あの時森で君に会えて良かった ~ガレスとの再会
ガレスが町に戻った後を少し書きたくて追記しました。
ガレスは半信半疑で娘に薬を飲ませた。ガレスは商人だが、スキルに直感がある。
森で会った幼い2人の命の恩人たちは信用できる。そう直感が告げている。
「さぁ薬を飲みなさい。丸薬だから飲みやすいと思うよ。」
ごくり、と娘は熱のためか赤い顔しながら飲み込む。
「どうだい?」
「うん、ね、ねむい・・・。さっきまで関節と喉が痛くて眠れなかったけど、もうねむれ・・そ・・。」
先ほどまで苦しそうにしていたのに、呼吸が落ち着いて穏やかに眠りはじめた。汗を拭いてやると、穏やかな寝息を聞いて安堵する。
まだ安心はできないが、明らかに回復の兆しが見えている。
もう少し様子を見よう。
この子が回復してくれるのであれば、タイラントベアに襲われて死にかけた甲斐があるというものだ。
それにしても、エリオが簡単に作った薬。
魔の森にしか生えないという薬草のギモーの葉を手に取ったかと思ったら丸薬が出来ていた。何かのスキルだ。調薬か。あの薬があればたくさんの人を助けられるだろう。
また、魔の森へエリオに会いに行くか・・・。でも、あの広大な森のどこに2人が潜んでいるのかわからない。わたしも森で迷ったから、彼らとどこで出会ったのかもわからない。
娘が完全に回復して起き上がれるようになった後、エリオたちに会いに行こうかと思案しているうちに、ガレスの住んでいる町にまで王都の醜聞が届いた。第一王子シドニアン殿下が生還。宰相の陰謀が露見。
やっぱり彼は第一王子殿下だったのだ。
そして、あの2人は見事にやり遂げたのだな。
まだ幼いといっても良い年代の2人、息の合った連係プレイで護衛をしてもらいながら一緒に歩いた森の中。
彼らが彼らの居場所に戻れて良かった。安堵と歓喜が心の中に芽生えたが、同時にこれで彼らに会えなくなってしまったと残念に思う気持ちも出てきた。
小さな商家だ。王家に伝手はない。あの薬は幻になってしまった。
いつか、また、彼らに会えるだろうか。
チャンスがあれば躊躇することなく飛んでいこう。
そう思って、数年。王都の人で賑わう通りの一角に「何でも屋」という不思議な店ができたと噂が届いた。
開店と同時に王家御用達がついていた。
「何でも屋」という名前のとおり、欲しいものを希望として依頼すると、そのものずばりか、希望に出来るだけ沿ったものが提供されるのだという。
例えば、高級ポーション、例えば、水の出る魔道具。例えば、喉の痛みに効くのど飴。
ガレスの直感が行けと告げている。
町から王都を目指し、「何でも屋」に辿り着く。
「ここか・・・。」
見た目は小さなお店だ。間口も狭い。受注生産が多いらしいので、店内は常時置いてあるポーション類が多く並んでいるようで、外から見えるのはポーションばかりだ。
「いらっしゃいませ・・・あ?あ、ガレスさん?」
「久しいな、エリオ。」
成長していたが、ぱさぱさの麦わら色の髪と人懐っこい顔は幼い頃の面影がある。
「娘さんはどうだった?薬効いた?」
「ああ、貰った薬ですぐに病気は治ったよ。礼を言いたかった。あの時は本当にありがとう。」
ガレスは深々と礼をしたので、エリオは慌ててしまった。
「ガレスさん、いいよ。礼なんて。治って良かった。」
「あの後、エリオの薬を売りたいと思ったが、おまえたちの拠点がわからず、そのうち王宮での陰謀露見の噂で、これはしばらく会えないなと諦めていたんだ。あれから7年か、また会えて嬉しいよ。エリオ。」
「ガレスさん、でも、よく俺がこの店やっているってわかったね。」
「ああ、喉に効くのど飴がわたしの町まで入ってきたよ。飴に触れた時に、エリオの残存魔力と似ているなと思って、半信半疑で飛び出してきたのさ。」
「残存魔力!そんなのわかるんだ。ガレスさん、凄いね。」
「エリオの魔力は特別だよ。それにしてもおまえたちはあれからどうしていたんだ?」
「ガレスさんが聞いた噂の通りかな。陰謀を阻止して、後はずっと一緒に勉強していたよ。」
「そうか、無事で良かった。シドニアン殿下が王宮に戻れて良かったな。エリオが店を出すとは思わなかった。でも、店を出してくれたお陰でまた会えたよ。」
「あの時、ガレスさんにルーファスのこと教えてもらって、それが突破口になったんだ。こっちこそ、ありがとうございました。」
「こっちこそ、あれぐらいしかできなくてすまなかった。」
「いえいえ、あの時はあれで十分でした。」
「そうか、それなら良かった。7年間の後悔がやっと消えたよ。」
「俺たちも、ガレスさんに連絡取れなくて、あの時のお礼できていなくてすみませんでした。」
「いや、あの時エリオも8歳。王宮での保護だろ、連絡取れなくて当然だよ。」
お互いが礼をし、互いの顔を見て笑い合う。たった1日、ほんの数時間だけの出会いだというのに、命の危険を一緒に乗り越え、互いの人生に影響を与え合ったもの同士の繋がりを感じる。
「エリオ、そこで例の薬のことだ。あれは売らないのか?」
「俺ポーション作るのが面白くてたくさん作ったけど、あの丸薬はあんまり作っていなかった。あの丸薬で病気が治ったのなら、これからどんどん作るよ。」
「じゃ、あの丸薬わたしに売って欲しい。冬場に重篤化する人が出るんだ。あの薬があれば助かる人が多い。」
ルーファスとテンション高いまま王宮であらゆる勉強をしていたせいで、新しいことばかりに夢中になって、丸薬のこと忘れていた。前世35歳なのに申し訳ない。
「そうなんだ。7年間もほっといてすみません。ガレスさんに安く卸します。」
「そうか。感謝する。」
2人で薬の契約の話に入り、俺は丸薬で儲けるつもりはないんだけど、店やっているならちゃんと利益を取れとガレスさんに強く押され互いの妥協点を見つけて締結させた。
「エリオ、ひとつ忠告がある。最近妙な薬を買う女がいると商人同士の噂で流れてきている。食べ物に混ぜると人の心を操れるそうだ。シドニアン殿下に気をつけてくれ。」
「魅了系か・・・。」
魅了系といえば、乙女ゲームか。
転生してからこの世界が何の世界か考えたことがある。剣と魔法の世界。スキルがある世界。昔やったゲームの世界なのか、それとも昔読んだ物語の世界なんだろうかと。
思い出してもぴったりするものがなかったから、モブとして生きていけばいいかと思っていたけど、人を操る、魅了系が出てきたのだとすれば、ルーファスが危ない。
「魅了無効の魔道具頑張って作ってみるよ。こっちこそありがとう。」
ガレスさんとは固く握手した。始終笑顔だったガレスさんは8歳の頃36歳でおじさんに見えたけど、自分が15歳になって43歳はやっぱりおじさんで、でも、そんなに年を取ったように見えなかった。だからすぐにガレスさんだってわかったんだけど、36歳と43歳って子どもの目からみたら誤差は無いんだと思うと、心のどこかがぐさりときた。自分で言っておきながら前世の自分に被害がいく。
それにしても、人の縁って面白い。あの時たったの数時間一緒にいただけなのに、何故か互いの人生の岐路に影響する。ガレスさんには感謝だね。
数日後、王宮に小さな箱が届く。いつものエリオから第一王子殿下宛てだ。
エリオが過保護にルーファスを思っていろいろな魔道具等が届く。
「今回はなんだ?」
婚約者のプレゼントより嬉しそうな顔をしてルーファスが包みを開ける。
そこにはルーファスの髪と瞳の色をした真っ赤な石に黄金が縁どられたピアスが入っていた。
メモには
「状態異常無効だ。絶対つけろよ。トモレとブライアンとカッシーナの分も入れておいた。おまえたちみんな顔がいいんだから絶対つけろよ。マーガレットも美人だ、ついでに作っておいた、ルーファスとお揃いにしたのでつけてくれると嬉しい。」
エリオの忠告だ。有難くつけさせてもらおう。
トモレは新しく宰相になった元財務局長の息子だ。ブライアンはこれまた新しく騎士団長になった、元副騎士団長の息子だ。カッシーナは魔術師長の息子。俺と、エリオとこの3人はあの7歳の逆転劇の後から学友として一緒に学んできた幼馴染だ。
この期間、1歳年上の農家の三男のエリオが一番優秀で一番偉そうで、一番世話焼きでみんなのお兄ちゃんだった。
婚約者のマーガレットは数年後に、このメンバーに加入したけど、エリオから「マーガレットは美人だ。綺麗だ。可愛い。いい子だな。いいな、ルーファス。」と言われ続け「これは俺のだ、マーガレットはエリオには渡さない。」というところまでセットだった。
俺だけがエリオのことをエリオと呼び続け、他のものはエリオ兄様と呼んでいた。懐かしい。
それぞれの髪と瞳の色に合わせられたピアスをそれぞれに渡していく。
「エリオからだ。絶対つけろって。」
「兄様からのプレゼントか。嬉しいね。」
「状態異常無効だそうだ。」
「なんだか物騒だね。兄様には何が見えているんだろうね。」
「エリオが暴走すると俺でもよくわからない。石鹸で手を洗えと、高級石鹸を山ほど作り俺たちに毎日手洗いうがいを強制したり、野菜をたくさん食べろと、毎日厨房にいって、野菜中心の料理を開発したりもしていたな。シチューにフライドポテトにほうれん草のソテー、にんじんのグラッセ、懐かしい。」
「ああ、石鹸は今でもエリオ兄様から家に届く。学園でも使えとメモが入っているよ。」
「ああ、わたしの家にも届くよ。まめだよね。エリオ兄様。」
「わたくしの家には薔薇の香りやラベンダーの香りの石鹸やシャンプーリンスも届きます。マーガレットは綺麗だから、これで綺麗を維持すべしとメッセージがついていますね。」
「家のものが見合った金額を渡そうとしても、頑として受け取らないんだよね。頑固だよね兄様。」
「そうそう、だからせめて材料だけでも、って、ハーブとか石鹸の材料になるものを押し付けているんだ。苦笑しつつそれは受け取ってもらえるみたいだしね。」
「それにしても、エリオ兄様と一緒に学園通いたかったな。」
「一緒だと楽しかっただろうな。いつでも美味しいもの食べさせてもらったし。」
「農家の三男が学園に通うってありえない!って言い張っていたよね。わたしより優秀だったのに。」
「ほんとほんと、あれだけ優秀なのに、お貴族様じゃないから学園なんて無理って拒絶していたね。あんな優秀な平民がいたらおかしいよ。だからこそ兄様に負けたらダメだって、僕も必死で勉強できたよ。」
「まぁそこがエリオらしいところだ。早く自由になりたかったんだろう。あいつ物作るの好きだしな。このピアスも良い出来だ。それにしても状態異常無効ってエリオ何と戦うつもりなんだろうな。」
エリオは意外とおかん属性だった。自分がみんなより1歳上というのもあって、美男美女の将来この国を背負うお子様たちを大事に大事に見守ってきた。そのお陰もあって、みんないい子に育ってくれた。
もう大丈夫だって思ったから、自分の好きなことをしようとお店を開いたのに、乙女ゲームが始まるのなら許せぬとばかりに作り上げたピアス。性能はばっちりである。
学園では、とある少女が焼きあがったクッキーを見つめていた。
完璧。これはゲームアイテムの魅惑のクッキーのレシピどおりに作ってみた。
せっかく乙女ゲームに転生したのなら、王子様と付き合いたい。
推しだったんだよね。シド様。燃えるような赤い髪に輝く黄金の瞳。俺様なのに、素直で自分が悪かった時はちゃんと謝ってくれるところが胸キュンで。ああ。かっこいい。
婚約者のマーガレットが悪役令嬢してくれたらいいんだけど、何気に仲いいんだよね。あの2人。
でも、このクッキーがある。それにわたしも少し魅了が使える。ダブル効果でなんとかなるはずだ。
にこやかに差し入れしたクッキーは「エリオに知らぬ人からの物を勝手に食べてはならぬと言われているから。」と拒絶され、誰一人食べてくれない。
おかしい。こんなのおかしい。誰一人靡かない。
なんで。なんで・・・。クッキー食べてもらえない、わたしの魅了も効かないの。
ヒロインが動揺していた時、ルーファスはクッキーを鑑定士に提供して内容物の確認後、ヒロインの背景を調査し、危険物を混入し王族にそれを食べさせようといた罪で処理することにした。
事後処理してからも、ルーファスの耳にもトモレとブライアンとカッシーナ、マーガレットの耳にもエリオ特製のピアスが光る。
特にルーファスとマーガレットはお揃いだ。学園でも「あのピアス素敵。どこで買えるのかしら。」と噂が流れるのは早かった。エリオが忙しくなるのは自明である。悠々自適スローライフをする予定だったのに。
ここが乙女ゲームの世界だったのかはわからない。そんなのはどうでも良いのである。ルーファスが幸せで過ごせているのであればそれで良い。
エリオとルーファスの毎日はこうして平和に保たれている。
終




