十八話 気が付けば仲間?
名称とルビが違うのは仕様です。
――35階層 『砂漠』エリア――
照りつける明かりにも負けず、俺"達"は戦っていた。
体を空中に浮かせ漂いながら向かって来る浮遊魚の相手をしていると、左から巨大な何かが向かって来た。
「左から2体来るぞ!」
「私が行く! 付与を頼む!」
俺の言葉に反応して真っ先に動き、踏みしめた足を蹴り上げて溜め込んだ力を瞬発力へと変換した。
『剣士』は魔法の付与を頼み、体長7メートルのミミズに突貫する。
「了~解!『魔力を氷となし 剣に力を与えよ 氷の加護』!」
『魔道士』が発動させた魔法が、突貫した彼女の剣へ氷の付与を与えた。
いつかの『鎖の囚人』の様に、杖の先端から伸びた魔力の帯が、今度は彼女の剣に纏わり付いたのだ。
ジャイアントワームの弱点である冷気を纏った魔法剣は、体表面を覆っているぬめりを物ともせず肉体へ食い込み、ダメージを食らわせていた。
「ギュドゥー!」
『魔道士』に補助魔法を付与された『剣士』が剣戟を食らわせ、ジャイアントワームは痛みに悶えてその巨体を跳ねまわす。そして、砂が弾かれ飛んで来る。そのスピードが速すぎて、細かい砂なのに肌を削るような痛みを味わわされた。
その状態を見た子が、直ぐに対策を立てる。
「みなさん、障壁を張ります!『神よ わたしの声を聞き届け 隣人を守りたまえ 聖なる障壁』!」
『司祭』の子は、小柄な見た目に不釣合いな巨大メイスを両手で包み込み、神聖魔法を唱えた。
その魔法は頭上から透き通る様な膜を降らせ、個別に全員の体を満遍なく覆い、飛んで来る砂を完璧に防いだ。
感触はなく、ただ薄い光の膜があるだけだ。だが、誰かに守られている様な感覚がある。
これで砂だけではなく、ある程度の攻撃も防げるかな?
そうこうしている内に、正面から追加のジャイアントワームと地中トカゲの群れが地面から飛び出してきた。
俺はスカイフィッシュの相手をしながら、ジャイアントワームとロックリザードの動きを止める。
「正面の魔物は俺が足止めする! デカイのを1発頼む!」
「任せて。『魔力を爆発させ 一面を覆い尽くせ 粉砕爆裂』」
俺の急な注文にも冷静に対応する『魔法使い』。
70センチほどの頭に魔石が付いた樫の木の杖から、強烈な攻撃魔法が魔物の中心でほとばしる。
俺の正面にいた魔物全てを包んだその魔法は、凄まじい音と閃光を発し爆発した。
熱に耐性を持つこのエリアの魔物も、丸で空間ごと爆発するような攻撃魔法にひとたまりも無く消滅したようだ。
そのたった1回の魔法で魔力の半分は消費したのか、『魔法使い』は一瞬足をふら付かせた。もうこの戦闘では魔法を使うような事態はなさそうだから休息させるか。
それにしても、あのたった1回の攻撃魔法は大変価値あるものだった。
俺にも爆発の余波が届いたが、直ぐに避けたのと障壁が役立ち負傷は無い。
俺は急いで『剣士』の方へ援護に向かう。
さて、何故この様な状況に至ったのか話そう。
――それは1日前の事だった――
今日の迷宮探索が終わりそうな時間帯。今は34階層を探索している。
30階層から続く『砂漠』エリアの暑さと砂に嫌気が差すも、後5階層はこのままだ。
イラ付きはあれど歩みを止める事はない。
青の迷宮に挑んでからここまで来たが、今の俺は目標が無い。
白の迷宮は明確な道筋を決めていたが、青の迷宮で同じ事――最大レベルで最階層へ潜る――をしても芸が無さ過ぎる。
だからと言って何か目標がある訳でもないし、ちょっと困っている。
何か面白い事、やりたい事、目標などが無いかと考えながら探索していた。
そんな時に"あの子達"と出会った。
「あーー! セージ! やっと会えた!!」
人がいるのは分かっていた。
青の迷宮に来てから沢山の探索者と出会ったので、今回も気にしていなかったが、どうやら知り合いみたいだ。
しかも、声に聞き覚えがある。
まさかと思いつつ振り向けば、確かにあの子、キャメルがそこにいた。
それだけじゃない。かつての3人娘も勢ぞろいしていた。
「久しいな、セージ。まさかこの様な所で再び出会うとは思ってもみなかったぞ。
それにしても、キャメルが言っていた者はセージの事だったのか」
「えー!? エルマも知ってるの!?」
キャメル……君はもう少し落ち着きを覚えた方が良いな。
それと、体全身を使って驚きを表現しなくても、その声を聞けば分かるから。
「ああ、酒場で面倒ごとに巻き込んでしまってな。
メリンダも知り合いだぞ」
「えー!? 更にメリンダも!?」
いや……だからもう少し声を……。
「そうですね。
セージさん、あの時はありがとうございました。
指輪、今でも大事に使わせてもらっていますよ」
胸の前に上げられた左手の小指には、あの『幸運の指輪』が嵌っていた。
「その指輪で運が向いてきたのなら、俺もあげたかいがあるよ」
「そんなー!? 指輪をあげる間柄だなんて!?
それじゃぁ、フィービーも知り合いなの!?」
「ワタシは知らない」
「セージ! イジメ良くない!!」
…………女3人寄れば姦しいと言うが、キャメル1人いれば十分姦しいよ。
諺の修正を求む。
それにしても、こうして4人と会うとは……何か不思議な感じだ。
「とりあえず、知っている者もいるが軽く自己紹介をしよう。
私達は"夢追い求めし狩人"パーティの仲間で、私はエルマ、前衛だ」
エルマは初めて会った時とほとんど同じ姿だ。装飾が適度に施された深紅の鎧を身に纏い、銀色の手甲と身軽そうな脚甲を着け、長剣を腰に差している。
金髪のポニーテールが話すごとに僅かに揺れる。
口調は少し硬いがキリッとしていて良い感じだ。
「彼女はメリンダ、後衛だ」
「よろしくお願いしますね」
次に紹介されたのは、『黄昏の剣』旅団の連中に追われていた所を助けた、神官風の少女、メリンダだ。
メリンダはあの時と違い、強めの魔法が掛けられたローブを纏っている。多分、防御魔法だろう。手には大きなメイスを持っている。
今日もヴェールを被っていて、あの綺麗な銀髪は見えない。
微笑を浮かべる表情が、小柄さと相まって可愛らしい。
「彼女はフィービー、後衛だ。
フィービーとは初めてらしいな」
「フィービー。よろしく」
この子はえらく物静かだな。
風体は、これぞ魔法使いといった装いだ。70センチのワンドを持ち、黒に統一したとんがり帽子やマント、服とスカートまで黒1色ときた。
しかし、その黒が肌の白さを際立てている。ショートボブの赤毛も、本人を目立たせる要因だ。
まぁ、赤い瞳が無気力さを出していて全てを台無しにしているがな。
身長はメリンダと同じぐらいで、俺の胸ぐらいしか無い小柄な体格だ。
「最後が最近パーティに入ったキャメル。彼女も後衛だ」
「よろしくね!」
そう元気に答えるキャメルは他の者より少し軽装だが、主武器になる身の丈ほどのスタッフを持つ、立派な魔法使いだ。防具も軽装ではあるが、つい最近青の迷宮に挑んだにしては、今まで見てきた他の探索者よりかは良い物を着ている。
そして、ウエーブのある柔らかそうな金髪は健在だ。……無駄にワシャワシャしたくなる。
「俺はセージ。よろしく頼むよ」
しかし、こうやって見るとバランスが崩れたな。後衛が3人の前衛が1人とは……。
「後衛が多いみたいだけど、大丈夫なのか?」
その言葉に1番に反応した者がいた。勿論キャメルだ。
「セージ君は忘れたのかなぁ~? 私は君を仲間にする気だよ!」
「……住所を聞き忘れたくせに……」
「そ、それは言わないでよ~……」
俺の小声を聞き遂げたようで、悲しげに言い返してきた。
まぁ、うっかりしてたんだな。
「でも、他の仲間が了承するか聞いたのか?
皆、そこんとこどうなの?」
「私は構わんぞ。
セージの実力は何となく分かるからな」
エルマはスプーン投擲事件を見たから分かるが。
「私も良いですよ。
あの人たちとの戦いをこの目で見ましたから。凄く強かったですよ」
……メリンダも悪漢追っ払い事件に出くわしたな。
そう考えていると、フィービーが近寄って来て、俺の体をペタペタと白魚の様な白い手で触れてきた。
「えーと、何?」
聞いても答える事はせず、相変わらず体や腕を触っている。何をやっているのか分からないが、鎧を触っても何も分からないと思うが……。
触るのに飽きたのか、1歩下がると1つ頷いた。
「ワタシはミンナが良いなら」
…………何が!? 今ので何が分かった!?
顔も無表情に固定され、何を考えているか分からない。……この子は不思議ちゃんか?
「わたしが拒否する訳ないから、これで全員一致です!
セージはわたしたちの仲間となったのだ~」
いや、俺が混乱している内に勝手に決めないで。しかも最後ナレーション風になってるよ。
まぁ、もう何を言っても無駄な気はするが……。
「とりあえずここじゃ何だから、どこか話の出来る場所へ行かないか?」
迷宮内で無駄に長話をするのも何なので、階段を下りテレポーターで地上へ帰る。
そして、いつものヒチェンバーではなく、彼女達の良く行く酒場へ向かう。
そこはヒチェンバーと違い、少し上品な雰囲気があった。
店員に頼んでこの店にある個室を選ばせて貰った。
雑談を交え、食事を済ませてから先程の会話に戻った。
「先程決まったように、私達は全員一致でセージのパーティ入会を受け入れる。
その事はセージも了承するな?」
「まぁ、唐突で行き成りだけど構わないよ」
仲間とパーティを組み、迷宮へ潜る。
これも1つの目標になるのかな? それなら彼女達と一緒に行動する事もやぶさかではない。
「パーティ名の"夢追い求めし狩人"、通称"狩人"パーティとは、私達それぞれが目標にしている事を達成する意味を籠めた名前だ」
「良い名前だね」
「ふふ、そうか。ありがとう。
その事があるので、夢や目標をみんなに話してもらいたい。出来れば個人的な事も公表して、みんなの仲間意識も高めたい。
無論それらの情報を漏らさない契約は結ぶぞ」
ついに来たか……こう言った話が。
皆は、俺が黙り考え込んでいるのは、「信じるべきかどうか」と思案しているのだと思っているだろうな。
それも一理あるが、「話すべきかどうか」の方が俺には重要になっている。
必ず黙っていないといけないモノではない。だが、無駄に混乱させる話ではある。それでも、黙っていたり嘘を吐くと不信感を与えてしまう。
頭の中を葛藤やジレンマが駆け巡るが、皆は俺が話すのを真剣な表情で、信頼を寄せる瞳で待っている。
――――何事も経験だな。ここは1つ、正直に話して反応を見てみるか――――
ここで逃げたら男が廃ると、そんな事を考えながら秘密を暴露しようと思い至った。
「分かった。多分皆はある程度の概要だけで、全てを話してもらおうと思っていないだろうが、俺の話は特殊でね。真実を伝え少しでも信じてもらう為には、最初から話した方が良いと思う。
だから、今から話す事は全てが真実。嘘偽り無く教える」
そこまで話してからエルマが全員分の契約書を配った。
エルマが先程言っていた契約とは、探索者同士で結ぶ魔法の契約書の事だ。契約書に書かれた制約は契約を結んだ直後から発動し、契約者を縛り契約を破る事が出来なくなる。
契約書にそれぞれが話すプライベートな事と、探索者の技能などを他者に漏らさないと書き綴り、署名した。
皆にも回し順番に署名を書き、俺から話し始めた。
「俺は、地球と言う惑星がある世界の日本と言う国で生まれ育った――――」
俺は様々な事実を語った。
簡単な故郷の話し。異世界を渡る事になった経緯。60年の修行期間。戦闘技能と戦闘経験が豊富な事。アスカラドに来てからの行動。白の迷宮での活躍。未知の職業に転職。
そして、俺の考え方や行動理念を全て伝えた。
「――そう言った経緯で俺は今ここにいる。
そして、いつか他の異世界に行く事になるが、今は決めていない。まぁ、赤の迷宮へは行く積もりだから、暫くはここに留まるけどね。
今の所の目標は、第3次職がどんな職業になるのか気になるから、赤の迷宮でレベル200まで上げる事だね」
皆頭の中を整理しているのか、暫く沈黙が続いた。
「……話は理解した。
私は貴族の生まれだ。嘘や策略には何時も晒されていた。だから、セージが嘘を吐いていないのも分かった。
セージを信用しよう」
そんな中、始めに発言したのはエルマだった。
「私も孤児として教会で育てられた所為か人の目に敏感なんです。
その目で見た限り、セージさんは良い人だと分かります。だから信じています」
続いてメリンダが誠実に。
「わたしはあの時言ったよね。『わたしの目に狂いはないのよ!』って。
だから仲間になるの!」
キャメルも元気良く強引に。
「ワタシは真実か嘘か気にならない。仲間になるなら信じるだけ」
フィービーの言い分は微妙だが、初めて会うのにそれだけ言ってくれれば十分だ。
「皆、ありがとう」
街道では山賊が出るし魔物すらいる。
そんな殺伐とした世界だが、皆人が良い。
アスカラドに着てから、心がおおらかな人達に沢山出会えた。
これだけでもこの世界に来たかいがあるな。
「次は私達だな。
私は貴族の長女として生まれた。全ては家のために、交友関係を絞り、教育を受け、生活し、生きてきた。しかし、親の期待を一心に受けて育った私には、それが苦痛でしかなかったのだ。
弟が生まれたのを期に家を出て、貴族としての格が無くとも成功出来ると証明するために迷宮へ赴いた。
今は『剣士』で青の迷宮50階層を行き来しているが、未だに到達者の少ない赤の迷宮300階層へ下りる事で、成功者だと証明する」
エルマは力強い発言で胸の内を曝した。
貴族の権力は強大で、普通はあえて違う道を選ぼうとする人はいないだろうが、この世界には迷宮があり、転職する事で違う自分になれる。
そして、赤の迷宮は600階層もあるのに、200階層より深くは攻略の難易度が跳ね上がる。300階層まで潜った者は、過去に遡っても数えるほどのパーティしかいない。
エルマはそれに賭けた人物と言う事だな。
「私は物心が付く頃に教会で捨てられていました。
その事が原因で一時期人間不信にもなりましたが、教会の神父とシスターが親身になって私の世話をしてくれたので、少しづつ心を開いていきました。
ですが、神父たちは良い人すぎたのです。孤児を受け入れすぎて教会の経営が傾き出しました。本部からの援助もありますが、それでも賄えないほどになったのです。
ですから、私は恩を返すために、大金を稼げる迷宮探索者になる事を決めました。
そして職業も『司祭』から、第3次職の『神の御使い』になる事で教会の手助けをしたいのです」
メリンダは"家族"の為に頑張っているようだ。
迷宮の職業としての神官職などは、実際の実務をこなす人達とは微妙に違うが、箔は付く。
迷宮に挑まなくなっても、転職した職業でより良い援助を受ける事が出来る。
「わたしは自分の可能性を確かめたくてここに来たの。
村のみんなは自分たちの生活で精一杯。家族の仕事を手伝うのが当たり前だって考えてる。
でも、わたしは立ち止まりたくない。常に上を目指したい。
そんな事を思っていた時に魔法の才能があるって知ったの。最初の転職で『魔道士』なれたんだから、これからも頑張って上位職に転職したい。
狩人パーティには最近入った所為で、みんなの足手まといになってるけど、直ぐに追い着くんだから」
キャメルもエルマと同じ様に家に縛られない事を望んだのか。
周りの"普通"と自分の"普通"異なる事に悩み、解決策が迷宮だったと言う事だな。
「ワタシは祖母の後を継ぐため、迷宮に来た。
祖母は赤の迷宮300階層を攻略したパーティの1つに属していた。職業は『賢者』。
ワタシも最初の『魔法使い』に転職した。そして『賢者』に転職する」
フィービーだけは無表情を変える事無く聞いて喋った。しかも俺の肩に手を置いて。
とりあえず俺を信じて自分の事を話してくれたので、俺も信じるだけだが、この子を真に理解するのは難しそうだ。何考えているか分からないよ。
「明日は早速迷宮に潜ってみんなの力量を把握しよう。
セージも構わないな」
「大丈夫。35階層までなら問題ないよ」
この後は細かい打ち合わせに入った。
それぞれの戦い方や連携。これまでの戦闘暦。持って行く物の種類などだ。
狩人パーティは50階層で戦っていた。キャメルが入ってからは、彼女の経験の少なさを考えて、20階層でフォローを入れながら進んで、今日34階層で俺と合流したみたいだ。
キャメルにとってはハイペースでキツイ攻略になったみたいだが、元祖狩人パーティのフォローは絶妙だったらしい。
普段のリーダー的存在はエルマだが、戦闘では皆がそれぞれ必要な事を指示してやってきたようだ。
それもここまで人数が増えると混乱が増すと言う事で、始めは普段通り進めて、慣れたら1番戦闘経験がある俺にリーダーを務めて欲しいと要請された。
出来ない事はないと思うが、いつも1人で戦っていて多対多の戦闘は久しくやっていない。
最後にやったのは10年前ぐらいだろうか? トォーラの修行時代が最後だ。主に一対一か、一対多が多かったからな。
後衛の冷静そうなメリンダかフィービーに指揮を頼んだ方が良いのだが、とりあえずは様子を見ながらとの結論に至った。
翌日朝一で集合したら、周囲の注目を浴びた。
夢追い求めし狩人パーティは期待されているパーティだ。そこにキャメルに続いて俺が入ったから話題を呼んだみたいだ。
いたる所で推測だの疑問だのを話し始めている声のざわめきが、ロビーで反響している。
メリンダは少々怯えているのか、その小柄な体を更に小さくして視線から逃れようとしている。そんなメリンダと不意に目が合い、どちらからともなく苦笑いがもれた。
他の者は素知らぬ顔で歩いているので、苦笑いを笑いに変えてしまう。
1ヶ月以上前に『黄昏の剣』旅団と揉め事を起こしたが、結局相手が悪いとギルドや都市警(警察の様なもの)に奴らは注意されたらしい。
そんなパーティなので注目度は更に上がっているのだ。
俺とメリンダの笑いに疑問符を浮かべる皆を置いて、瞳と言う名の針のむしろを味わいながら、肩で風を切り、2人で颯爽とギルド内を横断する。
35階層に辿り着き、最近お馴染みになってきた『砂漠』エリアを歩き巡る。
足を取られながらも広大な砂丘を探索していると、体長70センチのロックリザード2匹と同じ位のスカイフィッシュを4匹見つけた。
ロックリザードは地中を泳ぐ様に進むので、地上にいる姿は攻撃時にしか見ない。今回は運が良かった。口からは砂のブレスを吐き出す、中々のやり手だ。
スカイフィッシュは魚と付いているが、それは形だけで、肉体を構成している物質は砂だ。砂が集まり骨らしき物や臓器らしき物を構成し、肉体を形作っている。しかもそいつが浮いているのだ。摩訶不思議ここに極めりだ。
「ロックリザードへ行く!」
エルマが走り出すのと同時に皆もそれぞれ行動し出した。
「ブレス用の壁を構築します!」
「スカイフィッシュを止めるね!」
「右のロックリザードは任せて」
エルマの攻撃がロックリザードへ届くより早く、ロックリザードがブレスを放った。
吐き出された砂は濁流となってエルマに襲い掛かるが、寸前でメリンダの魔法防壁で防いだ。
淡い緑色の光で出来た透明な壁は、砂を四方へ弾いて一粒たりとも壁の内側に通す事は無かった。
続けてキャメルとフィービーの魔法が発動した。
キャメルの水属性拘束魔法、『水の牢獄』は、スカイフィッシュを水球で包み込み機動力を大幅に殺いだ。これは砂に水が含まれて、硬度が増す代わりに動きを鈍らせた結果だ。スカイフィッシュは個体として完成されているので、水を大量に与えても崩れる事がないのだ。
だが、動きが鈍れば包囲攻撃を受けなくて済む。
フィービーは氷属性攻撃魔法、『雹弾』をロックリザードへ飛ばした。これは数10にもおよぶ1センチ大の雹を、ワンドから高速で飛ばす魔法だ。誘導性が無いので直進しかしないが、数が数なので沢山ヒットする。
確実に1匹を仕留める攻撃は、その効力を万全に発揮しロックリザードを倒した。
俺も見ているだけではいけないな。
動きは遅いが防御力の増したスカイフィッシュをネージュで一刀両断にしていく。
ザリザリと擬音をたてながらやすやすと斬られるスカイフィッシュ。
キャメルの魔法選択は高評価だ。状況に応じて対応出来ている。
フィービーもスカイフィッシュを攻撃しないで、冷静にロックリザードへ攻撃したのは良い感じだった。直ぐ近くの無抵抗な敵へ魔法を撃たず、危険な敵を確実に仕留める事が出来るのは、状況把握が出来ている証拠だ。
それは時と場合にもよるが、今回は俺がいたのでこっちに任せてくれたのだろう。
メリンダの防御魔法も、適切な物を選んで攻撃発動までに間に合わせた。良い判断と行動力だ。
俺が最後のスカイフィッシュを倒して、戦闘は終了となった。
エルマだけは最初から最後までの戦闘風景を見る事が出来なかったが、姿に汚れや損傷を見受けられなかったので、一刀の元に斬り捨てたか完勝したのだろう。
「皆お疲れ様」
戦闘を終え思った事は、皆役割分担をシッカリ理解しているのと、エルマの負担が大きかっただろう、と言う事だ。
後衛が多いと前衛は安心して戦えるが、1人は辛かっただろうに……。
「わたしたちの戦い方はどうだった?
結構いけてたでしょ」
「ああ、キャメルの言う通り。
これなら他の探索者の間で噂になる訳だ」
俺の言葉に、各々差異はあるが誇らしげだ。
「しばらくはこんな感じで進むぞ」
それから数回の戦闘を繰り広げた後、冒頭での戦闘になった。
俺も口出しをしたが、有っても無くてもそれ程変わらないようだ。
皆は今までの経験から何をすれば良いのか分かるようで、下手に誰か1人に指揮させるよりか、相互に声を出しながらが良いみたいだ。
そうして俺はこの日から、1人ではない探索を新たな仲間と共にこなして行く。
喋り方を考えたり、性格を設定するのが凄く面倒くさいです;
最初は気楽に考えていたのに、全員登場させると一言一言に気を使ってなりません。
それぞれのエピソードを作ろうかとも思っていましたが、この分では俺の気力が持たないかも……いえ、頑張りますよ。ほんと。
それにしてもユニークが5万人を超え、お気に入りも1000人に届きそうな勢いです。これも皆様が読んでくれるおかげです。ありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします!