危なっかしい姿ではないので、後を2人に任せても問題ないだろう。


 メリンダとフィービーの所は少し厳しいかもしれない。

 そっちの2人にはウッドイーター2体に左右から挟まれ、クラッシュモンキー1体がメリンダに接近戦を挑んでいる。


 メリンダはフィービーを庇いながら、メイスでクラッシュモンキーの攻撃を凌いでいる。そしてフィービーは、メリンダに庇われているだけに終わらず、呪文を紡ぎウッドイーターへ魔法で攻撃している。


 援護に行くのならこっちだな。



 走り出しながらネージュをしまい、両手にスローイングダガーを構える。

 狙いはクラッシュモンキー。いくらメリンダが無難に対応していても、生粋の前衛職ではないのだ。少しでも早く援護したい。


 ヘタな攻撃はメリンダのリズムを崩し、余計な危険に晒す事になりかねない。慎重に状況を観察して、攻撃のタイミングを図る。


 15メートルまで近づいた時に、メリンダが振るったメイスをクラッシュモンキーが大げさに跳んで避けた。


 チャンスだ!


「メリンダ、下がって!」


 俺の合図に疑問を挟む事なく素直に下がるメリンダを尻目に、時間差を付けたスローイングダガーを投げつけた。


 1投目は空中に浮かんでいる状態で当たる様に投げた。2投目は丁度着地する瞬間だ。

 両方とも確実にダメージを加える事に終始し、胴体の中心部へ投げた。


 クラッシュモンキーの胸の部分に1本目が刺さり、みぞおちの部分に2本目が刺さった。その攻撃で死んだみたいで、淡い光に包まれ消えて逝った。


 その結果は上々で、思わず笑みが漏れたぐらいだ。



「フィービーは続けて右のウッドイーターへ攻撃してくれ。

 メリンダはフィービーの援護を」


 少々疲れが窺えるメリンダには悪いが、まだ魔物を全て倒していない。だが、後はフィービーの魔法で仕留められるだろう。もうちょっと頑張ってくれ。



 前回戦わなかったウッドイーターだが、移動速度は遅いくせに攻撃速度は異様に速く、手数も多い。

 なにせ攻撃手段が、全身から生えている枝全てを使い振り回して攻撃するのだ。


 ただの枝だと油断する事なかれ。

 内部は人間で言う血の様な体液が張り巡らされ、重みと粘りがある。そして、表皮は魔力でコーティングしているので硬度がある。両方揃えば見た目ただの枝が立派な凶器に変貌だ。


 しかし、今のウッドイーターは表皮を4割も焼かれている。燃えた部分は著しく防御力を低下させているので、そこを攻撃すればいとも容易くダメージを与えられるだろう。


 俺が近づくとウッドイーターも標的を俺へ変更したらしく、体の向きを変えずにこちらへ移動して来る。


 感覚器官は無さそうなので、魔力を使って標的を認識しているのかな? だとしたら、こいつらはオークの声に釣られたのではなく、たまたま近くに配置されていて魔力で察知したのだろうな。

 もしくは、植物特有の知覚器官でも有ったのかもしれない。


 唯一知る事が出来る器官は口だけだ。

 獲物を枝で捕らえたら幹の部分が横に開き、木で出来た口が現れ獲物を捕食する。


 グロくて不気味な光景だ。



 そんなどうでも良い事を考えていたら、もう目の前に居る。

 俺はすぐさまカンティーとノール引き抜き、攻撃の姿勢を作る。


 ウッドイーターの所々には燃えて炭化した箇所が見え隠れしている。体を動かす度に黒く炭化した表皮が剥がれ落ちている。

 そこへ攻撃したいのだが、木とは思えない様な動きをしだした。


 なんと、木がお辞儀みたいに体を倒したのだ。


 かなり度肝を抜かれる光景だが、そこは「流石魔物」と思い無駄な思考を廃棄する。



 ウッドイーターが全身を使い、枝を鞭の様にしならせて攻撃して来た。


 頭上から降り注ぐ枝の群れを横っ飛びにかわし、地面を激しく打ち据える枝へ右手のカンティーで切断する。ウッドイーターは痛みを感じないのか、切られた事を無視する様に幾本かの枝を薙いできた。

 次は避ける事などせずに、枝を左手のノールで受け止めてカンティーで来る端から切り裂き、受け止めていたノールも時々枝の切断に切り替えたりする。


 四方八方から襲い掛かる枝を掻い潜りながら1本1本の枝を刈って行く事で、攻撃、防御、生命力の全てにダメージを与えて行く。


 枝の切断面からウッドイーターの体液が飛び散る。全ての切断面からなので大量に流れ、ウッドイーターの周囲は血の海に成った。ウッドイーターの血は薄い赤色なので大量にあれば真っ赤な血に見えて気持ちが悪くなる。

 しかも、体を常に動かしているから体液が宙にも舞って、俺は全身で浴びてしまった。体に害は無いが、気分の良い物ではないな。



 大半の枝が無くなり、容易に近づける様になったので本体を攻撃する。


 痛みも恐怖も無いウッドイーターが体を揺すり迫って来るが、攻撃力の喪失した状態では的にしかならないな。


 そう思い至った時、ウッドイーターが奇妙な行動に出た。


 ウッドイーターの体から地面に向かい、魔力が拡散しながら流れ出したのだ。

 一瞬何をしているのか分からなかったが、直ぐに思い出した。


 ウッドイーターは精霊魔法を使うのだと。


 地面から雑草が急速に伸び、俺の脚を捕らえ様と蠢き絡み付いて来る。範囲が広すぎて避ける事もままならない状態になってしまった。

 そして、ウッドイーターは俺に圧し掛かりの攻撃をしようとしているのが分かった。


 しかたがないので俺はウッドイーターと向かい合い、相手が体を動かす前にノールの左袈裟切りとカンティーの右袈裟切りを繰り出し、クロスする様に切り付ける事にした。


 俺のその攻撃はウッドイーターの攻撃を防ぐ役割もこなしたらしく、ウッドイーターの動きを止めた。俺はそのまま交差した手を捻り、今度は平行に横へ薙ぐ。


 この連続攻撃で幹へ多大なダメージを与えたら、自身の重さに耐え切れなくなり真っ二つに折れた。


 最後の最後まで攻撃する意志しか感じられなかったが、だからこそ怖い相手だったかもしれない。


 ウッドイーターが消滅して行くと共に、足に絡み付いた雑草も萎れ消滅した。


 戦闘はこれで終了だな。



 エルマとキャメルの2人も丁度戦闘が終了したらしく、メリンダ達の方へ歩き出すところだ。

 メリンダとフィービーは俺の方へ援護に向かおうとしていたのか、少しこちらへ近づいていたが、俺の戦闘風景を確認して大丈夫と思ったのだろう、その場で息を整えている。


 俺も祝福品や魔物の素材を回収して皆の下へ移動する。



「皆、大丈夫?」


 集まって直ぐに怪我が無いか聞いてみた。


「私はオークに腕を斬られたな。

 しかし、軽傷だ。回復薬を使用するまでもない」


「私もクラッシュモンキーにお腹を攻撃されました。

 多分打撲程度の怪我だと思います。あまり痛みは感じないですので」


 エルマは斬られたらしいが、左腕から微かに血が流れる程度の様だ。メリンダは服の下を怪我したから窺い知る事は出来ないが、顔色は悪く無いので酷くはないらしい。


 しかし、放っておく事も出来ないな。


「とりあえず、俺が持っている回復軟膏を使うよ。

 軽傷程度なら確かに回復薬を使うのは勿体無いけど、回復軟膏なら量を調節出来るんだから」


 そう言って取り出した回復軟膏をエルマとメリンダの怪我の上に薄く塗って行く。後は、怪我の上に包帯を数回巻いて完了だ。


「さて、これで終了。

 今日はまだ始まったばかりなんだから、この調子でどんどん行こうか」




 先程の戦闘とはガラリと変わり、薄暗くはあるが、僅かに漏れる木漏れ日の中をマッタリと進んで行く。


 一応警戒はしている。だが、し過ぎると言うのは無駄な神経と体力を使うので程々が丁度良い。


 俺はこの中でも警戒に適したスキルや訓練を積んでいるので、最後尾で殿として適度に警戒の任を勤しんでいる。


 その最中にも俺はある仕事をしていた。


「あ、キャメル。ここに在るのが食用の植物だよ。

 これの事も書いておいて」


「は~い。

 もっと楽かと思ったのに結構大変だね」


「正確であればあるほど報酬も高くなるのだからな。

 手抜きは禁物だぞ。セージの言う事を聞いて正確に書く事だ」


 この作業は地図を正確に描く為の前準備だ。

 今キャメルに頼んでいたのは地図の簡略図で、その地図に何の素材用の植物がどのくらい生えているかを記載させているのだ。そして、ちゃんとした地図を描く時はどこか魔物が現れない場所で、脳内に表示されるマップを確認しながら地図に描き起こしていく。

 その時にキャメルが描いている簡略図も付け加えるのだ。


 面倒ではあるが、移動しながら正確な地図を描くのは危険だし、だからと言って今の作業を無くすと料金に響く。40階層全ての部屋を見て回る事は時間の無駄に思えるので、これで我慢するしかない。


 こうしている間にも真っ黒な脳内マップを、歩いている場所と周囲が自動で描かれていく

 これは歩くだけで良いので物凄く楽だ。



「そう言えば……ねえ、セージ。さっきのウッドイーターって、精霊魔法使わなかった?

 わたしはチラッとしか見えなかったからよく分からなかったんだ。どうなの?」


 あれには俺も驚いた。まさかあの場面で使って来るとは思わなかったよ。


「ああ、確かに使っていたよ。ウッドイーター全ては使えないらしいから、その選択肢は除外していた。

 えーと、レベルが高くて高位のウッドイーターが使えるんだっけ? アイツはもしかしたらこの階層のヌシだったのかもね」


「珍しいのですよ。私たち3人が次のエリアに行く間に1度も遭遇する事など無かったのですから。

 ある意味運が良かったのかもしれませんね」


「メリンダ……それは絶対運が良いとは言わないぞ」


 クスクス笑いながら言うので冗談だと分かるのだが、そう言われるとまた遭遇しそうで怖いよ。

……俺は運がかなり高いから、その運が変な方向で発動しそうで。


「セージは職業がアレ(・・)だから、何時か自身で精霊魔法が使える様になるだろうな。そうしたら、精霊により強い呼び掛けをする事で精霊魔法を不発にさせられる様になるかもしれんぞ」


……? ああ、そうか。その事は言ってなかったか。


「いや、俺は精霊魔法を使えないと思う。

 あれって完全に先天性で決まるらしくて、俺の職業に組み込まれている『精霊使い』を鍛えに鍛えても多分精霊の声が聞こえるだけで、話し掛ける事も出来ないと思うよ。

 話し掛ける事が出来ないと精霊魔法の行使は出来ないから」


 精霊魔法の中には強力だったり、使い勝手が良かったりする物が沢山在るだけに勿体無い。


「セージにも苦手な物が在るんだ……。ねえねえ! キライな食べ物は!」


 嫌いな食べ物……ピーマンか?


「嫌いではないけど、ピーマンが苦手かな」


「――あははははは! ピーマンがダメなんだ! 良かったよ。セージって完璧超人じゃないのか疑問に思ってたんだ!」


 元気良く笑ってくれるなキャメルくんは……。


 苦手な物は他にも結構在るぞ。絵とか、計算とか、修行とか……。

 だが、苦手と出来ないは別物だよキャメルくん。


「キャメル、そこにアドキン草が群生しているぞ。あ、右の奥にはベガルタのキノコが……その隣はイシャラの木じゃないか? それも書いておけよ。ほらほら、左にはシスレンカも在るじゃないか。」


「えっ!? ちょ、ちょっと待ってよ!」


 なにやらキャメルくんがとまっどっているが、先は長いのだぞ。シッカリしてくれよ。


「だ~か~ら~、ちょっと待ってってば!!」




 そんな和気藹々とした雰囲気でも探索は続け、クエストの『植物採取』と『地図の作成』を両方ともこなした。


 前回の採取で植物の事を結構理解したメリンダとフィービーは、キャメルに指示を出している横でキチンと確保している。

 植物はたとえ全てを採り尽くしても、一定時間が経過するとまた生えてくる。だから「せっかく地図に書いているのに採っても大丈夫か」と、言われ心配されても大丈夫なのだ。


 もしギルド員に何か言われても、確かにその場所で植物が生えるので嘘にはならない。


 ちょっとあざといかもしれないけどね。



ユニークが10万人突破しました! みなさん読んで下さり、ありがとうございます!


さて、魔物がだんだん強くなってきましたね。エルマ達も元は50階層から少し深い階層を探索していたので、魔物との力量が同等になってきました。

しばらく無双はお預けかな?


次回もお楽しみに!!

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