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その青い世界で第一歩  作者: nono
青の迷宮
22/25

二十一話 調合と合成とお買い物

筆のノリが悪い。これって……倦怠期!


…………そんなボケは放っておいて、更新完了しました。


「――う~ん。

 さて、今日も1日頑張りますか!」


 40階層で植物採取をした翌日。空が微かに明るくなろうとする時間帯に目が覚める。


 室内はまだ肌寒いが、鍛錬でもしていれば気にならなくなるだろう。


 鍛練の準備を終え左手首に巻かれた追跡魔具が外れていないか確認し、扉を開ける。



 昨日の魔物に襲われた広場でキャメルから貰った魔具だ。休憩中に契約を済ませ、さっそく貰ったのだ。

 これもある意味プライバシーの侵害になるのだろうか? でも、こちらでは携帯などが無いのですれ違いを防ぐ意味では有効なのだがな。


 これを身に着けている間は、パーティ内では誰でもマップで確認出来る。リアルタイム型のGPSと思えば良いだろう。……小さな子供や痴呆が始まった老人には売れ行きが良さそうだな。


 知られたくない時は紐を解けばいいのだから、お手軽と言えばお手軽だ。



 今回の休みだが、今日から5日間もある。今日1日は普通に休みが入って、明日からの3日間が変化期の前段階で迷宮への立ち入りに注意を払わなくてはならない日。4日後が実際に内部構造が造り変わる。


 この長期休暇を使って色々な作業を試みる。鍛練も忘れずにね。



 鍛練は中々効率良く進んでいる。合成したスキルも上手く機能しているみたいだ。


 最近はレベルの上昇に伴うパラメータの数値が向上し、力が強くなり動きにキレがある。

 感覚系のスキルも組み合わさり、自身の動きが明確に理解出来る様になった。


 模擬剣を振るう時に感じる地面を捉える足の感覚に筋肉の収縮。腰の捻りや腹筋と背筋の脈動。剣を振るう腕の動きに柄を握り締める指の締め付け。地面から発生する力が足から上っていき剣のインパクトまで伝わる動き。重心の位置。これら全てが今までより詳細に分かるようになった。


 それだけではなく、大気の動きや魔物の動きの判断が何となく分かるようにもなった。

 昨日のキラービーは素早過ぎて上手く活かせなかったが、オークの時は豪快かつ暴風みたいな攻撃をなんとなしに避け攻撃まで至った。


 確かに今までの経験上、敵の攻撃手段を把握し先読みする事で攻撃を避けていたりもしたが、この頃は勘が働き更に一歩先の行動を読んでいたりと、自分が強くなってきたのを理解しだした。


 だが、他にも戦闘力に直結する『肉体操作』スキルといった物もあるので、今回の長期休暇中にスキルを探すのも良いかもしれない。



 少しずつ密度を増してきた鍛練が終わる頃には玉の様な汗を流していた。


 ああ、白の迷宮を攻略する少し前から、休日時の鍛練に体へ負荷を掛けるあの悪魔な呪具を身に付けるようになった。

 迷宮へ潜るのなら戦闘が必須なので感覚を鈍らせる事がないが、休日時はそんな訳にも行かない。代替案として呪具を選んだのだ。


 効果は出ているのだが、いかんせんこれを指にはめると修行時代を思い出し少し鬱になる。……まぁ、我慢するしかないのだがな。



 着ていた服を脱ぎ、鍛練場の直ぐ脇に在る井戸から水を汲み頭から被る。


――ザバー!


――ポタッ ポタッ


 さすが井戸水。冷たさが尋常ではない。


「おはようございます、セージさん。

 毎朝お疲れ様です」


 タオルで適当に拭いているとエレーヌちゃんに声を掛けられた。


「おはよう。

 俺の方は鍛練だけど、エレーヌちゃんの方は仕事なんだから。こっちが言う事だよ?」


「ふふ、そうですか?」


 いつもエレーヌちゃんはこの時間帯に水を汲みに来るので、自然と毎日ここで顔を合わす事になった。

 そして、エレーヌちゃんと会話を交わしながら部屋に帰るのが、何時もの定番となってきた。


 肩に脱いだ服と模擬剣を担ぎ階段を2人並んで上って行く。


「そう言えば、今日から2日間は掃除をしなくてもいいから。

 ちょっと部屋でやる事があって空ける事が出来ないんだ。それ以降もどうなるかは分からないけど、とりあえずは無しの方向でお願い。

 洗濯物も木箱に入れて置いて」


「はい、分かりました」


 一度部屋に帰り小銀貨を数枚財布から抜き取りエレーヌちゃんに渡す。


「はい、今の内にチップを渡しておくよ。

 掃除以外の事をお願いね」


「いつもありがとうございます!

 頑張って下さいねー」


 やはり元気な子を見ると、こちらまで元気になるな。




 朝食までは"薬"を調合する為の道具や素材の準備に精を出し、足りない物が無いか確認する。一度作業に入るとヘタに部屋から出られなくなるからな。


 調合は繊細な作業の連続な為、神経を使う。だが、それに見合った効果も約束される。


 足りない素材は昨日の迷宮帰りに、魔術用品取扱店改め『錬金術師の(その)』に寄り購入済みだ。




 さて、朝食を食べ準備が調った事だし、調合を開始しようかな。


 素材の種類が変わっただけで調合の仕方は以前と殆ど変わらない。

 素材の成分を抽出して混ぜ合わせ濃縮させる。出来上がった物に魔術で付与を加えれば完成だ。


 今回は治癒効果の低い紐無し透明回復薬を10本作る


 効果の低い方は主に他の仲間用だ。

 俺には回復軟膏があるし、回復軟膏自体をまだ使っていない。かすり傷程度なら放っておけば勝手に自己再生するのだ。蹂躙パーティとティトゥスを出た時の様に酷い怪我を負う場合は、効果の高い回復薬を使うのであまり必要に感じられない。


 紐有り緑回復薬はまだ5本も残っているしな。



 解除薬の方は前回の余りを足して、解毒薬10本、麻痺解除薬1本、幻術解除薬10本になった。

 それプラス、新たに石化解除薬を10本と、詠唱封じ解除薬を10本、五感麻痺解除薬を10本、睡眠覚醒薬を10本作成した。


 解除薬も回復薬と同じで液体の瓶入りだ。飲めば効果を発揮し、肌に掛けても少し効果は落ちるが効きだす。石化解除薬だけはきっと飲む事が出来ないだろうから、量は多めに作ってある。掛ける専用だ。


 今回は麻痺解除薬を作らなかった。それより高性能な五感麻痺解除薬の方が、これから深く潜るのなら絶対必要になる物なのだからだ。

 視覚障害、難聴、嗅覚麻痺、味覚異常、触覚麻痺の5感を、魔物の状態異常性特殊攻撃を食らう事で発症する物を消してくれる薬だ。これで身体の麻痺も治すので、麻痺解除薬の上位版といったところだ。


 さて、出来上がった"薬"は皆へ均等に分けるつもりだ。解除薬系は1人が2本ずつ持つ事になる。1人2本は少ないかもしれないが、俺は『覇者の印(はしゃのしるし)』――状態異常無効ネックレス――を持っているので自分に使う事がほとんどない。それに、メリンダや俺が魔法で回復させられる。

 魔力の消費を抑える意味で魔法の使用を控えると思うが、戦闘中でなければ"薬"を使う方が戦略的には正しいと思う。



 これら全てを作るのに真夜中を過ぎてしまった。


 もし1つの種類を大量に作ったのならここまで時間が掛からなかったはずだが、今回は沢山の種類を少量しか作らなかったので時間が掛かったのだ。



 素材を大量に消費したから部屋の中が異様にスッキリした。

 前回もそうだったが、その代わりに部屋中異臭まみれだった。今回は新兵器、城壁結界魔具があるのだ。この魔具の浄化を作動させていたので、始めから最後まで異臭とはおさらばだった。


 城壁結界魔具さまさまである。






 調合が終了してから3時間程度しか経過していないが、一眠りして起床時間になった。


 昨日で何とか調合を終わらす事が出来た。本当は今日の午前も使わなければ出来ないと思っていたのだが、前回作った事で要領よくなったのか、スキルの『調合』などが上昇したかだ。


 今日が丸1日空いたのでスキル合成でもやってみるかな。



 鍛練が終わってから食堂へ行くと、アンナさんが心配そうに声を掛けてきた。


「あんた、昨日は1日中部屋に篭っていたそうだね。

 飯も食わないで大丈夫だったかい?」


「心配を掛けたようですね。すみません。

 でも、保存食などが余っていたのでそれを食べていたんですよ。だから大丈夫です。

 まぁ、それでも少しお腹が空いたので多目にお願いできますか? お金は払いますから」


 俺がお腹をさする仕草をしたら、アンナさんは苦笑いを浮かべた。


「困った子だね。安心をし。豪勢な朝食を出してあげるよ!」


 そんなアンナさんの声を聞き、テーブルで食事をしていた探索者の泊り客が陽気に話し出した。


「おばちゃ~ん、俺も俺も! その豪勢な朝食を出してよ~!」


「何言ってんだい。お前さんも食べたいなら、こいつみたいに金を出しな!

 と言うか、お前さんはまず宿代を忘れず入れる事から始めな!」


 アンナさんの発言で、他に食事を取っていた客から笑いが起こる。


「そりゃ~ないぜ~……」


 その探索者の情けない声に、周囲の笑い声は盛大なバカ笑いに変わった。


 アンナさんやウォーレンさん、エレーヌちゃんの人柄に引き寄せられたのか、このトイボックスに人の良さそうな集まって来ている。


 ここに居ると家族の事や、お爺ちゃんお婆ちゃんの事を思い出し懐かしくなる。


 良い宿だよ。本当。




 朝食を終え部屋に戻り室内を見回すと、やはり広く感じる。


 素材や武具、魔具を持ち帰る事もしょっちゅうなので、幾つか木箱を追加で購入していた。

 それでも今回の事で素材は溢れんばかりに放置され、エレーヌちゃんは掃除に苦労していただろが、これからはもう少し楽になるだろう。



 椅子に座って紙と筆記用具を取り出し、これからステータスの確認やスキルの事を考える。


 俺があまりステータスを意識していない所為で、転職の時に新しい職業が現れた事に気が付かなかったり、数日前にキャメルから指摘された職業固有能力とか把握していなかったりと、ミスが続いた。


 ステータスをこまめに確認する癖を付け、新しいモノが現れないか調べないとな。



 魔物と戦う回数は増えたが、人数も増えたので魂がある程度均等に分けられ、現在レベル23になっている。

 俺1人ならペースが早過ぎて、階層に比べレベルが上がるのは低い方だ。パーティを組んだから、迷宮攻略のペースは他の探索者パーティより少し早いぐらいに落ち着いた。


 そして、レベルに似合わぬパラメータの数々。順調にレベルが上がる毎に能力値も上昇している。

 だが、職業に依存しているのか、突き出している物はない。


 転職してからの数値全体が平均的に上昇しているだけだ。しかも上昇値は他の探索者と比べれば低いと思う。まぁ、比べた事がないから正確な事は分からないが、白の迷宮でレベルが上がった時はもう少し上昇値は高かった気がする。

 青の迷宮は150階層も在り、レベルも150まであると考えられているので、それを考慮すれば1レベル分の数値上昇が低くてもありえそうだ。



 そして、大量のスキル。


 スキルは少しずつ増えている。例えば『剣士』のスラッシュ。これは横薙ぎの斬撃を繰り出す攻撃で、このスキルを発動させると決められた動作で、最適と思われる攻撃を発動させる。


 他にもこの様なスキルを習得しだしたが、これらは決められた動作の最適化みたいな物だから、相手に動作を読まれたり、発動最中に相手が予想外の行動に出たら対処出来なかったりする。


 確かに威力や鋭さを増すから使い勝手は良いだろうが、俺の場合はそういったスキルを使うと、逆に長所が軽減される恐れがある。基礎鍛練のたまものだ。



 そう言う事で、スキル合成を考えるなら感覚系や察知系、知覚系に調査系を合成した方が楽だと考えた。それに、合成失敗が起こる理由は、正反対の効果を発動するスキル合成が失敗するので、その辺を考慮すれば妥当な合成種類を選べる。


 他にも鑑定や解析、調合などのスキルも合成出来る物が有りそうだ。



 これらの必要と思える場所をピックアップして、紙に書き写しファイルを作る。かなり際どい部分まで書いたので、絶対に見られない様にしないと俺の情報が丸裸にされてしまうな。



 紙を見ながら合成させるスキルを選ぶ。


 まずは前回作成した『探索術』に『罠解除』『罠回避』『植物識別』『鉱物識別』を合成させた。『探索術』と言う名前に成ったからには、探索に重要な罠の解除や回避は必須だし、採取用のスキルも必要だ。

 案の定何事もなく合成出来た。


 それにしても、合成した時に何か特殊な事柄でも起きれば合成した気分になるのだが、音や光、その他の事が何も起きない。

 本当に、ただ何を合成したいか頭で考えるだけなのだ。それで出来上がるから少々戸惑う。



 それはさておき、続いて次々に合成していく。


 もう1つの『超感覚』も『弱点看破』『心眼』『明鏡止水』を合成させる。

『明鏡止水』も一緒に合成させるから、心を落ち着かせ集中力を増す効果を追加させる。



『道具作成』『武器作成』『防具作成』『裁縫』『魔法具作成』『錬金術』『薬剤調合』『多芸多才』の物作りスキルなどを合成して、『職人』スキルが出来た。


 多彩なスキルを合成したおかげでそれぞれの相乗効果が加わり、『職人』スキルを起動すると物作りが効率良くこなせる様になったみたいだ。


 昨日は先にスキルの合成をすれば良かった。そしたら調合時間は大幅に短縮出来ただろうに……。時間を無駄にした。



『素材鑑定』『道具鑑定』『魔具鑑定』『武器鑑定』『防具鑑定』と、実は鑑定にも種類が存在したのだ。良く使う『素材鑑定』はかなりの習得度だが、その他の鑑定は殆どドングリの背比べだ。


 その所為か、最近は鑑定の具合が悪い。

 まったくの新しい物を鑑定した時、名称や何から採られたかは分かるが、効能がハッキリしなかったりする。

 鑑定の熟練者は、未知の素材に何を加えれば新しい品が出来るかさえ分かると言われていが、そこまで行くと知識を溜め込んだ錬金術師と言われても納得が出来るのじゃないかな。


 それら5つの鑑定スキルを合成すれば、『一目瞭然』スキルになる。

 スキル名は微妙だし、今のところ名前に見合う効果を発揮しないだろうが、『一目瞭然』のスキル欄には、『素材鑑定』以外の鑑定スキルが軒並み上昇した様な表記がなされている。


 未知の素材や材質、道具を解析出来る項目が増え、しかも詳細に鑑定出来る様になるだろう。



 後はこまめに、『自動回復』『体力回復』『自己再生』を合わせ『超回復』にして、怪我や体力の回復を促進させるスキルを作ったり、『幸運呼び込み』『幸運手繰り寄せ』『不幸回避』で『大当たり』になり、幾日かに1度だけ多大な幸運がランダムに発動するスキルが出来たりした。


 他に消えても困らなそうな『一騎当千』『難攻不落』『万夫不当』と言った、四文字熟語に似合ったスキル効果を持つ3つを合成してみた。


 全て猛将や強いと言われるモノの称号みたいな物だから行けると思ったら、本当に出来てしまった。

 スキル名は『超人』。何かそのまんまな名前のスキルが出来た。これは笑えば良いのかな?

『大当たり』もスキル名にしては何とも言いずらい物があるし……。


 やはり、まともな神は居ないと思った方が精神や胃に優しいと思われる……。



 そんなこんなで適当に幾つか合成していった。


 2回ほど失敗もしたが、要らないスキルだったし、どんな物が失敗するかの試験でもあった。消えるのを想定しての実験だから、要らないスキルをポイッと合成した。


 スキル欄には新しいスキルが表示されず、ただ単に消えてしまった。



 それらの実験結果も紙に書き綴り、簡単ではあるがレポートが出来上がった。




 合成自体は1つ数秒で終わるが、色々書いたり検証したりで意外にも時間が掛かってしまう。


 窓から射し込む光が真上から室内を照らす。


 その光景を見て時計を確認すと、時計の12へ短針が固定されている。


 丁度良い時間帯だな。飯でも食べに行くか。



 部屋着をベットに脱ぎ捨て、適当に着替えマントや短刀を装着する。


 それにしても、掃除を止めてもらうのは昨日だけにしておけば良かったな……。


 そんな事を考え少し落ち込みながら部屋から出た。




 ご飯時の所為か、1階の食堂は満席で座れそうにない。それを考慮していたので外へ出掛ける準備をしていた。


 無駄にならずにすんだな。


 鍵を預け宿の扉を開けると、外は大変な事になっていた。



「どいたどいた!」「ちょっと。危ないじゃない!」

「本日限定定食は後10食です!」

「ママー! どこー!?」「マイク、こっちよー」

「"あの"良さが分かんねーってのか!? てめぇー!」「やんのか!? お前だって"あいつ"の良さが分からんのならヤってやるぜ!」「上等だこのやろー!」

「『ネコネコ大好き』旅団と『イヌ神様同好の志』旅団のケンカだ!」「オッズいくぜ! 前回の勝者イヌが有利か? 今回も勝つのか!? それともネコが巻き返すのか!?」

「まったく、探索者は粗雑でいかん」「そうじゃな、最近の若い者は……」

「ほら、あそこの爺さん達またやってるぜ」「ああ、まったく最近のじいさんは……」



…………カオスだ。どこをどう聞いてもカオスだ。見回してもカオスだ。



 町の喧騒は何時もの比ではない。目の前の騒ぎがあちらこちらで起きているのではないかと心配になる騒々しさだ。


 道には人で溢れ、その人達を相手に商売をしようとしている屋台や店の店員が声を上げている。

 他にも荷を高く積み上げた馬車が行き来し、混乱に拍車が掛かっている。


 これらの人達は、迷宮が変化期を向かえたので迷宮に潜れない探索者が休暇を楽しもうとティトゥスに溢れ、その探索者に物を売ろうと他の町や都市から商人がなだれ込んだのだ。


 探索者は命に見合う報酬を迷宮に潜る事で確保する。だから、大抵の探索者はお金を持っている。

 商人としてはそんな探索者を逃す手はないのだろう。しかも迷宮に潜れないのだから、時期としてはドンピシャだ。



 前回の変化期は部屋でゴロゴロしていたし、出かける時は朝早くか夜ばかりだった。その所為で変化期のティトゥスがこの様な状態になるとは思いもしなかった。



 目の前で繰り広げられる漫才の様な光景を尻目に、人の波をかき分けながら、少しでも空いていそうな料理屋を探して進んで行く事を決意した。


……それぐらいの意思を持っていなければ、挫けそうだよ。




 6件目の料理屋で何とか食事を取る。

 食事はゆっくり取りたいのだが、周りの雰囲気に押されて早飯になってしまった。


 この場合は食事を取れただけでも良かったのだろう。


 今日、明日はこれ以上外に出なくても良い様に、果物や保存食を買い宿の部屋で食べる事にする。3日目になれば多少は落ち着くだろう。


 これから図書館へ行き、時間潰しの本でも漁ろうかな?




 図書館への道程も人の多さで疲弊したが、それと追加で砂埃が舞うのも辛かった。

 ここ暫く雨が降らなかったから乾燥している所為で、細かい砂が風に煽られ宙を舞う。


 マントで大半の砂埃は防げたが、顔面は防げないので黒くなっていないだろうか?


 街中を歩いている住人は皆気にしているのか鬱陶しそうに顔に手をやるが、商売人はそんな物気にせず商売に勤しんでいる。


 商魂たくましいな。





 10数冊もの本を借り、その本を読みながら1日、2日と過ぎて、実際の内部構造が変化する最終日までぐうたらと過ごした。


 エレーヌちゃんにはまたもや胡乱な瞳で見つめられたが、こんな日を過ごしても良いじゃないか。



 そんな最終日の午後。突然の来訪を受けた。


――コンコンコン


「セージ、エルマだが居るか?」


 エルマのキリッとした声が扉越しに聞こえて来た。


「居るよ。

 今開けるから」


 扉を開けると外には私服姿のエルマが佇んでいた。


 酒場で合った時と似た様なワンピースを着ていたが、足にはゴツイ革のブーツを履き、腰にショートソードを差している。左手には脱いだばかりだろうマントも抱えている。


 エルマは室内を見回すと、机の上に有る本の山を見て苦笑いを浮かべた。


「どうやら変化期の洗礼を受けたらしいな。

 人の多さに驚いて部屋に篭る探索者も多い」


「正解。変化期初日に出たら酷い事になっててね。それから宿を出ていないよ。

 それでどうかした?」


「『森林』エリアで戦った時にスローイングナイフを紛失しただろう。

 もし補充したいなら付き合おうと思ったのだ。もう購入したのか?」


 忘れていた。あの時は4本も無くしたから買いに行こうと思っていたが、街中での衝撃に頭から零れ落ちてしまっていた。


「ありがとう。完璧に忘れていたよ。

 エルマも知っての通り、俺は武器を購入しないし、手に入れた武器は合成の素材になるから武器屋に殆ど寄らないんだ。

 だから良い店知っていたらお願い」


 俺の話を聞いてエルマは不敵に笑い、自慢げに胸を張る。


「任せろ。

 私が最高の店を紹介してやろう」




 流石に初日ほどの人通りはなく、随分と落ち着いてきている。"かき分け"なくても進めるのに感謝してしまう。


 本当ならこれが普通なのにな~……。



――チリーン


 エルマが店備え付けの鈴がなる扉を開ける。


「邪魔するぞ」


「なんだ嬢ちゃんか。

 邪魔だと思うなら出てってくれてもいいんだぜ」


 エルマに連れて来られたのは剣全般を取り扱っている店だった。

 そこにはナイフも剣の延長として置いてあるみたいだ。


 そして、カウンターで剣にサビ止めの油を塗っている、如何にも職人らしき人物がエルマに悪態を吐く。


「ふっ、帰って欲しければ整備に出した剣を寄こしてもらおうか」


 挑発的な応酬だが、2人とも本気ではなくどこか楽しそうにしている。


「口のへらねぇー嬢ちゃんだ。

 今取って来るから待ってな」


 店主と思わしき男性は手に持っていた剣をしまうと、奥へ引っ込んで行った。


「俺の事は一切気にしていなかったみたいだけど、いつもあんな感じ? 対応込みで」


「鍛冶の腕は確かだ。人柄も、あんな事を言っているが出来た人物だ。

 ここの店主と鍛冶職を兼任している」


 さいですか。


 俺はエルマと別れ、店内を歩き回る。



 20平方メートルぐらいの店内には無秩序に剣が陳列されている。


 だが、1本1本の剣にはサビ1つ浮いておらず、刃が欠けている物すら見当たらない。


 種類も直刀から曲刀、大剣、片手剣、刺突剣、短刀など様々な剣がある。

 中には剣を受けやすくしたり破壊したりするマンゴーシュやソードブレイカーまで揃っている。


 剣の事ならこの武器屋、『アクライン』が良いのは分かった。



 俺がそれらの剣を観察しながら投げナイフを探していると、店主がエルマの剣を持って来て2人で会話を繰り広げていた。



「ところであのボウズは嬢ちゃんの連れか?」


 良さそうな物が見付からないでいると、店主の声が俺に聞こえて来た。


「ああ、私たちのパーティに新しく入団したセージだ。

 セージ、ちょっといいか?」


 呼ばれて2人の元へ行ってみると、店主が疑惑混じりの瞳で俺をつぶさに見つめる


「はじめまして、セージと言います」


「……ふんっ、体のバランスは良いみたいだな。

 オレはレンブラント。だが、名前でオレを呼ぶんじゃねーぞ。名前以外なら何とでも呼べ」


 どうやらお眼鏡にはかなったかな?


「それでボウズは何探してんだ」


「ナイフです。専用のスローイングダガーでも良いです。

 先日戦闘中に使用して喪失しましたから」


「投擲武器とはこれまた珍しいな。

 だが、丁度良いのが有るぜ。ただし、ボウズに扱えるかは知らねーがな」


 そう言うと背後に在る棚から20本1組のダガーを取り出した。


「バゴア鉱石から取れる金属を使ったスローイングダガーだ。

 エンチャントはされていないが、青の迷宮にいる内は交換の必要なねーぜ」


 目の前にある物は、かなり凶悪な外観をしている。

 細く鋭い両刃のフォルムは突き刺す事だけを考えられており、しかも複数箇所付けられている返しが刺されば抜けなくさせている。


 俺はダガーを手に持ち感覚を確かめたが、刃渡り10センチ程度の物なのに、見た目にそぐわぬ重量を持っている事に気が付いた。1本1キログラムはありそうなので、比重はかなりのものだ。


 だが、バランスは取れているので投げるのには問題ない。


「これは良い品ですね。これを頂きます」


「あいよ。

 1本1万5000ソルで、1組30万ソルだ」


 流石にこのクラスの武器になると15万円相当になるか……。しかもスローイングダガーのセットだから、合計300万相当。

 金が有って助かった。


 中金貨と小金貨を混ぜて店主に渡す。


「毎度あり~。

 次来る時は土産の1つでも持って来いよ」


「店主の好みが判らないのでね。代わりに研ぎの依頼を持って来よう」


「へっ、何でも持って来な」



 最後までそんなやりとりを繰り返し、武器屋を後にした。




 通りを暫く進み、俺の宿とエルマの宿への分岐に辿り着いた。


「エルマ、今日はありがとう。

 おかげで良い買い物が出来たよ」


「そんな事は気にするな。

 セージが仲間になってからこちらが世話になってばかりだ。この辺りで返上しておかないと私の気がすまないのだ」


 素直じゃないな。


「そう言う事にしておくよ。

 それじゃ、明日ギルドで」


「ああ、また明日」




 エルマと別れ宿に到着すると、投げナイフ用のベルトをスローイングダガー用に修正する。


 30分程度の作業で終了した。


 買い物をし忘れるなんてポカをしてしまったが、終わり良ければ全て良しだ。



読んでいただいてありがとうございます。


スキルの事を多少は細かく書きましたが、もっと詳しくとか、セージ君の思考が分かり辛いとか言われても、これ以上は俺のボキャブラリーの限界で書けません。勘弁して下さい。

指摘は受け付けますので、参考にさせてもらうかもしれません。


これからもよろしくお願いします。

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