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その青い世界で第一歩  作者: nono
第二異世界―アスカラド― 白の迷宮
12/25

十一話 決裂


 最初の休日が終わってから、次のサイクル(潜り3日、休み2日)も同じ行動をしていた。それは、15階層からまた内部構造が変わるエリアも問題無く突破したという事だ。


 15階層からは『沼地』エリアになる。

 そこは、足を取られやすい地面に、濁っていて良く見えない水溜り。それは『平原』と同等の部屋が広がるエリアだ。


 魔物は地面や沼に潜っていて、近づくと飛び出して来たり、僅かに生える茂みに隠れていたりと姿を見せない魔物が多くいた。

 それだけでは無く、大型のカニ形魔物も生息していて、これがまた硬いの何のと大変だった。他にもウィル・オ・ウィスプまでいて、こいつはガス状の魔物なので物理攻撃があまり効かない上に、触れると火を繰り出すのでやっかいな相手だ。それでも、こういった相手に効果がある霊力を籠めた攻撃をすれば飛散する。


 迷宮内では初めての霊力を伴った攻撃。それでもシッカリとダメージを食らわせた。

 これなら、死霊系の魔物が出ても殺れるだろう。



 そして20階層にも到達していて、『溶岩』エリアに突入した。


 部屋数は今までより更に減り天井も低くなったが、1つずつの部屋は広がった。

 室内はもの凄く暑く、新しく作った服やズボンが無ければ直ぐに汗を流していただろう。それは、いたる所から噴出している溶岩の所為だろう。噴き上げるまでは行かず、ボコボコと泡が弾けるように出ているので、その周囲を避ければ進む事は出来る。

 溶岩が固まって出来た岩などもあって、もし転べばそれだけで岩の鋭利な部分で怪我をしそうなモノがゴロゴロある。


 ここにいる魔物は、赤い体に黒のまだら模様が付いたコモドドラゴンと、オレンジ色の光沢を放つ1メートルサイズのファイヤーアントだ。

 双方とも口から火の息を吐き、不用意に近づくと黒焦げになる。しかも、硬い鱗や甲殻に守られていて防御力も高い。


 他にも、溶岩が固まって造られた2メートルを超えるゴーレムや、火が集まりその中から生まれたフレイムバードなども活動している。

 疑似生命体は、核が有るならその核を、無い魔物は、体を構成している物質を散らすか砕くかしなければ中々倒せない。

 まぁ、魔法や霊気などの攻撃が出来るのならば、そちらの方が楽なのだが。





 そして、足を踏み入れた21階層で、他の探索者に初めて出会った。



 俺は暑い部屋の中を涼しい顔――それでも多少は暑いし、警戒はしていた――で進んでいた。


 最初に気付いたのは感覚でだった。


 どこかで戦闘を繰り広げていて魔法の使用も感じられた。



 迷宮を探索している内に感覚がより鋭敏になっていくのが分かる。ステータスのスキル、『気配察知』『魔力探知』『感覚鋭敏』といった項目の数値が上昇している。



 それでも正確な事は分からない。でも、確かにどこかで戦っているのは分かる。


 その場所を探して、ウロウロと辺りをうろつく。



「ちぃ……ぅ。この…………ぞ」


 声が聞こえてきた。入り組んだ岩の先にいるみたいだ。


 岩で身を隠し、声の方を覗き見る。



「だが、どうしようもないだろ! 囲まれてんだから逃げ道なんてないだろ!」


「このままじゃ、皆殺しだ! 一点突破で逃げるのが最善だ! 俺の言う事を聞け!」


「あんたの言う事を聞いたからこんな状況になったんだろうが!」


「落ち着いてよ! ケンカしてる場合じゃないでしょ!

 わたしの魔力も少ないんだから、早く行動を決めないと支援できなくなっちゃうよ!」



 そこには攻撃型前衛の槍使いと剣使いの男が2人と、支援型後衛の魔法使いの女が1人いて、言い争いをしている。


 まぁ、状況を見れば良く分かる。今3人は、絶体絶命なのだ。


 壁を背にしている3人の周りには魔物の群れが取り囲んでいる。その数、ざっと30はいるみたいだ。

 一斉に襲い掛かっていく様子は見えないが、それでも包囲網は徐々に狭まっている。


 それでも魔法使いが魔物に状態異常系の魔法を使っているのか、動きが妙に鈍い魔物がいたり、ファイヤーアントの甲殻を槍使いの男がらくらくと貫いていたりする。


 この場合は攻撃魔法で少しでも速く魔物を減らした方がいいのだが、それが無いのは補助系の魔法使いだからだろう。



「助けがいるか!?」


 俺の声に探索者と、魔物の半分が反応した。魔物は直ぐに興味を無くして目の前の獲物に牙を剥き出す。探索者達は神の助けとばかりに怒鳴り返す。


「この状況が大丈夫に見えるのか!? 早く何とかしてくれ!」


 随分と切羽詰っているみたいだな。


 それじゃ、さっさとやりますか。


「合図と同時に右の敵に突撃するから、そこに攻撃を集中して撤退してくれ!


――――3――2――1――ゴー!」



 魔物は3人に夢中で、俺を無視してくれていたので楽に背後を取れた。


 そこには6~7匹のファイヤーアントが火炎を吐こうとしているが、こちらには注意を向けていない。しかもこいつ等は動きが鈍いので、火の息さえ気を付ければ一方的に攻撃出来る。


 2匹を攻撃したところで他のファイヤーアントもこちらに振り向こうとするが、今度は3人の探索者を無視した所為で無防備な横っ腹を晒し、3人から大打撃を受ける事になる。


 3人は俺を見て何故か驚いていたが、それよりも逃げる事を選択したのか、攻撃を繰り広げながらファイヤーアントの横を駆け抜ける。



「助かった! 俺達はこのまま階段まで逃げるがアンタはどうする!?」


「俺も一旦後退する! 殿(しんがり)はまかせろ!」


「すまない!」


「ありがとう!」



 すでに息も絶え絶えだが、『ここで立ち止まる事(イコール)死』である。その姿は必死だった。


 遠距離攻撃が出来る魔物2種類の内、片方のファイヤーアントは全員の攻撃で手傷を負い、動きに繊細を欠き、コモドドラゴンは直線での動きは速いのだが、軽快な身動きは出来ないので引き離す事は出来る。

 ゴーレムの身動きに関しては最早語るまでの事も無いだろう。


 しかし、最後に残ったフレイムバードだけは気を付けないといけない。コイツは飛ぶし動きも速い。


 俺は殿でフレイムバードへの牽制を行いながら近づいた魔物を倒し後退する。




 20分程度逃げたところで安全地帯の階段へと辿り着いた。


 そこには、先に逃げた3人の探索者も床に座り込み息を整えている。


 俺も呼吸を整えていると、全員の前の空間が歪みだし、祝福品が姿を現した。

 今まで逃げた事が無いので知らなかったが、戦闘があったら祝福が与えられる条件を有するみたいだ。


 今回俺の状況で言えば、自分達より多い魔物の包囲から助け出し全員を生還させた事や、赤の他人と即座に連携を取れた事。他にも、僅かだが魔物を倒したり状況を把握して撤退を促したり殿に付くなど様々なところが評価されたのだろう。


 祝福品の鑑定は後にして、取り合えず雑嚢に入れておく。



「さて。皆、大丈夫か?」


 俺の言葉に3人共ノロノロと体を正し、それぞれリュックや鞄から回復薬を取り出し治療に掛かる。


「――大丈夫みたいだ。怪我自体は余りしなかったからな。

 それにしてもお前1人なのか? てっきりお前を見た時は何処かに隠れていると思ってたんだが……」


「そうだぜ。俺らも3人いるからやって行けるんだぜ。さっきみたいに囲まれなきゃだけどな」


 槍使いと剣使いの言う事は最もだろうな――俺じゃなきゃだが。


「まぁ、ここに来るまでに訓練を積んでいたからな。何とかやっていけてるよ」


「凄いんですね。

 でも、そのおかげで助かりました」


 この魔法使いの女の子の様に気にしないでもらいたいもんだ。


「でも、1人でここまで来るならレベル20は超えてるんだろ? さっさと転職して青の迷宮に行かないのか?

 ここでは転職出来るレベルになったらさっさと転職した方が得だろうに」


「いや、まだそのレベルには至ってないんだ。

 だからもう少しここで粘るつもりだけど」


 実際にレベルは13だ。軽快に階層を進むので、レベルが全然追いつかないのだ。

 それでも、俺は目標が50階層到達なので最後まで行くのだがな。


「それがほんとなら、尚更すげーよ。

――さて、体力もそこそこ回復したし、俺は先に帰らせてもらうぜ。さっきステータスを確認したらレベル20になってたからな。

 もう、あんな状況を作ったあんたと一緒にやる気も失せたぜ」


「ちょっと、何言ってんのよ!」


「そうだぞ! どうゆう事だ!」


 やばい、何か仲間割れをしだしたぞ?


「あんたが何も考えずに21階層に行く何て言ったからあんな事になったんじゃねぇーか!

 そいつが来なきゃ俺らは死んでたぞ!」


「それはお前が不用意に戦闘範囲を拡大していったからだろうが!

 俺の作戦通りに実行していればあんな事にはならなかったんだよ!」


「何言ってんだ! あんたの作戦は見つけた敵を殺せってのじゃねぇーか!

 俺はその通りに実行しただけだ!」


「それでも限度があるだろうが!

 本当に見つけた敵を殺すだけならお前は唯のイノシシだよ!」


「なんだと! もう一度言ってみろよ!」


「何度でも言ってやるよ!

 お前はイノシシなんだよ!」


 うわぁ……泥沼かよ。しかも、どっちもどっちでやるせない。


「やめなさいよ! もう終わった事なんだから良いじゃない!

 わたしもレベル20になったみたいだから、あなたもなってるはず。みんなで転職しましょ」


「何言ってんだ。お前だって役立たずじゃねぇーか。

 攻撃魔法が不得意な魔法使いなんて邪魔にしかなんねーよ!」


「確かにお前がもっと強力な攻撃魔法が使えたら、もっと戦闘が楽になったはずだ」


「な、なんでよ! 確かに攻撃魔法は苦手だけど、その代わり補助魔法はちゃんと高威力のを放っていたわよ」


「そんなの、攻撃魔法の威力が弱い言い訳だろ」


「そ、そんな…………」


 いや、彼女の補助魔法は確かに威力も高く、時間も長い良いモノだった。


 攻撃魔法と違って、それだけで敵を殺める事は出来ないから甘く見られがちだが、実際に掛けられるとその怖さが身に沁みるはずだ。

 彼らは魔法を掛けられた事が無いからそんな事が言えるのだろう。これが熟練の探索者ならこんな的外れな物言いは絶対出ないだろう。



 彼女は視線が落ち、小刻みに体を揺らしている。


 かなり悔しいだろう。


「もう、あんたらには構ってらんねーよ。俺は行くぜ」


 剣使いはその言葉と共に軽やかに階段を上っていく。


「俺ももう行く。

 お前も魔法使いだろうと後1階層分なら1人で行けるだろ。

 じゃあな」


 続けて槍使いも消えて行き、残ったのは彼女と俺の2人だけになった。


 さて、どうしよう?



「えーと。どうする?

 もし1人で帰れそうにないなら、送ってあげようか?」


「…………うん」


 彼女は消え入りそうな声で呟いた。


「じゃ、行こうか」




「――――うがー! もういいもん!

 他人に分かってもらえなくても、わたしが知ってるもん!」


 暫く嫌な沈黙が続いていたが、急に元気になった。そしてこちらに振り返った。


「わたしの名前はキャメル。あなたの名前は?」


「俺はセージ。よろしく」


「よろしく、セージ!」


 いやー、元気なお嬢さんだ。


「2人はあんな事言っていたけど、キャメルの補助魔法は中々の威力だったよ」


「ほんと!」


 うおっ! ちょ、近い、近いよ!

 いきなり身をこちらに乗り出さないで。嬉しいのは分かったから。


「あ、あぁ。本当だよ」


 そして、顔がだらしなく崩れているぞ。


「やっぱり分かる人には分かるのよね。

 あいつら何て、実力が無い癖に口ばっかり達者で、自分の失敗を人の所為にしてたんだから。

 こうやって別れたのも良い事よね」


「支援型のしかも補助系の魔法使いだと、戦士系の人間にはあまり理解されないからな」


「そうなのよねー。資質が関係して、こればっかりはわたし自身でどうにかする事も出来ないのに。

 最初の頃も、あいつらわたしが攻撃魔法をあまり使えないって分かった時は、お荷物扱いしてたんだから。

 ほんとやになっちゃう」


 プンスカと白い頬を膨らませ、目尻を吊り上げて怒っているんだが、全然怖く無いぞ? 逆に可愛い?



 キャメルは防御術式で固められたライトグリーンのローブで体を纏い、1.2メートルサイズの無骨な木の杖(触媒)を持って戦闘を意識した装備をしている。

 しかし、ウエーブが掛かったセミロングの金髪は、歩くごとに柔らかそうにフワフワと浮き上がり、タスキ掛けされた鞄も所々に刺繍が施され、女の子らしさを際立てている。

 身長もそこそこあるので、可愛さと、かっこ良さが合わさった女の子だ。



「それで、これからどうするんだ?

 キャメル1人だとキツイだろ」


「う~ん……大丈夫だとは思うよ。

 青の迷宮でも最初の3階層までは、この迷宮でも出ていた魔物しか出ないらしいし。そこで戦って実力をつけるまでよ」


「そうか。その間に新しいパーティーを見つければいいからな。

 魔法使いの数は少ないみたいだから、直ぐに見つかるよ」


「ありがと。

 そうだ! セージ、一緒にパーティーを組まない?

 セージは凄く強かったもん。セージが居てくれたら心強いよ」


 蒼い瞳をキラキラと輝かせこちらを見つめてくるが、それはちょっと出来ない。


「さそってくれるのは嬉しいけど、まだ暫くこの迷宮を探索したいんだ。

 確かに適正レベルになったら転職して次の迷宮に移動した方が良いけど、もう少し深い階層も行ってみたいんだ。

 だから、ごめんね」


 キャメルの顔が少しくすんだが、直ぐにかぶりを振って表情を戻した。


「それならしょうがないか~。折角良い人が見付かったと思ったのにな~。

 でも、青の迷宮に行っても1人なら、わたしのパーティーに誘ってあげるんだから」


「おいおい。まだ、新しいパーティーも見付けていないのに気が早いぞ。

 それに、他のメンバーが承知しないかもしれないのに」


「わたしが決めたんだもん。ぜ~ったい仲間にしてあげる!

 わたしの目に狂いは無いのよ!」


 やれやれ。杖ごと手を上げ、元気一杯にしゃべっているが、もう少し声を抑えてくれ。声に釣られて魔物がこちらに近づいて来てるぞ。



「キャメルの言いたい事は分かったが、それより先に、やる事が出来たぞ」


「何を?」


「あいつらの事だ」


「?……っげ」


 俺の指差す方向を見て顔を引き攣らせる。

 状況は分かったようだ。


 ゴーレムが1体足音を立てながら近づいて来る。


「俺が行くよ」


「お願い。

 わたしはアイツの動きを止めるわ」



 キャメルが持っている杖をゴーレムに向け集中しだした。


 俺は射線を遮らないように直進から少し外れて走る。



「『魔力を鎖となし 敵を包み動きを妨げろ 鎖の囚人プリズナーオブチェーン』」



 キャメルが言葉を綴る(つづる)度に、ゴーレムに向けられた杖の先端に魔力が集まり、その魔力が線となりゴーレムの足場に飛び魔法陣を作る。

 そして、呪文を唱え終わると魔法陣から擬似的な鎖が飛び出し、勢い良くゴーレムの足に絡まる。


 鎖はかなりの強度を持っているらしく、ゴーレムの巨漢をもってしても千切れる事無く在り続け転倒させた。


「いい攻撃だ!」


「どんなもんよ! 後はお願い!」


「まかせろ!」


 動きを封じられたゴーレムは、それでも俺に向かってその硬く大きな石の腕を振り上げ殴り付けてくる。

 鎖の所為で上手く攻撃出来ない隙を付き、ゴーレムの核を、走って勢いを付けたネージュで突き刺し倒す。


 ゴーレムは最初から動きが遅いので1人でも倒すのは簡単だが、やはり味方がいると安心して攻撃が出来るな。


「中々良い魔法の選択だったな。それに威力も良かったよ」


「セージの攻撃力はあの包囲された時に見ていたからね。敵の防御力を下げたり、武器の攻撃力を上げたりするよりかは、動きを止めた方が良いと思って。

 それにしても、ますますセージが欲しくなったよ。パーティーを作った時はお願いね」



 はぁ~。この子には手を焼かされそうだ。



更に女の子が登場。

え? 「収拾がつくのか?」だって? そんなもの知りません!


……冗談ですよ。ちゃんと何とかします。


思いついた事を書いていくと大変ですね。初めの方に書いた設定もすでにうろ覚えになっている所もあるし……。確認しながらやっていきます。


読んでいらっしゃる方々、これからもよろしくお願いします。

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