【第41話】エピローグ
──リズの宿、スターチルドレンの一階。
看板娘が戻ってきたと噂になり、パンとコーヒーの人気も再燃していた。
その珈琲を、不愛想な男──レイが黙々と淹れている。
「久しぶりだねえ。まさかレイがコーヒーを入れるとは」
カウンターに座ったノーランが、どこか楽しげに口を開いた。
「私も驚いたわ。誘ったら、なんだかんだついてきてくれたの」
リズは満面の笑みで応じる。その顔には、どこか柔らかな安堵の色が差していた。
「もう冒険はいいのかい?」
「ああ。しばらくはな」
「そういえば、カイルたちには会ったかい?」
「また今度、会いに行く予定だ」
「……元気にしてるといいわね」
* * *
場所は変わって──ぼんずの城。
いつもの会議室で、ミユキ、ムン老師、そしてタダシが椅子を囲んでいる。
「……あやつはどうなっとるんじゃ?」
ムンが気だるげに口を開く。
「一応まだ、エルレンの評議員なんでな。殺すわけにはいかねえんだよ」
タダシが苦笑しながら天井を仰ぐ。
「政治というやつですね」
「お主の苦手な分野じゃの」
「まあ、そのうち“うっかり”殺すかもしれねえけどな」
ミユキが肩をすくめ、わずかに笑った。
「……行くのか?」
ムンが真顔で問うと、ミユキは静かに頷く。
「ええ。強くならなければなりませんから」
* * *
砂の道を、ふたりの人影が歩いていく。
ひとりはカイル、もうひとりは──ユイ。
「そういえば、戻らなくてよかったんですか?」
ユイの問いに、カイルは少しだけ目を細めて笑った。
「ああ。正直迷いはしたけど、今もそんなに悪くないなって思ってさ」
「……で、あの願いに?」
「ああ。他人がほんの少しでも、人に思いやりを持てるようにな」
その声は、風に溶けるように優しかった。
* * *
魔王の迷宮、その最奥──玉座の間。
カイムは、修理した魔王人形と並んで腰を下ろしていた。
「……自分ができることが、できない人もいるということを、少しでもわかる世の中になってほしいですか」
人形は何も答えず、肩を震わせていた。
「ずいぶんと、ささやかな願いでしたねえ。まあ、かなえてあげましたけど……それと」
カイムはちらりと人形を見やる。
「──わざと負けましたね?」
人形は、ぎこちなく首を振った。
「ソンナコトハナイ」
「ふーん。ずいぶんと、あの二人のことが気に入ったようで」
カイムは目を逸らし、どこかつまらなそうに呟いた。
「……暇ですねえ」
これにて完結です。
思った以上にたくさんの方に読んでいただけたようで、ありがたいです。
カイルたちの旅に付き合ってくださり、本当にありがとうございました!




