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【第21話】殿、無双


 牢の中で目を覚ましたカイルは、鈍く痛む頭を押さえながら上体を起こした。

 鉄と土の匂いが鼻を刺す。


「……ここは……?」


「おっ、目を覚ましたか、あんちゃん」


「って……えぇ!?」


 目の前にいたのは、タケル王だった。


 あの豪快で騒がしい男が、なぜか同じ牢の中で壁に背を預けている。

 あまりに場違いで、カイルは一瞬言葉を失った。


「そんなに驚くこたぁねえだろ。同じ捕まった仲なんだからよ」


「なんであんたが……」


「兄ちゃん、目ぇ覚めたのか」


 声のした方を向くと、壁際にはあの少年もいた。


「君もいたのか……よかった……」


 胸の奥から、ようやく小さく息が抜ける。

 守れなかったと思っていた相手が生きていた。それだけで、張りつめていたものが少しだけ緩んだ。


 だが次の瞬間、タケル王が腰をさすりながら、のっそり立ち上がる。


「さて、そろそろ出るか」


「出るって……どうやって――って、は? なんで刀持ってんだよ!」


「さあなんでかなぁっと。……いてて、タダシの野郎、やりすぎだな……」


 うめきながらも、タケル王は平然と刀を抜いた。

 鉄がきしむような音が、狭い牢に響く。


 次の瞬間――


 ズバンッ!!


 鉄格子が、まとめて吹き飛んだ。


「よし、出るぞ!」


「ちょ、待てって!? って、担ぐな!」


 カイルと少年を両肩に担ぎ上げたまま、タケル王は牢を飛び出す。


「ヒイラギ出てきやがれぇ! タケルはここにおるぞっと!」


 怒声が廊下に轟いた。


 敵兵が次々と現れる。だが――


「邪魔だああああああッ!!」


 刀が振るわれるたび、敵がまとめて吹き飛ぶ。


「ひえええええ!!」

「なんだこいつ! 人間かよ!?」


「子供に見せるには刺激が強いな!」


 担がれたまま、カイルが思わず叫ぶ。


「なんであんた捕まってたんだよ!」


「俺だって捕まることぐらいあるよ、そりゃ?」


 軽く笑ってはいる。

 だが、その目だけは笑っていなかった。


「誰にだよ!」


「それは――おっと、噂をすれば影だぜこりゃ」


 タケル王が足を止める。


 廊下の奥。

 黒装束の男が、音もなく立っていた。


 タダシ。その人である。


「……やる気かよ、シノビ風情がよお」


「これ以上の混乱は無用だ。引いてもらおう、タケル王」


 次の瞬間、刃が交錯した。


 タダシとタケル王が激突した衝撃で、担がれていたカイルの体がずるりと滑り落ちる。


「うわっ!」


「やべっ!」


 タケル王が振り返る。

 だが、その一瞬より早く、タダシの刃が閃いた。


 その斬撃を受け止めたのは――レイだった。


「囚われのお姫様を助けに来たよ」


 皮肉っぽいノーランの声が、場違いなほど軽く響いた。


 その後ろにはユイとリズの姿もあった。


 助かった。そう思ったのに、胸の奥には別の痛みが残る。

 また守られる側だった。

 また、何もできなかった。


 その思いを噛み殺す間もなく――


 地面に刻まれていた紋様が、遅れて光を帯びる。


 次の瞬間、タダシの足元が光とともに唐突に爆ぜた。

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