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その青い世界で第一歩  作者: nono
第二異世界―アスカラド― 白の迷宮
11/25

十話 災難発生


――ザァーザァー


 外から聞こえる雨音に目が覚めた。


 時計に目をやると時刻は朝5時。何時もと変わらない時間帯だ。


 窓の外を眺めようとするが、窓ガラスに水滴が散りばめられ、ただでさえ日の昇らない時間帯の外は余計に見る事ができない。

 どうやら外はどしゃ降りみたいだ。窓も風でカタカタと鳴っている。



 俺は雨が好きだ。弱々しく降る時は心を落ち着かせ、強く叩きつける雨は「負けるものか」と、そんな気分にさせる。

 しかし、こんな日でも鍛錬はしなければならない。


 その事が、ちょっと憂鬱になるのも事実だ。




 アスカラドに来てから初めての雨だが、そんな中でも鍛錬に性を出す。


 雨の中では普段より確実に体力が減っていく。足場も悪くなりシッカリと踏ん張っても滑る時には滑ってしまう。

 それは武器でもそうだ。手から剣等の柄がすっぽ抜けそうになり、強く握り締め過ぎると剣がブレる。服も体に張り付き動きが鈍ってしまうので大変だ。


 普段より気合を入れた鍛錬が終わる頃には体が冷え切っていた。


 服やズボンを簡単にだが絞って水気を取り、持ってきていたタオルで体を拭いたら急いで部屋に帰る。



 部屋で体を温め本を読んでマッタリとしていたら、廊下の奥、階段の方で足音が聞こえた。

 気配からしてエレーヌちゃんだ。


 扉を開け見てみると、階段の所で洗顔用の水を注いでいるエレーヌちゃんの姿を見付けた。


「おーい、エレーヌちゃん。こっちこっち」


 ジェスチャーで、おいでおいでと手で呼びかける。


 エレーヌちゃんは俺の声に気付き、小走りで駆け寄る。


「おはようございます、セージさん」


「うん、おはよう。

 渡したい物があるから、ちょっと待ってて」


 不思議そうな顔をして首を傾げているので、多分あの2人は何も言っていないみたいだ。


 そんなエレーヌちゃんがぬいぐるみを貰って驚くさまを思い、心の中でクスクスと笑う。



「はい、どうぞ。

 このクマのぬいぐるみをエレーヌちゃんにあげたかったんだ」


 そのぬいぐるみを見て、更に俺の話を聞いて驚きで一杯になっていたが、次第に驚きが歓喜に移っていく。


「ほんとですかっ!? うわぁ~すごく嬉しいです!

 ありがとうございます!」


 まだまだ子供なエレーヌちゃんの身長より、頭1つ分小さい程度のぬいぐるみなので、殆ど抱き抱える様な格好になっている。

 そんな状態でも嬉しそうで、何回も飛び跳ねながら体全体を使って嬉しさを表現していた。


「はいはい。嬉しいのは分かったから落ち着いて。

 仕事を続ける前に一度ぬいぐるみは部屋に置いておいで」


 少々興奮し過ぎていたので、なだめる。


「あっ、そうですね。持って帰ります。

 本当にありがとうございました!」


 元気一杯に駆けてく後ろ姿を見送り、俺も良い気分で扉を閉じる。




 夕方前には借りた本も読み終わった。

 定番だからこその展開を踏まえた内容で、中々面白かった。


 外の雨は小降りになってきていた。


 このぐらいの雨なら問題無いと思い、本を返す為、マントを羽織り図書館へ向かう。宿を出る時にはフードを被るのも忘れずに。




 本を返して、ゆっくり歩きながら宿へむかう。


 図書館に行く時に思ったのだが、雨だとやはり人通りが少ない。しかも大抵の人が走っているので泥が跳ねて結構マントに掛かった。


 その事を折り見て、大通りから1本外れた裏道を歩く。



 もう少しで宿に着くといった所で、路地の奥から雨音に紛れて怒鳴り声と走る足音が聞こえた。


 誰かを追いかけてこちらへ向かって来ているのは分かったが、雨の音やフードで良くは分からない。

 声が聞こえる方を見ようと、十字路の曲がり角へ体を乗り出す。


――ドン


「きゃっ!?」


「おっと」


 体を出すと同時に人が俺にぶつかり、転びそうになっている。

 とっさに相手の腕を掴み、転ぶのは防いだ。


 その人物は、150センチ程度の小柄な身長で、声や体格から女の子と判る。



 その女の子は、青のラインが所々に入った白のローブを身に纏い、フードを目深に被っている。その所為で表情は分からないが、僅かに見える口元や喋り方で恐怖に怯えているのが窺えた。


 この子も探索者なのだろう。体内魔力がかなり多いので、それなりの実力者なのは分かるが、何故逃げているのだろう?

 相手が強いのか、太刀打ち出来ないほど数が多いのか。そんな事を思いながら女の子をより観察したら理解できた。


 この子は神官に準じる位置にいる、どちらかと言えば破邪系魔法や補助魔法を主に使う者だ。魔力の気配からもそれが窺える。

 神官が使う攻撃魔法は、魔物に対して多大な効果を発揮する魔法なので、対人戦ではあまり効果は期待出来ないのだ。



「やっ、やめて下さい! は、放して!」


 そんな事を考えている間に、女の子は何とか逃げようともがいていた。


「あぁ、ごめんね。転びそうになっていたから掴んだだけなんだ。

 それで、君は逃げていたみたいだけどどうしたの?」


 俺は、女の子が怯えない様に優しく問い掛けながら掴んでいた手を放す。


 女の子はキョトンとした雰囲気を出し、こちらに顔を向けた。


 どうやら、追いかけている相手の仲間と思ったのに違って驚いた、といった様子だ。


「あの、私は――」


「そこのてめぇー! その女をこっちに渡せ!」


 女の子が喋ろうとした所で、女の子の後ろから追いかけて来た者達が追いついて怒鳴り散らす。そちらへ視線をやれば、7人の完全武装した男達が息を切らせながらやってきた。


 女の子はその勢いに喋ろうとしていた口を噤み、相手から離れるように後ずさる。


 俺はその子の前に立ち相手からの視線を遮り、質問をする。


「ちょっと待ってくれ。

 俺は状況が今一飲み込めないが、この子が逃げていて、あなた達が追いかけているのは分かる。

 だが、怯えているこの子を放っておくのも気が引けるのだが……。どうなっているのか教えて貰えないだろうか?」


「ちっ。

 そいつは俺達の旅団の人間だ。関係無い奴は引っ込んでろ!」


「そんな!? 私は貴方達の旅団に入った覚えはありません!

 そんな嘘言わないで下さい!」


 女の子は怯えながらも俺の体の横から顔を出し、男達に言い返した。


 それを聞いて、先程喋った男が必死な顔をよりいびつに歪め怒気を放った。


「もういい。その男は叩きのめせ。

 俺達が必要なのはその女だけだ。そいつが来ればエルマも俺達の旅団に入らざるを得ないからな。

 全員行け!」


 そんな説明口調と共にこちらへ向かって来る奴らを、冷めた目で眺めながらも状況は把握した。


 奴らは、2日前に酒場で会ったエルマを強引に勧誘しようとしていた男達の仲間なのだな。そして、この後ろで身を竦めている女の子はエルマの仲間といった所か。


 この子もエルマの時と一緒で分からなかったが、エルマの仲間なら思い当たる人物がいる。あの正門で話していた3人の内の1人だ。あの時いた神官風の女の子に気配がソックリなのを今思い出した。


 今着ているのは雨の時用のローブだろう。フードの下にもあの時被っていたヴェールは窺えない。



 まぁ、そういった事が分かれば、後する事は1つだけだ。


 奴らを、逆に俺が叩きのめす!



「そんな!? お願い、私に構わず逃――」


 女の子の悲鳴の様な叫びが聞こえたが、最後まで聞こえぬ内に相手に突っ込んでいた。


 男達は、俺を叩きのめされるだけの一般人と思い込んでいた。その所為で俺の突撃に足並みが乱れた。


「何!? このやろー!」


 虚を衝かれた男が剣を振り回すおかげで、後続の動きが更に鈍る。


 俺は先頭の男に震脚と同時に拳を腹へ突く。


「ぐげぇ」


「うわぁ!」


 鉄の鎧に拳の跡を付ける程の衝撃に、嘔吐物を吐きながら後方の男にぶつかった。


 その様子を一瞥し直ぐに視線を逸らして、足を止め唖然としていた横の男へ迫る。


 俺に気付き構え様としたが、そんな隙を見逃さず顎へフックを叩き込む。脳が揺れ、脳震盪を起こし崩れ落ちる。


 後ろからダガーを構え突っ込んでくる奴には、水面蹴りを食らわせ転倒した所で頭を蹴り気絶させる。


「何やってんだお前ら! 相手は1人だぞ! 囲め!」


「分かった! お前はそっちへ行け!」


「ちっ。くそが! 直ぐ向かう!」


 俺の強さに動揺しながらも、何とか指示を出しているがそれは悪手だ。

 俺を無視して女の子を攫う様に指示を出せば良かったものを……。それでも、対応はきっと出来ていただろうがな。


 最初の奴に巻き込まれて倒れた奴も起き上がり、指示にしたがって広がった。


「だが、まだまだ甘い」



 横に広がってくれたおかげで、各個撃破に至れた。


 探索者としては中々やるが、実力としては疑問の余地がある。しかも相手の力量を把握も出来ない奴らだ。殆どチンピラだ。


 残っているのは、このメンバーの中でリーダーと思われるこちらに話しかけていた奴だけだ。


「てめぇ、こんな事してタダで済むと思ってんのかぁ!?

 俺らは『黄昏の剣(たそがれのけん)』旅団だぞ!!」


 中々良い名前じゃないか。だが、完全に名前負けしているがな。


「そうか。

 しかし、俺には関係無い。やりたいからやっただけだ」


 それだけ言うと、そいつの脇腹に強烈な回し蹴りを食らわせる。

 かなり強く蹴り過ぎた。壁にぶつかり、反動で体を前に投げ出し倒れる。


 ちょっぴり冷や汗が流れたが、まぁ良いだろう。誘拐は犯罪なのだ。これも教訓だと思ってもらおう。



 全てが終わり振り返ると、女の子は唖然と立ち竦んでいた。


 あっと言う間の出来事だ。驚くのも無理はない。


 僅かに苦笑いを浮かべ女の子に近づく。


「あ、あの。すみません!

 こんな事に巻き込んじゃって……」


「困った時はお互い様だ。

 それに、謝るんじゃなくて、もっと相応しい言葉があると思うけど?」


 凄く恐縮していたので軽口で答えた……の、だが――


「え? あ、はい。

 すみません、お礼はどれ位でしょうか」


 どうやら違う意味で捉えたらしい。


「えーと。

 そうじゃなくて、ありがとうって言ってくれればそれで良いんだけど……」


「あっ。

 そ、その、ありがとうございます!」


 自分の勘違いに気付いて、慌ててお礼を言い出す。


 フードの隙間から見える頬は、朱色に染まっていた。


「はい。どういたしまして。

 それにしても、君も災難だったね。あんなゴロツキもどきに狙われるなんて。

 実は、2日前にエルマがあの連中の仲間に絡まれていた所にも居合わせたんだよ。きっとまだ諦めないだろうから気を付けないと」


「そうなのですか?

 私もその話はエルマから聞いていたので、気を付けてはいたのですけど……。私こういう時の運が悪いみたいで、よく巻き込まれるんです。ほんとにどうにかしないと……。

 あ、すみません。ぐちっちゃって。

 あの、私メリンダって言います。貴方は?」


「俺はセージ。俺も探索者なんだ。これから迷宮で会うかもね。

 それにしても苦労しているみたいだね。運ばっかりはどうしようもないからなー。

――あ、そうだ」


 俺は雑嚢の中から"ある物"を取り出した。


「はい。これをあげるよ。鑑定して、効果を確認してから嵌めると良いよ」


 俺が渡した物は、あの『幸福の指輪』だ。


 運で思い付いたのがこれだ。元々雑嚢の肥やしになっていたのだ。メリンダにあげても困りはしない。


「そんな! 助けてもらったばかりか、この様な物まで貰えません。

 それに、その言い方だとこれは魔具ですよね? 貴方が使われた方が良いですよ」


「それは俺からしたら効果が低過ぎて使い道が無いんだよ。

 今はお金にも困ってないから、その付与された効果が必要な人に渡した方が良いと思ったんだ。

 だから、遠慮は要らないよ」


 メリンダは手の中にある指輪に視線を落とし、躊躇していたが、一度頷くと勢い良く顔を上げこちらへ仰ぐ。



 その時初めて顔全体が見えた。

 肌は褐色で瞳は金色、髪は銀色と統一性の無い顔立ちが窺えたが、全体で見るとそのコントラストは絶妙にマッチしている。少し下がり気味の目尻と、柔らかそうな頬が合わさり子供のような愛らしさがある。

 フードの下に押し込められた短髪のプラチナブロンドが、雨で額と頬に張り付くが、それは彼女の可愛らしさを1つとて逃さずそこにある。



 その彼女が頭を下げ力強く喋る。


「何から何までお世話になりました。

 彼らと戦う事でセージさんも彼らから狙われるかもしれないのに……。それでもこうやって、指輪や私の事を気遣ってくれて感謝しています。

 本当に、本当にありがとうございます」


 彼女からの言葉は、感謝の礼と指輪を受け取ると言うものだった。


「そう思ってくれるなら、こちらとしても嬉しいよ。

 それと、俺の事は気にしないで。こうやってマントとフードで隠れているから、奴らには俺が誰なのか分からないはずだ」


 そう言って自分の体を指す。


 しかも奴らは、俺が白の迷宮に潜る初心探索者とは思っていないだろう。自分達があっさりとやられたので、上位の探索者だと思ってくれる事だろう。


 精々居もしない上位探索者を探してくれ。



「さて。俺はもう帰る事にするよ。

 メリンダは大丈夫? 帰れそうか?」


「はい。私の宿はもう直ぐですから大丈夫です。

 本当に、ありがとうございました」


 最後まで礼を言いながらメリンダは路地から去って行った。



 俺も帰ろう。こんな場所に何時までもいると風を引いてしまうよ。



ちょっ、何事!? たった5日でお気に入りが70件増えて、210件に。

凄く増えて怖いんですが……。

こうやって読んでくれる人が居て嬉しいですけど、その分、ボロクソ言われると再起不能になりそうでガクブルです。


さて、女の子成分が足りなくなってドンドン書いていますが、回収作業が上手くいくか気を付けないといけないな。


…………本当に回収出来るのか?

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