【第33話】弱いから見えるもの
焚き火の音が、ぱちぱちと乾いた夜気に弾ける。
「どうしたんだい、元気がないね、カイル」
「はあー……」
気の抜けたため息に、ノーランは小さく笑った。
「魔王を倒すんじゃなかったのかい? たしか、この大陸の真ん中あたりにある砂漠に、洞窟が隠されてるんだろ?」
「まあ、それはそうなんだけどさ。はあー……」
「なにがあったんだい?」
「……俺って、役に立ってんのかなと思ってさ」
「急だね。なにがあったの?」
「ユイに、いろいろ言われてさ」
「喧嘩でもしたのかい?」
「いや、そうじゃない……こともない、かも?」
「羨ましいけどね。ぼくからすれば、喧嘩するほど仲が良いっていうしさ」
「うーん、色々衝撃的すぎて、どう言っていいか分からないんだけど……たとえば俺がさ、レイくらい強かったとしてだな」
「また唐突にくるねえ」
「まあ聞いてくれよ。その力を奪われて、今の状態になってるんだけど……どうも、その裏で手を引いてたのが、ユイだったみたいなんだ」
「うーん……なんて言っていいのか分からないけど、それこそ、誰かにそそのかされたとか、理由があってやったとか……そういうの、ないのかな?」
「それはあるな。魔王に洗脳されてたとか……あいつなら、ないとも言い切れないか」
「それとね」
ノーランは、火にかけた鉄鍋を木の棒でくるりとかき混ぜながら、ふっと目を細めた。
「弱くなったからこそ、分かることもあるんじゃないかな。人のありがたみとか、自分の限界とかさ。……レイを悪く言うつもりはないけど、あの人には分からなかったことも、今のきみには分かるようになってるんじゃない?」
「……それも、そうかもな」
カイルは、ほんの少しだけ、口元をゆるめた。
火の粉が夜空に舞い上がる。遠くで風が、砂を払うように鳴いていた。




