【第19話】弱い者たちの砦
「ムン老師……師匠ではありませんか!」
「何を言っているのか、さっぱりじゃ……」
「この国をタケル王とともに作り、拳法では叶う者なしと言われ、サイコロで負けたから王にはならず武術指南役に──」
バシッ。
「うるさいわい」
杖でミユキの頭を軽く叩く老人。
「で、何の用で僕たちをここに呼んだんですか?」
カイルが問いかける。
「お主らが言っておった魔王教じゃがな……まあ、ヒイラギのやつじゃ。奴らにな、儂らは狙われておる」
「なぜです?」
「まずひとつは、ここにいる者たちは弱い。日常生活も満足に送れぬ者ばかりでな、助け合って生きとるんじゃ。それと──」
老人が視線を奥に向ける。
そこには、黄色い花が咲く小さな花畑が広がっていた。
「そこの花じゃ。キケツバナと言ってな。あれの成分をトトラド草と混ぜて注射すると、操った者の身体能力が格段に上がるそうでな。ライゾウで試されておったようじゃ」
「一老人がよく知っているな」
レイが訝しげに言う。
「まあ、いろいろあるんじゃ……とにかく、そろそろこの穴蔵を襲撃に来るはずじゃ。守ってもらえんかの」
「ええ……」
リズが顔をしかめた。
「悪いが却下だ、ご老人。守るといっても実質殲滅戦だ。敵の人数も分からず、状況も不透明。守りきれる自信がない」
「俺は残るけどな」
「おい」
レイがカイルを睨む。
「ここの人たちは、今の俺と似たようなもんだ。俺はここを守りたい。命をかけてでもな。……嫌な予感がする。付き合わなくてもいい」
「おい」
「カイルが残るなら、私も残ります」
ユイが静かに言う。
「師匠のためなら、何でもするぞ」
ミユキがぐっと拳を握った。
「ユイちゃんが残るなら、私も」
「本当は逃げたいけど、長いものには巻かれようかな」
「……勝手にしろ」
レイがため息をついた。
「行かないの?」
「危なくなったら逃げさせてもらうぞ」
「それで十分じゃ。命を捨ててはならんぞ」
*
しばらくして、カイルのもとに少年が近づいてくる。
「兄ちゃん、ありがとな」
「なあに。俺が言わなくても、どうせ残ることになってたさ」
「兄ちゃんはいいよな、冒険ができて。俺は手と足が悪いから、剣も運動もうまくできねえ。頭の中ではできるのにさ。だからどこ行っても厄介者扱いで、ここに来ることになっちまった」
「俺も似たようなもんさ。パーティーの中では足手まといさ」
「ほんとに?」
「ほんとさ。前は何でも器用にできたんだけどな。あそこにいるレイみたいに。でも、できないならできないなりで、何とかするしかないのさ」
「……そんなもんかな」
「そんなもんさ」
*
しばらくして、ムン老師が洞窟の入り口を見つめながら呟く。
「──来たぞ。花を燃やすんじゃ」
炎が上がり始める。暗闇の中、敵の影が動き出していた。