十二話 トラップ
魔法使いのキャメルと会ってから、アスカラド換算で2週間、16日が経過した。
改めて日の数え方を言うと、1週間が8日。1ヶ月が5週間の40日。1年が9ヶ月の360日。新年の前後3日ずつが休息日らしきもので計算から外している。
つまり地球と日数は殆ど変わらないみたいだ。
曜日、週、月は、24柱いる神と邪神の名前が使われている。年末3日は邪神の最高位の名前が使われ、年明け3日は神の最高位の名前が使われるので、丁度24柱で納まる。
まぁ、雑学をちょっと披露しただけでこれからも使わないだろう。憶えるのも面倒だし。
そう言えば、キャメルは最後まで俺の名前以外を聞かなかったな。というか、あれは完璧に聞く事を忘れていた感じだ。
彼女の評価に、おっちょこちょいを付け加えておこう。
迷宮の探索は思いの他順調に進んで、これから40階層の探索に移る。
これまで探索者は、40階層途中までしか行っていないので、それ以上のエリアや、魔物の情報は存在していない。
迷宮探索ギルドですら知らないのだ。潜ってみないと何も分からない。
ギルドと言えば、俺がこんなに短時間で未知の階層へ行くのに、その情報を公開しない事に驚いた。
確かに、俺的に言えばもう少し速く深く潜る事も出来ていたのだが、騒がれるのを嫌って抑えていた。しかし、これまでの探索者からすれば驚異的だっただろう。
ギルド側はあくまでも探索者の管理やサポートをするのであって、出来る限り個人情報を出さないようにしているみたいだ。
クエストを受領したり、達成したりした時にギルドカードを提出しているので、それを見た受付はちゃんと分かっているだろう。何せ登録日や到達階層数、魔物討伐数が表記されているのだ。それでも、俺の事が噂にもならないので、きちんとした情報管理はされているようだ。
一度、ギルド受付のレナさんにその事を聞いたら――
『ギルドの職員は『真実看破』や『嘘感知』のスキルを持つ人がいますから、個人の情報を漏らす人はおりません。
迷宮の、新しい情報を入手した人がいらしたら、極秘に接触してその情報の買い取りはしていますけどね』
――と、朗らかな笑顔でそんな事を言われた。
レナさんも『嘘感知』スキルを持っているらしいが、俺が他人を害する嘘や、騙す嘘を付かなかったので好意的に接してもらっている。
ふぅ、助かった。
そんなこんなで後の憂いを感じる事無く、迷宮探索に勤しむ事が出来る。
40階層はこれまでと確かに違った。
ギルド講師の説明通り、魔物の強さや数が桁違いになると言った事は本当だった。
この階層は『暗黒』エリアとなっていて、『迷路』エリアがより暗くなって、先が見え辛い仕組みになっている。
その所為で、魔物の数も多いここでは、エンカウント率も高く遭遇戦が激しい。
魔物も、霧状の魔物やがい骨の魔物、影の魔物と疑似生命体が多くいるし、それらは特定の形に留まらずバリエーション豊かに存在する。それは獣型だったり人型だったり虫型だったりして様々な形で襲い掛かって来る。他にも、死肉を喰らうゾンビや理性が欠片も無いゴリラみたいな魔物すらいる。
奴らは理性が無く連携を取らないが、その代わりに痛みや恐怖心を感じず、その強靭な力を全て出し切ってくる。大抵は力押しだが、結果的にそれが波状攻撃になる事もある。
今までと違って駆け足で進む事が出来ない戦闘密度だが、確実にマップは埋めていく。そして、41階層の探索中に不覚にも面倒な部屋に入り込んでしまった。
その部屋は出入り口が1つしか無く、30メートル四方に魔物1匹いない部屋だった。
いや、出入り口の対面に宝箱が1個置いてある。それがあからさま過ぎて怪しいのだが、あまりにも堂々と置いてあって気になる。
――気になり過ぎる。
周囲と宝箱に気を張りながら宝箱の留め金に手を掛ける――が、留め金に触れると猛烈に嫌な勘が働いた。
これ、どうしよう……。
どんな些細なリスクでも避ける方が良いのだが、リスクを怖がっていると何も手に入らない。特に、怪しい宝箱があからさまに置いてあるのだ。何かあると思いたい。
そう思うと、もう開けるしかなくなった。
直ぐに動けるように体制を整え蓋を開ける。
隙間から見える範囲に仕掛けは見えないが、何か物があるのは判った。ゆっくり開けていくと、全貌が垣間見えた。
それは、プラチナみたいな輝きを放つ、手のひら大の金属の板だ。金属板には文字が書いてあり、それを読もうと宝箱の蓋を全開にして取ろうと手を伸ばしたその時――
――カチッ
――ヴィー! ヴィー! ヴィー!
宝箱から小さな音がし、次に部屋全体を警戒音らしき騒音が響き渡る。
プレートの文字が気になるが、それらの事は頭から追い出し、カンティーとノールを構えてどんな事態が起きても対応出来る様に固唾をのんで待つ。
――ガゴン!
――ガコ! ガコ!
しまった! 状況が更に悪くなった!
初めのは、唯一の出入り口に石の壁が降りてきて退路が塞がれた音だ。
続いて2回聞こえたのは、左右の壁の一部が割れ出入り口らしき物が出来た音なのだが、その奥から数えるのもバカらしくなるほどの魔物の気配が次々と出現しだしたのだ。
今回、俺の行動はことごとく裏目に出ている。ついて無い。
その気配は、40階層に来てから感じる魔物に似ている。それらが数を率いて向かって来るのだ。状況は本当に最悪だ。
壁際に居ると追い込まれた時に動ける範囲が減るし壁を移動する魔物もいるので、中央に位置し全方位を警戒する方が良い緊張感を保て、行動範囲も確保出来そうに思えたので、そこへ移動した。
第一陣は、影の魔物シュートロアと霧状の魔物ガラドスだ。これらは殆ど重さが無く、体表面を魔力で覆い魔力の力でもって攻撃や防御をする。
倒す時は、影のシュートロアには霊力を注ぐ事で内部から破裂させ、霧のガラドスには体内にある核を破壊すればいい。
しかし、どの位戦闘が続くか分からないので、体力や霊力の枯渇が心配だ。
これは、魔法の使用も考慮しておかないとヤバイかも……。
最初に現れたシュートロアは、質量を持たず厚みの無い体を様々な形に変形させ地面を、あるいは壁や天井を這うように近づいて来る。
空中に浮かび向かって来るのはガラドス。こちらも質量は小さいが、体の大きさをある程度自在に変えられ、近づいては電撃を放ってくる。
ガラドスの電撃に追従性は無く、多少蛇行はしているが魔力を感知して直線上から避ければ何とか回避出来た。
その事に安堵している暇は無く、四方の床や天井からショートロアが襲ってくる。シュートロアはその厚みの無い体を武器にし、体当たりをしてくる。それ自身がカミソリみたいに鋭いので避けそびれば、体を切断されかねない。
床にいるシュートロアが俺の足を狙い突っ込んでくるが、片足を上げタイミング良く下ろして踏みつける。それと同時に霊力を足の裏に集め、シュートロアに叩きつける。霊力の消費は抑えたいので、倒せるギリギリの量を考えながらだ。
足の裏に集まる霊力が白く発光し、シュートロアの体内に取り込まれていくと、ブルブルと震え「キィー!」と甲高い断末魔を叫びあげ破裂した。
横の少し離れた場所からガラドスの魔力が高まったのを感じ、盾を用意した。その盾とはシュートロアだ。
左手に持つノールを逆手に持ち替え、地面からこちらへ向かって来るシュートロアへ突き刺す。その剣から逃れようと叫びながら抵抗するシュートロアを剣ごと持ち上げ電撃の盾にするのだ。
シュートロアは、剣での攻撃と電撃の所為であっさりと倒せた。これも霊力の温存方法の1つになるな。
天井から落ちてきたシュートロアの攻撃も後ろへステップして避け、カンティーを突き刺し霊力を流す。そして、刺す時に前傾姿勢になったのを戻さず、そのまま前に踏み出し跳躍する。
跳んだ先にいるのはガラドス。奴の攻撃は乱戦時に見方誤射の比率か高くなり、電撃を放つ回数は減り、単純な体当たりしか出来なくなる。
だが、そこまでもって行くには更に敵を集めなくてはいけないので、危険過ぎる。それに、ほっといても後からまだまだ魔物は来る。だから今の内に減らしておいた方がいい。
フヨフヨ浮かんでいるガラドスの核へ右手のカンティーをさし出し突く。核を破壊されたガラドスは体の構築が出来なくなり、霧の構成である水は四散し空気中に溶け込んだ。
その時直感が疼き、とっさにカンティーを放し手を引っ込める。その手があった場所をシュートロアが通り過ぎる。更に背後から電撃が放たれたが、体を前に倒す事で電撃も回避出来た。
シュートロアはノールで切り裂き、電撃を撃ったガラドスは投げナイフに気を籠め投げつけて倒す。
そんな混戦を繰り広げていると、第2陣のがい骨達が到着した。
がい骨達はくすんだ骨だけで形を整えられていて、スケイルボーン種と言う。粗末な剣を持った個体もいれば、ムカデの様に胴が長くて尖った足が沢山付いている個体もいる。他にも馬みたいな個体や、チーターみたいな骨格をしたスピード重視の個体もいる。
がい骨系の魔物は槍や剣、矢などの鋭い刃先の物に耐性を持っていて、ダメージを無効化されたり軽減されたりする。これは魔物側のスキルと捉えていいだろう。倒す為には鈍器や重量武器、神聖魔法系列の攻撃をするのが効果的だ。
今はそういった武器を持っていないので、剣で強引に斬り付けるか頭部の破壊、または霊力で攻撃するしかないだろう。
そして、カツカツ、ギシギシと音を鳴らし、左右からスケイルボーンの群れが飛び出してきた。
スケイルボーンの参戦で戦闘はより苛烈になった。
1.5メートルサイズのムカデ型スケイルボーンが、ガシャガシャ体を鳴らして近寄り、左右にはシュートロアも並んでいる。背後からは獣型のスケイルボーンが3体走って来るし、左からは剣を持った人型のスケイルボーンが2体向かって来る。右にはガラドス達が電撃の準備までしている。
この状況に焦る事無く、確実に切り抜けられる方法を取る。
俺は体の細胞からエネルギーを放出させる。つまり気だ。気の量は多く注いでいないが、そのスピードは今までと違い、目を見張る速さだ。
気で上昇した身体能力で1歩目からトップスピードに乗り、右のガラドスに突っ込む。ガラドスは反応も出来ず、電撃を放つ準備をしているだけだ。
今の俺は"脳の加速"もされており、周囲がスロー再生になり自分だけがまるで違う世界にいるみたいに感じる。
そして、強化されている腕力も手伝って、たむろしているガラドスを切り裂いていく。
両手から繰り出される剣閃たちは、水中を自在に泳ぐ魚の様に進路を変え方向転換を繰り返し、核を破壊していく。わずかな時間で倒しきると、一転反対へ飛び出す。
次の標的は人型のスケイルボーン。
最初にガラドスの方へ向かったので、他の奴らもそちらへ行こうとしのたが、俺は直ぐに倒し反転したので行き足を失いまごついている。
その隙にスケイルボーンの懐へ潜り、腕組みの様な構えから開放した横薙ぎを2体に食らわせる。反応は出来ていたが防御は間に合わず、斬撃は2体とも腕から入り肋骨、背骨、肋骨、腕へと抜けて両断する。金属みたいな甲高い音を奏でる硬質な骨は、耐性も合わさり切断は難しかったのだが、気のおかげで何とか切断出来た。
しかし、それでもまだ生きている可能性があるので、落ちてきた――胸部より上の部分――頭蓋骨を、振り上げたカンティーとノールで叩き割る。
やはりダメージを軽減されている剣では効率が悪い。これなら剣の柄や、あるいは素手の方が良いかもしれない。素手と言っても篭手は着けているので、骨には打ち負けないと思うし。
気の高速移動はそれからも有利にはこんだ。
人型のスケイルボーンを倒しても、他の魔物はこちらに向かおうとしている最中だった。
ムカデの形をしたスケイルボーンは、胴が長い所為で上手く向きを変えられないので横っ腹を晒している。丁度良いので、走り、その背中に飛び乗る。俺が急に乗った事と重さの所為でバランスを崩す。それでももがいて振り落とそうするが、それに構わず頭部に拳で強烈な一撃を加える。その衝撃に頭部が耐えられなくなり粉々に飛び散った。
やはり、篭手での攻撃は良かったみたいだな。
崩れていく体を横から蹴り付け、他のスケイルボーンへ飛ばし牽制する。飛び散った骨は上手く足止めに役立っている。そして、一旦気の放出を止めてショートロアを剣で突き刺し霊力で止めをさす。
他の異能力を掛け合わせる修練は積んでいたが、一度何かの異能力を発動させると他の異能力が邪魔をして力を発動させる事が出来ない。もし合わせるのなら発動する以前、力を練る時にやれば反発させずに発動させる事も出来るのだが――この状況でそれは向いていない。
獣型のスケイルボーンが蛇行しながら素早く向かって来る間に、第3陣がやって来た。
薄暗い通路の先から、魔物の真っ赤な体毛がきらめき、なびく様子が窺える。そいつは狂気に汚染されたウォーモリア。ゴリラの肉体を持つ見上げるほどの巨漢に盛り上がる筋肉、紅く濁った4つの瞳が俺を睨み付ける。
他にも、ゾンビが腐肉を撒き散らし唸り近づいて来る。脆いし走らないが、死に難い体だし、力も強いからつかまれない様にしないといけない。
その後ろから、さっきまで倒していた魔物が更に押し寄せて来た。しかも倍以上になって……。獣型のスケイルボーンと戦っている間にそれらが押し寄せる。
――混戦が苛烈に。そして今、激戦に至る――
戦闘開始から、すでに7時間経っている。
それでも魔物は一向に減らず、それどころか今は30メートル四方の部屋に一杯の魔物がいる。
修行時代にこの状況と似たような訓練を行った事がある。その時も過激で、骨折などはしょっちゅうしていたが、それでも死ぬ危険性は少なかった。
今の状況は似ているようで全く違う。少しの判断ミスで死んでしまう。その所為で、修行時代では2日間戦闘が出来たが、今はすでに疲れ始めている。実戦と訓練の違いが顕著に表れている。
魔物も、まるで飴に群がるアリの如く怒涛に攻め入る所為で体力の回復が余り出来ず、少しずつ身を削るかのように戦っている。
それでも、魔物を倒すごとに魂が吸収され、レベルが上がり気力が充実する。
魂吸収の高揚感と、大量吸収の圧迫感や違和感が混ざり合い何とも言えない感覚になるが、それを無視して戦闘をこなしていく。
四方八方から波状攻撃を仕掛けてくる魔物を、感覚で察知し、経験で対応し、時には勘で動き、最善を目指して努力を怠らない。
要所要所で魔法も使うが、戦況はイーブンだ。
魔法の使用は主に炎系を使っていた。ゾンビ、スケイルボーン、シュートロア、ガラドスは炎系の攻撃が弱点とまでは言えないが、それでも中々のダメージを与える事が出来る。
囲まれている状況で気の効果を切るのは少々勇気が要るが、ほんの僅かな停滞と隙、気を切った時の身体強化が無くなる違和感を、体に覚えこませた反射でやり過ごし呪文を唱える。
大抵は『火炎の渦』の魔法だ。これは、自身を中心に360度を火が嘗める様に進み、10メートルの範囲までを燃やし尽くす。
室内で火が灯るので、一緒に酸素も燃焼されて息苦しくなる。それは魔物も一緒なのだが、疑似生命体は酸素なんか必要としていない。生き残った魔物は攻撃を繰り出す。
唯一ウォーモリアだけが、酸欠と体毛が燃える事で苦しんでいる。こいつは火が弱点では無いし、理性が無いので火傷ぐらいじゃ突進は止められない。酸欠になる事はこっちにも有利になるし、不利にもなる。今の所、効果的に運んでいるのでこのまま行く事にはなるが。
だが、やはり魔物の密度は高くて、幾つもの攻撃を受けた。大抵は剣や防具で弾き受け流したが、防ぎきれない攻撃もあった。
シュートロアの影による切り付け。ガラドスの電撃。スケイルボーンの骨での打撃。ウォーモリアの怪力による拳打。ゾンビの噛み付き。
これらの攻撃により、俺の体は大小様々な怪我を負った。怪我と言ってもそれ程行動に支障は無い。ただ、少々動き辛くなっただけだ。
それにしても、いい加減に終わって欲しい。戦闘が長引きイライラばかりつのる。
何か達成条件でもあるのか? 無限ループは怖いぞ。
暫く問題解決に思考を割いていたが、解決方法は見付からなかった。その為、戦闘に変化を付けようと、あえて敵陣の中に乗り込む事にする。
気の強化をより強くして、魔物の頭上を跳び越え片側の通路へ突入。分かれ道の無い一本道を、時に魔物の頭を踏む事で乗り越えていく。
何体もの魔物をやり過ごし到着した場所は、先程までいた部屋を小さくしたような所だった。
ただし、中央に明らかに違うモノが存在した。
それは、部屋の半分を占める程の魔法陣と、その周囲を囲む4体の人型スケイルボーンだ。
スケイルボーンは初めて見る種類で、手にスタッフを持ちローブを着ている。瞳も青白い炎が灯り、声帯の無い口からは呪文が唱えられている。高位の魔物なのが窺える。
呪文は途切れる事無く唱えられ、中央の魔法陣からは湯水の如く魔物が召喚されている。
どうやら、こいつらを倒せば召喚が止まり、魔物も出なくなるみたいだ。
それが分かれば、後は躊躇も戸惑いも無く嬉々として狩り尽くすのみ。
高位のスケイルボーンは、自身が殺られるのにも構わず身動きすらしないで殺されていく。
身を守るモノは召喚された魔物のみ。そいつらはスケイルボーンの盾となり壁となって俺を近づけない様にするが、そんなモノを物ともせずに薙ぎ払い蹴散らしていく。
スケイルボーン達が攻撃を無防備に受け死んでいくと、血で描かれたであろう赤黒い魔法陣に紫電が走りひび割れ壊れていく。そして2割が崩れた時、遂に魔物の召喚が止まった。
次は来た道を取って返し、反対側にある部屋に向かう。あっちの部屋もここと同様ならば、召喚士と魔法陣が鎮座しているだろう。
群がる魔物は放っておいて、来た時と同様に魔物の頭を乗り越える。
しかし、帰りは魔物で壁が出来ていた。
元居た部屋の魔物と、新たに呼び出された魔物がこの通路に集まったので密集してしまったのだ。
流石にこれは通り抜けられない。しかし、突貫しながらでも進まないと魔物は途切れる事が無いだろう。
…………行くしか無いか。
傷を負いながらも次の部屋に到達し、そこに居た魔物の討伐も完了した。
残党の魔物を倒して行く内にどんどん数が減り、遂に全滅させた。
満身創痍――とは言わないまでも、そこそこの損傷を受けた戦いだった。
――ガゴン! ガゴン!
魔物が出てきた左右の出入り口が閉じ――
――ガコ!
続けて、初めに入った出入り口も開いた。
どうやら本当にこれで終わったみたいだ。
戦利品の一部が壁の向こう側に在るが、取りに行く為にもう一度魔物と戦うのは勘弁したい。それで無くとも量が多くて雑嚢に入るか分からないのだ。
神は今回の戦闘を喜んだのか、祝福品がこれまでの物と桁違いな物が数個現れた。それらは武器や防具だが、直ぐにネージュ、カンティー、ノール、アトレスといった剣と鎧の強化素材として使われた。
出現した物はどれも一般の物と違ってかなりの力を宿していたが、俺の装備達はどれも素直に取り込んでいく。
どうやら、レベルとは違う経験を今回の戦いで沢山詰んだ様だ。実際、今回の戦いは中々厳しいものであった。その経験で俺は更なる成長を遂げ、それが武具達に認められたみたいだ。
実用一辺倒な外装が、取り込んだ素材や付与された力で装飾に変化が起きた。それでも大規模に変わった訳ではなく、金のラインが入ったり、緑の幾何学模様が刻まれたりと少し見栄えが良くなったぐらいだ。
そして、疲れ傷付いた体を癒す為に"魔物避け結界"を起動させ、出入り口をまたぐ様に置き、魔物が入らない様にする。ついでに回復薬で治療も施す。
今日の所は帰らず、魔物からの素材が散乱するここで一夜を明かす積もりだ。太陽は見えないがな。
体調を整えてから問題の宝箱へ向かう。
今回の事は、俺の油断と慢心、そして罠を甘く見た事に全てが帰結する。
これを教訓に次回からは気を付けなければいけない。
重い足を動かし宝箱を覗き込むと、輝きを放つプレートが最初に見た時と同じくそこに存在した。
表記された文字を読む。
――この罠を突破する者よ。汝、試練に打ち勝つ者なり。
1人ならば『多人数圧倒』。2人以上ならば『常時戦場』のスキルを与えん。
試練を止めたいならば、宝箱を閉じるがいい――
「――――は?」
俺は愕然とした。なんてったって、未だに文字を完璧に読む事が出来ない所為で、出入り口が閉じた時に必死で戦っていたのだ。文字を速く読む事が出来ていれば、止めたい時に止めれたのに……。
それが分からない所為で、生き残る為に頑張ったというのに…………もう勘弁してよ。
「……すてーたすひょうじ」
暫く気が抜けて落ち込んでいたが、それでもスキルの確認はする。
どうやら、新たに獲得したスキルはかなりの良物らしい。
『多人数圧倒』敵が多ければ多いほど能力が上昇するスキルみたいだ。苦労に見合うモノは受け取った。
休憩中に迷宮内部構造変化期探知魔具も確認したが、透明だったので今の所は大丈夫だ。
こいつは、道具袋拡張の祝福が掛かった入れ物の中でも明かりを外へ照射するので、分かりやすくていい。
結界を越える魔物を警戒しながらもシッカリと休み、明日帰る為に体を休める。
会話文がありません。
1人だと独り言になるし、今の所はしょうがないかな? でも、しばらくすれば仲間が出来る……予定。
そうなれば、仲間との掛け合いも出来る様になる……はず。
「予定は未定で確定では無い」何て言葉があるくらいだし、そもそも掛け合いが出来るほど上手く書けるか自信が無い、というオチが付く始末。
まあ、いけるとこまで行ってみます! こうご期待!(笑
追記 誤字や読みにくさの指摘がありました。次回更新時に全話の内、分かる範囲を修正します。物語に変化はありません。
ご不便をおかけしました。