【第24話】ぼんず湯けむり紀行
女湯。
「やっぱりユイちゃんは、カイルが好きなわけ?」リズが尋ねた。
「んー……まあ?」ユイが小さく頷く。
「そうよね、やっぱり」
「私はムン師匠が大好きだ!」ミユキが力強く言う。
「聞いてないわよ。あのおじいさんが出てきてからなんかおかしいわよ、あんた?」
「リズ殿もレイ殿のことが好きなのであろう?」
「すっきじゃないわよ! いつか見返してやろうと思ってるだけよ!」
「隠さなくてもよいではないか。あっはっは!」
「うるさい! あんたにだけは言われたくない!」
男湯。
「うーいやっぱりここはいい湯だなあ」
のんびり湯に浸かるタケル王。
「うるさいのが来たと思ったら、お主か」ムンが言う。
「ようじじい、女湯のぞきに来たのか? え?」
「うるさいわい! お主にだけは言われたくないわ!」
「なんでこの二人もここにいるんだろう」カイルがぼそりと呟く。
「落ち着かないね」ノーランが隣で頷く。
隅でひとり、温泉に浸かりながら酒を飲むレイ。
「僕にもくれよ、レイ」とノーラン。
「取ってくればいいだろう」
「めんどくさいんだよ」
「あまえるな」
そう言いつつも、レイはお猪口に酒を注いでノーランに差し出した。
「え、いいの?」
「今日は気分がいいからな」
「めずらしー」
「やらんぞ」
「ごめんごめん」
風呂上がり、広間にて食事。
「さあ、腹いっぱい食ってくれ!」タケル王が声を張る。
「どうした坊主、浮かない顔して」
「いや、もしも俺がここに生まれてたら、どうなってたのかなって……」カイルが答える。
「穴蔵か。こっちで死ぬか生きるか、どっちかしかあるめえよ」
「どっちもやだなあ」
「仕方ねえよ。 てめえが王様になって変えるか、あん? あの金髪の嬢ちゃんと一緒なら考えてもいい
ぞ?」
「ちょっと、勝手に人を景品にしないでよ!」リズが怒る。
「金銀財宝、着物も男も選び放題だぞ。俺の相手付きだが」
「絶対いや!」
「俺の相手なしなら?」
「金銀と着物はちょっとほしいかも……」
「がはは、正直だな嬢ちゃん! ここの姫になるには向いてねえ!」
「さてと、ユイだっけか。あの嬢ちゃんとちょっと向こうでお話ししようかねえ」
「ユイはやらないぞ」
「大事な話するだけだ、ちょっと借りるぞ」
「はい?」
ユイが首を傾げながら連れて行かれた。
──しばらくして。
上機嫌な様子でユイが戻ってくる。
「何を言われたんだ?」カイルが訊ねる。
「まだ内緒です」
夜は静かに更けていった。
これにて第3章は終了です。
わりと珍しく?日常回になってますけど。
次なる舞台は、カイルにとってもレイにとっても因縁深い土地──エルレン。
第4章「狂乱のエルレン」、まもなく開幕です。
よければ引き続きお付き合いください!




